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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第二十一話 恩返

 俺とグラと博士はキッチンでグラの作ってくれたカツカレーを食べ終わった。そこまで時間が空いたわけでもないので、久しぶりという感じがしない。


「はぁ…ごちそうさま。やっぱりグラの料理を食べてしまうと他のインスタントの食べ物が食べられなくなる。」

「それは褒めてる?博士。」

「褒めてる褒めてる。…それじゃもう行くよ。さっさと片が付きそうなんでね。」


博士はゆっくりと夕食を食べてまたゆっくりとホテルへと帰っていった。食べている途中各々会話したせいでみんなが食べ終わるのはかなり遅くなったが、楽しくもあった。そのせいか、博士は名残惜しそうにゆっくりと出て行ったのだ。


「博士もまだまだ子供なんだから…。」

「うちのチームはグラが一番大人だよ。」

「ありがと。そう言えば、道場ってなんだったの?」


そういえば色々話した割には玲方さんの話をしていなかった。俺は今日あったことをグラに話した。


「へぇ…今でも十分強いのに。」

「そうかな。少なくとも俺はグラに勝てる気がしないけど。」

「そう?一瞬で負けそう。」

「いや、だって火って酸素がないと消えちゃうから。グラが空気を操作したら俺なんもできない。」

「まぁそれもそうか…。結局不意を突けば私の能力、ほぼすべての生物には有効だもんね。」


よくよく考えたらグラの能力って強すぎるな。昨日グラはそこまで…とかなんとか考えたが訂正だ。生物が勝てない。気づかぬ間に空気を奪われてしまえば何もできないのだから。


「それじゃあ明日から人助けはしないの?」

「そうするとグラが大変だろ。玲方さんも暇なときに、って言ってたから平和そうな日に行くよ。ちゃんと行くときは連絡する。」

「ルールで居場所は常にって言ってるけどそこまで束縛する気はないからね?それに外回り私一人で十分。だから行きたいとこ好きに行っていいよ。」

「でもそれじゃあ…」


俺が声を出そうとするとグラの人差し指によって阻まれてしまった。


「嘘、ユラ君その玲方さんってとこに行きたいって顔してる。」

「…それは…そうなんだけど。」


正直剣術には憧れて仕方ない。だって男のロマンじゃないか。それに自分の炎の力を加えられたら、そりゃもう何も言えないくらいに感動する。


「私には全部わかっちゃうんだからね。だから明日から行ってきなよ。私たちを守ってくれるんでしょ。」


グラは笑顔でそう言い、皿洗いを再開した。グラには勝てないな…。ここは甘えさせてもらおうか。



と、いう事で俺はその日から玲方さんの家に通うことになった。玲方さんも暇らしく、俺が毎日来ても嫌な顔はしなかった。なんなら喜んでた。玲方さん曰く、俺ほど根性のあるものは久しぶりだと。俺は自覚無しだが。


そんな毎日を過ごして三日が経ったころ。『ノマド』には大きな変化はない。博士は相変わらずたまにかえってきてはすぐに戻る。グラからも大きな事件はなく。せいぜい殺人未遂くらいと言っていた。それは大きな事件だと思うのだが違うのだろうか。


「こんな早くに基本の型を習得して、さらにはアレンジするたぁ…お前さん剣術の才能があるな!斎月!」

「おっす!ありがとうございます!師匠!」


なんか俺の剣技はすっごい上達してた。玲方さんはこう言ってくれるが多分玲方さんの教え方がすごい。確かについていくのは簡単な話ではないが。この過酷かつ最適な修練は俺の腕前をメキメキと上達させた。基本の型を早くに使いこなした俺は俺流の型へと玲方さんと相談の元進化させていった。そうして完成したのが…


「【炎流 風桜】」


『零型無流』の基本の型、鬼時雨荒咲を元に俺の炎を刀身にまとわせて目にも止まらない速さの連撃をくらわす技だ。正直、ただ炎を加えただけなのだがそれでも十分見た目は映えている。今俺はおらわっくわく状態だ。


「よし!それじゃあどんどん新技を作って、体に慣れさせていこうぜ!無意識に使えるようになったら免許皆伝。それが『零型無流』の流儀さ。まぁお前さんは『炎流』だがな!がっはっは!」

「おっす!師匠!いつか師匠を超えます!」

「お?!言うじゃねぇか!」


技の名前や俺だけの流派の名前は玲方さんと一緒に考えた。なんか叫びたいだけ感がある。正直その通りなのだが声に出すことで威力も上がりテンションも上がればその分ドーパミンも出るから結構実用的らしい。だが、なんやら理由をつけてはいるが結局男の子は技名を叫んで繰り出したいものなのだ。


その調子で修練三日目後半にはさらにもう一つの技が出来上がりそうなところでおわった。俺は拠点に帰り、すぐ風呂に入るようになった。めちゃくちゃに汗をかくためである。修行は楽しいっちゃ楽しいが結局辛い事には変わらない。玲方さん、俺がノルマをどんどんこなしていく為、興が乗ったのかどんどんノルマのレベルも上がっていく。今や腕立てなんか1000である。ただまぁ能力で超加速させてやってるので若干ズルではある。…その速度でやっている俺の腕立てをちゃんと1000数える玲方さんがおかしい。あの人の目どうなってんだ。

俺は今日を振り返りながら風呂を上がった。


「ふぃー…いやぁさっぱりした。」


俺が体を拭き、服を着ていると…


「ユラくーん、ご飯できるから早くあが…」


ちょうどシャツを着ようとしたところでグラが入ってきた。俺はほぼ下着状態である。


「わわっ!?ご、ごめんね…。」

「あ、あぁ、いや…」

「私がノックしたらよかったね…ごめん。」


…と言いつつグラは出て行かない。じーっと俺の方を見てくる。


「…なんでしょうかグラさん…。」

「いやその…体がっちりしたよね。最初にあった頃とは別人。…顔は変わってないか。よかった。」


グラは俺の顔をじっと見て笑った。すこし冗談っぽく笑うグラがとてもかわいく見え抱きしめたくなったがだめだ。今下着だぞ。変態と化す気はない。


「あ、お邪魔でしたね。じゃごゆっくり。」

「今日夕飯なに?」

「当ててみて。」

「…ハヤシライス。」

「正解!鼻良いね!」


グラは親指を立てグッ!としながら着替え場から出て行った。さっきからなんかトマトの香りがすると思っていたので当てずっぽうで言ったら当たってた。俺はその時自分のお腹がすいていることに気付いた。



次の日、玲方さんの道場の前。何やら何人かの若者と玲方さんがもめているのが見えた。どうしたのだろうか。


「玲方さーん…そろそろ道場、売り渡してくれなきゃ困るんですよねぇ…?ここに大きいビル立てるんだから…。言い方悪いですが…邪魔なんですよねぇ…。」

「はん、困るのはあんたらでワシは困んねぇよ。帰んな。この道場はいくら積まれても渡す気はない。」

「いや正直道場はいらねぇんですよ。この土地がちょーっとね。欲しいなぁって。ね?今後のジェネシスシティを思ってお願いしますよ。クラリタ市長に強く言われてるんですよぉ。」

「ならあの市長呼んで来い。話はそれからだ。」

「いやぁ…そういう訳にも…。」


なんとなくは話がわかった。この若いやつらは玲方さんの道場、というか土地を買いたいのだ。だが玲方さんは断固拒否。それもそうだろう。この道場は玲方さんにとっては命に代えてもいいほどの場所。そんな場所をジェネシスシティの為、と言われて渡す人ではない。


「第一、玲方さん以外誰もいないじゃないですかぁ。もったいないでしょ。誰の役にも立ってないのならいらないでしょう?」

「俺がいるぞ。」


玲方さんが困ってそうだったので俺は割って入った。


「なんだお前…?」

「こいつはワシの弟子の斎月だ。『ノマド』として町の平和を守ってくれてる。その一員を鍛えているこの場は役に立っている。」

「ちっ…『ノマド』か。手出しづれぇな…。おい、お前ら。一旦帰るぞ。」


俺が出てくるとすぐに若いやつらは無駄に高級そうな車で帰っていった。所詮見栄だけのやつら。俺が出なくても玲方さんは十分一人で追い返せただろう。


「助かったよ。あいつらしつこくてな。」

「いや、良いよ。俺もあいつらは好けない。…あいつら何なんだ?」

「ジェネシスシティの中央にでっかいタワーがあるのが見えるか?」


玲方さんが指をさす方向には大きいタワーがあった。そういえばあの建物だけひときわ目立っている気がする。


「あのタワーはクロニクルタワーって言ってな。デカいだろ。邪魔なくらい。あそこに市長のフェルバル・クラリタってやつがいるんだ。」

「へぇ…知らなかったな。」


よくよく考えたらそれもそうか。ジェネシスシティだって自動的に進化していくわけではない。誰か指示役の中枢になるものがいなければいけない。それが市長ってことか。


「ワシは嫌いじゃないんだ。市長自体は。」

「そうなのか?てっきり嫌ってそうなもんかと。」

「まぁな、見たらわかったが、良いやつではあったのさ。腹は暗そうだがな。ただその取り巻きどもが嫌いで仕方ねぇ。若いもんや新しい流行は丁重に扱うくせにワシみたいな古臭いもんはテキトーにあしらいやがる。そういう態度変える奴がワシは一番嫌いなんだ。」


玲方さんがこんな怒っているのを初めて見た。申し訳ないが怒ったら怖そうだと最初思ったのだが全然怒らないのだ。そんな良い人が激怒するなんて、あいつら何しでかしたんだ?


「今度あいつらが来ても俺が追い返しますよ。」

「おう!頼もしいな!よろしく頼むわ。」


その一瞬、俺は、その一瞬だけ見た。見たような気がした。玲方さんが誰かに甘えるのを。もうかなりの歳だと思うのに、この人俺より頑強だし俊敏だし。だがその一瞬だけは、普通のおじいさんに見えた。俺も信頼されてきているということなのだろうか。

その日も同じように俺は玲方さんの道場で修練を重ねた。このころには俺はもう五つ目の技を作り出せていた。


「お前さんみたいなのがもっといたらなぁ…。」

「俺が…?」

「あぁ。根性、才能云々の前に人を助けようという気持ちがある。どんな形でもいい、恩返し、人助け、復讐。なんでもいいから強い気持ちがなければ人は強くならない。今までのもんにはそれがなかった。…最後にお前さんに教えられて、ワシは嬉しいよ。」


そんなこと言われたら俺も嬉しい。だが同時に玲方さんとこうして話して、鍛える時間も少ないことに気付き、悲しくもなった。


「そんなこと言わず、俺にもっと剣を教えてくれ。玲方さんも、『ノマド』も、国も守らなきゃならないんだから。」

「はん、大きなこと言うのは他の若いやつらとは変わらねぇな!よし、それじゃあ続けようか。」


その日も順調に修練は進み、俺は家に帰った。この日常が続くことはないと思って落ち込んでいたが、それより今を大切にしようと思った。それが一番だ。

だが、案外その日常が崩れるのは早かった。ヒビなんか元々入っていたようなものなのに、玲方さんのその背中の大きさに、見えていなかった。


次の日、俺はいつものように玲方さんの道場へと向かった。

稽古場に入ると…玲方さんが倒れていた。


「玲方さん!!!」


道場もかなり荒らされた形跡がある。誰が…。誰が玲方さんの大切な道場を…!


「うっ…うぅ…さ、斎月か。」

「玲方さん…誰がこんな事…。」

「あいつらさ…クロニクルタワーのやつらだ。あいつら、突然道場に何十人で押しかけてきてタコ殴りにしていきやがった。クロニクルタワーの連中という事は明かしてはいなかったがどう考えても…ぐっ…」

「と、とりあえず救急車を呼ぶ。」


俺はすぐに救急車を呼んで、玲方さんを病院まで向かわせた。俺は一緒に救急車へ乗ることはなかった。行くべきところがあるからだ。俺が守ると言ったんだから、これは『ノマド』の問題じゃない。俺の問題だ。クロニクルタワーで暴れて市長とやらに追放されても俺だけの責任なら『ノマド』に迷惑をかけることはない。


「…行くか、クロニクルタワー。」


俺が歩みを進めると、後ろに「三」人の気配があった。


「一人で行くのは…おススメしないね。」

「そうだよ、仲間外れにしないで!」

「俺の初仕事、思う存分やらせてもらうぜ。」


一度入ってしまった以上、俺は一瞬でも『ノマド』でないことなんてないと気づいた。

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