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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第四十一話 雑談

 さてと…私はこの女の子とやらなきゃなんだけど…。


「えーと…どこいった?」


私、空理グラはクロニクルタワー6階で『レジデンス』の一人と相まみえていたはずなのだが…。ふとした瞬間一気に気配がなくなり、当たりにが煙が充満しているだけ。


「…!」


そうして一定間隔でナイフや包丁などの刃物が飛んでくるのだ。このじれったい攻撃。すぐに時間稼ぎだと分かった。もうこのまま上言っちゃおうかな…。


「だー!もう。うざったい!」


私は充満していた煙を空気の力で一気に晴らし、次の階への階段へと猛ダッシュした。だが…


「まだ駄目だよ~。」


私の目の前に澄香は姿を現した。ようやく姿を見せたと思ったらその手には銃が。


「一発くらいならいいでしょ。」


そう言って澄香は私に向かって銃を一発放った。パン!と大きな音を立て、私の足を的確に狙って撃った。が、当たることはなかった。


「…あんた、随分能力を鍛えたんだね。」

「もちろん。負ける気ないよ。」

「そう。実を言うと私の任務はあなた達の抹殺なんだけど…少し難しそうだからやめておくわ。クラリタさんが強くなって助けに来てもらうまでここで足止めさせてもらうよ~。」

「めんどくさいなぁ…。」


重力による壁は弾丸すらも止める。常に重力の壁は全身に張っている私に届く攻撃はほとんどない。ほとんど。

このまま上に行こうかと思ったが、銃があるならば別だ。仲間が危険になる。

やっぱここで倒しておこう。幸い能力だったら私の方が圧倒的に優位だ。勝とうと思えばいつでもやれる。ただ、ユラ君たちと殺さないと約束したのだ。私の能力はもう簡単に人を殺せてしまう。慎重にやろう。

澄香の動きを封じるため上からの重力の圧を重くした。


「…!煙が…捕まるわけないでしょ!」

「はぁ…何回やるの、これ。」


澄香はそう言ってすぐに消え去ってしまった。さっきからこれの繰り返し。もう飽きてしまった。なので私はお話しすることにした。仲間の心配はしていない。私の仲間がこんなやつらに負けるはずがないからだ。


「ねぇねぇ澄香さん。」

「……なぁに?」

「貴女はどうして『レジデンス』に加入したの?」


私はもう疲れたので胡坐をかいた。その様子から澄香も私が戦う意思がないと判断したのか煙になるのは止め、姿を現した。


「いいわね、私お話好き。その質問、運の尽きとしか答えられないわ。」

「運の尽き?」

「そう。あの人に能力者だってことがバレたら、もう死ぬか能力を渡すかついて行くかしかないのよ。」

「澄香さんの能力ならすぐ逃げられそうだけど。」

「そりゃね。でも逃げ続けるのは辛いものよ。最初の何回は逃げてたけど何度も何度も彼は私を見つけてきた。最後は半ば殺す気だったわ、クラリタさん。だから私は諦めて下についたの。情けないでしょ…?」


博士の言っていた通りだ。『レジデンス』は自分からその組織に入ったものはいないだろうと博士は予測していた。本当にその通りのようだ。

私は相手が敵ながら、少し同情した。


「私と同い年くらいでそんな…大変だったね。」

「え?」

「…え?」

「グラさんあなた何歳?」

「私は15だけど…。」


誕生日は冬なので、まだ15歳である。ユラ君の誕生日、そういえば聞いたことがないな。今度聞いてみよう。でもユラ君の好物炭酸水なんだよなぁ…。どう祝ったものか。


「私、36よ?」

「…は?」


私は耳を疑った。だって澄香さん、どうみてもJKなのだ。女子高生じゃないの?


「…あっはっは、その驚いた顔。何度も見てきた。でも現役女子高生から同い年なんて言われるとは思わなかったわ。私、見ての通り童顔なのよ。こんななりだと、あんまり人生うまく行かなくてね。だから夜の街に溺れちゃった。夜はいつも高校生の制服着て…おっさんの為に生きてんの。」

「そう…だったんだ。ごめん、なんか。」

「敵に謝るんじゃないわよ。でも、なんだかあなたの前だと気持ちがぶれるわね。普段は子供らしく喋っているんだけど、おばさんらしくなっちゃったわ。」


澄香さんは、昔の博士と同じ境遇だった。でも博士とは決定的に違うところがあった。それは過去を不満に思っているという事。博士はあの最悪な思い出を嫌には思っていたが、それでももう過ぎたことだと、仕方のないことだと割り切っていた。きっとそれも大人のひとつなのだろう。でも私は、そんな博士が許せなかった時があった。


「さ、今度はあなたの番よ。」

「…え?」

「あなたの昔話を教えて。それでフェアでしょ?」

「良いけど…私たち敵同士なのにこんな話してていいのかな。」

「いいのよ。私にとってはクラリタさんが勝てば世界が終わる。斎月君が勝てば私たちは開放される。あいつの元から離れられればいいのよ、私は。」


そこで初耳の情報を聞いて、私はまた驚く。


「世界が終わる…!?」

「そうよ。クラリタさんの能力はユラの能力と合わさることで完成するんだってさ。もうファンタジーすぎて私にはついて行けないわね。だからほら、話してよ。昔話。」


その事実を上のみんなに早く伝えなければいけないのだが…。どうしようか。彼女はまだ私と戦う気があるのだろうか。


「…あぁ、お仲間に伝えたいのね。メールでいいじゃない。それくらいなら待っててあげるわ。」

「あ、そっか。ありがと。」


私はこの不思議な状況下で今の話をみんなへと送った。他のみんなはきっと戦闘中だろうから、戦いが終わってから気づくだろうけど…。


「よし…とりあえずこれでいいかな。」

「最近の子はフリップ早いわね~…。私も練習しようかしら。」

「じゃあ連絡先繋げよ。いっぱい話してあげる。」

「あんがと。」


私は澄香さんと連絡先を交換した。なんだか彼女とは話題が尽きない気がした。


「それじゃ話すんだっけ?昔話。」

「そうそう。」

「それじゃあ…『ノマド』結成の話してあげる。」


そうして、私は名目上の敵である澄香さんに、話し始めた。ガールズトークは例え戦場でも花咲くものなのだ。


ーーー


「空理さーん!おはよ!」

「…おはようございます。」


私は昔から優等生を演じていた。そうでもしないといじめられるんじゃないかと思ったからだ。家での素を知っているお父さんはその様子をみて心配していたが、大丈夫といつも言っていた。女の子は怖い。何を裏で言われているかわからない。それなら、陰口すらなくなるほどのいい子になろうと決めたのだ。そっちのほうが心配しなくて済む。


ある日の事だった。


「空理さんって良い子ぶってない?」

「わかるー!家でもあんな感じなのかな?」

「違うにきまってるでしょ!どうせ外面だけでしょ!」

「だねー!」


ガールズトークはどこだって花開く。私がお手洗いに行っていた時にだって。

その会話内容は今思えばそんなに嫌な会話ではなかった。彼女たちにとっては沈黙を埋める適当な会話だったのだろう。実際、私の学校の評判は良くも悪くもなかった。ただ、少し頭の良い、真面目な子。頭も固くなく、嫌な事ははっきりと言っていた。完璧にやっていたと思った。だが完璧故、どこか気持ち悪さも感じたのだろう。

そういう人間が一定数いるだろうなとは感じていた。だがその耳で実際聞いたときは、私の心をえぐっていった。一滴、一滴と何かがこぼれて行った。その量は日に日に増して言った。その何かの正体もわからないため、満たすこともできない。


私は学校に行けなくなった。突然、いきなり。理由を求めてしまったんだ。

なんで学校に行くんだろう。

なんで勉強するんだろう。

なんで取り繕わなきゃいけないんだろう。

なんで合わせなきゃいけないんだろう。

なんで…私はいるんだろう。


「…散歩に行こう。」


初めて学校をさぼった日は、想像以上にやることがなくて。お父さんはお仕事が忙しくて帰ってはこなかったが、私が電話で休みたいというと「わかった」とだけ言ってくれた。


「…のどかだな。」


通学路と反対方向を歩くだけで、こんなにも違う景色が広がっているなんて思いもしなかった。多分同じペンをずっと使っていたんだな、とその時思った。色あせて、使えなくなっているそのペンを。たまにはインクを補充する必要があると、その時の私はようやく気付いた。明日は学校に行こう。そう決めた。


「んー…帰るか。でなんか趣味作らないと。じゃなきゃまたこうして学校への足が動かなく…。」


その時、私は一つのお店に目が留まった。お店の名前は『プラッシュ』。ぬいぐるみ屋さんだった。目に留まったのはそのお店にあった大きな真っ白のお化けのぬいぐるみ。可愛かった。


「わー…これ、いいなぁ。」

「でしょ!お姉ちゃん見る目あるね!」

「わ!?」


すると気づいたときには隣にぬいぐるみを沢山抱えたお姉さんがいた。

最初見たとき羨ましいって思ったっけ。


「お姉ちゃん、学校は?」

「え、えっと…今日は、さぼり…。」

「そうかい!じゃあサボり記念にこのお化けのぬいぐるみ、あげちゃう!」

「え!?え!?」


お姉さんは私の腕を引っ張って『プラッシュ』の中へと連れていかれた。お店の中はぬいぐるみが沢山あったが、真っ暗だった。


「もしかしてここ…やめちゃうの?」

「あぁ、移転しようと思っててね。ジェネシスシティって場所で開くつもりなんだ。だからこのバカでかいぬいぐるみ、邪魔でねぇ…。良かったらお姉ちゃん、持って行ってくれないかい?」

「でも私…お金ないし…。」


いやあるにはある。趣味のない私+そんな私を見かねていっぱいお金をくれるお父さん=無駄に小金持ちの私だったからだ。

だから例え五桁越えでも買えはしたのだが…何分大きすぎて、確かに欲しくはあったが邪魔だなぁと思っていたり。第一なんでぬいぐるみを女の子は好むんだろう。邪魔じゃない?やわらかいものは枕だけでいい。


「いいって、お金なんて!」

「でも…。」

「…じゃあお姉ちゃんには上げない!代わりに…。」


お姉さんはその大きな白いお化けのぬいぐるみを私に無理矢理持たせて…


「お化けにお姉ちゃんをあげちゃう!押し付けだよ!」

「ふっ…ふふっ。」


ここまで開き直られては、私も笑わざるを得なかった。


「お?やっと笑ってくれたね。この店に来て女の子を笑わせず返すなんてこと、絶対にしたくないからね。」

「はい、もらいますね。このぬいぐるみ。」

「あぁんもう、違う違う。お化けにあげたの!」


めんどくさいなこの人…


「そうだお姉ちゃん、お名前は?」

「私は空理グラです。」

「グラちゃんね!私は店長。店長って呼びな!」

「教えてくれないんですね…。」


ーーー


「で、なんやかんやあって『ノマド』ができたんです!」

「はしょりすぎだよ!?全然わからなかったし、なんなら能力自体出てこなかったよ!?」

「この先は有料です。」

「ゆ、有料って…。話してよ!その先も!」

「えぇ…まぁ…いいですけど。」


その先の話はしたくなかった。

だって…私が女の子の髪をぐちゃぐちゃにした話なんて、イメージ崩れちゃう。


「じゃ私上の階行くね。」

「ちょちょちょ!ほ、ほんとに話さないの?!」

「うん…それにもう戦う雰囲気でもないし。いいでしょ?」

「え、えぇ…。そ、それじゃあ私も行く!」

「は?」

「話してもらうまでついてくよ。どうせ行く当てもないしね。そうじゃん。『ノマド』に置いてよ。役立つからさぁ。」

「…ご自由に。」


そうして私は敵一人…いや新しい仲間一人連れて上の階へと向かった。

もちろん信用してないケド。

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