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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第五十三話 治癒

「申し訳ありませんでしたわ…。もう落ち着きました。」


少し経ち、ミシェルさんが戻ってきた。目頭が少し腫れている。けれども、その表情はまっすぐと強い意志を持っていた。


「ミシェルさん。」

「ユラさん、ありがとうございましたわ。…わたくしも、もちろん彼をフェルバル家の汚名なんて言い方は好んでおりません。ただ、彼のしたことを無視しているわけでもありませんの。この先、わたくしはドゥタラ家の長女として強く芯を曲げずに生きて行かなければなりません。ですので、さっきの発言を撤回いたすことはしませんわ。」


当の本人ががそういうなら、俺達がもう言う事はない。


「ただ…ドゥタラ・ミシェルド・アルバレンタインとしてはなく、ミシェルとして言わせていただきます。」


ミシェルさんは顔を上げて、誇らしげにこういった。


「クラリタ様を止めていただき、真にありがとうごさいますわ。憎んでいたりなどは到底しておりません。…彼は悪くない、能力なんてこの世の物ならざる概念が悪いのだと…そう思っても罰は当たりませんでしょうかね…」


能力の仕業。呪われた力の存在は、人々に力を与えるが同時に問題事もついてくる。この本を作ったものはいったい何が目的でこんなことをしているのだろうか。


「ふぅ…なんだか疲れましたわ。言う時が近づくにつれて…彼の顔が鮮明に頭に浮かび上がりましたの。」

「…私はヤだな。それ。」

「グラは正直ですのね。ですがあなたも日々ユラさんの事を考えているのではなくて?」

「本人がいる前で言わないでよ、ミシェル~…。」


緊張していたミシェルさんは肩の荷が下りたように朗らかな表情になった。言葉で言っていたよりも遥かに思いつめていたのだろう。クラリタ、お前は何があってあんなことになったんだ。お前について知っている人と話すたびに、俺はお前ともっと会話をすればよかったなと思うよ。


「お嬢様、もう一つ用件がございますよ。」

「まぁ、そうでしたわね。ですがこちらはおまけみたいなものですので。」


どうやらまだミシェルさん達は『ノマド』に用があったようだ。


「何かお困りごとでも?」

「はい、わたくしはそこまで重く考えていないのですが…わたくし、何者かに命を狙われているようですの。」

「…は?」

「命です、い、の、ち。」


そう言ってミシェルさんは胸のあたりを指さす。ただし本人から見て右胸を。


「お嬢様、反対でございます。」

「…わかっておりますわ。」


ヘルターさんにそう言われ、少し赤面しながら逆の胸を今度はさす。なんだか微笑ましいがさっきの内容とはギャップがありすぎる。

何をどう聞けばいいかわからない時、あるよね。そんな時は博士。これがあれば全部解決。


「おいユラ、このお菓子美味しいぞ。」

「博士、ふざけてんのか?」

「そんな怖い顔するな…。場を和ませようとしただけだ。全く…。」


博士はお菓子を手に取った手を拭きながら質問しだした。


「ミシェルさん、その命を狙われることに心当たりは?」

「ありますわ。多分、わたくしの能力を狙っていると思うのです。」

「…え?」

「ミシェル、能力者だったの!?本ないじゃん。」

「普段はヘルターに持ってもらっておりますわ。邪魔ですもの。第一グラも持っていないではありませんか。」

「私はここに隠してる。」


そう言ってグラは服をぺらっとめくり、お腹とズボンで挟んでいる本をミシェルさんに見せつけた。


「ぐ、グラ!?はしたないですわよ!?」

「でも両手空くよ?ほら。」


そう言ってグラは空いている両手でミシェルさんの顔をむにむにしだす。


「む…むら…!やめてくらさい…!」

「うっわ柔らか。嘘でしょ…。」


そう言ってグラは自分の頬も触り、若干絶望したような顔をしてすぐに元に戻った。


「つまりミシェルの能力は奪われるくらい強いって事?」

「うーん…どうなんでしょう。わたくしはいまいちこの力を強いとは思っておりませんわ。でしょう?スマラス。」

「…俺はお嬢様らしい力だと思いますよ。」

「どういった能力なのか見せてもらえますか?」

「もちろんですわ。ではちょっと誰かケガしてもらえませんか?」


何を言ってるんだこやつは。


「おっけー。博士、腕出して。」

「へ?ちょ、グラ、何を…。」

「ユラ君、ちょっと博士の腕じゅっと…。」

「なんで私の腕なんだ!?やだやだやだ!!」

「すぐ終わるからね~。」

「鬼…!」

「ん?」

「うぅ…もう!やるがいいさ、ユラ!来い!」


博士は勢いよく腕をまくり俺に見せつけてきた。仕方ない…。あまり仲間を傷つけたくないのだが。俺は涙目な博士の腕に手を近づけたが…


「ユラ、俺の腕で頼む。」

「良いのか?」

「あぁ。」

「あ、アム…!久しぶりに君の事を尊敬したよ。」

「いつもしとけ。」


俺は一瞬だけアムの腕を焼いた。皮膚が固すぎてなんかただちょっと日焼けしただけみたいになってしまったが。


「ヘルター、本を。」

「承知いたしました。…どうぞ。」

「ありがとうですわ。アム様、腕を見せてくださりまし。」

「はいよ。」

「…これほんとに焼いたのですの?」

「おう、痛いぞ。」

「まぁいいですわ。では…。」


ミシェルさんは火傷に両手を重ねた状態で、何やら緑色の神聖なオーラをまとった。その手をアムの腕にかざすと…不思議なことに、ミシェルさんの周りに綺麗な植物が沸き起こる。


「すごい綺麗…。」

「これは…『植物』の能力?」

「終わりましたわ。わざわざありがとうございます。」

「おぉ…火傷が治ってる!!」


あんまりわかりやすくはないが、確かにさっきまでのアムのケガが治っていた。


「ユラさんがおっしゃったように、わたくしの能力は『植物』。ただしステージ2に入ってからは『治癒』の力も手に入れましたの。人々を癒す力、わたくし自身はとても気に入っておりますわ。」

「それは、なんの代償もなくか?」

「はい…?そうですが…。」


白い炎は俺の体力を消費して人を癒す。それに比べてこの無条件での治癒。能力を狙われる理由も納得できる気がする。


「ミシェルさんはその力を一目の付くところで使ったんですか?」

「…そうですわね…。そういえば一度、車が電信柱にぶつかった現場に遭遇しましたわ。その時、運転していた方を治癒いたしましたが…一瞬ですわよ。それを誰かに見られていたという事ですの?」

「現状、そうとしか言えません。…このまま国に戻るんですか?」

「贅沢を言えば少しジェネシスシティを探索したいのですけども…。」


ミシェルさんはあからさまにヘルターさんの顔色を窺うようにそう言った。命を狙われているというのに外出しようとするその度胸はどこから生まれてくるんだ…。もしかしたら、付き添いの二人を信じているからかもしれない。


「ダメですよ。一度襲われた時、危うくスマラスは腕を失う所だったのです。」

「腕を…!?」

「はい。この国に到着し、少し歩いていると突然何者かの攻撃がお嬢様を襲ったのです。俺はとっさにその攻撃を能力で防いだのですが…想像以上に火力が高く、俺の腕は焼き切れる寸前でした。ですがすぐにお嬢様が癒してくれたのでなんとか助かったのです。」


スマラスさんは自分の右腕を眺めながらそう言った。焼き切れる…ってなんだ?また炎関連の能力か?それとも…


「それで、私達『ノマド』は何をすればいいでしょうか。母国に帰るまでの護衛でしょうか?」

「はい、その通りなのですが…。何分お嬢様はまだまだこの国で遊んでいく気満々なのです。」

「もちろんですわ。次いつこのような自由な時間を手に入れられるか…。もう一生ないかもしれませんのよ?」

「それは大げさすぎます、お嬢様。そこで、『ノマド』の皆さま、申し訳ありませんがお嬢様が観光に満足するまで護衛とお付き合いをお願いできませんでしょうか。クラリタ様をも倒したあなた方の力ならば信用できます。」


ヘルターさんとスマラスさんは頭を深々と下げて俺達にお願いしてきた、ミシェルさん本人は両手を合わせてめちゃくちゃ懇願してくる。


「ユラ君、私が『ノマド』の総意でいい?」

「なんだその質問。まぁ良いけどよ。博士もアムもいいか?」

「おう。俺はみんなの意見について行くぜ。」

「私も賛成だ。遊びたいし。」


博士はそれが本音だな。


「てことでミシェル。気のすむまで遊ぼ!」

「本当ですの!ありがとうございますわ!」


その時初めてミシェルさんの年相応の笑顔が見れた気がする。眩しくて、その笑顔だけで何もかもを癒してしまうかのような勢いだった。

 

それから俺たちはミシェルさんの観光に付き合うことになった。一緒に遊びもするが、同時に護衛もしなければいけないことを忘れないようにしなければ。


「じゃあまずどこ行く?」

「わたくし、げーむせんたーと言うところに行ってみたいんですの。その後は本屋、それに庶民の服も見たいですわ。」

「グラ、俺達庶民だってよ。」

「引っこ抜かれるやつ?」

「そりゃ別のミンだろ。」


玄関で準備していると、シロがてくてくやってきた。


「みんなどこか…いくの?」

「おう、ミシェルさんの観光兼護衛だ。来るか?」

「行く…!」


大人の話が終わるとすぐに遊びの匂いを嗅ぎつける。シロのこういうところ、嫌いじゃない。


「シロさん…というのですの?初めまして。わたくしドゥタラ・ミシェルド・アルバレンタインと申しますわ。」

「…ど…?」

「ミシェルとお呼びくださいまし。」

「ミシェル…さん。ごえい…します。」

「あ、ありがとうございますわ。」


ミシェルさんは苦笑いをして、こちらに近づいてきた。


「この男の子に護衛なんてできますの?」

「一番頼りになるぞ、多分。」

「あぁ、俺と相棒とグラの三人がかりでやっと落ち着かせたやつだからな。」

「まぁ、坊やお強いのですね。」

「ぼうや…?うん、おつよいよ。」


一瞬その呼ばれ方に疑問を持ちつつも、褒められていい気はしたようで誇らしげにシロはミシェルさんを見た。その様子を見たミシェルさんはなんだか小動物を見るよな目でシロを眺める。撫でたそうにさっきから手が動いているのがわかった。


「ほらほら、シロ早く準備して。ミシェルも行くよ。時間は有限!…そういえばいつの飛行機で帰るの?」

「明日のが良いですわ。」

「お嬢様、今日の夜中の便です。」

「…ちぇ。」

「尚更急いだ方が良いね。それじゃレッツゴー!!」


そうして『ノマド』のお金持ちお嬢様観光兼護衛旅が始まった。

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