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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第三十二話 少年

博士の作り出している水は限りなく薄く、円状だった。ピザみたいな形をしているあの液体。一見すればなんともない。いや水が浮いている時点でなんともなくはないのだけれども。ただあの水に触れてはいけないという事だけがわかる。情報として理解するのではなく、得体のしれない何かとして本能で察している感覚だった。


「これはこれは…ドク君じゃないか。この水をどかしてくれないかな?そのガ…子供を連れて帰らなきゃ行けないんだ。」

「あぁ、そうなのかい?それはすまないが…驚いたことに私もこの子を連れて行かなければいけないだよ、困ったねこれは。」


全く困った素振りを見せずそう言う水をどかす気のない博士。あの俺達三人でようやく止めることのできた少年が何だって言うんだ?2人があの少年に固執する竜担がわからない…


「にしてもよくこの水は触れてはいけないとわかったね、クラリタ。」

「…まだこの手を失いたくないからね。死ぬまで私は五体満足でいたい。」

「ふふ、そうかい。このまま話し続けても平行線だ。それに私はこの子と一緒にクラリタ、あんたも気絶させて連れて行きたいんだけどな。」

「できるもんならやるといいさ。」

「それはこっちのセリフだよ?」


博士の後ろに俺とアムが立つ。流石に俺達相手の複数戦ではクラリタもどうしようもないだろう。だがいまいち博士の目的がわからない。クラリタもだ。それもこれもあの子供がキーマン。事情が読めない。


「ここは引こうか。分が悪すぎるね。」

「ははっ、どうして逃げられると思っているのかな?」


その時、クラリタは後ろを向く。ようやく背後で手のひらを向けるグラの存在に気付いたようだ。この状況、クラリタにとっては完全に積みである。

そのことを察したクラリタは新たなる手段を使った。


「澄香!」

「はいよぉ~!」


次の瞬間、半壊した森一帯が煙に覆われる。これはあの時の…!!いつか見た煙がクラリタの姿をくらませる。

こうなってしまえばグラの重力も博士の水も使えない。お互いの姿が見えない状態で能力を適当に使ってしまえば他の誰かを傷つけることになってしまうからだ。


「くっ…!」

「見えない!」

「みんなしゃがんで!」


グラの声で俺たちは頭を下げる。グラが空気を操り煙を晴らした。まだ間に合ったようだ。


「やばっ…」

「あっちだ!」


煙は別に消すわけじゃない。煙に巻くだけであって瞬間移動というわけではないのだ。森を抜けた先にクラリタと澄香、そして担がれている少年が見える。


「逃がすか!」


博士が逃げていく三人に向かって水を放った。速度は俺の炎を同じくらいだった。

水はクラリタたちに容易に追いついた。そのまま三人を絡めとる勢いだったが…


「往生際が悪いね!」


クラリタの作り出した炎の壁が水を防いでしまった。『ノマド』がそれを予想できないはずがない。博士だけが動いているわけではないのだ。


「捕まえ…た!」

「なんだと!?」


アムがグラをとんでもない勢いでクラリタたち向けて投げていたのだ。グラは軽いので飛びに飛んだ。その先の枝などの障害物は俺の炎でどかす。今の俺にはこれが精いっぱいだった。


「やらせない!」

「んや!やるから!」


澄香はそれにいち早く気づいていた。しかし間に合わない。

グラはとりあえず手の届いた少年をクラリタたちから引き離す。そしてそのまま重力で動きを封じようとした、その時だった。


「どこまでも私を…!!澄香!つかまりたまえ!」

「りょ!」


重力が留めるよりも早く澄香はクラリタを掴み、次の瞬間二人の姿は煙のように消えた。


「えっ!?」


重力はそのまま地面を押し付けるだけで終わってしまった。二人はどこに?とりあえず俺達もきょろきょろと周りを探すグラの元まで行こうとしたのだが、俺は力が入らずよろけてしまった。ステージ2の力…圧倒的な力ではあるものの代償が付いてくるのは困った…。俺一人の時には使えないし、また暴走してしまう恐れもある。せっかくの新しい力に少しがっかりした。仲間を守りたかったのに、もう少しで傷つけるところだった。

そんな俺にアムが肩を貸してくれた。


「ユラ…立てるか。」

「今日でその質問をされるのは二回だ…。なんて一日だよ、ほんと。」

「そうだな…。俺は疑問でいっぱいだぜ。だがその前に、ありがとうな。ユラ。」

「え?」

「助けてくれたじゃないか。」

「何言ってんだ、俺一人助けに行った所でなんとかなる相手じゃなかったよ…。」

「だがお前がいなければ勝てない相手だった。お前がもう少し来るのが遅ければ俺は死んでいただろうよ。だから、ありがとう。相棒。」

「相棒?」

「おう。お前は俺の相棒だ!今決めた」

「なんじゃそりゃ。」


そうしてグラの元へとたどり着く。この距離投げ飛ばされたグラ、大丈夫だろうか。あんなに綺麗な髪も流石にこの距離吹き飛ばされたらぼさぼさになるようで、グラの髪は大暴れしていた。


「グラ、よくやった。とりあえずこの子だけでも助けられたのなら十分だ。」


グラはクラリタを逃がしたもののあの少年だけは捕まえられていた。こいつ…本当になんなんだ。


「博士、この子はなんなの?めちゃくちゃ強いし…。」

「そうだな…。聞きたい事は多いだろうけど、とりあえず拠点に帰ろう。私が手に入れた情報はあとで話す。」

「待ってくれ博士。」

「なんだい?」

「ひとつだけ確認したい。化け物を放っているのは…クラリタなのか?」


それだけでも聞きたかった。クロニクルタワーで話したときの出来事、そしてさっきの怪しげな行為。その二つと化け物案件をどうしても結びたくなってしまう。その確認だけはしたかった。


「…あぁ、最近突如現れた化け物もこの子の正体も。全てクラリタが関わっている」

「そうか…。」


何故かがっかりした。なんでだろうか。別にクラリタを慕っていたわけでも信じていたわけでもないのに、どうしてか俺はクラリタが一連の出来事の犯人だとわかると残念に思ったのだ。俺自身、その感情の理由はわからなかった。

俺たちはとりあえず少年と一緒に拠点まで戻った。少年は気づいたときに気絶していたことが幸いだ。拠点で暴れられては困る。


「ふぅー…ただいまぁ!」

「おかえり。」

「今回は博士もただいまでしょ!」

「誰も返してくれないのは寂しいだろう。ほらグラ、お風呂入ってきなさい。髪ぼさぼさだよ。」

「え!?なんで言ってくれないの!」


ようやく現状の自身の髪型に気付いたグラは手櫛で髪を治そうとするも…上手くいつも通りにならずお風呂まで走っていった。


「ふはは、グラは元気だな。」

「だな。博士、この男の子どうするんだ?」

「うーん…とりあえず目を覚ましてくれたら…。」


その時丁度アムの背中に乗っていた少年は目を覚ました。現状を把握する前にその少年はアムの背中から飛び降り、戦闘態勢をとる。


「…!」

「おい、ここで暴れられちゃ…!」

「大丈夫だ。もうクラリタはいない。私たちは君を保護した。危害は食わえない。」

「…わかった。」


やけにすんなりと少年はさっきの様子とは裏腹におとなしくなった。しゃがみ、下を向く。気迫もなくなり別人のように見えた。


「博士…。」

「この子は別に悪い子ではないんだよ。悪いやつに毒されただけなんだ。そして…とりあえずこの子もお風呂だな。」


そう言われ俺はその子がめちゃくちゃに汚れていることに気付いた。さっきまで暗い森の中にいたためよくわからなかったがこうして明かりのある場所で姿を見るとほくはぼろぼろ髪はぼさぼさ。最近まで外で過ごしていたような雰囲気だ。


「クラリタはまさか監禁でもしてたのか?」

「監禁で済めばいいんだけどね…。にしてもしまったな。グラを先に行かせてしまった。汚れたまま部屋に行かせるのも…。」


博士の声が聞こえていたのか、脱衣所からタオル巻きのグラが顔を出す。羞恥心ないのだろうか。


「じゃ私とはいろー。」

「却下。」

「ユラ君には聞いてない…てかその子まだ小学生くらいなんだからいいでしょうに…。」

「ヤダ。」

「小学生か君は…。そうだな、グラと入ってもらうか。どうせ誰かとは一緒に入らせなければいけないのだし。ほら、立てるか?」

「…ん。」


少年は許可もなくグラと一緒にお風呂に入ることになった。誰の許可だって?そりゃ俺の…


「相棒、あとで俺が一緒に入ってやるよ。」

「うるせぇ」


やりきれない気持ちをアムに察されつつも俺は自分の部屋へと着替えに行った。かなりやりあって汚れたからな。あの俺のグラを奪ったやつに。あの野郎風呂から上がったら覚えておけよと思いつつ、一人じゃ勝てない現実とこんにちは。帰れ現実め。その後、肩を落としつつキッチンへと向かった。多分あの子、ろくに食べてないだろう。あんなに常人離れした力を持っていたがガリガリな体格だった。小学生に嫉妬するような冗談は終わりにして、俺は料理を作りに行った。そう、冗談だ。冗談なんだ…。うん…。

キッチンには楽な格好に着替え終わっていたアムがいた。


「相棒、博士がグラとさっきの子供が風呂から上がったら全員で私の部屋にって。」

「博士には話してもらわなきゃいけないからな。あの様子だと何かつかんだみたいだけど…。」

「もったいぶりやがるよな。気になってしかたないぜ。」

「ほんとその通りだ。…アムもなんか食うか?」

「おう!腹減った!」

「さて何にするか…小学生男児って何が好きなもんかね。」

「ハンバーグとかカレーじゃね?」

「…聞いてみるか。」


俺は今でも子供心を忘れない親友に電話する。ワンコールで出た。


[おぉユラ!どした!]

「冬矢、お前好きな食べ物なんだ。」

[なんだよ突然…そりゃお前。寿司だろ。]


思ったより現実的な好物が出てきて、俺は冬矢の認識を改めることになった。


「マジかよ。意外だ。」

[なんでだよ!それと後…プロテインだろ、カレーだろ、それに…ハンバー]

「すまん俺が悪かった。切るぞ。」


俺は冬矢がしゃべっている途中で電話を切った。冬矢は冬矢だった。


「誰に聞いたんだ?」

「全身運動神経人間だ。」

「あん…?」


ま、カレーでいいか…。

俺はグラとアノヤロウが帰ってくる間に簡単にカレーを作った。ハンバーグよりかはラクに作れる。今はもうとにかく疲れていたから。歩けないほどではないがとんでもない疲労感が俺を襲っていた。


「はぁ…はぁ…できた…。」

「なんでカレー作りでそんな疲れてるんだお前は…。…うまっ。」

「だろ。」


即席カレー、一丁上がり。できあがって俺が机に並べてるところで、お風呂上がりのグラとアノヤロウが戻ってきた。


「ふわぁあー…さっぱり。気持ちよかった?」

「うん。」

「この野郎。」

「相棒ステイうまっ、ステイうまっ。」

「食うのやめてから止めてくれよ!!」


綺麗になったその子の髪色はグラと同じ、白髪だった。さっきまで汚れ切ってたからわからなかったがこんな真っ白君だったのか。


「ねぇユラ君、この子名前ないみたいなの。」

「そうなのか?じゃあ名前つけてやろう。お前はどろぼ…

「相棒、それはひどい。これはうまい。」

「わかったから!黙って食ってろ!…髪白いからシロでいいんじゃないか。」

「えぇー…安直すぎない?それに犬みたい。嫌だよねぇー?」

「シロ…!良い。」

「良いんだ…。ってカレーじゃん!食べる食べる!」

「ほらシロぼう。お前も食え。」

「相棒、名残残ってるぞ。米も残ってる。」

「残さず食え!!!」


そうして未知の男の子を俺たち『ノマド』は保護することになった。

歓迎はしていない。


「俺もグラと風呂入りたい…。」

「変態。」

「がはっ…」

「へんたい?」

「お前に言われたくねぇ!」

「相棒、意味わかって言ってないぞ。おかわり。」

「自分で行けよ…。ほら皿貸せ。」


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