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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第三十八話 馬鹿

 翌朝、真と冬矢が身支度をして帰る頃。俺は昨日冬矢に言ったことを実行しようとしていた。グラの部屋で仕度をしている真を呼ぶ。


「ちょっと話したい。」

「いいよ、ちょっと待ってて。」


真は帰り支度を早めてくれた。その間暇なので奥の方を見てみると…グラの様子が何やら変だった。


「真って寝起き機嫌悪いタイプなんだね…。私知らなかった。」


鞄に荷物を詰めている真の奥のベットの上でぬいぐるみをぎゅっと抱えているグラがいた。大方グラの束縛から離れられなかった真から一撃をくらったのだろう。



「グラが中々放してくれないから…。」

「私と一緒に寝たのが悪い。」

「じゃあもう一緒に寝ない。」

「あー嘘々、冗談だって真サン。今度は私が遊びに行くからさ~…。」

「はいはい…。ユラ、その話はここじゃ話せない感じ?」

「そうだな、場所はどこでもいいが二人きりがいい。」


そう俺が言うと同時にグラの口がふくらんだ。


「なんですか、私が邪魔だっていいたいんですか、ユラ君。」

「焦れたり怒ったり忙しいやつだな。別に俺達が別の場所行くから良いよ。」

「んや私博士に用事あるからいいよ別に。幼馴染同士二人きりで話せばいいよ、全くもう。妬いちゃう。」

「どっちなんだよ…。今度は何のぬいぐるみをご所望なんだ?」


グラの機嫌はぬいぐるみを渡すと回復する。物で解決するなんてひどいやつだと思われるかもしれない。だが逆なのだ。グラの場合ぬいぐるみ以外の解決策がないのだ。

俺だって別の方法が良い。金も無限じゃないし。ただ本気でそれしか方法がないことを、グラと過ごしていてわかった。

と、思い込んでいたのだが…


「パジャマペアルックで。」

「…難しい言葉。」

「いやカタカナを諦めないで!?じゃ、約束ねー。」


そう言ってグラは部屋の外に行ってくれた。なんだかんだ空気を読んでくれる。その行動までが長いだけで。


「よし、終わった。」


丁度真の身支度が終わったようだ。


「それで、なんでしょう改まって。まさか、もう帰ってこれないとか?」


…それもあるにはあるが、帰ってこれない可能性があるだけの話。帰ると決めたからには死んでも帰る。男に二言はない。


「冬矢から聞いた。」

「…何を。」


勘のいい真なら多分もうわかってる。あの目は白を切るときの目だ。真はきっとこのまま忘れるつもりなのだろう。冬矢が止めたのはきっと、時間による解決が一番安全だと考えたからだ。

だが俺は真の気持ちを知った中、このままほったらかすなんて事は絶対にしない。だってきっとその解決までの間、俺たちは親友ではない。友達だ。

それが俺は嫌だった。わがままだろうが知るか。


「真が、俺の事好きだったって事。」

「へぇ、それはまた面白い話で。じゃそろそろかえ…


俺は荷物を持っていく真を止め…なかった。真は押しても引いても開かない。自動ドアのように、待つのが正解だ。


真の足は俺の横を通り過ぎる。

まだ止まらない。


ドアノブをひねる音が後ろからする。

まだ開かない。


ドアの開く音が俺を焦らせる。

まだ動かない。


「…はぁ。」


そして、ドアの閉まる音、それは心の扉が開いた音。


「私が後々の自分の行動をめちゃくちゃ気にして死ぬほど後悔するタイプだって知っててそれはちょっと卑怯だよ。」

「そうだな、俺は卑怯だよ、真。」


クラリタとの戦いで、俺はやり残していたことを探した。

黒い炎の制御。それも大切だ。

仲間との会話。思い出はいくらあっても良い。

だがもっと前に、やり残していたことがあったんだ。

幼馴染との、嘘のない、嘘じゃなかった、本当の話を。


「俺は、真をそういう目では見れなかった。悪かった。」


自己満足の謝罪。

謝るというボールは、相手がどう帰すかでそのボールの価値が決まる。

真は、そのボールをミットで食らいつくようにキャッチした。


「バカ、わかってた。謝る必要なんか…ない。…ないんだぜ。」


真は実は涙ぼろい。俺はその時、その真の泣いていながらも笑顔な表情を綺麗だと感じた。バカ。その通りだろう。どうして俺はこんなにも大切な存在の大切な気持ちに気付けなかったんだ。


「あと好きだった、じゃなくて、今も好きだから。」

「…そうか。」

「うん。そう。…ねぇユラ。なんか私たち、より一層仲良くなった気がしない?」

「昨日冬矢も同じこと言ってたよ。」

「ほんと?じゃ気がするんじゃなくて確信になった。」


真は涙を拭いて、俺に近づく。そうして悪いことを考えていそうな顔でこう言った。


「あの子が好きだっていう君が好き。

この感情どう思う?」


俺は少し考えて、こう答えた。


「そりゃ、バカだな。」


ーーー


その後、冬矢と真は帰っていった。駅までの間、化け物が現れる可能性もあるので俺が二人を送り届けた。その時間はなんだか新鮮だった。

永遠ではなかったとしても、永遠に続くことを望む。それがきっと人間なんだ。


二人を送り届け、俺は拠点に帰ってきた。相変わらずの恰好をした博士が迎えてくれた。


「おかえり、化け物は?」

「いなかった。てか博士見てたんじゃないのかよ。」

「友情を盗み見する趣味はないよ。

…それとトレーニングルームもう使えるから、使うと良い。今回はさらに強度を高めたから多分グラのあのバグにも耐えられると思う、ほんとに、ちょっとだけ、メイビー。」


どんどん自信を無くしながら博士は自分の部屋へと帰っていった。ほんとに愉快な人だな…。


「さて…明後日には乗り込むんだ。俺も黒い炎を操れるようにならなきゃな。」


強く決意し、俺はトレーニングルームに戻った。



そして二日後。時間が経つのは早いもので、今日がクロニクルタワーへと向かう日だ。不思議なことに俺がクロニクルタワーに何かしら目的があるとき、決まって襲撃目的だ。なんの因果関係があるんだか。

クロニクルタワー襲撃の目的は二つ。

一つは聞くべきことがあるため。なぜ化け物を放ったのかについて。

二つ目はクラリタが複数の能力を持っているかの確認。その場合方法も。

解答によっては取り押さえる必要もある


「じゃ、行くか。」

「おう!もう準備万端だぜ!」

「だね、修行の成果を見せてやろ!」

「私もコーヒー修行の成果を見せてやる!」

「おー」

「シロ早い早い…もう少し後だからそれ。」

「おー…?」


俺たちは玄関で円になり、片手を中心に集めた。

その後、少し沈黙。


「いや誰か何か言ってくれよ…。締まらないじゃねぇか。」

「あん…?こういうのは相棒だろ。」

「右に同じく。」

「左にイチジク。」

「…?ひだりは…シロ。」


なんかかみ合ってるようでかみ合ってないな…。


「じゃあ…こほん。今日クロニクルタワーを登って、化け物を生み出している根本を潰す。きっと『レジデンス』達も邪魔をしてくるだろうし、底のしれないクラリタ自身も危険だ。それにあちらさんの目的が分からない以上、もしかしたら俺達が悪の可能性だってある。そもそも戦闘にすらならないかもしれない。だけどもう十分、クラリタを止める理由はある。だから…」


俺は一拍おいて、叫ぶ。


「誰一人殺さず、本だけを奪うぞ!」

「「「おー!!!」」」


殺さない。

これが『ノマド』の絶対ルール。

そうみんなで決意し

玄関のドアを今ひら…


ぴんぽーん


「今のタイミングで誰だよ!?」


俺はもう勢いで誰か確認する前にドアを開いた。

そこには…


「…なんだかタイミングが悪かったようで、申し訳ありません。わたくしフェルバル・クラリタの《《元》》秘書。野間ゼンツです。」


そこには意外な人物が。だがクロニクルタワーで見たときのような堅苦しい服装ではなく、おしゃれなお姉さん感漂う服装だった。

これか…!これが博士の模範的方向だったのか。

なんだあの猫は。いや買ったの俺だけど


「って…元?」

「はい、私から辞表を叩きつけてきました。で、最後に伝言役だけやってくれと言われてしまったのでここに来た限りなんですが…もしかしてクロニクルタワーに乗り込むつもりだったりします?」

「あぁ、そのつもりだ。君が化け物を生み出すところを私が見ていたのを気づいていたんだろう?」

「はい。明らかに不自然な液体があったのでさすがに。」

「だろうな。」


博士、なぜその決め顔を作り続けられるんだ。ちょっとダサいぞ。


「博士じゃま、それで伝言って?クラリタから?」

「はい。クラリタ様からこう言えと。『今日の日没までにクロニクルタワーに来い。もう私が化け物を生み出した元凶だということくらいわかっているだろう。その目的と、私の理想を教えてやろう。ただし全力で阻ませてもらうよ。それも私の理想に近づく過程だからね。タイムリミットまでに…けほっ。」


そこまで話して元秘書さんは咳き込んだ。流石に一気に話しすぎたのだろう。ロボットみたいな人だと思ったがちゃんと人間だった。


「ほら、水。」

「コップどっから出したの今…。」

「鞄。」

「ありがとうございます。」


元秘書は博士の出した水を飲み、伝言を続けた。


「『タイムリミットまでに来なかった場合、五千の化け物を町に放つ。それでは、待っているよ。手厚いおもてなしを準備して。』…ここまでです。ちなみに五千の化け物は私が生み出したものですが、命令権はクラリタ様に渡しています。よって私が離れたからと言って話が変わるわけではないのでお気をつけて。」


そこまで話終わった元秘書さんにシロが拍手をした。元秘書さんはそのシロの行動にテレテレと反応してあげている。ただし無表情。


「お久しぶりですシロさん。元気そうで何よりでございます。」

「うん、ぜんつさんも。」

「シロの世話は野間さんが?」

「はい。よく手伝っていただきました。シロさんは感情表現が上手ではないのですがきちんと本心を話してくれる良い子なんですよ。なのでこれからもその気でシロさんをよろしくお願いしますね。」


真顔でいう野間さん。シロとは似たもの同士だな。

にしても五千か。流石にその数がくれば俺達も止められない。

少なくとも、二日前の俺達じゃ。今じゃ多分…グラ一人でなんとかなりそうだ。

それほどにグラは強くなった。

たった一日で。


「皆様も同じ考えだったようで何よりです。それでは皆様いってらっしゃいませ。」


元秘書さんは頭を深々と下げた。


「あ、行く前に元秘書さんに聞きたいことがあるんだが、良いか?」

「遠慮なく。私、今あの人から離れてご機嫌なので。」


相変わらず無表情でそういう。


「その…なんでクラリタの元から離れたんだ?」

「…実を言うとまだ私も悩んでいるのです。ただそうですね…その問いに答えるとすれば、私は能力を手に入れる前のあの方の壮大な理想に憧れて、いつかその夢が現実になるのを望んでいたんです。

ただ、なんだか最近のあの方は能力に溺れてしまったようで。新しい理想も、とてもじゃありませんがついて行けませんでした。私はあの方の理想に失望した。なんて、私自身いまいちまとまっていないんですよ。すいません。」


その時、少しだが野間さんの口角が上がった気がした。誰もが何かに悩んで、行動しているもんなんだな。


「ありがとう、話してくれて。興味本位だったんだが、そんなに話してくれるとは思わなかった。」

「いえ、私自身、なんだか考えを整理できたので良かったです。それでは、武運を祈ります。あの方の夢を覚ましてあげてください。」


野間さんの見送りを後ろに、ついにクロニクルタワーへと俺たちは向かった。


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