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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第二十七話 風邪

 全員集まり、俺たちは一旦落ち着いた。博士がコーヒー。俺はキッチンから少し菓子類を。グラとアムは話しやすいようにと机と椅子を博士の部屋に用意、それと話し合いをするという事でホワイトボードも奥にあったので引っ張ってきた。来客用の家具とかないのであり合わせだ。とりあえず俺たちはあの化け物たちについての情報を上げられるだけ上げた。敵を知れば対策もいくつかできるかもしれない。


「うーむ…ひとまずこんなものだろうか?」


俺達が話し博士がホワイトボードに書いていった結果、次のようになった。


『・人を襲う・脆い、が再生し強固になる・見せた力をコピーする(コピー数は一つ?)・出現場所はランダム?・圧縮や切り刻む、一撃でやるような方法ならば倒すことができる』


「あとこれが写真だ。」


そう言って博士はデスクからあの化け物の写真を取り出し、ホワイトボードに貼った


「いつの間に撮ったんだ。」

「監視カメラに映った時にだ。便利だろう。」


かなり鮮明に撮られた化け物は、やはり不気味で恐怖を感じる。グラが俺に寄り、がっしりと腕をつかんでくる。


「どうした。」

「ちょっと…トラウマ。」

「今度出ても、俺とアムが倒すさ。

なぁ?アム。」

「あぁ!何体だろうがやってやろう!」

「…ありがと。」


励ましたつもりだったがグラはむしろ静かになってしまった。それほどまでにこの存在はグラにとって何かしたのだろうか。俺が近くにいれば…。少し前、パトロールもある程度終わり、暗くなってきたのでジェネシスシティに帰る途中に博士からの電話であの化け物の存在を知った。近くに何かいるから確認してくれと、俺はすぐに向かった。


「ユラは一人で三体も、ご苦労様だ。」

「人じゃないって判断してすぐに切ったからな。もし長引いてたら危なかったかもしれない。」

「人じゃない…のかな。」

「あぁ、俺が見た個体は首らしき部分がなかった。ほかにも足がないのもいてな。とてもじゃないが人間とは思えない。」

「ユラは正しいことをしたよ。私もユラが戦っている間あの生命体…って何か名前を付けたいな。みんな案。」


俺たちは少し考えて…


「ドロドロ!」

「ゴミ!」

「人外!」


俺達がそう言ったおかげで博士は頭を抱えることになった。


「いいや、化け物の名前は化け物で。一番わかりやすいだろう。」

「いや、ちゃんと固有名詞決めるべきだ!話しにくいだろ。」

「だからと言ってさっきの案は無しだ。ダサい。」

「じゃあ博士はなんて名前つけるんだよ。」

「そうだそうだ!自分も案だせ!この感性変人!」

「あとでアムぶん殴る。そうだなぁ…ポチとか。」

「可愛くなったな。」

「別に怖く言う必要もないだろう。ほら、グラもおびえている。」


そう言われ明らかにぼーっとしていたグラは驚いた。


「え?!あ、う、うん!おびえてるよ!」

「元気じゃねぇか。…でそのポチを博士はどうしたんだよ。」

「そうそう、ユラが戦っている間調べてみたんだ、生命体としてね。そうしたらびっくり、臓器が何もない。それに体温のようなものも血液もなかったよ。脳みそもないんだ。どこでどう判断して行動しているのか…。虫でも脳はあるというのに。」


博士は完全に研究者モードでホワイトボードに色々書き始めた。こうなると博士は中々止まらない。にしても博士はどうやって遠隔で調べたんだろう…。よくよく考えるとやっぱり天才なんだよなぁ。


「博士、止まれ。」

「おっとすまない。」


アムがそう呼びかけると博士は書くのを止めた。それを俺は呆れながら見ていると、グラの様子がおかしいことに気付いた。どこか明日の方向を見て、ぼーっとしている。そう言えばさっきも…


「グラ?大丈夫か?」

「ん…だいじょぶ。」

「明らかに大丈夫そうじゃないんだけど…ちょっとごめん。」


俺は手をグラのおでこに当て、もう片方の手を自分のおでこに当てる。明らかにグラは熱を持っていた。


「博士、体温計。多分グラ熱あるぞこれ。」

「グラが風邪か?珍しいな。」


一度会議はストップ。博士はそう言いながら奥に行って体温計を持ってきた。この部屋ごちゃごちゃしてる代わりになんでもある。ほんとに何でもあるのだ。一回博士がいない間に見て回ったのだが電車のつり革があった。その時博士を若干…いや割と本気で心配した。変な人が行き過ぎて犯罪者にでもなったら困る。結局あのつり革がなんだったのかは聞きそびれている。


「だいじょうぶだっえば…。」

「舌回ってないぞ…。ほら、自分で計れるか?」

「はかせ…そこまで子供扱いしなくていいから…。」


ぶつぶつと文句を言いながらグラは体温を計る。その様子をアムは不安そうに眺めた。アムはグラをとても可愛がっている分、グラがこんな状態で不安なのだろう。ただアムはグラと初対面からこうだ。何か理由でもあるんだろうか。グラが可愛いという理由ならば納得するが。


「博士。」

「ん?どうしたユラ。」

「『ノマド』作ってからグラって休んでるのか?」

「…君がこの拠点に初めて来て、一緒に君達が遊びに行った日くらいしか。」


そのせいか…。もうグラは何日も活動をしていたのだ。そりゃ疲労でこうもなる。今まで何のガタも出なかったことが逆に奇跡だ。

ぴぴぴぴ、と博士の部屋に音が響く。


「何度だった?」

「…36.5」

「アム、見てあげてくれ。視界も悪いらしい。」

「もう…いいよ、わかった。39.7」

「普通に風邪じゃないか。いや他の可能性もあるか…。とりあえずアム、グラを部屋に寝かせてあげてきてくれ。ユラは頭冷やすやつ、あと体拭くタオル。」

「了解。」

「おっし任せとけ。グラ!お姫様抱っこでいいか!」

「…なんかそれ以外の選択肢なさそうだからお願い。」


アムはグラを軽々と持ち上げた。アムは驚いた顔をして片手を放した。


「グラ軽すぎないか…。片手で持てる。」

「でしょ。」

「能力使ってるだろ。」

「なんでユラ君わかるの…。アム、ちゃんと持って。」

「はいよ!おっ…と。でもやっぱ軽いな。」


アムはうなずきながらグラを運んでいった。俺もあれくらい身長があればな…。

そんなことを考えながら俺は博士に言われた通りタオルと頭冷やすやつを用意しようとアムに続き部屋を出ようとした。


「ちょっ…と待ってくれ、ユラ。」

「博士どうした?」

「私も手伝う。ただ常に監視カメラが見たいから…あったあった。」


博士は散らかってる部屋の中から手のひらサイズの端末を取り出した。ほんとになんでもあるな。


「これで大丈夫。さて行こうか。」

「博士がいて助かるよ。」

「私も君たちには助かってるよ。だから尚更、あんな状態のグラが心配でね。」

「いつも元気なやつが風邪だと調子狂う。」

「ほんとにその通りだよ。無理させすぎた私にも責任がある。大人として考えが足りなかった。」

「博士もたまには休めよ?いつも夜何かしてるのわかってるからな」

「おや、バレていたのか」


俺と博士は会話しながら必要そうなものを用意した。だがグラに持っていってもらうのは博士に任せた。


「俺はおかゆ作ろうかな。」

「え、食べたい。」

「ほいほい、博士用にも作っとくよ…。ったく、こんな時に食い意地張ってる博士の精神には驚かされるよ。」

「照れる。」

「褒めてない。」


博士は最後までテレテレと頭をなでながら部屋を出て行った。やっぱ変な人なんだよなぁ…。あの人のおかげで明るい気持ちになっているのは事実なのだが。にしてもグラには無茶をさせすぎた。いつも元気だから、同じ疲労を覚える人間だという事を忘れてしまった。グラだって疲れるのだ。毎朝早起きして朝ご飯まで作ってくれる。今度からもっとちゃんと感謝の意を伝えるようにせねば…。あと甘えすぎてるからご飯当番は俺とグラの交代制にしよう。博士を入れると一日カップラーメン地獄。アムを入れるとカロリーごりごりになるため二人は除外だ。


俺はぱぱっとおかゆを作りグラの部屋へと運ぶ。梅干しのオーソドックスなおかゆ。昔、真が風邪をひいたときには好評だったが料理上手なグラの舌を唸らせることはできるか…。


「入るぞー。」


そう言ってドアを開けようとしたら博士が開けてくれた。そこには結構だるそうに横になって、頭冷やすやつ貼ってるグラがいた。体は拭き終わったらしい。俺はアムの姿が見当たらないことに気付いた。


「アムは?」

「町を回ってくるらしい。やることがないと体を動かすことしかできない。アムらしいだろう?」


にんまりとしながら博士は俺の作ったおかゆに手を伸ばす。博士も十分博士らしい行動を平然とする。俺はその手をはたき、グラの元へと行った。


「私は自分の部屋に戻るよ。また何かあったら呼んでくれ。監視カメラ見てるから。」


博士は部屋から出て行き、俺とグラの二人きりになってしまった。


「ごめんね…。こんな一大事に体壊して…。」

「いやいいさ。グラが風邪をひくことに比べたらさっきの化け物なんて一大事でもなんでもない。」

「ユラ君は相変わらずかっこいいこと言うね…。でもかっこいいだけ。」

「…まぁそうなんだけどさ。」


俺は作ってきたおかゆを近くの机に置き、適当に座る。グラに図星を突かれてしまった。どうしても俺はグラの前ではカッコつけようとしてしまう。そんな自分が少し嫌で、でもそんな自分も自分で。


「わ、おかゆ。食べたい。」

「食欲はありそうでよかった。」

「んやなかったけど、見たら出てきた。」


そう言ってグラは口をぱかっと小さく開ける。食わせろ、という事だろう。俺はちょうどいいくらいの量をスプーンに乗せてグラに食べさせる。なんだか小動物にエサをあげている感覚だ。


「うむ、美味しい。」

「良かった。グラには敵わないと思ってたから。」

「私はおかゆ作ると卵にしちゃうから、梅干し新鮮でおいしい。」

「今度俺が風邪ひいたら作ってくれよ。」

「そしたら私があーんしてあげるよ。」

「いや流石に一人で食うよ…。」


そう言うとグラは少し笑って咳き込んだ。こりゃ相当だな…。当分はポチ…じゃなかった。あの化け物は俺とアムで対処しなきゃいけない。博士も駆り出すか。

俺が今後に関して考えていると毛布にぽつぽつと雫が落ちていることに気付いた。グラが泣いていたのだ。


「…どした。泣くほどつらいのか。」

「うぅん…情けなくて。」

「情けない?グラがか?」

「だって…私ユラ君とアムと違って強くない。助けられてばっかり。なのに体壊して、迷惑かけて。自分が嫌になっちゃった。」

「そんなことないっての…。グラは誰よりも頑張ってる。」

「頑張るのは誰にだってできるよ。結果を出さなきゃ…。ユラ君は、私の好きなところを前に行ってくれたけど、私は私が好きになれないや…。」

「…グラ、口。」

「ん…?なんかついて…。」


俺はグラの口に近づいてキスをした。


「ん!?ん!?ん!?ゆ、ユラ君!?風邪移っちゃうよ!?」

「それならそれでいい。グラ、自分を一番愛せるのは自分なのに、自分が自分を嫌えばすべてが嫌に見える。今はとりあえず風邪を治せ。情けないと思うのならこの先もっと頑張るしかない。誰にでもできることで秀でるには時間しかない。立ち止まって落ち込んでても、前には進めない。博士でもわかるぞ。」

「…わかったよ。ありがとう。私、ユラ君に慰められてばっかだね。よし!じゃあとりあえず寝るよ。みんなに移したくないし。」

「おう。…俺もうリーチだけど。」

「アレのせいで体温上がったよ…。それに…。」


グラはぼそっと言った。


「私初めてだったのに…。」

「…まじ?」


なんだか体温が上がっていくのを感じる。あれ俺も風邪ひいた?


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