第四話 発生
休み明けの学校。俺は久しぶりの一人での帰宅だった。真は友達と遊びに、冬矢は部活の助っ人らしい。まぁ土日ずーっと三人一緒だったのでそろそろ一人での時間も欲しかった。土日も相変わらず魔本について色々行動したが成果はなし。不良高校生たちを追い払ってから駐車場に行くのは控えたほうがいいという話になっていたがそこまで問題はなかった。よくよく考えたらそれもそうだ。炎の壁を作り出した、なんてほかの人に高校生たちが言いふらしても信じてもらえないに違いない。火事だと周りの住民たちに思われて消防車を呼ばれてしまったが多分いたずら電話扱いされたはずだ。
そういった結論に至ったので割と土日も駐車場で炎を使って訓練をした。だが周りに迷惑をかけていることには変わりない。それに最近真がネットで調べているとあることが発覚してしまった。
ーーー
「ユラ、冬矢。ちょっとこれ見て」
「なんだ…記事?」
「俺、ニュース興味ないぞ。」
「知ってる。冬矢活字嫌いだからね。良いからこれ。」
そこには『暗闇に謎の炎。妖怪か?』と言った見出しの記事があった。全国的なものではない。このあたりの地域の一部的な情報だが…
「これユラじゃね?」
「そうでしょうね。」
「誰かに見られてたのか…。別に問題はないがバレたらバレたで動きにくくなりそうだな。マスコミとか。」
「そうね…ちょっと控えましょうか。」
「ええぇ…いいじゃん、ヒーローになろうぜ!これを機に。」
「目立てばほかの能力者に居場所バレちゃうでしょうが。」
「あ、そっか…。」
ーーー
ということで目立つようにするのはやめようという話に落ち着いた。
「久しぶりにベットで寝れそうだぜ…」
一人、住宅街を歩きながら俺は呟く。ずっと真に俺のベットを奪われていたので体が痛い。なんで冬矢はあの寝相であの床で寝れたんだ?そういった才能なのか?
そんなことを考えていると前方から肩掛け鞄を持ったおばさんが歩いてきた。それだけなら特段目を見張ることはなかったのだが…
いきなり後ろからものすごい速度で迫ってくる原チャに肩にかけていた鞄を取られてしまったのだ。
「きゃっ!?だ、誰かー!!泥棒よぉおお!!」
「もらってくぜぇ!」
やばい、どうする!?俺の方へと向かってくるがこの速度…!
成す術もなく俺はその原チャから避けることに精一杯だった。…が、原チャが俺のところまで来ることはなかった。
「げはっ!?なんっ…だ…!?」
突然壁にぶつかったかのように原チャが止まったのだ。速度を出していたものだからその音と被害は大きい。
でもなんでだ?いきなり透明な壁ができたかのように…
「はーい、自業自得ですよー。鞄もらいまーす。」
「は!?」
驚く事に空から女の子が降りてきたのだ。風船のように。
親方!空から!
「はいおばあさん。気をつけてね。」
「あ、ありがとうねぇ。最近の若者はすごいんだねぇ。」
「私だけですよ!えっへん。どうぞ私の名、空理グラをよろしくお願いします。このあたりの治安を守ってる途中で!」
「そうなの!頼りになるわぁ!」
間違いない、こいつ能力者だ。だが良い能力者なんじゃないか?治安を守るとか言ってるし…。俺が悩んでいるとその女の子、空理グラがこちらに近づいてきた。白髪ショート、見た目は俺と同年代って感じだが…。
「やぁ!君は大丈夫だったかな?」
突然顔を一気に近づけてきて俺は面をくらった。…だってめちゃくちゃ美少女。しかもなんだよ。白髪?可愛すぎるだろ。服はぶかぶかなパーカー?似合いすぎるだろ。しゃべり方はふわふわ?刺さるだろ。
「え…あ……はい、大丈夫です。えと…さっきのは…。」
「あれはねー!…って言って、説明しても信じてもらえないか…。まぁまぁ!あれは気にしなくていいんだよ。ところでさ、その制服。この辺りの学校の人でしょ。」
「はい。」
本は鞄の中。俺が能力者ということはバレていないはず。警戒を怠るな。まだわからないんだ。
「このニュース、知ってる?」
「…これは…はい。友達に見せてもらいました。」
俺は心臓が止まった気がした。この子に恋をしたのではない。いやそれも若干あ…いや今はそれじゃない。見せられたニュースは真にも見せてもらった、あの『暗闇に謎の炎。妖怪か?』という見出しのニュースだった。
「私今この妖怪を探しててさ。それで探すついでにこの辺りのパトロール中だったの。で、この妖怪について…いや多分人なんだけど。知らない?」
「知らないです。」
「そっかぁ…わかった。ありがと。それじゃまた会えたらね。…名前聞いてもい?」
「…なんでですか。」
「なんか空気感が普通の人と違う気がして。ごめんね何言ってるかわからないかもしれないけど。」
「別に良いですが…斎月ユラです。」
「ユラ君ね。じゃばいばーい。」
そう言ってその女の子は空を飛んで見えなくなってしまった。空理グラ…何者なんだ。初めて自分以外の能力者をみて、俺は茫然としてしまった。そして俺はあの二人にメールをして、また歩き出した。メールの内容はこうだ。
[これが恋なのか。]
ーーー
夜、俺の家。
「で、どうした。何があった。」
「恋…ユラに一番縁のなさそうな言葉だけど。」
「真、失礼だぞ。というか冗談だ。」
「半分でしょ?」
「なんでわかんの?真。」
あのメールで夜に集合できるのが俺達である。そして何が言いたいかバレてしまうのも俺達である。便利で不便だ。
俺は今日帰宅途中にあったことを真と冬矢に話した。
「ユラ以外の能力者だって!?ど、どんな能力だった!?強かったか!?」
「うるさい暑苦しい寄るな!」
「もう会ったんだ。空理グラちゃん。」
「知ってたのか?」
「今日帰るときにまたネット潜ってたら見つけた。昨日、今日あたりからその子の情報が出回り出してる。まだ大きな事件を解決したりしたわけじゃないけど小さな窃盗や喧嘩、迷子まで。とにかく人助けを常にやってるみたい。それで…。」
「去り際に自分の宣伝か?」
「そう、その調子だとユラも宣伝を見たんだ。その子、なんかすごい自分を売ってるのよね…。世間はまだ気づいてない人の方が多いけどこれからどうなるか…。」
「そういえばユラを探してたんじゃないかその子。」
「あぁ、真が見せてくれたあの記事。能力者の仕業だと空理グラはわかってた。この辺りにいた理由もそれだと思う。」
どうして俺を探しているのか。考えられる可能性は一つ。
「四六時中人助け、そんな子が能力者を探してる…つまり。」
「十中八九、俺から能力を取り上げるつもりだろう。」
能力者にとって能力者は危険分子だ。なんせ能力を奪われる可能性がある。人を殺してまで、この力は魅力的なのだ。
「そうね…。でも多分殺してまで奪いには来ない。こんな常に世のため人の為みたいな子がそんなことをすれば評判はがた落ち。」
「だろうな、評判を大切にしているみたいだし。」
「でも…敵ではあるんだろ?じゃあやりあうことになるんじゃないか?」
「かもな。まぁまだバレていない。このあたりにいないと分かればこの子も別の場所に移動するだろう。」
「当分能力は使えないわね。」
「そんなぁ…。」
「なぜ冬矢が落ち込む。」
今日はそれで解散になった。真はまた泊まろうとしてきたが帰らせた。二日床は死ぬ。主に腰が。
二人が帰った後、何気なく本を開きパラパラとめくる。…そういえばあの女の子魔本持っていたか?見た感じ持っているようには見えなかった。俺は本を離れたところに置き、炎を出そうとするがやっぱり能力は使えない。服の中にでも隠しているんだろうか。本を見られて不利になるようなことでもあるのか?
ダメだ、いろんなことを考えてしまう。主に空理グラの事を。
これが恋なのか!?
…馬鹿なことを考えるのをやめ俺は寝ることにした。本の内容も特に変わりないし、いつまでたってもステージは「1」のまま。なんにもわかっていない。
「空理グラは…何か知っているだろうか。」
そうして俺は眠りについた。
ーーー
次の日、俺は最高の目覚めで朝を迎えた。うむ、やっぱりベットは最高だな。天才だろ考えた人。最悪だなこれ取り上げたやつ。誰なんだ一体。
俺はあくびをして準備に取り掛かった。毎日思うのだが制服というものが嫌いだ。堅苦しい感じがする。もっとラフな格好で学校に行きたいもんだ…。
準備も終わり、俺は靴を履いて玄関の戸を開けた。するとそこには真が。
「おはよ、どうした?」
「一緒に行こうかなって。」
「良いぜ。」
真は気分屋なのでたまにこういったことをする。俺から誘うと大体先に行ってるか「一人で行く」と聞かないくせに。一緒に登校すると学校ではカップルか?なんて噂されるのは最初だけ。深堀りしてみれば真がそういう気分屋ということが発覚するだけである。それにどっちかと言えば冬矢との方が周りから見て相性が良く見えるので俺と付き合ってるなんてそんな噂長続きしないのだ。
「真、今日なんかテストあったっけ?」
「ないよ。」
「よし、寝るか。」
「最後の時間の国語で提出物あるけど。」
「…寝るか。」
「諦めないでよ…。ユラはやれば早いのに、なんでやらないの?」
「なんででしょう。」
「聞かれましても…」
いつもの調子で学校に向かうと、俺のスマホが鳴った。間隔的に電話である。
相手は冬矢だった。そりゃそうだ。俺のスマホには家族以外隣の真か冬矢だけしか登録されていないのだから。
…なんか悲しくなった。
「出ないの?」
「出る出る。」
スマホを耳に当てる。と、何やら騒がしい大きな音が俺の耳を刺激した。
「うっわ!?うるさ…どうしたんだ?」
「すごい、スピーカーじゃないのに聞こえてくる。」
音が大きすぎて冬矢の声が聞こえないほどだ。
[ユ…!早く…れ!…んだ!…力者が…って…うわぁああああ!?!?]
「冬矢!?落ち着け!なんて言って…切れた」
「…なんかヤバそうな感じだったけど。」
「とりあえず急ごう。何か学校で起きてる。」
「本は?」
「持ってる…が使いたくはないな。」
「そうね…走ろう。」
「あぁ。」
一体何が、とは思っているが、俺も真ももうなんとなく察しがついている。いつか来るとは思っていたが…。そうだよな、あんな力を手に入れて暴れ出さないものがいないほうがおかしいってもんだ。
「はぁ…はぁ…ユラ。」
「わかってる、能力者が学校を…襲ってる。」