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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第五十四話 平和

 「あ、あれはなんですの!?まぁ、これはかの有名な箒ではございませんか!?」


絵にかいたような世間知らずのお嬢様をしているミシェルさん。最初はゲーセンに向かうことになったのだがすでにもう外をあまり知らないお嬢様の目を惹くものが多数あるようだ。


「ミシェル箒知らないの?」

「知ってますわ!太古からある埃を集める道具ですわよね?」

「た、太古…?」


グラはあっちにいったりこっちにいったりするミシェルさんの疑問や興奮を一つ一つしっかり反応してあげながら足を進ませてくれている。ミシェルさんは今日の飛行機で帰ってしまうため、急かしているのだろう。面倒がらずちゃんと返答もするのでグラの器用さが目に見える。俺達は一応周りの気配に注意しながら毎日見ているジェネシスシティの風景を眺めた。物珍しさはミシェルさんと比べて雲泥の差の程ないが、それでもこうして『ノマド』メンバー全員で歩くというのは珍しい事だった。なのでこの状況、ちょっと楽しい。


「はしゃいじゃって子供だな。」

「博士あんまり人の事言えないぞ…?」

「私は子供心を忘れていないだけでちゃんと大人としてやっているさ。」

「最初あのパジャマで出かけようとしたくせにか。」


博士は着替えずにそのまま観光に行く気だったのだ。流石にそれは一緒に歩くこちらが恥ずかしいのでさっさと着替えさせた。


「水仙様はドゥタラ家でも有名な方です。主に水力発電に関して名をはせている方と聞いております。」

「ヘルターさん、見る目があるじゃないか。」

「…ただ少し、今日お会いになって印象が変わりはしましたが。」

「ヘルターさん、見る目あるな。」

「ユラ、それはどういう意味だ?」

「博士はどうして外ではちゃんとしてるのに拠点ではあんなんなんだよ。」

「安心できるとこで安心して何が悪い。」

「それはそうだな…。」


博士の言い分はもっともだったのでなんも言い返せなかった。そりゃそうだわ。めちゃくちゃお高いホテルのスイートルームより、自分の家の方が落ち着く。


「ほら、ここがゲーセン。」

「ここが…とてもお騒がしい場所だと聞いておりますが…入っても鼓膜が傷つくことはありませんでしょうか…?わたくし、少し不安になってきましたわ。」

「人間そんな軟じゃないから…。さ、あそぼ。博士お金。」

「なんで私が…。」

「どうせ博士が一番遊ぶじゃん。」

「う…。仕方ない、今日は私が全部出そう…。」

「水仙様。私共が出しますので、心配なさらず。」

「いえ、良いですよ。なんかヘルターさん万札を束で出してきそうなので。」

「足りないのでしょうか…?クレーンゲームというのはお札を吸い込ませ、商品を運で手に入れるものだと存じておりますが、そんなに高い物だとは知りませんでした。」

「小銭ってわかります?」


博士の全額自腹が決まったところで、大人数で店内を移動するのは他の人に迷惑になるという意見が出たため半分に分かれることになった。


「じゃあ…私と、ミシェルとヘルターさん。あとおさい…博士!」

「わかりましたわ!早く行きましょう。早く。」

「承知いたしました。」

「誰が財布だグラ、おい。」


で、残った俺、アム、シロ、スマラスさん。という事か。こっち華が少なすぎないか?


「スマラスさん…最初から気になってたんだがあんた筋肉スゲェな!」

「アム様も、俺に負けず劣らずの筋肉美だと思いますよ。」


そういう華は望んでねぇんだよ。

まぁ特にいう事はないのでその班分けで動くことになった。


「アムはクレーンゲーム禁止な。」

「わかってら!」

「どうしてアム様は禁止なのですか?」

「アム…ボタン…壊す。」

「なるほど…。俺もやめた方がよさそうですね。お嬢様へ何か取ってあげられたらと思ったのですが。」

「スマラスさんは大丈夫でしょ。」

「相棒、俺は繊細さがない木偶の坊って言いたいのか?」

「長い長い。そんなこと思ってもないし言ってもない!」

「あ…あれ取って…ユラ。」


シロが指さす先には黄色いスライムのぬいぐるみ。目がないからただの黄色い塊にしか見えない。


「アレは…フレクエのスラルラですね。」

「スマラスさん、それ何語?」

「日本語でごさいます。俺はこの仕事に就く前はゲームをよくやっていたのでわかりますよ。フレッシュクエスチョンの敵キャラですよ。」


〇〇クエの正式名称って○○クエストじゃない時あるのかよ。新鮮な質問ってどんなゲームなんだ。


「シロ様はあのぬいぐるみが欲しいのですか?」

「うん…。グラが…ぬいぐるみ好き…だから。」

「なるほど…。俺もあれは欲しいので、やってみましょうか。」


そう言ってスマラスさんはポケットから小銭を取り出した。この人は常識があるんだな…。取り出した五百円玉を慣れたように機械に入れて両替し、さっそくスルスラという名前らしいぬいぐるみに挑戦しだした。


「よっ…ここらへんか?」

「おー…上手。」

「動かしただけですよ、シロ様。」


そうは言っているが、ほんとに上手い。シンプルにつかみに行くのではなく、傾けて上手く穴に落とす戦法を使っていた。

だが、そう上手くは行かず…。クレーンゲーム機器から催促する声と残念っぽい効果音が流れた。


「腕が鈍りましたね…俺も。」

「シロ…やる。」

「応援しています。」


今度はシロがやってみる。すると…今度はさっきと打って変わって機械は「おめでとう」とうるさく連呼し、ちゃらちゃらととりあえずいい気分になれそうな効果音が流れ出した。


「取れた。」

「シロ様はとても上手なんですね…!」

「あげる。」

「いえ、そんな。シロ様がとったのですからぜひグラ様にプレゼントしてあげてください。」

「もう一回取るから…良い。」


シロは押し付けるようにスマラスさんにそのぬいぐるみを渡した。スマラスさんは困ったような笑顔を浮かべて


「そこまでおっしゃられるのでしたら、断るほうが無礼ですね。ぜひいただきます。」

「うん。…じゃあ取ってくる。」


そう言ってシロはまたクレーンゲームに目を向けた。


「ユラ様とアム様は良いのですか?」

「俺は禁止なんだっての!!」

「そうでした。申し訳ありません。」

「いいけどよ…。相棒、さっきから何か考え込んでいるみたいだがどうした。」

「え?あ、あぁ。悪い。…その、ミシェルさんの命を狙っているやつについて考えてて。口に出すと楽しい雰囲気が壊れるかなぁと…。」


俺は澄香が探すと言っていた能力者を襲う能力者の話を思い出していた。どう考えても同一犯な気がするのだ。徒党を組んでやっている可能性も捨てきれないが、能力は数より質だ。手を組むより、奪った方がやりやすいはず。俺は澄香の無事が気になってしかたなかったのだ。


「大丈夫ですよ、ユラ様。何かあれば『ノマド』の皆様事、俺が助けますので。」


わぁ、何このイケメン。かっこいい。


「俺達も引き受けた以上、ミシェルさんが無事国に帰るまで全力で護衛しますよ。…今は放れてクレーンゲームしてますけど。」

「とても頼りになります。心からの感謝を。」

「スマラスさん、一個聞きてぇことがあんだが。」

「アム様、なんでしょうか?」

「その能力者狙いの能力はわからないのか?」

「はい、俺の力不足で足止めすらできず…。顔どころかその身すらも確認できなかったのです。」

「それは…攻撃だけが襲って来たって事か?」

「はい。何か光り輝く光線のようなものがお嬢様の背後を狙っているのがわかり、俺はほぼ脊髄反射でお嬢様をこの腕で守りました。幸い、能力を発動させていたのとお嬢様の能力の力でなんとかこの腕を無くさず済みましたが…間一髪でした。」

「そうか…ありがとうな。俺も全力で守るから、安心しろよ!…そういえばスマラスさんの能力はなんなんだ?」

「秘密でございます。」

「なんでだ!?」

「秘密だからです。」


知識欲に駆られているアムを横目に、俺はスマラスさんが言ったことを頭の中で反芻した。「顔どころかその身すらも確認できなかった」…。数少ない情報と共通の点がある。これはもうほぼ確実か…?もしもの為に澄香を呼ぶか?いや…このまま呼ばないほうが彼女の為か。


「あ、ユラ君たちなんか取ってる!」

「すごいですわ!…わたくしたちなんかこのアヒルちゃん一つですわ…。」


ミシェルさん達の方もあらかた遊んだのか、俺たちの元へと来た。


「お嬢様。私のとったこちらの宝石はどうでしょう。」

「…ヘルター。それぬいぐるみの下に詰まっていた小さいプラスチックの宝石でしょう?いらないですわよ、そんなの…。」

「ですが、これは庶民を感じませんか?」

「…わかってるじゃないの。そう言われるとこのアヒルちゃんも良いですわね!」

「ミシェルのブームは庶民なんだってさ、ユラ君。何この子。」

「その気持ちは同感だ。…博士、その袋一杯に詰まってるのはなんだ。」

「飴。百円で三回無料だったからやってみたらなんかすごい崩れたんだ。一ついるか?」


渡してきた飴は魚味。生かどうかで結構変わる。


その後、俺たちはゲームセンターを満足の行くまで遊んだので別の場所へと移動した。ミシェルさんの希望の本屋に服屋。グラのお気に入りのぬいぐるみ店『スプラッシュ』にも行った。


「ミシェル、これと後…この猫とハリネズミも買ってあげる。」

「ぐ、グラ…?流石にこんなには申し訳ありませんし、第一持っていけませんわ。」

「そうなの?じゃあ私が買う。」

「最初から自分が欲しかっただけだろ。」

「バレた?」

「そうだったのですか!?」

「あとでミシェルには私の大切にしてるぬいぐるみ四天王の中から一人プレゼントしようと思ってたから。」

「良いのですの?それじゃあ四天王が一人欠けてしまいますわよ?」

「良いの。やつは四天王の中でも最弱だから。それに今買い足してるし。」


最弱を友達にあげるのかこいつは。


気づけば時間はとっくに夕方を過ぎていると言っても過言じゃなくなっていた。外の暗さがその事実を裏付けている。


「どう?楽しんだ?ミシェル。」

「それはもう…あと一日…いえ、一年は居たいですわ。」


願望がいきなり三百六十五倍になったミシェルさんを、ヘルターさんとスマラスさんは微笑ましそうに眺めている。この二人はミシェルさんに信用されて、していることが今日一日でよくわかった。


「皆様、今日はありがとうございました。幸い命を狙う輩も皆様がいたおかげで姿を現しませんでしたので。」

「俺からも感謝を。今日は楽しかったです。付き添いの護衛と言う立場ながら、色々目が奪われてしまい…ボディーガード失格ですね。」

「スマラス、私も今日は同じでした。お互い、精進しましょう。」

「はい。」


ミシェルさんだけでなく、ヘルターさんもスマラスさんも楽しめたようで本当に良かった。最初クラリタの名前が出たときは少し身震いしたものだが、こんな平和に終わってよかった。


「それじゃあ、私たちはミシェルさんを送ってから帰ろう。」

「え、ぬいぐるみ四天王渡せないじゃん…。」

「グラ!?くれるって言ったじゃないですか!」

「まぁまぁお嬢様…。俺のこの黄色いスライムで許してあげてください。」

「シロ、俺ちょっと車取りに行くから頼んだぞ。護衛。」

「りょ。任せて。」

「何から何まで…感謝してもしきれません。最後まで、よろしくお願いします。」


…皆が笑顔の中、俺はズボンの震えに嫌な予感を感じた。震えの正体は、スマートフォン。間隔的に…メール。確認して、俺は思わず笑ってしまった。


[今すぐジェネシスシティから、瞬間移動でもなんでもいいから逃げて!!]


…澄香、もう少し早く行ってほしかったぜ。


俺は皆が前を歩いている中、後ろから来る《《光》》に、両手を向けた。

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