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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第十八話 淡々

 残り面会時間三分。とりあえず暗無アムは無罪を勝ち取ってくれたら仲間に、『ノマド』に入ってくれると言ってくれた。


「そろそろ時間か…。アム。しばしの別れだな。」

「何をカッコつけて言ってるんだ。」

「良いだろ、言ってみたかったんだ」


暗無アムは馬鹿にしたような顔で博士に言った。チームに入ったら、さらに騒がしくなりそうだ。主に博士が。…いや今も結構うるさいか。


「それじゃあ、とりあえず『アニマリ』とかいう店に行ってみるよ。事件が起きていた時間、君は働いていた。それを証明してくれる人物がいるならもう勝ったようなものだよ。」

「…ミナヅキの慢心は危ないから信用はしない。」

「どういう意味だ。」

「楽勝、みたいな顔して平然と失敗してたじゃないか。」

「最初の頃だろ?それに博士と呼んでほしいと…」

「ストップストップ!もう…すぐイチャつくんだから。三十分の半分は二人同士の会話だったよ。」

「うぐっ…」

「す、すまん…。」



博士も暗無アムもうなだれた。博士はわかるがこの男まで反省させるとは。グラすごいな。最初は少し暗無アムにビビりはしていたがどういった人間かわかると強気に出だした。…こう言ってしまうとなんだかグラが弱そうな人ばかりに強く出ているように聞こえるが多分全人類の九割グラには敵わないだろう。なんというか、空気の圧がすごいのだ。


「グラ、博士と暗無アムは久しぶりなんだから、仕方ないだろ。」

「そんなの、ここから暗無さんが出てからでいいでしょ!」

「それは…そうなんだが…。」


俺も敵いませんでした。


「はっはっは、愉快なやつらだ。ミナヅキ、こいつら面白いな。」

「だろう?」

「あぁ。ますますここから出たくなったぜ。おい、ユラとグラ。俺の事はアムでいい。わざわざ長ったらしい苗字言わなくていい。」


アムも俺達を少し信用しだしてくれたようだ。その時、留置所に人が入ってきた。


「おーいお前ら。もう時間だぞ。」

「柊、待っててくれたのか。」


丁度三十分。柊さんがわざわざ教えに来てくれたのだ。なんか怖そうな見た目の人全員優しい。


「ミナヅキ、アニマリに行ったらマサキって女がいるはずだ。そいつと話せ。」

「了解」


それから俺たちは刑務所を出て、アムが捕まる前まで働いていた場所。『アニマリ』へと着いた。どんな場所かは、何となく予想してたのだが…。

外見は絶対入りたくない感マシマシだった。正直行きたくない。


「んー…?何ここ。」

「紳士が女の子に会いに来る場所だな。」

「…グラは車で待ってた方がいいんじゃないか?ユラも。」

「私、興味あるから行く。」

「グラが行くなら。」

「うーん…あまり未成年を連れてきていい場所ではないんだが…。まぁそうだな。私たち、チームだもんな。」


博士は半分諦めた目をして店内へと入った。店は準備中のようだが、ドアは開いていた。まだ夜と呼ぶには時間が早いが…。


「おじゃましまーす。」


グラがずかずかと先陣を切って入っていく。すると怖そうな全身黒スーツの男が数人現れた。煙草を吸ってるものもいれば店内の掃除をしているものも。上下関係があるようだ。なんだか偉そうなやつが小柄なスーツの男を足のように使っていた。


「…なんだ、ガキと女じゃねぇか。おい、嬢ちゃん。あんたが入るにはまだ早ぇえよ。さっさとお母さんのとこ帰んな。」

「私たち、暗無アムって人の事を…。」


グラがそう言った瞬間だった、男がグラに向かって煙草の息を吹きかけて、一気に首を掴もうとした。しかし、


「なっ…!?」

「…野蛮な人だね。」


その男の手どころか煙まで、グラに届くことはなかった。多分俺達をアムを犯罪者に嵌めたやつらだと思ったのだろう。だが、空気を操るグラの防御性能は、一般人はおろか、俺達能力者も侮れない。


「お前ら…なんなんだよ。なんでアムさんの名前を…!」

「やはり彼はここで働いていたようだな。失礼。名乗るのが遅れた。私たちは政府公認の対犯罪者組織。『ノマド』だ。名前を聞いたことがあるのなら、話は早いのだが。」


博士はグラをかばうように前に立ち、数人の男たちに向かって言い放った。なんだかとってもかっこよく見える。普段がマイナスだとプラスになった時のギャップがすごい。


「お前らがあの…?」

「おぉ、あのと言われるほどまでになったぞ、ユラ。」

「わかったから、前見て会話しろ。」

「もう…冷たいな。ユラは。」


そう言って博士が顔を前へ向けた瞬間…男の一人が博士に向かって殴りかかってきた。いや、正確に言えばそう動こうとしたのだ。だが、突然倒れてしまった。なんなんだこの人…。今日かっこよすぎだろ。


「はぁ…頼むよ。用件くらい言わせてくれ。今の夜の店はこんななのか?」

「お、お前らが変な真似するから!」

「仕掛けてきているのはそっちだろう。どうしてこんなピリピリしてるんだ。」

「何が『ノマド』だ!どうせお前らがアムさんを…!」


一人の下っ端らしいやつが騒ぎ出した時、奥の方から人影が現れた。


「ちょっとちょっとぉ…何騒いでるのよ。私の店で。」


眩しいくらいのぎらっぎらな服を着た女性が現れる。これ光当てたら全部反射するんじゃないかってくらい。多分この人オーナーだな。見た目で分かる。というかこの見た目で違ったらそれはそれで困る。


「んん~?あんた…まさかミナヅキかい?…あぁ…アムちゃんが言ってたのはこういう意味ねー…。」

「これは驚きだ。私の事を知ってるのか?」


奥から現れた女がミナヅキ、という博士の昔の名を出した瞬間、周りの男たちがざわめきだした。そんなに有名だったの?この人。


「アムが言ってたよ。自分がいなくなったときは見たらすぐにわかるやつが訪ねてくるはずだって。」

「アムが…?『ノマド』の事を元々知ってたのか。」

「さぁねぇ…ほら、あんたたち。この人は客人だ。ゴミ片付けて、ちょっともてなしてやんな。」


女性は倒れた男性の事を指さして、喋る。酷いな…。予想通りと言えばそうなのだが、結局はそういう店なんだろう。グラが意気揚々としているのが不思議でたまらない。まだまだグラの事を知れてないな…。


「ねぇねぇ、ユラ君!あの服、私に似合うかな!」

「グラは何着ても似合うよ。何も着てなくてもいい。」

「後半いらないかも。」

「はい。」


それから、さっきまで殺意丸出しだった男たちがびくびくと怖気ながら俺たちに椅子を用意して、俺達にはジュース。博士には酒を出されたが、博士はその酒を見ない振りした。


「あー…私名乗ったっけ?」

「いや、まだ聞いてない。」

「私はマサキ。舞って咲くって書いてマサキね。いやぁそれにしても驚いたね。誰が来るかまではアムのやつ教えてくれなかったから。まさかあの伝説の女とは。」

「少し過大評価がすぎる。今は私の話は良い、一つ聞きたいことがあるんだが…。」

「これでしょ。」


そう言ってマサキはUSBメモリを博士に手渡した。


「これは…?」

「アムがここで、被害者の死亡推定時刻に働いてた時の映像。これでしょ?ほしいやつ。」

「そうだが…随分用意がいいな?」

「まぁねー。ニュース見てすぐ準備したさ。警察には言わなかった。信用してないからな。アムが信用した人間に渡すって決めてたのさ。」


アムは相当頭が切れるらしい。だが妙に引っかかる。ここまでをアムは想定していたのか?


「それに私たちだってアムには助かってたのさ。あいつはやってない。んなこと一瞬でも関わればわかる。そうだろ?」

「…そうだな。ありがとう。助かったよ。」

「いや、こっちこそ悪いね。男は喧嘩っ早くて嫌になる。ほら行きな。時間ないだろう。そこのお若いお二人さんが長々いていい場所でもないしね。」

「あぁ、助かったよ。じゃあ行こうか、二人とも。」


マサキはやけに優しく、俺達を出迎え、そして見送ってくれた。なんだか怪しいが、博士はそれが当然と言った顔で運転している。話がうまく行きすぎてないか?そりゃ少し揉めはしたが…。


「博士、大丈夫だよな。」

「何がだい?」

「裁判だよ。勝てるのか?」

「私が負けるわけないだろう?私たちは真犯人を探す必要はない。今かかってるアムへの疑念を全部水に流してやるだけさ。」


博士は勝ち誇った顔をしてそう言った。本当に大丈夫だろうか…。


「まぁまぁユラ君!博士を信じようよ。とりあえず、今日は帰る?」

「あぁ。この先は私一人でやるよ。君たちは町の平和と、別に能力者関連の事件が起きるかもしれないから。そっちは頼んだよ。そうだな…いちいち車で移動するの面倒だし、警察署近くのホテルに少し居座ろうかな。」

「えぇー!博士いなくなっちゃうの?」

「別に君たち二人でも大丈夫だろう?それに二人っきりだから思う存分いちゃついてもらって構わない。」

「…そういう事はもっと落ち着いたらって決めたんだってば。ね、ユラ君。」

「そういうことってのは具体的に?」

「二人して私をいじらないで!」


今後の方針も決まったところで、俺たちは拠点に戻ってきた。時間はもう夜。昨日から色々あった…今日はさっさと寝たい。


「ただいまー!」

「おかえり。」


誰もいない拠点に向かって挨拶をしたグラに横から挨拶を返す博士。微笑ましい。

俺も入りたい。だが日本語にはただいま、おかえりの先はないのだ。


「ただえり。」

「…ユラ君どしたの。」

「疲れたんだろうよ。」


無理矢理入ろうとしたら憐れまれた。


「よし…それじゃ私は夜に出てくから。準備するよ。」

「そんな急ぐ必要あるのか?明日の朝でも…。」


俺がそういうと博士は俺に顔を近づけてきて…


「ユラはなめてるね、裁判。例え勝てる戦いと言っても人の人生がかかっているんだ。そう人生をかけたギャンブルなんだよ!」

「それはそれで言い方良くないぞ。」

「んん…まぁそうだな。だが手を抜く気はない。」


そう言って博士は自分の部屋へと向かった。なんだか楽しそうに。やっぱり楽しんでるじゃないか。


「ユラ君おなかすいた?」

「いや、そこまでは。」

「じゃあさ、今から映画みにいかない?!」

「どうしてそうなった。」


疲れてないのかこの子。元気だな。唐突に冬矢を思い出した。そういえば冬矢も無尽蔵テンションだったな。俺、全身運動神経無尽蔵テンション人間と友達だったのか。今思うとよくやったな俺。そう考えたらグラの要求が軽く見える。


「でも博士が頑張ってるのに俺達が行っていいのか?」

「いいの。私たちができることなんてないんだから。博士ー!」

「どうした?」


なんだか色々と衣服を持っている博士が歩いてきた。一つ異様な雰囲気を漂わせている服があると思ったらあの着ぐるみパジャマだった。外でも着る気なのかその服


「今からユラ君と映画行ってくる!」

「え、ずるい私も行きたい…。あれか、『戦慄の中の旋律』見に行くのか。私も見たいぞ。」

「違うよ、『散歩で三歩歩いて恋をする』見に行くんだよ。」

「じゃいいや。いってらっしゃい。」


映画のタイトルを出した瞬間博士は一気に興味をなくし、大量の衣服を持って帰っていった。どちらかと言ったら博士の言っていたほうが気になる。


「名前的に恋愛系か。」

「うん。帰りにユラ君とキスするところまでが私の一日のスケジュールだから。」

「言っちゃったら雰囲気ねぇー…。」


それから俺たちはジェネシスシティの映画館で映画をみて、外でご飯を食べた。グラの料理と同じくらいのおいしさ。この場合グラがすごすぎる。


「グラって料理誰に教わったんだ?」

「お父さん。」

「マジかよ。」


意外な事実に驚き、俺たちは帰路をたどる。そのあとの事は、神のみぞ知るってことで。

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