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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第三十七話 無変

 ジェネシスシティに遊びに行き、帰って来たら気づけば夜。そのころには博士のトレーニングルーム修復も終わりかけていたようで、夕食は今までない人数でのものとのなった。今までの机では足りないのでキッチンにもう一つ机を持ってきた。もちろんなんでもあるで定評がある博士の部屋から。ちゃんとあるのだからすごい。

ご飯も食べ終わり、次は風呂に。知っての通り拠点の風呂は一つしかないくせに狭い。そろそろ博士にクレームを入れる頃だろうか。五人で一つ回すのは辛い。ただ水を張っているのは博士なのでもう少しは許そうと思った。


「ふぃ~…気持ちよかった。」

「狭くない?ここのお風呂。」

「博士だから…作ったの。」

「少し納得。」


真とグラがお風呂から上がってきた。ギリ二人入れるので一緒に入ったらしい。


「てことで俺と入ろうぜ!」

「だと思ったよ、行くか。」


冬矢と風呂に入ることに。一人ずつ入っていると時間がかかってしまうから仕方ない。もう何度冬矢と風呂入ったかわかんないなぁ…。子供の頃は真とも入ったっけ。今一緒に入ろうとか言えば俺の首はゴボウになるだろう。


「なんだ、真が狭い言ってたけどそこまで狭くないじゃないか。」

「まぁな。ほんとにギリ二人って感じだろ?」

「確かにそうだな。」


狭い狭い言っているが正直うちの風呂とそこまで大差はなかったりする。あと真の家の風呂が広いって言うのもあるかもしれない。俺は『ノマド』の入る前の人生で人の家の風呂と言ったら真か冬矢の家くらいしかしらないのだ。二人とも俺の家の風呂より広いから、最初この風呂見たとき狭く感じたのはそのせいだろう。


「なぁ、ユラ。」

「ん?」


俺が髪を洗っていると湯船につかってる冬矢が話しかけてきた。


「…そのシャンプーいい匂いだな。」

「あぁ、グラの借りてんだよ。男が使っても違和感ないだろ。」

「確かに…。グラさんのセンス神ってるよな。」


一度、グラに髪いい匂いだなって言ったら貸してあげると言われた。その時から使わせていただいている。言った時セクハラだなと思ったがグラは何とも思わなかったようで助かった。

にしても…変だな。冬矢はなんだか他の事を聞いてきそうな雰囲気だったんだが、俺の気のせいだろうか。

泡をお湯で流し、一通り温まってから俺たちは風呂から上がった。


「さっぱりだぜ…。なぁユラ、牛乳とかないのかここ。」

「あるけどビンはない。」

「ビンまで求めてねぇよ。いや確かに音なるから良いけどな?」

「でもそれ以上身長いらないんじゃないのか?冬矢。」

「身長も求めてねぇよ。風呂上がりって言ったら牛乳だろ。」

「アイスだろ。」

「おまっ…禁忌を犯す気か…?」

「ふっふっふ…共犯となれ。」

「仕方ねぇ…やってやるぜ!」


俺たちは強い決意を持ち、アイスを食った。もちろんグラに怒られた。


「グラさん怖くね…?」

「怖い。生意気な態度をとった瞬間空気が俺達を見放している。」

「なんだそれ恐怖の塊すぎる…。」


その後、俺の部屋へと冬矢と向かう。冬矢は布で寝るとか言っていたがちゃんとしたところに寝てもらおう。布団くらいはあったはずだ。

そうして部屋の扉を開くと…


「…なぜいる。」

「お、さっきグラに怒られてたお二人さん。」


部屋には真とシロがいた。シロは暇になると俺の部屋にいることが多い。俺が漫画を多くおいているためだ。あんな力持ちでも心はやっぱり小学生ということだろう。そしてその小学生が気に入る漫画を置いている俺。もう少し大人の物を読もうと決めた。


「うわ!その漫画なつ!」

「とうや…ちかい。」

「一緒に読もうぜ!ネタバレはしねぇからよ!」

「ならいい。」


小学生が増えた。


「この子、シロ…だっけ。良い子だね。」

「何か話したのか?」

「うん。ユラは最近どうだ、とか。ユラはちゃんとやってるか、とか。」

「俺の事ばっかりじゃねぇか。で、なんて言ったんだシロは。」

「さいきん…きたから…わかんない…。って。」


真はシロを真似したのか、とぎれとぎれに話す。シロはまだこの場所に安心していないのか、結構ゆっくりと話す。だがその会話に迷いはないため、特に問題はない。


「まそりゃそうだな…。」

「でも、グラいるときはいつも笑ってるって言ってたよ。ちゃんと周りを見てるし嘘もつかない。少なくとも冬矢よりも会話が成立してる気がした。」


横目でシロと笑いながら漫画を読む冬矢を真は見る。その目は馬鹿にしたような目ではない。呆れのようにも見えるが、どこか笑っていた。真にとって冬矢は俺よりも先にできた初めての友達だ。何か思うことがあるのだろう。これはまさか…恋心…?

なんてこった、俺は鈍感すぎるぜ。


「…すげぇ今さらで失礼な事聞きたい。」

「冬矢の事好きとかはないから。」

「すいませんでした。」


半分冗談で言った言葉だったから、俺は驚いたんだ。真がそんな顔するなんて、思わなくて。

少し泣きそうで、でも目も口も笑ってて。俺はその瞬間だけ、真のことがわからなくなった。もう長い事一緒にいるため何を思っているのかくらいはすぐにわかる。だが今だけは、理性でも本能でも真を理解できない自分がそこにいた。


「真…?」

「なに。」

「…なんでもない。そろそろ寝たらどうだ。グラが待ってるぞ。」

「そうね、行こうかな。でもなんか聞こうと思って私、ユラを待ってたんだけどな…。忘れちゃった。」

「気になるを移すな。寝れん。」

「んー…あ、グラの寝相ってどう?一緒に寝たんでしょ。」

「悪くはない…けどなんかめちゃくちゃ密着してくる。多分いつもぬいぐるみと寝てるからだと思う。自由に寝がえりはできないと思え。」

「何それ可愛い。早く寝よ。」


そう言って真はうきうきしながらグラの部屋へ行った。そんなこと聞くだけで待ってたのか?


「おら、シロも帰れ。…ってそうか。まだシロの部屋ないのか。」


一室空いているには空いているのだが博士がジェネシスシティを見守ったりトレーニングルームの修復をしてたりでろくに部屋として機能していないとのこと。


「アムと…ねる。」

「そうか。おやすみ。」

「おやす。ふゆやも…はやくねな。」

「ちょっと待て、ここだけ読みたい。」

「ねな。」

「うっ…わかったよ。寝ます寝ます。」


おい高校生いいのかそれで。いやこの場合シロが賢すぎる…?

無駄な思考を働かせることは止め、俺と冬矢は寝ることにした。

俺は布団でいいと一応言ってみたが案の定断られた。


「電気消すぞ。」

「おう。…電気のスイッチないぞ。」

「手叩くと消える。」


俺が二回ほど手を叩くと電気が勝手に消えた。最初俺も困って博士に聞いたときは驚いた記憶がある。


「なんじゃそれ…。」


こんな感じに。遊び心があるってのはこういうことなのだろう。

俺はベットに、冬矢は布団に入り込んだ。このまま寝るには少し目が冴えている。


「…なぁ、ユラよ。」

「どした。」

「お前さっき、真に俺の事好きなのか聞こうとしたろ。」

「お、おう…。」


なんか冬矢の雰囲気が違うことに気付いた。たまにあるのだ。こいつある一定期間ごとになんかめちゃくちゃ雰囲気が変わる。大抵こういう時は大事な話の時だ。ただまぁ一度本気でタケノコVSキノコ戦争の時にもこの雰囲気だったからそこまで重くは考えていない。


「お前、本気で気づいてないのか。」

「何にだ…。」

「ふぅ…。真はな、お前に会った時から、お前の事好きだったんだぞ。」

「…冗談か。」

「だと思うか?」

「そうあって欲しくはある」


俺は何とも言えない気持ちになった。亀裂が入ったとは思わない。ただ少し、俺たちの関係が氷のように溶け始めたような感覚がある。


「最近、真から聞いたんだよ。グラさんとユラが付き合うかもって。」

「…俺は本気だぞ。」

「それはわかる。お前の目も、グラさんの目も見ればな。邪魔する気も放そうとする気もないよ。俺はお前が選んだ人をお前は守ればいいって思う。友達としてな。」


お互い顔は見えないが、きっと今の冬矢の表情は笑顔だろう。ただ100%の笑顔ではないことは確かだ。


「ただ、俺には同時に真の目も見えちゃうんだよ。あいつ、強気ではいるけど内心結構辛いんだと思う。一回泣いてたのを見た。」

「…そうか。」


男女の友情は存在しない。俺はそんなことないと思っている。男女の友情自体は確かに存在するんだ。ただ友情というもの自体、永遠ではないだけで。

今その友情に、俺は純粋な気持ちで向き合えている自信がなかった。真が俺の事を好きだったとしても、俺のグラが好きという気持ちは変わらない。

きっと冬矢は、十数年も一緒に過ごした真より、最近出会ったばかりのグラを俺が好きになったことが納得いってないんだと思う。あくまでそう考えただけで、実際は本当に俺の事を応援しつつも、真が少し可哀想だという事を伝えたかっただけかもしれない。

なんにせよ、俺にそう言って、心変わりをすることを冬矢が望んでいるわけではないという事はわかっている。だから、俺の気持ちも、返答も、『変化』はしない。


「冬矢、それでも…

「言わなくてもわかってるよ。…なんかごめん。俺気に食わなかっただけなんだと思う。昔から真の気持ち自体は知ってたんだ。ユラに近づくにはどうしようって相談してきたところから俺と真は仲良くなったんだから。」

「え、ほんとに最初っからだったのかよ。」

「そうだぞ…。だからお前から話しかけてきたときは真はびっくりして固まっちまったんだから。」


確かに最初は無口な奴だと思っていたが…嘘だろ。


「はー…なんか、俺達また仲良くなったかもな。」

「一層な。今度真に話すか…。」

「なんて?」

「ごめんって。」

「やめろやめろ。首絞められるぞ。」

「…でも、多分あの本がなかったらいつか真と付き合ってたのかもしれない。」

「んー…どうだろな。ただそうだな、その本のせいで色々変わったかもな。」


本を開いて、まだ大きな時間は経っていない。それなのに、真と冬矢と過ごした大きな時間はいとも簡単にその本で止まってしまった。人生って言うのはある時些細なことで、一瞬で大きく変わってしまうんだなとなんだかくさいこと考えてしまった。


「寝るか。」

「だな。…冬矢。」

「ん?」

「ありがとな。俺の友達で。」

「お互い様だ。」

「あと…やっぱ真には言うよ。もしかしたらもう会えないかもだし。」


二日後にはクロニクルタワーに行くことになる。帰ってこれるかはまだわかっていないのだから。


「何すんのか知らないけど、絶対帰って来いよ。お前の家が…あ、お、おやすみなさい…」

「おい、なんなんだよ。気になるんだよそれ。」


俺の家どうなってんだよマジで。

その日は真の俺への気持ちと、俺の家への不安で寝れなかった。

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