第二話 魔本
突然燃え出した俺の体。どうしてそうなったのか、なぜ燃えたはずなのに無事なのか。様々な疑問が俺達三人の間に言葉なく飛び交っていたが、視線は一点から離れなかった。さっきまで置物なんじゃないかというくらい開かなかった本が開いているのだ。
「さっきあんなに力入れたのに、開いてるぞ!ユラ!」
「見ればわかる、声が大きい。」
「はぁ…なんか一気に疲れた…。」
とりあえず何事も…いや少し俺の座っていた場所が黒く焦げてしまっていたが。誰もけがも火傷もしていない。それが何よりだ。
「…そろそろ手離してもらっても?」
「んぇ…あ、ご、ごめん…」
真が心配してくれていて俺は嬉しい気持ちになりつつ、本を見る。これをもう一度触れていいものかと。
「うーん…俺が触ってたときはこんなことならなかったのに…。なぁ?ユラ。」
「俺だって何回も本を持っていたがいきなり燃え出したことはなかった。」
「ということはつまり…」
冬矢と真と俺の考えていることは一緒のようだ。
「これは時間によって燃え出す防犯機能がある!」
「は?」
「いやいやいや…。」
冬矢は違ったようだ…。そんな所有者の全身を燃やす機能なんて、魔法じゃあるまいし。何より俺無傷だぞ。
「え、それ以外何が!?」
「裏表紙の英語でしょ。汝なんたら、ってやつ。あれをユラが呟いた瞬間燃えた。」
「俺も同意見だ。あれがトリガーと見ていいとおもう。」
「あ、そうか!じゃあ俺も燃えられる?!」
「真、こんなところに良い実験体が。」
「…そうだね、試そうか。外出よう。危ないし。冬矢、そーっとそこの本持ってきて。…また燃え出すかもしれないけど。」
「怖い!」
めちゃくちゃビビりながら冬矢はそーっと開いた本を持ち上げた。本の中身は何も書いてない。白紙だった。
「あれ…また開かない。」
「やっぱさっきの言葉言わないとなんじゃない?」
「よし…じゃあ言う!」
「おう、頼んだぞ001」
「なにそれ」
「実験体みたいで良いだろ。」
「地味にかっこいい。」
「かっこいいの…?男の子ってわかんないなぁ…。」
俺たちは外に移動し、あんまり人のいない駐車場に着いた。もしほかの人へ危害を加えることになったら大変だからな。
「えーと…なんだっけ。」
「汝、望む始まりと終わりを、だよ。」
「わかった。…『汝、望む始まりと終わりを』!!」
元気な大きな声でそう言った冬矢の全身を炎が…
包まなかった。何も起きず、ただ大声を出した人となっている。
「何もならないぞ?」
「次私やってみるよ。」
「大丈夫か?」
「何かあったら助けて。」
「了解。」
冬矢が少し重たい謎の本を真に渡した。そして真も同じように本を持ち、あの言葉を言ってみるが、同様に何も起きなかった。
「ダメみたい…ユラ、やってみてよ。」
「またユラが燃えたらどうするんだよ!?」
「でも火傷してないし…私だって不安だけどこんないつ燃えるかわからないような本をほったらかせないでしょ。」
「それは…そうか…。じゃあユラ。」
「了解。」
俺は真から本をもらった。その瞬間…
勢いよく本が開き、空中に浮かび上がった。俺の目の前に。
「今度はなんだ…?」
「すげぇ…魔法みたいだな!」
「冬矢は呑気だね…。でもやっぱりそうだ。ユラがその本を持った時だけ反応する。私たちじゃダメなんだ。」
「そうみたいだな。…ん?何か書いてある。」
「見たい見たい!!」
冬矢がすごい勢いで俺の隣まで駆けてきた。
俺はすこし避け、本を冬矢にも見せる。
「え?何も書いてないぞ?」
「英語がぎっしり書いてあるだろ。なぁ?」
「…私もなんも書いてないように見えるけど。」
俺にしか見えないのか?と思って眺めていると英語の分がどんどん日本語に変化していった。まるで俺に合わせているかのように。
「英語が日本語になってく…。特定能力者専用魔本…?」
「おぉ…俺も読みたい!特定!?能力!?魔本!?」
「ユラにしか読めない本…不思議。」
ぱらぱらとめくるとまだ少し書いてあった。
『自己初期能力』
・炎《ステージ1》
そしてさらにいくつか書いてあったが何を言っているかちんぷんかんだ。
それ以外のページは空白。ぎっしりと書かれた英語も消えてなくなってしまった。
まだ未完成なのだろうか…?
「なぁなぁなんて書いてあったんだ!?」
「難しいことが書いてある。わかんない。」
「もう…私が読めたらわかるかもしれないのに…。」
「とりあえず俺の…能力?は炎みたいだぞ。」
「うーん…?ゲームなのかな、これ。」
「俺もやりたい。」
「うるさい。」
「真…流石の俺も心折れちゃうよ。」
「ごめん。」
「うん。」
この二人は相性抜群だと昔から思っている。というか最初はこの二人ペアに俺が話しかけていったのだ。まぁこの話はいずれまた。
今はこの本だ。
「ゲームにしてはリアルすぎないか?それに道に落ちていたし…。」
「そうだね。これはもっと調べる必要があるかも。…ちなみに今火は出せたりするの?能力って…ゲームでいうスキルみたいなものでしょ?」
「おぉ!見たい見たい!」
「わかった。やってみるから少し離れろ。」
一応二人をそばから離した。さて…どうやるんだろう。とりあえず、出ろ!とか念じるか?なんか大便の気分だ。
「…ふっ!」
俺が炎出ろ!と若干ヤケクソ気分でやると本当に炎が出た。俺の全身を包むように。最初炎が出たときと同じだ。二回目だからさっきよりも冷静になれる。熱くはない…な。
「かっけぇー!俺もやってみたいぜ!」
「冬矢が使ったら事故しそう。」
「なにぃ!?…一理ある。」
「認めちゃうなよ。」
俺は炎を消して二人に近づく。力まなきゃ炎は消えるな。ただ…これじゃただの人体発火ショーしかできない。もっと上手く使えないだろうか。
「…とりあえず暗くなってきたし一回解散にする?」
「そうだな。それにこの炎、あんまり人に見られないほうがいいかもしれない。警察沙汰になったりしたら面倒だ。」
「警察に届けるのが一番なんだけどね…。あなた達これもう取られたくないって目してる。」
「当然だろ!なぁユラ?こんな面白そうなもの大人なんかに渡しちゃだめだ!」
「どうせ大人がこの本を見たって飾りにしか思わないさ。ただ俺らが火遊びしてる危ない子供判定されるだけだぞ。」
「それもそう…ね。よくよく考えたらこの本ユラ以外開けないものね。」
「俺の分の本も落ちてないかなぁ…」
そう言って本を探し出す冬矢を真は呆れた目で見ているが、その可能性もあるのか。俺以外にもこの本を持ってるやつが現れたら…。まだこの本が何だかわかっていないが、悪用しようと思えばできる代物だ。こんなものが世界中にあったらと思うと少し怖くなった。
「今日夜またここに集まらない?その本について調べようよ。」
「了解、じゃあまた後で。」
「おう!またなー!」
そうして俺たちは一度別れた。
家に帰り、本をぱらぱらとめくる。さっきは突然の大量の活字に驚いてしまったが落ち着いて読んでみるとなんとなくわかる。
どうやら注意事項が書いてあるようだった。だがほとんど『?』マークにより読めない。どういうことだ?まだこの本は未完成なんだろうか。
一人で考えても仕方ないと思いつつも、本から離れられない。もし炎が暴発したら大変だというのに。
少し読んでいるとひっかかる文章があった。
『能力の譲渡は互いの任意があった場合。略奪の際、対象の生体反応がなくなった時に自動的に一番近くにいる者に能力が渡される。』
なんだか物騒だ…。あとで二人に伝えよう。
そうしてご飯を食べたりお風呂に入ったりして身支度をしてから俺はまた駐車場に向かった。そこには冬矢だけがいた。
「お、ユラ!」
「さっきぶりだな。本は落ちてたか?」
「全然見つからなかった。俺も欲しいのに…。」
俺と同じ境遇のやつがいればそいつから聞けるんだがな…。
少し冬矢と待っていると真もすぐに来た。パーカーにジーンズ。上からあったかそうなものを羽織っている。四月と言えまだ夜は少し肌寒い。
「よ、待たせちゃった?」
「俺は今来たところだ。」
「ユラが来たときに来たぜ!」
「ややこしいわ。さて、それじゃあ色々やってみる前に伝えときたいことがある。さっきインターネットで色々調べてきたんだけど、そんな全身が燃えるような本の情報はなかった。特定能力者専用魔本なんてものは今のところこれ一つだけ。」
「誰かがこれを見つけていたら何かしらニュースになりそうだが…情報なしか。そうだ、俺も伝えときたいことがある。さっき本を読んでいてわかったんだが…。」
本はほとんど『?』マークだという事、そして能力の譲渡、略奪について伝えた。
「譲渡…っていうことはユラの炎を俺が使える!?」
「本がないとだめなんじゃないのかな。多分。」
「結局本か…。ユラだけずるい。そんな面白そうなもの…。」
「まぁまぁ、一緒に謎を解き明かそうぜ。それに一つ確定したこともあるしな。」
「そうね。この本は複数あることは確定。よかったね冬矢。まだどこかにあるかも。」
「ほんとか!よし!探すぞ俺は!」
「待て待て。第一にこの本が誰によって作られたのか、なんで落ちていたかもわかんないんだぞ。もしかしたら爆弾かもしれない。」
「でも…略奪ができるってことはユラも危ないんじゃないか?俺が本を持っていれば守ってやれるぞ!」
「珍しく冬矢がまともなことを言った。」
「へへん!」
「誉め言葉じゃないぞ多分。」
「茶番はこれくらいにしといて…。ユラ、炎は操れる感じあるの?」
「やってみよう。」
俺は炎を出す。そしてとりあえず指の先に炎を出すよう調節してみる。
「ぐぐぐっ…お、できてる…か?」
「おぉ!すごいぞユラ!よし、このまま炎の剣をつくろう!」
「やるか!」
「ちょっと待っ…。」
調子に乗ったせいか、炎を剣の形にしようとすると一気に炎が指から伸びた。
「おわっ!?」
「言わんこっちゃない…そういうのはもっとゆっくりやっていくものでしょ。」
「真に何がわかる!」
「あんたたちがバカってことはわかるわよ。」
ぐうの音もでない。
その後も色々試してみて…結果。
「おぉ…どうだ、冬矢。剣か?」
「剣だ!まごうことなく剣だ!」
「わぁ…綺麗。」
俺の炎を操る技術はかなりあがった。真が結構的を得たことを言ってくれるのだ。型にはめるようにだとか、手に持つ感触を想像してみたら、だとか。おかげで炎を操り剣みたいにできた。
ちなみに冬矢ははしゃいでいただけだ。
「よーっし!じゃあ次は手からかえんほう…」
「ストップ。今日はここまでにしましょ。眠いし。それにあんまりやりすぎると目立っちゃう。」
「真の言う通りだな。明日もまたここで?」
「そうね…。ただ本は学校にも持ってきた方がいいかも。」
「略奪阻止か!?」
「それも…そうだな。そうしよう。それじゃあおやすみ。二人とも。」
「うん、おやすみ。」
「くぅ~!明日が待ち遠しいぜ!」
「ユラ、このまま冬矢ほったらかすの怖いから家まで連れてく。」
「助かる。」
「二人して俺をなんだと思ってるんだ!」
そうして俺たちは今日二度目の別れを告げた。
家の部屋に戻り、ベットに座る。人差し指からほんの少しだけ炎を出す。本を触っていなくても能力が使えることにも気づいた。ただし近くに置いていないといけない。
窓を見上げて、俺は呟く。今の自分の境遇の疑問への愚痴を。
「神様…俺、何かしましたかね…。」