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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第四十九話 役満

 玲方さんの道場で、アムの協力の元『炎流』の完成を目標に修練すること十日間。意外と早く終わった方だった。具体的な目標は、型を十個作る事で、前から五つは出来上がっていた。基礎の【風桜】から、一閃、二閃と続いていき、十までの合計十一個。玲方さん曰く数字が増えて行けばいくほど技の難易度も上がるというので、全然一か月くらいかかる勢いだったのだが、まさかの十日。これにはアムの協力がかなり大きかったと思う。


炎流創作再開三日目辺りの話


「…この先の技、相棒の体には合わないんじゃないのか?」


丁度六つ目の型が出来上がった時だった。アムが突然そんなことを言ったのだ。


「暗無、よく気づいたな。」

「え、そうだったのかよ。」


自分のことながら全く気付いていなかった。いや確かになんか難しいなぁと思っていたけど、俺の体に合っていないのか。


「おう、玲方さんの考えてたやつ通り行くなら相棒の体じゃ柔らかさが足らん。そうだろ?」

「その通りだ。だから本筋は伝えずにやってたんだが…この野郎、要領が良いのかワシが無理そうだと思ったもんもできちまうんだ。」

「褒められてるのか俺。」

「いや、少しめんどくさい。」

「めんどくさい!?」


今の褒められてなかったのかよ。


「お前さんはもっとオリジナル性を出せば…。そうだ、今日半日それについて考えると良い。これ以上じゃ模範的なことすらできん。ワシの考え通り完成しても多分中の上ほどのものができあがるだろうな。ワシには新しく一から作るだけの時間はない。だから…今は六つ目だつまたか。あとの五つ目はもっと毛色の変わったものが良いだろうな。」

「そうは言われても…。」


『炎』を扱っているのは実際俺なのだから、使っている実感がわかるのは結局玲方さんでもアムでもなく、俺なのだ。じゃあ俺が考えなきゃいけないのは理にかなってるし、言われたままで中の上は気に入らない。


「むむむむ…アム、どうしたら…。」

「おい斎月、一人で考えろと言っただろ!」

「うぅ…。」

「はっはっは、玲方さん。こいつは体も頭も固い男だ。一回気分転換に外に行かせた方が良いんじゃないか?」

「…それもそうだな。じゃちょっと薬局までワシの腰に張る湿布買ってきとくれ。最近になってようやく腰の痛みが出て来たわ。」

「玲方さん今何歳なんだよ…。」

「確か…75?」

「その歳であの動きしてたのかよ!?」


前から何歳なんだろうと気になっていたが75だって?どうなってんだ。

ということで、俺とアムは薬局までお使いに行く事になった。外は晴れており、駆け回りたいくらいの気持ち良さだったのだが、俺の頭の中は『炎流』についていっぱいだった。オリジナル性…もう十分出してきていたと思った。だが思い返すと、炎を生かした技はないような気がした。


「お、今日は雲一つねぇな。」

「そうだな…。」

「にしても花が綺麗なもんだ。やっぱ太陽光って旨いもんなんかな。」

「そうだな…。」


俺が下を見て歩いていた時だった。突然視界がブレまくり気が動転した。


「ん?…は!?」

「相棒!それじゃ外出た意味ないぜ!」


今何された!?一回転したのか!?サーカスかよ。


「アム!せめてなんか行ってからやれよ!」

「その場で一回転くらいなら大丈夫だろ?」

「自分でやるのとやられるのじゃ別だろが…。大体なぁ。」


俺はもう少し小言を言おうとして、アムの顔を見てやめた。めちゃくちゃ笑ってたからだ。


「ふっはっはっは!」

「なんだよ突然…大笑いして。魔王みたいだぞ。」

「魔王か。良いな。いつか魔王になりたいもんだ。」

「何言ってんだか…。」

「わかるか相棒。俺は魔王になるつもりで、能力を使ってんだ。」

「知るか。何が言いたいんだよ。」

「相棒の頭はかったいなぁ。アイスみたいだ。」

「溶ける溶ける。」

「要するにな、普通の頭でこんな非現実的な能力使っても現実に引っ張られるだけなんだぜ?もっとこう、夢を見なきゃな!この能力なら夢を現実にできる。俺は魔王みたいに、力強く、仲間をいっぱい引き連れていきたい。そういう気持ちで俺は『闇』を使ってんだ。相棒もそうすればいい。」

「…一理あるかもしれない。」

「だろ?」


ぶっ飛んだ発想をすればぶっ飛んだ技ができる…って言いたいのか。回りくどいようで、なんだか直球に感じるアドバイス。参考にするんだったらこういう思いもよらないことを参考にした方が良いんだろうな。


「そうしてみるか。じゃ俺は何になろうかな。」

「相棒なら…ライオン?」

「現実にいるじゃねぇか。」

「じゃあ…ドラゴン?」

「韻踏んでどうする。」


…ドラゴンか、良いな。

そうして俺とアムは薬局に行って、帰り道もバカみたいな会話を続けた。アムとはずっとこういう会話をしていたいなと、そう思った。


「ただいまー。」

「おう、遅かったな。…お、その顔。期待してもいいのか?」

「あぁ、もうさっきまでの俺じゃねぇ!さぁ、続きを…

「いや、さっき半日考えろと言ったから今日はもう修練はしねぇ。」


そうだ玲方さんって「男に二言はない」を地で行く人だった。


「諦めるんだな、相棒。ほら、玲方さん。頼まれてたやつ。」

「ありがとうな。もうワシもいつ死ぬかわかんねぇもんだ。はっはっは。」


そんなことない気がする。いや、そうなって欲しくないだけなのだろう。

ほんとに今日はもう何も教えてくれなさそうなので、何をしようか悩んでいると…。


「相棒、ちょっと戦ろうぜ。道場壊しちゃあれだし、能力無しでな。」

「いいな。玲方さん、良いか?」

「もちろんだ。たまには刀から手を放した方が良い。柔軟に、いろんなことからヒントを得るが良いさ。」


道場の主に許可を取れたので、俺とアムは素手で向き合う。本は離れたところにあるので正真正銘能力無しだ。


「…行くぜ。」


その言葉を合図に、俺とアムは仕掛け合う。

アムの嘘のない真面目な正拳突きを、俺は思い切りしゃがんで回避してアムの足を掴みにかかる。足は俺の手が触れるあと一寸と言うところで後ろへと回避された。このまま上に乗っかられたら終わりなので俺も一度下がろうと、頭を上げながら地を蹴った瞬間だった。アムがスライディングでしゃがんでいる俺を蹴り飛ばそうとしてきた。もう少し、頭を上げるのが遅れたら顔面に蹴りを喰らっていただろう。なんとか頭にもらうのは避けられたが、体は間に合わず。もろには喰らわなかったが少しバランスを崩してしまった。その隙を相棒は見逃さない。


「腹ががら空きだぜ!」

「流石だな!」


スライディングから殴りまでの動作がまるで流れる川のように綺麗だった。ガードは間に合わないと思い、腹に力を入れて耐えることにした。


「はぁああ!」

「ぐ…」


能力は使っていないとはいえ、この威力。毎日の筋トレの成果が俺を襲った。日々の努力って痛い。

持ち直して逃げても意味がない。アムの手が引っ込む前に俺はアムの顔を掴む。


「お?!」

「お返しだ!」


そのまま膝をアムの顔面に食らわせようとしたが…


「甘いな。」

「は!?」


防がれるかなくらいには思ってたが…まさかのそのまま空中でジャンプし、俺が掴んでいた頭ごとくるっと全身回転して俺の捕縛から離れた。常識外れすぎんだろ。


「そのままぁーー!はぁあっ!!!」

「ちょっ…!!」


組み手に将棋のような待ってはない。俺は回転した勢いをそのまま使ったアム特製キックを防ぐことはできず、受け身もままならないまま吹き飛んで…痛ったい!!!


「手加減!て!か!げ!ん!」

「はっはっは!相棒、本気の相手にそんなこと言っても無駄なんだからな。」

「ぐう…。」

「暗無は強ぇえな。斎月も中々やるっちゃやるが、平凡なんだよな。やることが。」

「うぅ…」


さっきわかったと思ったのに…。


「いや、この場合相棒が悪いわけじゃねぇのかもしれん。体は問題ないが、思考がまだまだ一般的だ。」

「…どういうことだよ。」

「相棒の戦い方は漫画を見たまんまみたいな、自分を客観的に見たお利口さんの戦い方だ。」

「お前も十分漫画みたいな戦い方するだろうよ…。」

「俺は漫画のキャラだとすれば、相棒は読者として真似てるだけだ。自分が勝つにはどうしたらってのを考え続けるんだが…それだけじゃ意味はない。ただ人を傷つけるだけになっちまう。…そうだな、それじゃ一個昔話をしてやるよ。」


アムはそう言って壁まで歩いていき、胡坐を掻いた。道場のど真ん中で座るのもあれだしな。俺も真似してアムの元まで行った。

そうして、アムは少し話してくれた。昔の事を。


ーーー

 俺が相棒の歳の頃、俺は路上で奪い合いをしてたんだ。主に食いもんだな。ちいせぇ頃に親に捨てられてからはそうやって生きてた。親の顔なんて覚えてないけどな。警察からはよく逃げたもんだぜ。それに奪った相手からもな。だから俺は常に人を警戒してた。あいつは俺を見てる、あの野郎は見てないが金目になるもんがある。あの女は良いカモだが裏に強い奴がいる…とかな。人間観察と己の強さを高めることだけにすべての時間を使っていたぜ。じゃなきゃ死ぬからな。

そんな常に一本縄を歩き続けるような人生をしてたらどうなるかは明白だ。


「くっ…放せよ!!!クズ!!」

「やっと捕まえたぜ…クソガキ。こいつ俺の仲間を何人も何人も傷つけやがって…頼むぜ、兄貴。」

「おうよ。若さってのは罪なもんだぜ。なぁ、坊主。」

「うるせ…ごはっ!?」

「減らず口ってのも罪なんだぜ、坊主。」


俺はついにヘマやって恨みを散々買った男どもに捕まった。時間の問題だったんだがな。俺は自分の仲間を作ろうとはしない一匹狼だったから、腕っぷしが良くても数に負ける。人生ってのはそんなもんだってその時ようやくわかったよ。

それからは何度も、何度もぶん殴られたもんだぜ。金目の物なんかないからな。丁度いいサンドバックくらいにしかならなかったのさ。ようやく就いた最初の仕事がそれとは、俺の人生も救えねぇなぁと思ったもんさ。

ただ、案外人生平等なもんでな。その仕事はすぐに終わったもんさ。それでいて給料まで出た。何故かって?

俺の尊敬する男に会えたからさ。


「そこまでだ、お兄さんたち。」

「あん…?…は、フクロウか。邪魔すんじゃねぇよ。お前はこのあたりの絶対中立だろ。今回に関してはこのガキが悪いんだ。俺達が被害しゃ…

「子供を大人が大勢で痛めつけるって絵面だけで、俺は吐くね。」


一瞬で大柄の男何人もをのめしたのよ、そのフクロウって呼ばれた男は。たった一人でな。そのあとは俺を縛っていた縄をほどいてくれた。


「ほらよ、坊や。ケガは…良い体してんな、あんな殴られても打撲だけかよ。」

「…自慢だ。」

「そうかい。じゃもうヘマすんなよ。」


そう言ってその男は歩いて離れて行ったんだ。ただ、ここからが面白くてな。そいつは後ろを振り返らず、こっちを見ながら後ろ歩きで去ろうとしたんだ。俺は思わず聞いた。


「…まだなんか用か?」

「いやぁ、この流れ。坊やが俺の弟子になりたいって懇願してくるかなぁって。」


図星だったもんさ。こんなかっこいい男。16の男心を奮わせるにはとっくに役満だったのさ。 


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