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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第三十四話 仮説

 一通り博士からの話も終わり、次どうしよかと悩んでいた。もう寝てもいいっちゃ良いのだがあんなことがあった為寝れる気がしない。だって眼が冴えまくっている。


「もう寝るかい?若い子はもう寝る時間だ。」

「それが寝れそうにない。」

「俺もだ。あんな激闘後なんだから興奮して寝れん。」

「じゃあ私の仮説を話させてもらおう。…コーヒーいるかい?」


そう言って博士は自分の特訓の成果を指さす。ほんとにあのコーヒー何リットルあるんだ…。コーヒー淹れで強くなった能力。これ能力作ったやつも想定してないんじゃないのではなかろうか。天才ゆえの奇行。


「余計寝れなくなるだろ…。」

「俺もいらん。苦いのは好きじゃない。」

「そうか…。」


そんな博士は一人しょぼくれながらバカみたいに沢山入っているコーヒーのタンクを傾ける。重そう。


「さて…それじゃあ仮説、というか私のシロに対する考えを一つ話そうか。」

「おう。聞かせてくれ。」

「シロは能力を何らかの方法でクラリタに奪われたと言っただろう?じゃあ、今日のあの馬鹿力はなんなんだって話になる。」

「それもそうだな…だがあんな力、能力以外考えられないぞ。」

「アムがあそこまでボロボロになる強さ。並みの力じゃなかった。」

「そうだったのか。私はその時隙をついてクロニクルタワーに液体を忍び込ませていたからそっちはしっかり見れていないんだよ。」


博士は博士で行動してたのか。最後助けに来てくれたがあれは成果を出した後だったって訳だ。


「で、博士。なんでシロは能力もなくあんな力を?」

「あぁ。その前に一つ、別の仮説を話す必要がある。この世界の常軌を逸する力。どこからエネルギーを得ているか考えたことはあるかい?」

「え?…確かに使っている間、疲労感は感じたことがない。」

「そりゃあれなんじゃないか。空気中のなんか…魔法のなんかからだろ。」


なんなんだそれは。


「その可能性も考えたが…私がいくらこの部屋でコーヒーを能力で淹れ続けても何も変わらなかった。仮にその魔法のなんかが無限にあると考えるとこの文と矛盾する。」


そう言って博士はどこからかフォルダーを取り出し、中を開いた。


「これは?」

「ここに書かれているのは全て私の魔本に書かれている情報を書き写したものだ。不可解に書かれているものが解読できたときはその解読も。いつ読めなかった部分が読めるようになった日付も記載している。」


博士はそこまで能力について、そしてこの本について調べていたのか。ここまでやっている博士が結論を出せないほどの大きな謎。博士は変人だがその頭は信頼している。


「この文だ。『力は従順に現実界を追従する』。これは…ユラに初めて会った次の日に書かれた文だな。」

「…俺には何を言っているかさっぱりなんだが。」

「アムの貧相な頭じゃ無理だろう。」

「あん?」

「これは能力はあくまでも現実から逸脱したものではない。という事だ。つまり何も消費せずにこの不思議な力を使えているわけではないという事だよ。世界のありとあらゆるものは何かを消費して生まれている。その世界の絶対的ルールから逸脱していないというのなら、この本はどこからかエネルギーを得ている…というのは少しありえない。だから…。」


そこで博士は溜めて、本の中心をとんとんと叩いて、言った。


「この本にエネルギーが蓄えられている、もしくは作られている、というのが私の仮説の一つだ。この本が出現した瞬間、世界空間に本にエネルギーを与える魔法のなんかとやらが生まれる方が圧倒的に世界を逸脱しているだろう?」


博士の説明はかなり複雑なことだが俺達にもわかりやすく簡単に伝えてくれたおかげで理解はできた。そこで俺は博士がシロについて言いたいことがわかった。


「もしかしてシロはその本に蓄えられているエネルギーが体内に…?」

「そうだ。」


博士は指をぱちんと鳴らし、俺を指さした。そうか…。俺たちが能力を扱う時に本から離れた瞬間、使用できなくなるのは本からのエネルギー供給が無くなる為…。そのエネルギーが常に体に存在する異例の存在、シロは本来エネルギーを使用される道具が奪われたため自分自身に人類を逸脱した力が手に入った…。というのが博士の仮説か。なんだか理にかなっている気がする。


「相棒の刀が通らなかったのもエネルギーの蓄積で筋肉が突然変異したのか。どうりで俺の拳が通らないわけだぜ。」

「【レベル4】ならダメージあったじゃないか、シロ。」

「訓練中以外に【レベル4】を使ったのはあれが初めてだったぜ。一般人相手ならレベルは2もあれば十分だったからな。」

「ほら、やっぱりシロを保護して良かっただろう?」


親指を立ててグッ!と見せつけつつコーヒーをズズッと飲む博士。確かに今回は博士のあの無理にでも追いかけようとした最後の判断が正しかったようだ。クラリタや『レジデンス』自体手の中がわからないなか、シロのような手に負えないものがいればきっと勝てないだろう。

そこで、俺は何故かクラリタ達と戦う事前提で思考を働かせていることに気付いた。いや今後確実に戦う事にはなるだろう。あの化け物を生んでいたのがクラリタだと分かった以上、さっさと根本を叩いた方がいいことは明白だ。だが、俺は少し気持ちにわだかまりがあった。

さっきもだ。主犯格がクラリタだと分かった瞬間、なぜか残念な気持ちになったのだ。俺はクラリタに何か期待をしていたのだろうか…。ジェネシスシティを一人で進化させていく、表の顔のクラリタに。


「で…ユラ。どうする?」

「どうするって…何がだよ。」

「クロニクルタワーに乗り込むかって話だ。私たちが勝ちこみに行くには十分な理由があると思うが。」

「あぁ、俺も同意見だ。相棒、お前はどうする。」

「そりゃ俺だって…


その時だった。博士の部屋の扉が開き、グラが帰ってきた。


「もうシロ寝たよー。」

「グラ、助かったよ。そのまま一緒に寝てくればよかったのに。」

「んや…なんか寝れなくって。みんなもそうでしょ?」


グラもどうやら俺達と同じだったようだ。


「シロにベット取られちゃったからユラ君今日一緒に寝よ。」

「狭いだろ圧倒的に。」

「前は寝れたじゃん。」

「めちゃくちゃ密接してだろ…。まぁいいけど。」

「嬉しいくせに。」

「うん。」

「素直!?」


グラが戻ってくると一気ににぎやかになる。暗い気持ちも好いている人がくれば晴れるもんなんだな。


「それで、クロニクルタワーの乗り込みはいつ行くの?」

「グラもその気なのか…。」

「え、違うの?」

「いや私たちはもその気だ。だが…どうもユラが煮え切らないんだ。何かあるのか?」


何を迷ってるんだか。もう乗り込む以外手段もないのに。多分この気持ちは「俺」が足を踏み出そうとせず怯えているからなのだろう。笑えるな、とっくに俺は「俺」を振り切っているはずなのに。


「…そうだな。乗り込もう。すまん。少し弱気になってた。」

「相棒、その意気だぜ!」

「よし、それじゃあ明日にでも…。」

「あ、待って。三日後が良い。」


グラの突然の提案。まさかここで話が折れるとは思わなかった。


「理由は?」

「もう少しこの力を操れるようになってからにしたいの。まだ『重力』は慣れてないからきっと足を引っ張ることになる…。だから三日で良い、三日で使いこなして見せるから、お願い。」

「…まぁそうだな。クロニクルタワーで何が待っているかわからない。各々準備時間も必要だろう。クロニクルタワー乗り込みの決行は三日後にしようか。あちらさんが三日もシロを奪い返しに来なかったら、の話になるが。」

「その前に化け物騒動だ。どうする?クラリタが数で攻めてきたら流石に…。」

「それは大丈夫だ。当分は私一人で化け物からジェネシスシティを守ろう。」


博士はそんなかっこいい事言う時に限ってさらっという。ほんとにこの人は…。


「流石にキツイでしょ博士が。見栄張っちゃって…。」

「私だってたまにはかっこいい事したいのだよ。ステージ2になった私は今監視カメラをありとあらゆるところに配置可能。さらにはその監視カメラから攻撃もできる。私が疲れるだけでできない話じゃないのさ。」

「そりゃ理論的にはできるだろうが…流石に無理だろ。」

「じゃあ俺も三日間博士とジェネシスシティを守ろう。ユラとグラは準備すると良い。」

「それなら俺だって…」

「だぁー!私一人でやると言っているだろう?!私をなめるな!ガキども!」


…確かに博士が一番最年長ではあるけども。


「何を!老人を敬ってやってるんだ!」

「誰が老人だアム!ほら、みんなもう寝ろ。私だって無理だったら無理と言える。だから大丈夫だ。ほれほれ。」


そう言いながら俺たちは博士の部屋から出ていくよう催促されて、部屋の外に出た。


「もう…無理しちゃって。」

「昔も博士はよく無理してたからな。そういう性格なんだろうよ。」

「なんだかんだ、博士無しじゃ『ノマド』って成り立たないんだよな…。」


俺たちはこの三日間、博士にまるっきり甘えることにして就寝した。


「んー…ユラ君のベット久しぶり。」

「そんな昔でもないだろ…。ほら、電気消すぞ。」

「ふわぁーい…。」


そうして俺たちは一人でちょうどいいベットに二人で寝る。こうなるとグラが俺にくっつかなければ狭いのだ。


「はぁー…ゆたんぽ。」

「誰がだ。」

「…ねぇユラ君。」

「ん。」

「さっきさ、クロニクルタワーに乗り込むの躊躇ってたじゃん?なんで。」

「なんでって…少し弱気になってただけだって。」

「…森で暴走して、私たちを傷つけそうだったから?」


…グラは一番奥深く、誰にも、自分にもいう事にない心の奥底を探ってくる。実際グラの言う通りだった。


「…あぁ、そうかもな。能力に飲み込まれて、グラも…アムも、博士もこの町も俺が燃やし尽くしてしまうんじゃないかって。そう考えたら少し…いや怖くなってな。多分俺がクラリタと対等に戦うならあの黒い炎が必須だ。だから多分、躊躇ってたんだと思う。」

「そっか…。」


グラはそう言って俺の頭をなでてくる。その体制で撫でるの結構きつそうだけど。


「私も怖かったけどね。正直。ユラ君がユラ君じゃなくなるって。でもね、あの時クラリタが現れなくても私が君を止めたよ。」

「…どうやって。」

「そりゃもう揺さぶったり叩いたり…」


俺は昭和の電化製品なのか?


「だからね、ユラ君。安心して戦っていいから。それにその黒い炎すら使う暇もないくらい私が強くなるよ。」

「それじゃ情けないから、俺も黒い炎に飲まれない訓練をするさ。」

「じゃ、お互い頑張ろね!ユラ君。じゃおやすみぃ…。」

「…そういえば前から思ってたんだがグラって俺の事君呼びだよな。」

「変?」

「変じゃないけど…少し壁を感じる。」

「こんなに密着してるのに?」

「物理的な話じゃないわ。なんかこう…言葉的に。」

「うーん…じゃあ…。ゆ、ゆら、おやすみ…?」


夜、日付の変わる時間、俺の心が打ちぬかれた音がした。

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