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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第二十九話 成長

 グラは興奮した様子で本をばんばん叩いている。その様子はとてもかわいくこのままオブジェにしたいレベル。


「ちょっと皆きてよ!トレーニングルーム!すごいんだから!ほら博士も寝てないで、来て来て!」


そう言ってグラははしゃいで椅子から崩れ落ちた博士の服を引っ張る。俺とアムは顔を見合わせ笑った。


「ユラよ、グラ元気だぞ。」

「あぁ、良かったよ。なんか強くなったらしいし。」


てかこれでステージ2になっていないのは俺と博士だけか…。あ、やばい。博士の受けたダメージが俺にも…。大丈夫だ!俺には玲方さんの刀がある!

と、グラの成長を喜ぶ気持ちとグラに置いて行かれた疎外感のようなものを同時に感じる。その二つも、元気なグラを見たら吹き飛んだ。俺はグラが元気ならなんでもいい。ただ守られる側になるのはあれか…。がんばろ。


「わ、わかったから。服を引っ張るな、グラ。ふぅ…。」

「ごめんごめん。」

「これはユラにもらった大切な服なんだぞ!」


そう言って普段着の猫の着ぐるみパジャマをグラに見せつける。するとグラは俺を指さす。


「私だってユラ君からぬいぐるみもらったもんね!」

「くっ…いいな!」

「いいでしょ。」


ちゃんと認める博士はやっぱり大人…いや16歳と喧嘩する35歳は大人なんだろうか。


「ユラ、俺にはないのか。」

「…アムは何が好きかわからん。」

「俺は肉だな。」

「じゃ今度肉料理作るよ。」

「マジか!最高だぜお前は!」


そう言って俺に抱き着いてくるアム。体がめちゃくちゃ硬い。筋肉が痛い。


「だぁ!落ち着け!!それで、グラ。見せてくれるんじゃないのか?」

「あ、そうだった。じゃ『ノマド』御一行様、トレーニングルームにごあんな~い。」

「浮かれてるなぁ…。」

「私は安心したよ。久しぶりにあんなグラを見た気がする。」

「それもそうだな。とりあえず行くか。」


そうして俺たちはグラに着いていきトレーニングルームへ。実験体はアム。


「俺は無敵って訳じゃないんだぞ…。」

「なんだアム、怖いのか。」

「博士変わるか。」

「死んだらどうする。」

「ちょっとちょっと、手加減するから心配しないでよ!」


そう言ってグラは本を持ってアムの前に立った。そしてその本の中身を俺達に見せてくる。もちろん何が書いてあるかはわからないんだけども。


「まず最初に。見えないと思うけど…ここに私の能力が書いてあるんだけどさ。この部分タッチするとなんか文章が本に沢山でてくるんだ!これはステージ2になってから気づいたの。」

「え、知らない情報。」

「ふむ…やってみようか。」


俺たちは自分たちの本を取り出して試しにやってみた。


「何もならないな。」

「私もだ。」

「おぉおぉ!俺はなんかいっぱい出て来たぞ!何々…うわ、マジか。」

「ね、ね!すごいでしょ!」

「おう!これはやべぇ!」

「これ多分ステージ2になると出てくる…ってアムもなってたの!?」

「おう、いつの間にかな!」

「すごい!」

「グラには負けるがな!がっはっは!」


俺と博士の置いて行かれた感がすごい。アムとグラが手を取ってはしゃいでいるのを見てると尚更。


「フン…子供だな。」

「博士、表情全然悔しそうだぞ。」

「ユラはいいじゃないか。剣術があって。私なんか…コーヒーしかいれられない。」

「でも前自分は最終兵器って言ってたじゃないか。」

「それはそうだが…役割が最終兵器とコーヒー淹れだけじゃ普段置物じゃないか。」

「変な役割だな…。博士には元から天才的頭脳があるだろ。」

「おぉ、そうだな。私は天才だった。」


うんうんと頷いてからグラ達を見てまた博士は落ち込む。忙しい人だ。


「ユラ君、見てて。」

「ん?」


グラに呼ばれ俺は目を向ける。アムがペットボトルを二つグラの前にセットしていた。


「私の能力はステージ2になって『空気』と『重力』の二つになったの。まずこっちが空圧ね。」


そう言ってグラから見て右のペットボトルに向けて手のひらを向ける。グラがふっ、と能力を使うと、ペットボトルはくしゃくしゃっと丸まった。よくグラがゴミ捨てるときに使ってるやつ。確かこれであの化け物を倒したんだっけか。


「で、こっちが『重力』。」


グラはもう片方の手のひらを、もう片方のペットボトルに向ける。するとグラの手から黒いオーラみたいなものが出現する。そして次の瞬間。

パシュッ

と勢いよく小さな音を出してペットボトルはぺちゃんこになった。薄さが紙並みだ。


「これは…すごいな。力の差が歴然だ。」


博士はそのぺちゃんこになったペットボトルをまじまじと見た。確かにとんでもない威力だ…。


「それって範囲はどうなるんだ?」

「まぁまぁ、その前に!ちょっとアム、走ってみて。」

「了解!」


アムは言われた通り結構な速さでトレーニングルームを走り出す。そのアムに向かってグラは同じように手のひらを向け、黒いオーラを手に纏う。

そうすると…


「…ん!?体が…おもっ…っったい!!!動けん!」


元気よく走っていたアムの動きがどんどん鈍くなっていき、最終的には完全停止、そのまま何かに押しつぶされるかのようにどんどん頭が下がっていき…。


「がぁ!【レベル1】!」


ついには能力を使った。その瞬間アムはまた元気よく立ち上がる。


「うわ…アム強すぎ。それステージ2の範囲じゃないでしょ…。」

「いやでも…きついなこれは。良いトレーニングになる。」

「私の能力筋トレに使わないで!」


その瞬間グラはアムに使っていた能力を解く。


「おぉぉ!?はぁ…はぁ…こりゃ、すごいな。」

「そうだな。アムの動きを止められるとなると、かなり強い。ユラ、君なら耐えられないんじゃないか?」

「無理だろうな。俺もアムのように身体強化できるがアムほどではないし。」

「えっへへ!すごいでしょ!」


そう言ってグラは俺に近づいて立膝になる。


「どうした?」

「頭撫でてくれさい。」

「い、良いけど…。」


突然の展開に俺は戸惑いつつもグラの頭をなでる。綺麗な髪を崩さないよう、優しくすることを心がけて。

そうするとグラは満足そうに…


「~~~!!頑張った私!」


声にならない声を上げてガッツポーズをした。俺はグラがどれだけの事をしたかはわからないが、きっとグラにとって辛い修行をしたのだろう。玲方さんのしごいてもらっていたから、強くなる努力の苦しさはよくわかる。


「そういえばどうやってなったか、わかるか?」

「ちょっとだけ。明確な条件はわかんないけど…とにかく空圧を強めたんだ。これって私の意思なのか、筋力なのか、とりあえずわかんないけど空圧の強さを高めることに尽力したの。そしたらなんか心がビン!と来てね。で、本見たらなんかなってた。」


うむ、よくわからない。能力を使い続ければいいのだろうか?


「アムって『アニマリ』で働いていた頃、どれくらいの頻度で能力使ってた?」

「そりゃ悪さする客や酔っぱらった客は絶えなかったからほぼ毎日な。その間いちいち能力発動するのもめんどさくて、ほとんど常に発動しだした頃になってたな。」

「なるほど…ありがとう。」

「何かわかったか?条件。」

「わかったか!」


グラもアムの真似をして返事をする。仲いいなこいつら…。


「多分、ユラと考えついた結論は一緒だな。実に簡単なことじゃないか。」

「あぁ、能力を常に継続使用するのが条件だ。グラは二日、アムは…。」

「俺は大体一週間くらいだったような気がするぞ。常に発動してたのは。あの頃は他の黒服が真似したい!って寄ってきたっけか。」

「アムは昔もよく慕われていたな。」

「博士には常にバカにされてたけどな。」

「懐かしいよ。そのバカに越された現状…打破して見せる!」

「今度は博士がトレーニングルーム入り浸るの?」

「いや、コーヒーを作る頻度を増やす。」


博士はやっぱり、変わらない。

その後グラに現状を伝えた。


「え、そんな数増えたの!?今は大丈夫?」

「あぁ、さっきも五分ごとに見ていたがとりあえずは大丈夫だ。だがあいつらは音沙汰がない時もあれば常に各地に現れるときもある。ユラ、アム。すぐに行けるか。」

「もちろん。」

「当たり前だ。」

「え、私…」


その時、グラのお腹がぐーっとなった。グラは顔を真っ赤にしてしゃがみ、蹲る。


「だと思ったよ…。ろくに食べてなかっただろう。私が何か作るよ。」

「え、博士が!?レアだ…。」

「そうだぞー?心して食べ給え。」

「俺も食べたいぞ。」

「帰ってきたら食べさせてやろう。そういえばグラ、お風呂は入ってたのか?」

「…あ。」


グラは耳まで真っ赤にしてうつむきに寝転がった。二日風呂入らず訓練してなんの嫌な臭いもしなかった…だと。しかもさっき髪さらっさら…。人間なのか。


「グラ…女の子としてダメだぞ…。」

「うぅ…でも臭くないでしょ…。だいじょぶでしょ…。」

「確かに…。なんでだ?」

「いや俺に言われましても…なぁアム…。」

「なんだって!?グラ、ちょっと嗅がせ…。」

「へんたい!」

「へぶっ!?」


グラはアムを重力で一気に下まで押し付けてトレーニングルームから出て行った。いやほんとに匂い気にならなかった…。『空気』の能力ってそんなオプションまであるのだろうか。


「変態…。昔着替えを覗いたときに言われたな…。」

「それ言ったの私だからな覚えてるぞこの変人。」

「…ごめんなさい。」

「許す。」

「変人は博士だろ。」

「あん?」

「ごめんなさい。


お互い博士に謝罪をしてから、俺たちはまたジェネシスシティ周りへと向かう。適当にぶらつき、見つけたらすぐに討伐。博士からの出現報告があれば近いほうがすぐに向かう。

そうしてその日、84体目を倒した頃に、日が暮れだした。赤と青の空。俺はこの瞬間が大好きだ。一日の終わりが、二種類で表現されている空模様。幻想的でどこか悲壮感のあるその景色が好きだった。

俺はいつものように拠点には帰らず、博士へと一本電話をかける。


[もしもし。もう行くのか。]

「あぁ。もしあの化け物が出てきたら頼んだ。最悪グラにも出てほしいが…。」

[そうだな、さすがに休んでもらいたい。…その時は私が出よう。]

「本当か?助かる。」

[じゃあいってらっしゃい。杞憂に終わることを願っているよ。]


そうして電話は切れた。俺が向かっている場所はもちろん…

ジェネシスシティ最高の建物、クロニクルタワー。クラリタに現状の相談…なんて生易しいもので済めばいいが。俺はあいつがどうにも怪しくてたまらない。


「夜に来ると迫力あるな…。」


俺はそのタワーを前に、大好きなあの景色が沈んでいくのを眺めた。

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