第三十三話 異例
「結論から言えば、今ジェネシスシティを騒がしている化け物はクラリタの秘書、野間ゼンツの能力によって生み出されている存在だ。」
俺達は夕ご飯を食べ終わり、博士の部屋に向かった。着くともう博士は説明したくてうずうずしている様子だった。なんかかっこいい顔して腕もかっこよく組んでいたが顔に全部出ていた。まぁ服装がそれ以前の話なんだが…。相変わらずの猫。
俺達人数分の椅子も用意され、ホワイトボードには色々書かれていた。俺達が部屋に入ると何も言わず椅子を指さしてくる博士。なんとなく従うと、博士は話しだしたのだ。
「はーい、博士先生。質問。」
「はいグラ君。」
博士先生は肩書の大暴れすぎないか。
「どうしてわかったの?」
「ふっふっふ…それはな。」
博士は待ってましたと言わんばかりに本を見せびらかし…
「私もステージ2になり!新たな力を手に入れたのだ!」
「おぉ、おめでとう。」
「すごいすごい。」
「かっこいーぞー。はかせー。」
「全員棒読みじゃないか…全く。」
戦闘ろくにしないで有名博士さん。どうやってステージ2に?グラのようにトレーニングルームに籠っていたのだろうか。
「あれからコーヒーを常に淹れてたんだ。見よ、私の努力。」
博士が指さす方向にはいくつかの大きめなタンク。大きさ的には俺の身長の半分くらいか?
「あれ全部コーヒー。」
「は!?ば…馬鹿じゃないの…。」
グラのシンプルな罵倒にも博士はドヤ顔を崩さない。今この人、無敵だ。
「…誰が飲むんだ。」
「もちろん私さ。」
「あのクールで美人なミナヅキが、こんなバカになってしまうとは…。」
「おい、今も美人だろう。」
「もう立派なカフェイン依存症だな…。それで?ステージ2になってどうなったんだ?」
「それがな、私が生み出す水に反射するもの全て私にも見えるようになったんだ。」
そういう博士に俺達三人は首をかしげる。あと一人、シロは最初から話を聞く気がないのかグラの横でぼーっとしている。その場所は俺の場所だぞおい。
「えーと…どういうこと?」
「まぁ簡単に言えば私の生み出す水すべてが監視カメラになった、みたいな感じだろうか。この水をジェネシスシティ中に放って何かわかるか探ってみたんだ。特に、アムの怪しいと言っていたクラリタの秘書をな。」
「それってつまり…覗きし放題って事?」
「言い方悪いが…そうだな。私の水がある場所はどこでも見れる。」
「マジかよ…。おい、アム。男のロマンだ。」
「あん…?どういうことだ?」
「ユラ、アムは昔から心ピュアなんだよ。」
「…ユラ君最低。」
「最近グラ俺に辺り強くない?」
「んや、好きだよ?でも最低だよ。」
「もう黙ってます…。」
俺もシロと同じようにぼーっとしましょうか…。それを見たシロは仲間だと思ったのか俺の横まで来て同じようにぼーっとしてきた。んだこいつ、良いやつじゃねぇか。
「こほん…で、その秘書を探っていたら化け物を生み出してジェネシスシティに放つ姿が見えたんだ。場所はクロニクルタワーの地下。あそこに入り込むのにはかなり大変だったよ。液体じゃなきゃ無理だった。」
「なるほどな…。とりあえずぶっ飛ばす相手は決まったって訳だ。」
「だね!あの市長をとっちめよう!このままじゃ『ノマド』としての活動があの化け物で手一杯だもんね。」
「いや、それどころかあの化け物が増えて行けばジェネシスシティ自体なくなる。あんな化け物がいること自体、かなり公になってきているが私たちが倒しているおかげでその存在を実際に見た人は少ない。だがこの先、クラリタの秘書が生み出す化け物が増えて行き、さらに人の目にさらされることになればどんどん人はいなくなっていき、ジェネシスシティは町ではなくなる。」
「そっか…。あれ?でもクラリタの街だよね?なんで化け物を…。」
「それはわからなかった。あの場には秘書だけだったから、もしかしたら秘書の独断の可能性もある。」
「いや、それはない。」
突然会話に参加した俺にシロがビクついた。ごめんブラザー。怖がらせたな。
その勢いでシロはグラの隣まで一瞬で移動した。おいブラザー。俺を怒らせたな。まぁそれは良いとして…
「クラリタは明らかにあの化け物に対して手を出す気がなかった。今日、会話してそう思った。それで博士のその情報と合わせれば、クラリタの判断で多分化け物を放っている。」
「そうか…。だがそうなると尚更動機がわからないな。」
俺たちは一度思考タイムに入るが、何も思いつかなかった。
「だぁああ!!もっと俺に力があれば悩む必要もなく全部解決できるのに…。」
「アム、焦る気持ちはわかるが自暴自棄になっても何もならんぞ。」
「わかってらい。俺は頭を使うのは苦手だ…。」
「…うーん。そういえばあの化け物たちが現れてから私たち強くなったよね。」
「それもそうだな。まぁ四六時中戦っているんだ、能力だけじゃなく戦闘の経験は育ってきただろう。」
「…仮に俺たちの成長の為だとして、それでも結局意味はわからない。」
新たな案が出ても振り出し。結局クラリタは何をしたいのだろうか。
「次だ、次!この件はもう考えてわかるもんじゃねぇよ!それより博士、シロは何者なんだ?」
「そうだ、それも聞きたかったんだ。」
俺達が協力し、最終的には俺が暴走寸前になるまで止まらなかった。化け物より化け物だったシロ。見た感じ本を持っていないから能力者という訳でもないんだよな…。
今見てもこんな小学生ほどの男の子があんな馬鹿力を出していたなんて信じられない。
「シロなんて名前をつけたのか?私その話し合い参加してないぞ。」
「だって博士いなかったじゃん。ね、シロ。」
「…」
シロは何も言わず頷く。なんでかグラに異様になついてるんだよな。
「じゃあ私もシロと呼ばせてもらおう。それでだが…シロはかなり希少な存在なんだ。その価値を私たち『ノマド』が見つけられていれば今回の戦い自体なかったはずなんだが…不幸にもクラリタが見つけてしまった。」
「その価値って…?」
「この子はな、魔本無しで能力を持てる体質らしい。」
俺たちは驚いた。驚いたが、同時に納得もした。あんな異様な力、どう考えても能力じゃなきゃ話にならない。俺の刀を通さず、アムを圧倒し、グラの重力を搔い潜る。そんなもの、能力の力以外どうやるというのだ。
「それじゃあ…どんな能力かわからないじゃん。てかまず能力者かどうかすらわからないはず。」
「まぁ、元から暴れていたのをクラリタが止めたんだ。こんな異質な力を持つ子供、クラリタは放っておかなかった。だから、地下に監禁して色々したんだよ。」
「色々…。」
グラはその「色々」を深くは考えず、隣にいるシロの頭を撫でた。人体実験に近いものをやらされて、人間扱いもされなかったのだろうか。あれだけ汚れていた理由もわかった。
「シロ、森でも言ったがここならクラリタから君を守ってやれる。だから安心して過ごすと良いさ。今は…23時か。結構いい時間だな。子供は寝る時間だ。グラ、シロを寝かせてやってくれ。」
「りょーかい。私の部屋で一緒に寝ようか。」
「わかった。」
俺は全力で邪念を払う。頭ではわかっているのだ。シロは子供。きっと愛情が何かも知らずにクラリタにわけもわからず様々なことをされたはずだ。あいつのあのシロを見る目。あの目は道具を見る目だった。もっと早く気づいてあげていれば…。
という気持ちVSグラと寝る!?許せっかおい!?という気持ち。
頑張れ前者。男だろ。
「…ユラ君震えてるんだけど。」
「早く…行け…。俺が俺じゃなくなる前に!」
「相棒何になるんだよ…。」
「…今度一緒にお風呂でもベットでも入ってあげるよ…もう…。」
「はぁ…はぁ…おい、グラ。俺をなめるなよ。そんな誘惑。もう乗らん。」
「ユラ、その目怖いから。」
その時、グラについて行っていたシロが俺の元へと歩いてきた。
「ユラ…さん?」
「ユラでいい。なんだ?」
「強かった。あの…黒いの。」
シロは俺の全てを飲み込む黒い炎について話しているようだ。
「あぁ…あれか。あれはダメだ。暴走する。」
「そう…なの…?また…やりたい。」
「お?こいつ意外と好戦的じゃねぇか!おい、シロ!俺とはやらないのか!」
「…アム、さん…?」
「アムでいいぜ。」
「アム…ごめんなさい。」
「あん!?…あぁ、最初に殺そうとしてきたときか。いいぜ、もう。あれは俺が弱かっただけだ。それにレベルも上がり切ってなかったしな。また今度やろうぜ。戦い自体が嫌いじゃないんなら、大歓迎だ!」
「あーアムが年下の子に謝らせた。」
「ひどいやつだ…全く。私に飴よこせ。」
「え、ちょ…おい博士もう少し私欲隠せよ!」
なんか、もうシロも仲間に見えて来たな…。
「ふぅ…私の情報ではシロは全くしゃべろうとせず、寡黙だったと見たんだが…どうやら本心は違うようだな。」
「博士は何を見てきたんだ地下で。」
「それは…シロが寝たら話そう。グラ、早くシロ連れて行ってあげてくれ。」
「あいあいさー!それじゃそろそろ寝ようか、シロ!」
「あいあいさ。」
シロはグラに手を引っ張られ、博士の部屋から出て行った。シロが悪いやつじゃないと博士が言っていたが本当にその通りだ。さっきの森では混乱していたのだろう。当たり前だ。突然世界に飛び出したのだ。混乱もする。
グラとシロが出て行き、俺とアム、博士だけになった。
「じゃあ、もう少しシロについて話そうか。あの子は推定七歳。ジェネシスシティ外の町にいた普通の小学生の男の子だった。だがある日、突然体から風が巻き起こる。ありとあらゆるものを吹き飛ばし、何人もの死傷者を出してなお、止まらないその力。その圧倒的な力を、通りかかった男の作り出した黒い炎が呑み込み風は静まった。と、世間では言われていた。もちろんその男はクラリタさ。クラリタはかなり前から能力者を集めていた。そうして様々な場所を歩いていたら暴走するシロを見つけてしまった、ということらしい。」
その後はクラリタの元で、その希少な体質を調査された…。きっと様々なことをされたのだろう。その理由に、一つ矛盾点がある。
「シロは風なんて操らなかった。ということは、元々の風の能力はクラリタの手で消された、または奪われたのか?」
「あぁ、奪われた方が正解だ。」
「…待てよ。能力を奪われたら死ぬんじゃないのか?」
「いや、そこはまだわかっていない。譲渡自体、いまいちわかっていないのが現状だからな。強奪の場合は相手を殺す必要があるが譲渡はお互いの任意で行われる、と本に書かれてはいる。その後はわからないし、第一シロには魔本自体ない。理由、というか説明できそうな事柄は多くあるがとりあえず、能力を奪われてもシロは死ななかった。奪い方もわからない。シロとクラリタの間で譲渡の話が行われたのかはわからないし、そもそも本のない能力者自体前例がない。」
「結局謎は謎を呼ぶんだな…。」
アムがそう意見を出し、博士が答える。そういえばその点はよく考えてなかった。本を失った能力者は死ぬ。だが能力を失った能力者はどうなるんだろうか。
「さて…とりあえず私が手に入れた情報は以上だ。ユラがクロニクルタワー潜入中に探ったものはね。」
新しい情報は二つ。化け物の正体はクラリタの秘書、野間ゼンツの仕業だという事。
もう一つは謎の少年シロは不幸にもクラリタに監禁、実験された本を持たない特例の能力者という事。
博士からの情報は、一歩前進するものかと期待したが結果は先の暗さを強調するだけに終わってしまったのだった。




