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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第二十八話 段階

「これで…28体目かな」


スマホが震える。


「アムか。そっちは大丈夫か?」

[あぁ、集団でいたが全部蹴散らせた。一度拠点に戻るがユラはどうする。]

「俺もそろそろ戻ろうかな。お昼だしお腹空いた。」

[わかった、俺も帰ろう。今日も飯はユラか?]

「あぁ。グラがまだあんな状態だしな…。じゃあ拠点で。切るよ。」

[了解]


俺は電話を切り、拠点の方角に向かって空を飛ぶ。ジェネシスシティ内なのですぐ着くだろう。

グラが風邪をひいてから二日が経った。昨日の時点で結構グラの体調は回復し、今日の朝にはもう元気そうだった。ただ、グラがなぜかその後すぐにトレーニングルームに籠ってしまったのだ。理由は聞かないで欲しいの一点張り。多分だが力不足で悩んでいたので自己強化に励みたいのだろう。だからって病み上がりにやるのもどうかと思うが…。俺達は仕方なくグラを好きにさせた。博士曰く、「グラにも思うことがあるのだから自由にさせよう。今まで束縛しすぎていたんだよ。」との事。俺とアムもそれに同意した。

あの日の後も化け物は出現した。昨日は俺とアムが倒した化け物の合計は35体。今日はまだアムからは聞いてないがお昼の現時点、俺の倒した数だけで28体。出現する数が増えているのは目に見えた。相変わらず目的は謎、出現方法も謎。ジェネシスシティ内にしか現れない。そのためジェネシスシティ外の事件、問題はほったらかされている。SNSではそのことについての話が多く流れていると、博士が言っていた。改めてグラの存在を思い知る。彼女がどれだけ『ノマド』の為に行動していたか、どれだけ…無茶をしていたか。よくよく考えたらおかしい。一人で国中を守る?無理だ。俺も数日だけ半分ほどグラの活動を行ったが一日、二日ならまだしも毎日なんて到底無理だ。例え空を飛べる能力だからって、不可能なことをグラは平然とやっていた。


「俺はグラをもっと大切にしなきゃ。」


誓った。好きな人が苦しんでいる顔を見るのは苦しい。彼女は無理をしがちなところがあると見にしみこませた。次、疲労で倒れるなんてことがあってしまったらと思うと、余計グラのことを考えてしまう。


「だめだだめだ…今は化け物について考えろー、俺。」


俺は自分に喝を入れ、到着した『ノマド』の拠点のドアを開ける。靴を見るとまだアムは帰ってきていないようだった。


「お疲れ様。ユラ。」

「博士、グラはどうだ?」

「朝と変わらず、ずっと訓練中のようだよ。また無理して風邪ひいたり倒れたりしないといいんだが…。」


博士は心配そうにまた自分の部屋へと戻っていった。多分俺もさっきの博士のような表情を浮かべていたのだろう。確かにグラの事は気になる…が、俺は『ノマド』だ。グラと約束したんだ。お互いの事より人を守ることを優先しようと。だからお互いが両想いだと知っても、告白はしなかった。グラも望んでいなかった。いつか言える日まで、俺は平和を求め続けなければいけない。つまり俺が次することは…


「汗かいたからシャワーだな…。」


意気込んどいて汗を流しに行くのも少しおかしいがまぁコンディションは大切だし…。

俺がシャワーを終え、脱衣所から出ると丁度アムが帰ってきた。


「おかえり。午前中だけで何体だ?」

「俺の方は42体だ。ユラは?」

「こっちは28体。合計で60だな…。」

「このままじゃジェネシスシティの住人より増えるぞ…。早く人々に警告するべきだ。」

「ダメだっての。博士がそれで混乱を起こして余計負傷者が出ると言ってただろ。とりあえず、今博士が調べてくれている。範囲はジェネシスシティ内だから、誰が…いや何があの化け物を生んでいるかはすぐにわかる…らしい。だからほら、アムも風呂行け。」

「…そうだな。わかった。俺も入る。」


アムは俺を年下扱いしない。同年代の、本当に仲間として接してくれる。だから俺もそれに応え、冬矢と同じ感じで接している。

俺はキッチンへと向かうと、博士が片方の手でカップラーメンにお湯を入れて、もう片方の手から水を出して、やかんでお湯を作ろうとしていた。いつものようにコーヒーを作るつもりなのだろう。


「おや、お昼ご飯作るのかい?」

「博士も一緒に食べたらいいのに…。」

「気持ちだけ受け取っておこう。あの化け物について調べなきゃいけないんでね。」

「進展は?」

「ない。体の破片か何かがあればまだ対処の方法もあるんだけどね…。再生してしまうから、こればっかりはどうしようもない。」


博士はやれやれと首を横に振る。守りに徹しているこの現状、どうにか打破しなければ…。このまま本当にアムの言った通り化け物の数がジェネシスシティの住人の数を超えてしまうまで待つ…なんてことにはならないよう、博士同様俺も思考を巡らせた。そうして一つ、朝から考えてついたことがあった為、それを博士に相談してみた。


「博士、俺やっぱりクラリタのところに行ってみようと思うんだが…。」

「…このところ『レジデンス』とやらは姿が見えず、クラリタさんはあの化け物に着いて黙認。市民からの声もほとんど聞かずにいる。怪しさMAXではあるが…自分の街によくわからない化け物を放つ動機がないじゃないか。昨日もそう話しただろう。」

「そうだけど、このまま何もしないのは嫌なんだよ。行動したい。真相を掴めずとも、人では必要だろ?『レジデンス』が今どうなっているかはわからないが、もしかしたら手を取り合ってくれるかもしれない。」

「ま、ユラの言う通りかもしれんな。じゃあ今夜私も一緒に行こう。」

「いや、博士は拠点でアムのサポートを頼むよ。夜はあの化け物何故か現れていないけど…夜には出現しないなんてルールはないんだ。この町を二人で見ていてほしい。」


俺はまっすぐ、できるだけ真摯に頼んだ。博士の心配な気持ちはわかっている。だがその間のジェネシスシティも俺は心配なのだ。この場所はグラ、博士、アムに会わせてくれた大切な場所に、もうなっている。だから守りたい。


「話は聞いた!」

「アム、ドアは静かにあけてくれ。」


話を聞いたらしいお風呂上がりのアムがドアを勢いよく開けて入ってきた。


「ユラ、あの市長の所へ行ってくれ。俺もあの市長は少し怪しいと思ってたんだ。特に秘書がな。」

「秘書?」

「あぁ。あの秘書はクラリタを100%信じていない。俺にはそう見えたんだ。」

「なるほど…。秘書か。」


化け物を作る能力者がいると仮定して、あの二人の能力と『レジデンス』の能力だけでも聞きだしてこよう。


「あとお昼ご飯頼む。おなかすいた。」

「あ、忘れてた。悪い悪い。」


俺は急遽お昼ご飯を作る。呑気に机でずるずるとカップラーメンを食べる博士と、羨ましそうにカップラーメンを眺めるアム。手伝ってほしいものだ。


「ほいラーメン。」

「よっしゃぁ!!いただきます!」

「がーん。私もユラーメンが良かった…。」

「人の名前をラーメンにするんじゃない。」


俺とアムは午前中の化け物退治の話をしながらラーメンを食べ終わる。ただ数が増えただけで化け物自体の変化はないとアムは言った。俺の方もそうだった。


「いやぁ食った食った…。ごちそうさまでした。」

「お粗末さまだ。」


俺は食器を洗いにかかる。


「グラはまだトレーニングルームなのか?博士。」

「ああ。出てこない。ただドーナツをトレーニングルーム前のドアに置いたら目を離したすきになくなってたから生きてはいるよ。」

「そうか…。どうしたんだろうな、グラ…。」

「そう心配そうにするな。グラはアムにもユラにも一度助けられている。きっと己の力不足を憂いているんだ。ほったらかしておけ。」


博士はグラの悩みを言い当てる。グラが風邪を引いた夜に話された内容は伝えていないのだが…。博士は空気読めない時あるのに人の心情には敏感なときがある。


「俺がステージ2になったように、グラも成長しようとしているのか。」

「あぁ、大変な道のりだろうよ…。」

「私たちは見守ることに徹して、今は町を守ろう。」


うんうんと三人うなずき、数秒後二人が一人を凝視する。

今なっていった?


「待てアム。もう一回言ってくれ。」

「ん?グラも成長を…。」

「の前。」

「俺がステージ2に?」

「それそれそれ!!!!!」


聞き捨てならないことを言っていたことに気付いた。ステージという概念。そういえば久しく忘れていた。


「な、なんだなんだ…?お前らは行っていたんじゃないのか?」

「言ってないし行ってないわ。え…ちょっと待て待て…。」


俺は色々聞きたいことがありすぎて頭がこんがらがった。


「一旦落ち着け、ユラ。私もおちつれれられられ

「博士も落ち着け。」


俺と博士は一度深呼吸。そしてアムに質問攻めした。


「いつなったんだ。」

「どうやってなった。」

「何か変化は?」

「本からしらせとかあったのか?」


アムはうーんと悩み、


「なったのは冤罪で捕まる前だ。なった方法はしらない。変化としては能力が強化されたんだよ。元々ただの身体強化だったんだが、ステージ2になってから段階ごとの強化に変化した。しらせは特になかったなぁ…。」


この展開でまさか聞き取れるとは思わなく俺も博士も驚いてよく聞いていなかった。そのためリピートしてもらった。


「も、もう一回か…?あー…なったのは冤罪で…「以下省略」


今度はしっかり聞き、俺は考える人のポーズをとり、博士はどこからか取り出した紙にメモしだした。

次はアムが慌てだした。


「そ、そんな驚くことだったのか!?俺はてっきりもう行っているものかと…。」

「行ってないっての…。はぁ…ほら見ろ、俺の本。ステージ1だろ。」

「所持者以外見れないぞ…。」

「それもそうじゃん…。」


気が動転している…。俺はアムに見せびらかしていた本を見直す。全然ステージのページじゃなかった。俺はぱらぱらとめくった結果、やっぱりステージ1のまま。


「…ほんとになってない」

「私もなってないぞ。」

「博士は外出てねぇから無理だろ」

「あ?」


俺は本を眺め、ため息をつく。何度見てもそこには『炎』ステージ1と書かれていた。アムの言っていた能力の強化…俺ならどうなるだろうか。

俺は指先から炎を出してみる。いつも通りの赤い炎だ。玲方さんに刀を教えてもらっていなかったら、今頃グラのように自暴自棄だったかもしれない。


「俺もトレーニングルーム行こうかな…。アム、ほんとに条件とかないのか?」

「気づいたらなっていた。そう言えば本も読める部分増えてたけど、俺はいまいちわかんなかったなぁ。はっはっは!」

「それは気になるな。なんて書いてあったんだ?」

「博士、紙とペンくれ」

「うん…」


アムの言葉を聞き、博士は若干落ち込みながら紙とペンを持ってきた。さっき外出てないから、と言われたのが結構刺さったらしい。アムはさらさらと達筆な字で本と見比べながら書く。アムって字うまかったのか。

紙にはこう書かれていた。


『新たなる力を知る術は触れる事でわかる。段階進化の数だけ行数は増加される。』


…確かに何言ってるかわかんない。触れる?どこをだよ。

俺は本をぼんぼん叩いてみるが反応なし。ふと横を見ると博士が机に突っ伏していた。落ち込んでるようだ。


「うぅ…私は一生ステージ1…。」

「だ、大丈夫だ。まだ俺だけなんだしいつか……。」


その瞬間、キッチンのドアがアムが入ってきた並みに勢いよく開いた。

そこには息を切らしたグラが。


「み…みんな…私、ステージ2になってる…。」


博士が椅子から崩れ落ちたのは言うまでもない。

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