第二十四話 集合
目が覚めたのは朝。いたって普通の事だ。だが一つ違和感。なんか体が重たい。
昨日はクロニクルタワーからお昼を食べて帰り、アムを正式に『ノマド』メンバーに入れるちょっとした会を行った。とは言えただしっかり自己紹介しただけである。
「改めて。俺の名は暗無アム。29歳今は無職!能力は『闇』!よろしくお願いする!グラ!ユラ!と…は、博士。」
「いい加減慣れろ。」
もちろん俺達も自己紹介。だが博士はしなかった。もう散々鉄の檻一枚越しに話し尽くしたのだろう。それでもなお喧嘩が耐えない。いくつ喧嘩のネタがあるんだこの二人。仲良すぎるんだよな本当に。
「斎月ユラ。16歳で元学生。能力は『炎』。よろしくな、アム。」
「おう!ユラは炎の剣を使っていたが、あれは玲方さんとかいう人からのものか?」
「あぁ、自慢の剣技だ。」
とはいえ、十一個中の五個しか技は完成しなかったのだが。
「俺は完全に肉弾戦派だ!聞いたがトレーニングルームとやらがあるのだろう?一緒に今度組み手をしないか。」
「それは…もちろん。」
めちゃくちゃな圧が俺を襲う。もう死にそう。
「私は空理グラだよ。ユラ君と同じ16歳の元学生。能力は『空気』!よろしくね、アム。なんかお兄さんができたみたいで嬉しいよ!」
「俺も妹みたいだと思ってたんだ!よろしくな!」
おいもう家族かよ。嫉妬しちゃうぜ。
そうして一通りお互いの間柄を知った。アムはグラと同じで、結構ずかずかと来るタイプだ。だから心の壁は特にない。ただ誰しも過去はある。もし、それが嫌なものではなく、もう笑い飛ばせるような話だったのなら、今度ぜひ聞いてみたい。過去を知ることは今の人物を知ることに繋がると俺は思っているからだ。
それからグラの完璧料理によるアム歓迎パーティーが行われた。別に飾り付けたりとかはしなかったが十分豪華なものになった。もちろんグラの料理のおかげだ。
アムは言っていた通り肉をよく食べていたが、グラの作った料理自体大好物になったらしく…
「嘘だろ…。博士、俺油揚げが食えるぜ…?」
「ドヤッとされてもな…。まぁグラの油揚げは何故か格段に美味しいのはわかる。」
「アム油揚げ嫌いだったの?ごめん出しちゃって…。今日安かったから。」
「いやこれうまい。これだけで一年幸せに過ごせる。」
「盛りすぎだろ。」
キライだったらしい油揚げをグラの料理なら食べられたらしい。あとで博士が実験だとか言って普通に博士が作った油揚げを食べさせたら嫌そうな顔をしたのでグラ効果は絶大だったらしい。
楽しいパーティーも終わり、俺は満腹、グラは満足、アムはグラの料理に溺れ、博士は酒に溺れた。
その後各々就寝。アムも俺とグラと同じように自室を渡され感動していた。本当に泣くレベルで。今までどんな部屋で過ごしてたんだか…。
で今。朝。体重たい原因はなんだろうと考える。食べすぎ?いや本気で体が動かないからそんなものではない。では何か。答えは少し下の方を見たらすぐにわかった。
なんか見覚えのある猫の着ぐるみのパジャマが乗っかっている。
「…博士なんでここにいるんだ。」
返事はない。死んでるのか?だが少し経つともぞもぞ動き出した。良かった生きてた。
「んむ…うん…?べっ…と?」
初めて存在を知ったのかのようにベットと言う博士。これはあれだろうか。二日酔いで俺のベットの上で吐くのだろうか。
「ふわぁ…。うーん…。」
博士は体を起こし、壁に掛けてある謎のリモコンに手を伸ばした。
そうだよそれ気になってたんだよなんだったのそれ。
博士がリモコンのボタンを押すと…
ウィーンと機械音がどこからか聞こえてきて…
「ふぅ…朝だな。」
カーテンが開き、ベット近くのテーブルからコーヒーが現れた。
知らなかったその神機能。
「ん?なぜユラがここに?」
「こっちのセリフ。」
「…なんだか酔って寝ぼけてグラの部屋に突撃した記憶がある。」
「一文字違いだな。ここはユラの部屋だ。グラの部屋じゃない出てけ二日酔い。」
「なんかひどくないかい?いいじゃないか。朝からこんな美人見れて。」
まだ若干酔ってないかこの人。
「とりあえず降りてくれ。重い。」
「なに!?43キロが重いだと!?」
「いや重いだろ。女性としては良いかもだが物質としては重い。」
「それもそうか。」
そう言って博士はすんなりベットから降りる。能天気な人だよほんと。
「そういえば今私下着着てない。」
「さらっと言うなそんな衝撃的カミングアウト。」
えじゃあ今その着ぐるみパジャマ一枚?それで俺のベット寝てたの?正気かこの人。俺はもう正気じゃないぞ。
「さっさと自分の部屋言って下着着てこい。」
「それもそうだな、今グラが来たらえらいことに…。」
こんこん、と返事をしたかのように音が部屋に入ってきた。
「ユラくーん。朝だよ、起きて!ていうか博士しらない?珍しく部屋にいなかったんだけど。」
おいどうすんだこれ。
「おいどうすんだこれ。」
考えてるのと同じこと言っちゃったよ。
「…ユラだけ先に出て、私があとから出ればいいだけさ。QEDだ。」
「なにが証明完了だ原因が。はぁ…まぁそれが無難だな。」
俺は名残惜しくもベットから降り、ドアを開けに行く。
「…あ!」
「ちょっ!?」
「え?!博士ここにいるの?」
突然大声を出した博士のせいでグラは部屋の中へと入ってきた。
「おい博士なんで大声出したんだよ!」
「いやその…今下着付けてない理由を思い出して…。」
「下着…つけてな…え?」
「グラ違う博士が全部悪いそう博士が悪いの。」
「そうだぞ!すべて私が悪いんだ!」
なぜ威張る。あんたはしゅんとしていてくれ。
「…二人ともご飯抜き。」
ばたん、と無慈悲にもグラはドアを閉めてわざとなんじゃないかってくらい大きなお足音で去っていった。
「…博士。」
「…カップラーメンならあるよ。」
「仕方ないか…。」
今日から今まで通り始まる日常の最初は、どうやらカップラーメンらしい。
ーーーーーー
同日 夜 クロニクルタワー最上階
「ふぅ…とりあえず明日の分は終わりだ。」
「お疲れ様です、クラリタ様。」
秘書はコーヒーを社長兼市長の机へと置く。不思議なことに、その部屋の雰囲気とは合わないインスタントの安物のコーヒーだった。さらに不思議なことにその器は最高級の物。一つで数百万というとんでもない代物に、何十万分の一の値段のコーヒー。
「ありがとう。…やっぱりこれが落ち着くよ。」
「社長は貧乏舌過ぎます。」
「どのコーヒーも美味しく感じるのなら安いほうがいいじゃないか。」
富豪に近い環境にいるクラリタの舌は残念ながら貧乏人に近かった。
「昨日から少しストレスが溜まっているように見えます。気分転換をしたらどうでしょうか。」
「野間君、そのストレスの原因はわかるかい。」
秘書は深く考えるような素振りをする。実はわかっているのだが。即答するとクラリタがあまり面白い顔をしないためである。
「ユラ様の能力を奪えなかったからでしょうか。」
「その通り!」
クラリタは指をパチンと鳴らす。どうやらベストアンサー。秘書も胸をなでおろす。頭の中のイメージで。
「君の能力もどうやら『始まり』のようだがきっと独立型の『始まり』だ。私の能力とは関連性がない。だから君の能力を手に入れても変化がなかったんだ。」
「そのお話をするのは8回目です。」
「何度でもしたいのだよ。私の完璧なる仮説をね。彼の能力は『炎』なんて単純なものではないはずだ。」
「…それは聞いておりません。」
「言っていなかったか。昨日部下たちと戦っている…いやあれを戦いと呼ぶにはいささか『ノマド』に失礼だね。あの強者による一方的蹂躙を見て気づいたんだ。見たかい野間君。」
「見ましたが、何もわかりません。」
実は少しわかっているが、答え合わせをしてみたいと秘書は思う。
「炎が弾丸を粉々にしていたんだ。ありえるかい?溶かす、や焼き切るならわかるさ。だがあの炎は銃弾を溶かすほどの熱はなかった。つまり炎が銃弾をも切り刻む鋭利な刀と変化していたんだよ。わかるかい!」
「なるほど、気づきませんでした。」
「だろう!」
またもベストアンサー。恋愛ゲームじゃ簡単におちている。
「つまり彼の炎は変化するのさ。その能力に私の能力…。」
クラリタは座っていた椅子から立ち上がり、指から炎を出した。だがユラのように赤い炎ではない。その炎は、黒かった。
「この『初なる炎』を合わせるんだ。元となる力と、その進化先が合わさったら…それは」
「最強、ですね。」
「その通りさ。それこそ私が追い求めているものだ。」
「…最強になって、世界を滅ぼす。絵本の読みすぎだと私は思います。社長の夢は。」
「夢?違う違う。目標さ。非現実的なものではないんだよ。」
にんまりと笑い月明かりに照らされるクラリタの表情は、まるでヒーローのように明るく、恐怖に満ちていた。
「それに君だってそれを聞いてから私に着いてくると決めたのだろう?」
「そうですが…。そろそろ『レジデンス』の皆さんの集合時間です。」
「おや、もうかい。今日は今後を決める大事な会議だ。全員来てくれるといいのだが。…そうだ、千紘は今日は来ないのかい?」
「千紘様は…後ろに。」
こんこん、と窓ガラスが叩かれる音がする。音は外から。だがここは十階だ。
「相変わらず正面から入ってこないね。野間君開けてやってくれ。」
「もう窓を開けています。」
天井にある窓から音の正体が降りたつ。その者には翼が生えていた。
「こんばんはっす!クラリタさん!」
「久しいな、一か月ぶりか?」
「そうっすね!このところ各地を回って情報集めに専念していたので!」
「野間君から聞いたよ。また新たに能力者の場所をいくつか突き止めたんだろう?」
「はい!また《《奪い》》に行くんすか?」
「あぁ。だがアノ能力のようにはずれもある。ちゃんとどんな能力か念入りに調べてからさ。」
「千紘様からの情報を元に全国の能力者の情報をまとめておきました。」
秘書は割と分厚い紙の束をとすん、とクラリタの机の上に置く。中身は重要な情報7割。好きな色や好きな服、嫌いな食べ物から嫌いな人間というくだらない情報が3割。
「ごくろう。また仕事が増えてしまった。」
「ファイトっす!クラリタさん!」
千紘がガッツポーズをクラリタの目の前でした時、チーンとエレベーターの音が鳴り響く。
開いた扉から、四人の男女が現れる。性別、年齢はバラバラ。だが目つきだけはどこか似ているものがあった。
「ふわぁ…ねむい。ねぇねぇねむいよねぇ?リハン君!」
「澄香姉さん…ここに来るまで爆睡してたじゃないですか。」
「クラリタ!来てやったぞ!」
「…。」
綺麗な女性、賢そうな七三の子供。絡まれたら面倒臭そうなガタイの良い男に無口な大男。この四人にリーダーである千紘を含めた五人を、クラリタはこう呼ぶ。
「『レジデンス』、全員そろうのは久しぶりだね。」




