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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第十九話 剣術

 次の日


「嘘でしょまだ寝てる…。ユラくーん…起きなー。昨日は遅く寝かせすぎたかな…。」


俺は全く意識が覚醒してない中、グラの声がぼやけつつも聞こえる。聞き取る気のない耳、理解しようとしない脳、そしてもう朝だという現実を見ない目。つまり俺はまだ寝たい。


「はぁ…私もう外回り行くからね?散々起こしたからね!」


バタン!と大きな音を最後に、俺の意識はもう一度闇の中。仕方ないだろう。映画見てご飯食べて帰ってグラと話してたら気づけば寝たのは三時。

…今何時?

俺は気になって頑張って目を開けて時計を見た。


「…い…一時…」


お、おう…起きましょ。さっきのグラはお昼食べに一度戻ってきてたのか…。てっきり朝ご飯を食べて行く所かと…。俺は体を起こして着替える。正直誰も拠点にはいないのでパジャマでもいいのだが、一応だ。朝しっかりしなければその後の行動もままならない。…いやもう朝じゃないんだった。


「ふわぁあー…寝ぐせやばそう。」


俺はまだ開ききってない瞼を少し開けて、キッチンに向かおうとして立ち止まった。博士に挨拶…と思ったのだがそういえば昨日から、正確に言えば今日から留置所近くのホテルに泊まるって言ってたな。いちいちアムに会いに行くのに車を出すのがめんどくさいだとかなんだとか…。そのことを思いだした俺はキッチンへと足を向け戻す。

キッチンにはメモとご飯。チャーハンっぽい。

メモにはこう書かれている。


[ユラ君へ、あなたが起きたころ、私はもういません]


遺書かよ。


[ご飯おいてあると思うから食べて。冷蔵庫にフルーツがあるからそれも食べて。何かは忘れた。見て。]


アバウトだな。


[昨日は楽しかったね。それじゃまた起きたときに。追記:まさか昼まで寝てると思わなかったよ。よく考えたら二日連続で色々あったもんね。今日は休んでて。]


そんなありがたい手紙を読みながら俺は朝兼昼ご飯を食べる。最高に美味しい。お腹がすいてたから尚更。冷蔵庫の中のフルーツの正体はリンゴだった。

休め、とは言われたがそこまで疲れているわけではない。十分寝たし。それに俺はもう空を飛べるくらい炎の使い方が安定してきた。最近忙しくて結局まだグラのように外を回れていないのだが明日からはそうしよう。

今日しないのはグラに言っていないから。誰がどこにいるか、それを必ず全員知っておく必要がある。勝手に遠くまで行ってしまうと意思疎通できても合流が難しい。

ジェネシスシティを少し散歩するくらいなら許されるだろう。博士とアムの件がいつ解決するかわからないが、俺たち『ノマド』のすることは変わらない。


「俺も少し、被害者について調べておこうかな。」


アムがやっていないんだとしたら他に殺人犯がいて今も逃走中という事になる。調べて何か特徴が分かれば、外回りしているときに見つけられるかもしれない。


「ごちそうさまでした。…さて、とりあえず寝ぐせ治しますか。」


そうして俺はお風呂へと向かう。言い忘れていたがこの拠点お風呂共有である。つまりお風呂は一つ。それにそこまで広くもないので二人一気にが限界である。こんなに最適な家でお風呂が小さい理由は一つ。作った人がお風呂を必要としない博士だから。博士は元々お風呂ほとんど入らなかったそうだ。それを聞いても意外性は特にない。博士だからで納得した。今はグラに言われて無理矢理入ってるらしい。嫌いなのかと聞くとめんどくさい、と。リアリティのある返答で謎に納得してしまった。

洗面所で櫛を使い髪をとかす。この櫛はグラも使っていて、俺も使っていいと言われているものだ。だから綺麗な白髪が絡まってる…という事がないのがグラである。

鏡を眺めて暴走した髪を落ち着かせてる時だった。

ピンポーン、と鳴る事の珍しいインターホンがなった。俺はちょっと納得していない髪型のまま玄関へ向かい、戸を開いた。

そこには比較的背の低い青い髪の女の子が立っていた。小学生…にしては顔が大人っぽい。身長がコンプレックスかもしれないからそこは触れないでおこう。そしてなんかわかんないけどすっげぇおしゃれな服着てる。なんかわかんねぇけど。


「えと…ここ『ノマド』の拠点…ですかね。」


女の子はか細くも可愛い声でそう言った。顔もかわ…

俺はその瞬間自分で顔面をぶん殴った。


「え、えぇええ…!?ど、どうしました!?」

「すまない。邪念を払った。」


危なかった。俺にはグラがいるだろう。馬鹿か俺は。死ねばいい。どうせ死ぬならグラに空気奪われて死にたい。


「それで、『ノマド』に何用?」

「斎月ユラさん…って人いますか」


珍しい、グラじゃないのか。


「それは俺だが…。」

「あ、あなたが最…じゃなくて…。ユラさんでしたか!これはどうも…。」


おじおじとたじろぎながらその子は話す。これはあれか、ファンか。『ノマド』に入ってから少し、外にはほとんど出ず、先日の本屋での出来事も店内だったため注目されず、そんな俺にファン?ありえない。

そう思ってから俺は少し警戒し、その子をじろりと見る。すると後ろに背負っている物に気が付いた。


「…!それは…本か」

「え?あ、あぁ…はい。本ですが…いやそんなことより!」


その子はいきなり俺に近づき圧をかけてくる。近い近い。こんなところグラに見られたら終わる。


「ちょっ…何の用なんだほんとに。」

「私に、裏は任せてください!」

「裏…?」

「はい!ユラさん達『ノマド』は目に見える悪事を止めてください!私が他の、ユラさん達の能力を狙う人を倒しますので!」

「えーと…それは俺達と同じように人助けをしたいと?」

「違いますよ。私はユラさん達を守ります!」

「いや…えぇ…?」


それから解釈の不一致で争う事二十分、俺が折れた。


「わ、わかった、じゃあ『ノマド』とは関係なく、で俺達を助けてくれるのね?」

「はい!そうです!今日は意思表示に来ました!」


やっと納得してくれた。どうやらこの子は一般人を助けることよりも俺達『ノマド』を助けることに固執しているようだった。俺はてっきり『ノマド』に入りたいのかと思ったがそうではなかったようだ。


「それじゃ、私行きますね!」

「ちょいちょいちょい、名前聞いてないんだけど。」


この子も一応能力者なんだろう。本持ってるし。このまま帰すしかできないのなら少しでもこの子について知っておかなければ。


「あ、失礼しました。私は…えーと…阿戸炉あどろラグです!十三歳で…能力は『氷』!よろしくお願いします!」


その子は深々と頭を下げて、手をぶんぶん振りながらもと来た道を帰っていった。なんだったんだあの子…?能力が『氷』…博士と相性よさそうだ、なんて思ったがあの阿戸炉ラグと博士が並ぶとまるで親子だなと思い少し笑う。


俺は気に入っていなかった髪型をちゃんと直し、散歩に出かけた。時刻は二時半。

グラは大体七時前に帰ってくる。夜中も回りたいと嘆いていたが博士が止めている。まだ若い女の子を夜に出歩かせるのは危ないと。出歩くというより出飛んでいるのだが。代わりに夜は博士が全国のネットにつながっているカメラすべてをずっと監視している。博士は能力者でなくても『ノマド』に必要な存在だ。だが今その博士が不在だ。夜はどうするのだろう。


「このあたりの事も詳しくなってきたな。」


俺はジェネシスシティをようやく半分くらい回った。そうしてわかったのだが進化途中の街、というのに納得した。毎日少しずつ、なんとなくだが街並みが変わっているのだ。それは些細なもので…


「ここにこんな花あったか…?」


昨日はなかった綺麗な花壇ができている。意識しなければわからないような変化がこの町には常にある。面白い町だ。

歩いて、少し経つと何やら人だかりができていた。車道にはみ出そうで少し危ない。何をしているのかと見てみると…


「さぁーさぁ!皆さんお立合い。ここに一本の丸太があるのが見えやすかな!?」


そこには髭を生やした元気そうなおじいさんが丸太をもっていた。小さめの丸太だが頑丈そうだ。


「今からこの丸太を一刀両断!目を見放さないでくださいね、瞬きの瞬間に…はい!」


おじいさんが叫ぶと突然刀が宙から現れ丸太を真っ二つにした。周りからが驚きの声。実際俺も出してしまった。最近の手品はすごいもんだな。


「さぁさぁ次は…」


その時だった。遠くから叫び声、車の急ブレーキ音。俺が目を見ると…何やら車が暴走してこちらに向かってきていた。マズイ。多く人のいるここにあの猛スピードの車が突っ込んできたら…。俺は人混みから出て車を止めようとしたが…それよりも早くおじいさんが俺の前へといた。


「下がってな小僧。」


おじいさんが剣に手を置いたことだけがわかった。


「【無流一閃 衝波斬】」


おじいさんが何か言ったと思ったら目の前の車が真っ二つに。綺麗に人だかりを避け壁に…ぶつかることはなく端の方の人にぶつかりかける。


「くっ…【ブラスト】!!」


俺はとっさに真っ二つになった両方の車を炎で少しずらす。なんとか車は逸れ、人に当たることはなかった。乗っていた人は…


「はん…酒でも飲んでんなこれ。」


おじいさんが助けていた。なんなんだあの爺さん…動きが素人のそれじゃない。

そのおじいさんは助けた人をすぐに駆けてきたパトカーの前に投げ捨て、俺の方へと向かってきた。


「やいお前さん!すげぇじゃねぇか!」

「いや…あんたには勝てない。俺じゃあの車を止めることはできても中の人までは助けられなかったと思う。」

「謙遜すんな!ワシも少しミスっちまった。お前さんがいて助かったよ。」


その後、事情聴取をしようとして近づいてきた警察官に…


「『ノマド』なんですけど…。」

「あぁ、了解。あなた達も大変ですね。ご協力、ありがとうございます。」


と言われた。グラがどれだけ『ノマド』をジェネシスシティに知らせてきたかわかる一言だった。

俺は興味をおじいさんに移す。


「お前さん、うちに来ねぇか!教えてぇことがある!」

「俺も、聞きたいことがあります。」


それからおじいさんいついていくと、とんでもなくデカい道場に着いた。だが外からでもわかる通りに、人がいなかった。


「ふん…ワシについてこれたものは、もう甘ったるいこの世の中にはすくないんだってよ。」


おじいさんはその現状に不機嫌そうに道場の門をくぐる。俺もそれについていく。


「そういえば自己紹介が遅れた。俺は斎月ユラ。『ノマド』のメンバーだ。」

「へぇ、お前さんみたいな若いもんが『ノマド』なんかい。ワシは玲方加崎れいがたかざきだ。『零型無流』という剣術の師範をやっていた。」


やはり、この人は剣の達人か。誰が見てもわかる。あの剣はあんな道端の芸レベルにしては少し完璧すぎた。


「…玲方さんは魔本を持っているのか?」

「あぁ、これだろう?」


そういうと玲方さんは服の内側から本を取り出した。どれだけの人が今こうして本をもっているんだ…。


「でもこれがあの剣術の理由じゃない。」

「そりゃそうだろう。ワシの剣技は三百年磨かれてきた流派を六十年極めた。そんなワシでも使いこなせているとはいえないがな。」


想像もできない年月の歴史を感じつつ、どれくらいかはわからない。そんなデカい年数、数学か歴史の世界でしかそうそう聞かないのだから。せいぜい六十周年の老舗、とかだったら若干聞いたことが…いやあんまりないか。

そんな流派に俺は、一目見て心奪われてしまった。男心くすぐられる。…その剣技に、俺の力を乗せたらどうなるのかを。


「玲方さん、俺に…」

「剣を教えてくれ、だろ?いいぜ。ワシもお前さんの力に興味がある。」


にんまりと悪そうな笑顔で俺にそう言った。なんとなく、これが満円の笑みな気がした。

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