第二十五話 予告
夜はすでに満ち満ちていた。ジェネシスシティ最高の建物の最上階に、6人の能力者が集まる。
『レジデンス』所属、特攻担当
蘆木江
見た目は大人、精神は子供。クラリタからの多額の金に目が眩みレジデンスへ。
「秘書!お茶くれ!走ってきたからもう息がキレキレだぜ。」
『レジデンス』所属、事態の揉み消し兼隠密担当
煙堂澄香
夜間限定で女子高生の恰好を好む異質な女。クラリタには逆らえなかった。
「みんな車なのになんで江だけ走ってきたのよ…。」
『レジデンス』所属、頭脳兼制御担当
葉島リハン
見た目は子供、精神は大人…ぶっているだけの少年。実際に頭は良い。クラリタと出会い、避けられない運命としぶしぶついていった。
「江さんは気合でなんでもできるって信じてますから。」
『レジデンス』所属、捕獲兼殺傷担当
岩島ロウ
身長2メートル級の大男。自分の事を自分で決められず、途方に暮れていたところをクラリタに見つかった。
「…」
『レジデンス』所属、隊長
翼川千紘
至って普通の青年。魔本を拾ってから翼が生え、周りから迫害を受ける。クラリタに救われそれからクラリタを親のように慕う。
「こらこら!みんな少しは自重して!クラリタさんの前なんだから!」
以上が『レジデンス』総メンバー。クラリタが全国から集めた能力者集団。表面上のやることは『ノマド』と大きな差はない。だが本質はクラリタの駒であるため裏の仕事も数知れず。
「今日はあの計画をいよいよ始めようと思うんだ。」
「あ!?マジかよ!俺は嫌だぜ!」
「江は常に寝ているから問題ないだろう?」
「いやそもそも『ノマド』とかいうやつら自体嫌いなんだ!偽善の塊じゃねぇか!」
「それはアタイも同意ー。クラリタさぁん、なんで『ノマド』の強化なんてするの?」
クラリタの考えていた計画。それは『ノマド』メンバーの実力強化を裏からするというもの。
「理由や方法については秘密だ。私は君たちを信頼しても信用はしないからね。とりあえず『レジデンス』は当面の間、『ノマド』メンバーがある事以外に目を向かせないようその他の事件は全て解決してほしい。もちろんジェネシスシティ内でだ。ある事自体、ジェネシスシティにしかないようにするからね。」
「どうせ野間さんの能力でしょう?」
「リハン君は頭が良すぎて困るね。ほら。もう用事は終わりだ。各々やることが理解できたら帰りたまえ。」
「相変わらず多くを語らず…わかりました。みんな、解散だ。」
クラリタの好きな時に呼び用が無くなれば帰す。そんな態度は『レジデンス』全員もう慣れたものだった。癪に障るときもある。だが一切怒りを向けない。恐怖がそれ以外の感情を監視しているから。
全員が帰っていく中、リハンだけ振り返り質問を投げる。
「…そういえばその計画はいつから?」
クラリタはにっこりと笑い、指を三本立て、言った。
「三日後。それ以降ジェネシスシティ関連の問題をゼロに。頼んだよ。」
ーーーーーー
アムが『ノマド』に参加してから二日後。あれからノマドメンバーに大きな変化はなかった。いつも通り博士は籠りきり。グラは空を飛び回り、俺も安定して空を飛べるようになった。強いて言えばアムの存在だ。アムは能力による移動手段がない。圧倒的な火力を持つ能力だ。いつでもどこにでも駆け付けられるようにと普段は拠点にいることになった。博士は鬱陶しいからどこか行ってほしいものだとちょっと嬉しそうに言っていたがアムはトレーニングルームをとても気に入ってしまいそこから出てこず、結局博士は一人から解放されることはなかった。
そういえば一度アムと組み手をした。お互い実力を知りたいとアムに言われてしまい、俺は了承した。
ーーー
「剣は使っていいのか?」
「もちろ…」
「ダメに決まってるだろう。大きなケガは私の卓越した天才的な頭脳でもどうしようもないのだから。」
「その卓越した天才的な頭脳で抜け落ちて腐りきった頭のねじを探してくれ。」
「天才の頭のねじはない!」
「ないんだ…。」
ということで能力はあり、だけど俺は炎を出しちゃいけないとかいう結構不利な状態から開始した。ただ玲方さんの所で筋肉自体かなり鍛えられている。使うのは【ブースト】くらいでいいだろう。もう一つ肉体強化系の技はあるのはあるのだが使うのに少し時間を要するため今回は使わないことにした。
「じゃあ…はじめ!」
いつでも空気のシールドを張れ、空を飛べるグラが審判。
俺とアムは少し間を取った状態で始まる。
「はぁあああ!」
アムが拳に紫色のオーラみたいなものをまとった。あれが『闇』の能力。本人曰くただの身体強化と言うが…
「喰らうが良い!この拳!」
「来い!」
アムは走りかけてくる。俺はアムの拳目掛け、全身に【ブースト】をかけてほぼ飛んでるみたいな速度で相対する。
「ぐぅううう!!」
「おっっっも!!??」
力は若干俺の負け、だがお互い譲らず拳を突きつけ続ける。
「【レベル2】!」
「え?!」
アムが叫んだと思うと一気に俺はアムに弾き飛ばされる。壁にぶつかる寸前で俺は炎を出し勢いを殺した。なんだ今の…?
「俺の能力は単なる身体強化、だが時間によってさらに向上していく。闇をまとっていくとどんどん闇が貯まっていき、ある一定のラインを超えると爆発的に強化される。それが俺の能力、『闇』だ。」
「へ、へぇ…。」
制限付きの身体強化…。元の運動神経で一般人を遥かに超えてるようなもんなのにそこにさらに能力による強化。俺は颯爽と白旗をあげ、実力の確かめ合いは終わった。勝てる気がしなかったから。『炎流』を使ってもギリギリな気がする。どうしてかあの体を切れる気がしない。実際能力使用中のアムの体を叩いてみたグラが手を真っ赤にして痛いと叫んでいたので多分攻撃面だけでなく防御面もかなり硬くなっているんだろう。アムの能力を、なぜか博士が誇らしげだったのをよく覚えている。
ーーー
「アムが味方でほんとによかったぜ…。」
そして今、俺は玲方さんが入院している病院へと足を運んでいた。玲方さんはあれから順調に回復していき、もうすぐ退院らしい。あの歳でこの回復力。とんでもないな。なんで稽古中一本も取れないのかよくわかる。アムにだって勝てるんじゃないかと思わせる強さがあの人にはあるのだ。
病院に入り、俺は受付で玲方さんの部屋の場所を教えてもらった。俺は教えてもらった場所へ足を運ぶ。
「えーと…223号室…はここだな。」
何やら病室の中から話し声が聞こえてくる。片方は玲方さん、もう片方は知らない声だった。俺は邪魔かなと思いつつも、今グラに活動をほとんど任せているため早く戻り手伝わなきゃならないので俺は申し訳ない気持ちで中に入った。
「失礼しまー…す。」
「おぉ!斎月か!」
「この子が!?加崎、若い若いって言ってたけどまだ高校生なんじゃないかい?」
玲方さんと一緒に話していたのは玲方さんと同じくらいのおじいさんだった。見たらわかる。めちゃくちゃ元気だこの人。なんかこう、活力にあふれてる感じがする。
「僕邪魔かな。」
「すいませんお話し中に…。」
「いや良いんだよ!このジジイとは話飽きてんだ!」
「ひどいよ加崎!まぁそうだね…ジジイはさっさと退場しますよ…。」
おじいさんは俺の横を通り病室の入口へと向かってきた。
「斎月君、加崎がよく自慢してたよ。自慢の弟子だって。まるで孫みたいに話すんだ。僕はね、あんな加崎…。」
「伊廻!くだらんこと言ってないでさっさと帰れ!」
「おーひどいひどい。見舞いに来てやったのに。それじゃね、斎月君。またどこかで。」
伊廻さんは笑いながら病室から姿を消した。人懐っこそうな良いそうだ。あの人。玲方さんとは似ても似つかない…。
「おい斎月、今何考えた。」
「何も…?」
「はん…とりあえずよく来た。俺は元気だ。」
「電話でも言ってたじゃないか。でもよかったよ、ほんと。」
「あんなガキどもにやられるとは…ワシもまだまだだよ。」
「だって玲方さん、刀を振らなかったんだろ?」
玲方さんの道場を荒らしたやつらが言っていたのだ。玲方さんは刀を振らなかったと。クロニクルタワーへの道中不思議に思っていたのだ。玲方さんは高齢とはいえ能力者。あんな一般人に負けるとは思わないのだが…。
「話していなかったが、本来ワシの流派、『零型無流』は人を傷つけるものじゃねぇんだよ。」
「そうなのか?」
「おおよ。『零型無流』は人に向けるものじゃねぇ。大きな大木を切ったり、バカでかい猛獣を倒したり、そういう人助けの先にできたもんなんだ。まぁ時が経って継承者がどんどんオリジナルに変えて来たせいで対人用の技もいくつかできちまったがな。」
「いいのか流派にオリジナルって…。」
「良いんだよ。お前さんだってそこからオリジナルの剣技を作ってんじゃねぇか。」
そう言われてしまうとそうなのだが。
「そういえば医者に言われたが、以前のように体を動かすことは難しいらしい。」
「は!?」
「そんな驚くことかい。元々体にはガタきてんだよ。医者になんで今まで激しい動きができたかわからないくらいにはな。できるに決まってんじゃねぇか、なぁ?。俺にとって剣技は日常生活の一つだ。欠かさなかったことはねぇ。」
「…あいつらのせいで…。」
「そうだぜ本当に。あの野郎ども今度会ったら…。」
「あ、もう俺達がのめしたぞ。」
「何!?…はっはっは!おいおい、お前さんは最高の弟子だぜ!」
そう言われ、俺は嬉しかった。せっかく教えられた剣技を人助けではなく私情目的で使ってしまったことを少し悔いていたのだが、そう言われたことで俺は少し救われたような気がした。
同時に俺は少し残念な気持ちにもなる。もう玲方さんから剣技を教わることはないのだ。あの空間が好きだったのに。それに技も十一個中の五つしか教わっていない。
「かーっ、ワシがやってやりたかったぜ!」
「そうだ、あの後クラリタにも…
そう言いかけた瞬間、病室のドアが開いた。
「おや、ユラ君じゃないか。」
「クラリタ…!?」
今まさに名前を出そうとした人間が現れた。なんだ、呼んだら来るのかここ。
そういえばお見舞いにくるとか言っていたような気がする。
今日のクラリタはクロニクルタワーの時のようなきっちりとした服装ではなく、割とラフな格好だった。秘書さんもいない。今日は完全にオフなのだろう。
「おいおい市長さん、どうしたんだいこんなとこに。」
「いやはや、私の部下が失礼なことをしたらしいのでね…来るのが遅くなり本当に申し訳ない。」
そう言ってクラリタは頭を玲方さんに向かって下げた。
「よしてくれよ、市長さん。ワシはもうなんとも思っていねぇって。道場も無くさずに済んだしよ。」
「こちらの不手際さ。許してもらえているのが幸運だよ。」
クラリタは手にもっていた果物のかごを置いた。
「だがユラ君もいるとは、これは驚きだよ。」
「なんだい、斎月、市長さんと知り合いだったのかい。」
「知り合いと言うか…なんというか。」
本当になんなのだろう。
「本当に見舞いに来たんだな。」
「もちろんさ。私は嘘はつかないよ。部下の責任は上の責任だからね。」
「そうだクラリタ、少し話したいことが…」
「それは私もだ。もう少し話したいが…今日はこの後別件があってね。少ない時間しか居れず申し訳ない。私はここで失礼させてもらうよ。それじゃあユラ君、玲方さん。またいつか。」
クラリタは相変わらずの笑顔で病室を出て行った。と思ったが、去り際にこちらを向いた。
「そうだ、ユラ君。明日以降、ジェネシスシティをよく見ておくれよ。」
「あん…?」
「それじゃあ。」
不可解な言葉を残しクラリタは去っていった。残された俺と玲方さんはお互い顔を合わせ、首を傾げた。




