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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第四十五話 仲間

「はぁ…はぁ…」

「…長かったよ。本当に。どれだけ私が、君のその能力を…変化する力を求めたか。その力を手に入れて、私はこの世界を滅ぼす。」


俺はかなりの深手で満身創痍だった。今わかっているクラリタの能力は三つ。

高威力で柔軟な攻撃のできる黒い炎。

一瞬の隙を最大の攻撃へと、そしてどんな攻撃も回避する『瞬間移動』

その瞬間移動をさらに生かせる、あのほんの数秒攻撃を固定する能力。

奪った能力は四つ。つまりあと二つも能力があるという事だが…


「正直、お前がここまで強いとは思わなかったよ。クラリタ。」

「…舐められたものだね。私は合計で能力を六つ持っている。一つの能力をどれだけ工夫したところで数の力には勝てないのさ。それでも私がすべての能力を総動員しない理由、君はわかるかい?」

「一度に一気には使えないから、とかじゃないのか。」


能力の操作はかなり精密な器用さが必要となってくる。一つの能力ですらあんなに大変なのだ。二つ、三つならまだしも六つも一気には使えるはずがない。それは本を読みながら勉強、ゲームしながら運動、走りながら食事といったことと同義なのだ。

人間の一つの脳ができる範疇を超える。


「それもある。『瞬間移動』『瞬間固定』。そして主力、『初なる炎』の三つで十分というのもある。だが一番は…私のプライドだ。」

「プライド?」

「そうさ。さっきから君はあの黒い炎を使おうとしない。それが癪に障るのさ。私は君の全力を叩き潰して勝ちたいんだ。君が黒い炎を使う時、私も全力を出そうじゃないか。」


黒い炎…できれば使いたくはない。結局どれだけ訓練しても扱いきることはできなかった。どうしても、何回も、飲まれてしまうのだ。あの力は俺の器に満足せず、さらに自我を乗っ取り拡大していく。その速さと力に俺の意思はいつも負けていた。使用し、ギリギリ解除できる時間は、わずか一分。それを超えれば俺は自我を飲まれ、暴走する。

まだクラリタに見つかる前の暴れ狂っていたシロと同じことになるだろう。それだけは嫌だ。俺は俺の意思でこの男をぶっ飛ばしたい。

だがこのままでは負けることは明白だ。なら、ご期待に応えるしかないだろう。

俺にはそこまでのプライドはなかった。


「わかったよ、やってやるぜ。ただし一分な。」

「何?」


俺はもう崩れ落ちそうな体をアドレナリンで誤魔化して立ち上がる。どうせあの姿になれば傷なんて気にもならなくなるからな。


「【黒色火こくしょくか】」


俺はまとっていた赤い炎を黒く染めていく。一分。正確な時間は測れないがこの一分で終わらせなければその後の反動で俺の体は数時間まともにいう事が聞かなくなる。これが最後だ、終わらせろ。


「出たな…!前よりは長く持つことを願…」

「話してる時間ねぇんだよ。」


俺はまるで瞬間移動でもしたかのようにクラリタの目の前まで移動し、炎に身を任せたままクラリタの腹に一撃、顔面に蹴りを一撃。


「がはっ!?が…【固定】!!」

「ん…」


俺の体は一瞬固まる。その一瞬で、クラリタは姿を消した。そしてその次の一瞬で、俺はクラリタを見つける。


「なんだと…!!」

「あと三十秒…意外と早く終わるな。」


俺は背後に周っていたクラリタの首を掴み、床に叩きつける。そのまま間髪入れず、俺は黒い炎の剣を作り出し…


「その六つの力、もらい受ける。」


剣をクラリタに突き立てた…つもりだったのだが。俺と、クラリタとの隙間に一人の鳥人間が間に入ってきた。守っている翼すらも貫通し、その男に剣は突き刺さっていたが…クラリタまでは届かなかった。


「千紘…お前…。」

「くら…りたさ…ん。無事でよかった…っす。」


最後の力を振り絞ったのか、翼川はそのまま横に倒れた。その隙にクラリタは俺の手から瞬間移動で離れる。


「はぁ…はぁ…あ、危なかったよ。中々やるじゃないか…ユラ君。」

「…くそっ。」


残り時間10秒…俺はリスクより安全を取り、【黒色火】を解く。そうしてとてつもない疲労感と今まで誤魔化していたケガの痛みが俺を襲い、膝から崩れ落ちた。


「…このまま終わるのはどうも勝った気がしないが、そろそろ他の『ノマド』のやつらが来る。それはめんどうだから、死んでもらおう。ユラ君。」

「お前は…お前を身を挺して守ったあの男に何も声をかけないのか!!」

「当たり前だろう?千紘は確かに死なすには惜しい人材ではあったが…私の命に比べればゴミにすぎん。ただそうだな、一つ声をかけるなら、ご苦労様、だろうか。」

「この野郎…。どれだけ仲間を酷く言うつもりだ。」

「仲間…?はっはっは!ユラ君は『レジデンス』を私の仲間だと?これは傑作だ」


クラリタはその後も高笑いを続ける。


「『レジデンス』は私の道具さ。言いなりに、やることだけを最低限行う。そこには上も下も、親しみや友情などの感情はない。漁師が竿を使うことに、医師がメスを使うことに、店員がレジを使うことに、感情はない。そうだろう?」


動けない俺に、クラリタは少しずつ俺に近づいてくる。こんなやつでも…慕っていたやつがいたんだ。だがその慕っていた奴すらも道具と言う始末。そんな奴に俺は負けるのか?終わりたくない、死にたくなかった。でもそれよりも優先することがあるとわかっていた。だから叫んだのだ。こいつを野放しにしてはいけないという、その一心で。


「誰か…俺の代わりにクラリタを頼んだぞ!!!」

「りょ。」

「…え?」


まさかの即答が前方から帰ってきて、俺は顔を上げる。するとそこには…


「お前は…R!?」

「シロ…だってば!!」


シロの拳がクラリタを退けた。もう勝って来てくれたのか…。助かった。


「ユラ…大丈夫?」

「いや…すまん。まだ動けない。」


シロの表情は俺を心配すると同時に、どこか後ろめたい所があるようだった。


「…何かあったのか?」

「ごめん…ユラ。シロは…守れなかった。殺さない…を。」

「…そうか。わかってるよ。やりたくてやったんじゃないって。顔を見ればわかる。実際…俺も殺した。俺が…やったんだ。」


視線の先の翼川を見て、俺は自分のやったことをようやく自覚しだした。だが、後悔はまだ早い。まずは、嵐を鎮めなければ。


「まさかRが…驚きだよ。今はシロと言うのかい?中々…ふふっ、すまない。面白い名前をもらったじゃないか。」

「わらうな…シロのなまえ!!」


シロは地を蹴り、クラリタに襲い掛かる。だがクラリタも馬鹿じゃない。その単調な攻撃を二度も喰らう訳がないのだった。


「ふん、【アビスファントム】!!」


シロの周りを黒い炎の球体が囲む。あの技はマズイ。俺は数を減らせたがシロにはその手段がない。一つ一つの威力はさっき身にしみてわかっている。流石にシロでも…


「ふん!」


シロはクラリタの真似をしたのか、意気込んでそのまま地を走り続ける。


「恐れ知らずにも…ほどがあるぞ!R!!」


一斉に黒い炎はシロを襲う。さっきとは比べ物にならない爆撃がシロを襲った。

が…


「効かん…!」

「!?」


うわ、今クラリタと同じ顔をしてしまった。いやでもあれは誰でも驚く。だってシロはあの爆撃を拳を奮う風だけで全部弾いてしまった。そうだ、シロってとうに人間やめてんだった。


「ユラの…おかえしだ!」

「がはぁあぁああ…!」


シロは殴って吹っ飛んでいくクラリタに追いつき、また殴り、追いつき、殴り、追いつき…。そのまま壁にぶち当たっても殴り続ける。クラリタも能力を使う隙がないのか瞬間移動をしない。


「ちょちょちょ…またルール破るって…。」

「あ、そっか。」


シロはそう言って殴る手をやめた。あんなにも殴り続け、常人ならとうに立ち上がれない猛攻。それでも、とうに気絶したと思ったクラリタの意思は、まだ死んでいなかった。


「ぐが…がはぁ…はぁ…お、おのれ…」


だが、すでに相当のダメージは喰らっているようで。瞬間移動して離れてはいるが立つこともできず地面に手を付け、今にも倒れそうだった。

なんか…さっきまで強く憎んでいたのだが、いや今も憎んではいるのだけども。

それでも…なんかかわいそうに見えてしまった。だが同情するにはまだ早かった。


「おっしゃぁあ!!ついにここまで昇ってきたぜ!」

「よっしゃ…ってユラ君!?博士、なんか応急処置を…」

「はぁ…はぁ…ちょ、ちょい待ってくれ…疲れたんだ…。」


グラとアム、博士がやってきたのだ。こうなってしまえばクラリタは成すすべない。六つの能力だろうが、『ノマド』が集まってしまえば一人の力ではどうしようもないのだ。


「ユラ君、何が…。」

「まぁ…とりあえずクラリタはシロが倒してくれ…ごほっごほっ。」

「わ…は、博士早く早く!ユラ君死んじゃうって!!」

「わかったわかった…待ってくれ。」


仲間がやってきて安心してしまったのか、俺は自分の傷を忘れていた。やばいな。思ったより傷が…。


「ユラ、またこっぴどくやられたな…。今とりあえずの応急処置はする。アム、玲方さんを。」

「よし来た!」

「ま…待てぇええええええええ!!!」


クラリタが大声で叫んだ。


「はぁ…はぁ…私の…『レジデンス』は…?」

「クラリタ、君の仲間たちはもう『レジデンス』をやめるそうだ。全員下で待機してる。決着は見たくないそうだからな。…彼らの最後の情けだろう。」

「はっ…はっはっは。いいさ、どうせいつかは捨てるつもり…」

「違うよ、捨てられたのはあなた。みんなあなたのことをとっくに見限っていた。」


能力に溺れ切って、周りの人間を道具扱いした結果が、あれだ。クラリタの意思はもうブレて、人間の物とは思えないとんでもない形相になっていく。


「私が…この…私が…いや、いい、いいんだ!!ユラ、お前の能力さえ手に入れば…!!」


クラリタは瞬間移動で一気に俺の目の前まで移動し、周りの仲間たちにも目もくれず俺の頭目掛け手を向けてくる。

そんな苦し紛れの一撃が、救いようのない最後の攻撃が通るはずがなかった。


「【零式・グランゼロ】」

「ちょ…グラ!」


グラの手のひらから出現する高威力の世界の反するエネルギーの集合体。これこそがグラを『ノマド』最強にした理由。あのトレーニングルームを破壊してからの三日間でグラはバグの力を自分のものとしていた。そうして手加減できるほどまでコントロールできるようになった力だが、ここまで小さいエネルギー体でも、クラリタの体はまるで野球ボールのように高速で天井に吹き飛んでいく。


「グラ…その力は無暗に使うな!」

「博士…だってユラ君が危なくて…。」

「重力で動けなくするとかあっただろう!!全く…。」

「はぁい…。」


博士はぷんぷんとしながら俺を包帯でぐるぐるにしていく。怒ってるせいか巻く力がなんかめちゃくちゃ強い。痛い痛い。


「相棒!玲方さん助けたぜ!」

「すまなかったな…君たち。こんな老いぼれが足を引っ張って…。斎月もそんな姿で…。」

「玲方さん…強いでしょ、俺の仲間。」

「あぁ、本当にその通りだ!!お前さんが羨ましい!」


クラリタを倒せたこと。…一人、殺してしまったこと。

ないがしろにしてはいけない事だとはわかっている。だがそれでも、今はなんだか仲間を自慢したい、そんな気持ちだった。


結局、どんな力を手に入れても人間一人ではできないことがあるんだと、俺は身に染みてわかった。



…だが、クラリタにはまだわかっていなかったようだった。

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