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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第二十三話 会話

 俺達『ノマド』はクラリタにクロニクルタワーへと誘われた。クラリタはまっすぐタワー内を進んでいく。中は人が多く、ごった返していた。


「市長、お疲れ様です。」

「うん、君もね。」

「市長、明日の件は…。」

「もう三日先まで全部解決済みだよ。」

「クラリタ市長、先の決算についてとさっき提携先からクレームが。」

「了解。前者は明日に、後者は手が空き次第すぐに移ろう。」


とても忙しそうだった。だがすべての案件を一瞬で手配、解決していく。部下からの信頼もその実力もとてつもないもののようだ。


「ねぇユラ君、あれがしごできって言うの?」

「どこで知ったんだその言葉…。まぁそうだな。すごい人ではあるみたいだ。」


玲方さんの件があったから信頼自体はしていたのだが如何せんさっき部下たちの行動でイラつき状態だったのでなんだか腑に落ちなかった。とはいえ今の姿を見たら流石に印象は変わる。


「すまないね。ここじゃ話どころか足まで止まってしまう。静かな場所で詳しく話そうか。『ノマド』の皆さん全員大丈夫かな。」

「あぁ、良いよな、みんな。」

「うん。」

「ユラに任せるよ。」

「同じく。」


全員の了承も得られたのでちゃんとクラリタと話すことに決まった。この人は能力についても何か知っていそうだし、拠点自体ジェネシスシティにあるのだ。信頼を深める必要もあるだろう。

そうしてなんだか豪華なエレベーターに乗り込み、最上階らしい10階のボタンをクラリタは押した。上がっていくエレベーターはジェネシスシティを一望できるようなガラス張りだった。


「わぁー!ユラ君!拠点見えるかな!」

「流石にこの距離じゃ見え……るな。てか目立ってるめちゃくちゃ。」


そういえばなんだか慣れてしまっていたが球状だった。


「ふむ…遠くから見ても素晴らしい形だ。」

「…俺あそこに住むのか。」

「不満かな?」

「いや良いが…少しダサくないか。」

「そうかい?私は良いデザインに思えるけどね。」

「お、市長は流石に見る目があるのだな。」

「あぁ、あの歪な感じが良い。」

「歪…?」

「え…狙ってるんじゃないのかい?」

「クラリタさん…それぐらいで許してあげてください。博士は青と黄色のシマシマな車に乗るような人なんです…。」

「…なるほど。」

「グラ、どういう意味だそれは。」


クラリタも会話に参加してきた。結構馴染んでる。そうして、長くも短く感じたその上への移動時間が終わる。

チーン、と音が響き、ウィーンとドアが開いた。


「さぁ、どうぞどうぞ。ここはクロニクルタワー最上階。市長室兼社長室だ。野間君。お茶とお菓子を。」

「はい。」


中に入ると想像よりは質素、というかものがあまりなかった。なんかもっと高そうなツボとか芸術と言い張る落書きとかあるのかと思ったのだが。ただやっぱ普通にある笠置とか奥に見えるデスクから高級そうな雰囲気はある。金持ちめ…。

そして野間と呼ばれた女性、あの人は秘書だろうか。クラリタと同じようにきっちりとした服装だ。堅苦しそう。


「好きに座ってくれ。あぁ、もちろん立っていても構わない。」


そう言われた俺達。場にはやっぱり高級そうな、でもどこか落ち着きのあるテーブル。一人掛けの柔らかそうなソファがテーブルをはさんで二つ向き合い、空いている空間に二人掛けのソファ。

一番に博士は一人掛けの所へと向かった。アムはその椅子の斜め右に立つ。俺はグラと一緒に二人掛けのソファに座ることにした。


「博士とアムがそうやってるとなんか姫と騎士みたいだな。」

「誰がこんなやつを守らなきゃならないんだ。」

「あぁ、まだグラの方が頼りがいがあるね。」

「んだと?グラが弱いとは言わないが俺では不安だと?」

「そうだな。グラの方が安心だ。」

「それは同意だ。」

「もぉ…なんなのあの二人。」

「さぁ、でもグラの事は好きそうだよ。」

「私はみんな好きだよ。」

「はっはっは、仲のいいことで羨ましいよ。『レジデンス』のみんなにも見習わせたいほどだ。」


そう言ってクラリタは博士の向かい側のソファに座った。その時、秘書の人が全員分の飲み物と、俺とグラにだけおやつのようなものを置いてくれた。まだまだ子供扱いらしい。お菓子は好きだからいいけど。


「あ、これめちゃくちゃ高い飴だ。」

「知ってるのか。」

「うん。やっぱこんな場所で出てくるお菓子は一味違うね。」


そう言って飴を口に転がし美味しそうな顔をするグラ。俺も食べようとするとさっきから視線を送っている博士が視界に移った。


「…。」

「はぁ…はい、博士。」

「わーい」

「…ミナヅキお前飴好き変わらないんだな。」

「別に良いだろう。アムには上げない。」

「飴を半分こされても困るわ。」

「おや、野間君。もうひとつ…」

「いや良いから!」


相変わらずあの二人は仲のいいことで…。俺は二人を無視し、クラリタに話かけた。


「『レジデンス』については何となくわかった。」

「おや、そうかい?」

「あぁ。正直『ノマド』に入ってくれないかと思ったが多分あんたが金を出して雇ってるんだろう?俺らにそんな金はない。」

「よくわかったね。そうさ、『レジデンス』は私が国中から金の力で集めた能力者集団。生意気なやつらだが優秀だよ。君たちの邪魔はさせないつもりだ。思う存分世界を守ってくれ。」


なんか言い方が癪に障るが結局目的にそこまで大きな差異はない。


「で、何か聞きたいことがほかにあるかい?別件で私は君に頼みたいことが一つあるのだが。」

「俺に…?『ノマド』じゃなくてか。」

「あぁ。君個人にさ。そりゃ欲を言えば『ノマド』諸々『レジデンス』に入ってもらいたいけどね。ジェネシスシティ以外の場所で問題が起きた時のことについては契約に入れてないんだ。だから『レジデンス』のみんなは街外では動いてくれないだろう。だから君たち『ノマド』の存在は必要だと思ってね。」


なるほど。あくまでこの市長さんは自分の街だけ無事ならそれでいいと言っているのか。それで町としてやっていけるのかとも思ったが権力的にはかなりのものがある。能力者なんて一人いるだけで町一つ滅ぼせなくもないだろう。そんなヤバいやつらの集団がいるジェネシスシティはそう簡単には崩れないだろう。内輪もめ以外は。


「さて、聞きたいことはなんだい?」

「この本についてだ。誰が、どういった目的でばらまいてるか。知っているか?」

「ふむ…その件に関しては私もわからないんだ。すまないね。基本的な情報は全て読んだつもりだ。私もこの本は拾った側なのでね。」

「そうか。わかった。ありがとう。」

「いや、何もしてないさ。それで…君個人のへのお願いなのだが。」

「なんだ?」

「君の『炎』の能力を私に譲渡してくれないか?」


俺は何を言われたかわからなかった。


「ちょっ…それはダメ!」


グラの声でやっと理解が追い付いた。俺の能力を渡せと?何のために…。更なる力の為?それなら俺だけではなくグラや博士、アムにも話すか。


「そうだね。私も反対だよ。」

「博士…。」

「能力なんて意味のわからないものがばら撒かれていて、混乱が起きていない今が奇跡の状態だ。そんな時能力を二つ持つものが現れれば、全て崩れる。グラがなんとかしてイメージを良いものに向けているんだ。それを無暗に崩させはしないよ。クラリタさんだってそれはわかるだろう?」


博士は割と敵意むき出しでクラリタに向かってそういった。その反応が俺は嬉しかった。なんだかんだ言っているが多分俺を守ってくれている。そんな気がするだけなのでもしかしたら本当に今の均衡の心配をしてくれているのかもしれないが。


「失礼。本気で言ったわけではないんだ。気分を害してしまってすまないね。ただ、本の裏の文章についての話なんだ。」

「『汝、中間と中継として忠誠を始まりに示せ』。あの英文の事かい?」

「私もそれ!でもユラ君違うんだよね。」

「あぁ、俺は『汝、望む始まりと終わりを』だ。アムは?」

「俺はミナヅキとグラと同じだ。」

「ふむ…やはりそうか。ドク君が言った言葉は『レジデンス』の者たちも同じだった。野間君、君はなんだったっけ?」


そう言われ飾りなんじゃないかってほど動かなかった秘書さんはその時ようやく動いた。良かった、生きてた。


「私は斎月ユラ様と同じく、『汝、望む始まりと終わりを』でした。」

「秘書さんも能力者なのか。」


もう能力者の数は止まらないな…。不自然なほどジェネシスシティに集まっているのは『ノマド』とクラリタのせいだ。だが逆にそれでよかったともいえる。各地で問題が起きるよりかは一つに集まっていたほうがいいだろう。

全く、能力者のバーゲンセールだぜ。


「野間君とユラ君は同じ…やはりか。そういえば私の言葉を言っていなかったね。私は『汝、終始を終焉に。及び力を得よ。』、という言葉だったよ。物騒だよね。」


確かに。終焉なんて物騒な言葉が入っている。しかも終始を、だ。博士の言っていた通りなら俺は始まりだとか。というと秘書さんもになるのか。


「博士。」

「あぁ、終始の始まりの方はユラだと私は考えていたのだが、クラリタさんも同じ考えだったのか。」

「うん。野間君の言葉を見て私もそう思った。だから色々試してみたんだ。それで能力の譲渡も試してみたが…何も成果はなくてね。もしかしたらユラ君ならと思っただのだが、すまない。少し話をしなさ過ぎたね。」


さっきクラリタがああいったのはそういう事だったのか。


「これ以上の会話はないかな。ここらへんでお開きにするかい?」

「そうだな。色々話を聞けてよかったよ。わざわざタワーの中まで入れてくれて申し訳ない。」

「いや、いいさ。私を呼び捨てにする存在は中々いないからね。」


そう言ってクラリタはニコニコした。しまった…失礼だったか。なんか最初に聞いた話のせいでずっとそのままだった。


「悪い。」

「うん?呼び方かい?」

「あぁ、一応年上なのに…。」

「私はクラリタさんより年上だがさん付けだぞ。」

「そういえばそうじゃん。なんで?」

「そりゃちょっと前まで上司だったし。」

「え?」

「そうだったのかい?」

「いやクラリタも知らなかったんかい。」


よくわからず新事実が発覚したが博士もクラリタもあんまり追及する気がなさそうだったので今は深く聞かないことにした。そういえばジェネシスシティのラボで活動していた、と言っていたな…その時はもしかしてクロニクルタワー関連のお仕事だったのかもしれない。


「それじゃあ『ノマド』の諸君、また話そうじゃないか。何かわかったらその時はここに。そうだ、野間君。」

「これでしょうか。」

「流石だね。私が望むものを持って来てくれる。はい、これ。」


そう言ってクラリタは人数分のカードのようなものを渡してきた。なんかすごいしっかりしてる。


「これがあれば好きにクロニクルタワーに入れるから。用件があったら自由に来てくれ。クラスは最高のカードだからどこでも行けるよ。あ、異性のトイレはダメだよ。」

「市長も冗談を言うんだな。」

「市長にだってユーモアは必要さ。野間君、出口まで送ってあげてくれ。」

「わかりました。それでは皆さん、こちらに。」


そうしてまたさっきのエレベーターに乗り込んだ。扉の閉め切る最後までクラリタは手を振ってくれていた。良い市長だな。


「おなかすいたー…あ、そうだ。アムの歓迎パーティーしよう!」

「それは夜の方がいいんじゃないか?」

「そっか、じゃそうしよう。でもお昼どうする。」

「俺はラーメンが食べたい。」

「アムは昔からラーメンが好きだな。」

「ミナヅキもだろう。」

「それはそうだが…いい加減博士と呼べ!」

「あぁん?…は…博士。」

「素直になるな恥ずかしい!」

「なんなんだよ!」

「皆様エレベーター内で騒ぐことは…。」

「「すいません…」」


秘書さんに二人は怒られしゅんとした。その姿を見て俺とグラは呆れたように笑う。まぁやるときはやるかっこいい大人の二人ではあるのだが。

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