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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第十四話 約束

 自分の家から『ノマド』の拠点に帰り、俺はグラを探す。だがグラの姿はどこにもなかった。どこか出かけているのか?そう思い時計を見ると18時。いつも通りならグラはもうご飯を作っている頃なのだが…。キッチンには姿がなかった。だが料理仕度をしている様子ではあったのでさっきまでここにいたようだ。部屋にいるであろう博士に聞くことにした。


「博士。」

「おぉ、おかえり。真君と冬矢君は元気だったかい?」

「あぁ。相談にも乗ってくれた。」

「それは何より…だが肝心のグラは調味料が足りないと言って出かけてしまったよ。」

「そうか…。」


残念だ。今すぐに話したかったのに。


「…グラが帰ってくるまで、少し見てもらいたいものがあるんだ。」

「何をだ?」

「ちょっとここ座ってくれ。」


博士はそう言って座っていた椅子から立ち上がり俺に座れと催促してきた。何が何だかわからないまま、俺は言われた通りに椅子に座った。博士は何も言わず、椅子の後ろに立ち、机の上にあるボタンを押した。すると…椅子ごと床が下がり始めた。


「おぉ!?この部屋まだ地下があるのか!?」

「ロマンがあるだろう?見せたいのはさらに地下の部屋なんだ。」


暗い穴の中をどんどん下がっていくと、全面真っ白な部屋に着いた。暗闇からこの部屋なので目が眩しい。


「ここは…。」


目が慣れると壁一面本棚であることに気付いた。何せすべてが真っ白なため、棚が見にくい。本は一冊も入ってなかったが、正面の棚には本が三冊だけ入ってることに気付いた。


「博士、この部屋は?」

「ここは悪事を行う能力者から私たち『ノマド』が本を奪った際に、保管する場所だ。ほら、この二冊。見覚えがあるだろう?」


そう言われ見せられた本は学校で俺が倒した『穴』の能力者の本。そして昨日倒した『鉄』の能力者の本だった。どこに行っているかと不思議だったがここにあったのか。俺はもう一冊の、見覚えのない本が気になった。


「この本は?」

「これさ、見せたかったものは。」


博士はさっき見せてくれた二冊の本をしまい、身元のわからないもう一冊の本を丁寧に取り出した。その本は灰色の、かなりぼろぼろな魔本だった。まるで燃やしたかのような風貌である。魔本は基本的にどんな状況下でも不思議なことに綺麗に保っている。だがこの本は違う。


「この本はな…グラが初めて倒した能力者の本なんだ。まだ『ノマド』もなく、私が本すら拾っていなかった頃だ。そうだな…時期的にはグラが能力を使いこなしだした時から、グラがお偉いさんを助けるまでの間かな。グラが能力を隠そうとしていた頃だ。」

「初めて能力者を…ね。」


きっとそのころは俺がまだ真と冬矢と能力について調べていたころだ。グラもきっと俺と同じころに本を手に入れたに違いない。それなのに俺よりも遥かに早く実践をしていたというのか。どうりで能力の扱いがうまいわけだ。あんなに安定して空を飛んでいるのに違和感があったのだ。


「この本はどうしてこんな…?」

「…魔本にはすべて閲覧できるわけではないが、情報が書かれているだろう?私は最近少し読める範囲が増えて、そこに書いてあったことなんだが…。能力者の能力を他の者に譲渡する条件は知っているかい?」

「確か…お互いの任意があった場合と能力者が死んだときに自動的に一番近くにいる者に譲渡される…。」

「そう。そしてここで追加の情報だ。この本が燃えたり、潰したり、欠けたりして、本として存在しなくなった時、どうなると思う?」

「それは…。」

「持ち主の能力者が死ぬ。」

「…は?」


博士の言ったことを理解するまでに時間がかかった。この本を失ったら…死ぬ?そんな馬鹿な…。


「その情報を本を読むまでもなく知ってしまった能力者が一人いる。」

「それが…グラ。」

「あぁ。グラはまだそのことを知らなくてね。初めて倒した能力者の本を…もう二度と使えないようにとその場で燃やした。その瞬間、目の前の能力者はどんどん体がぼろぼろに崩れ去ったらしい。グラはすぐに本の火を消した。もちろん殺すつもりはなかったからだ。だが、鎮火したころにはもうその能力者は…。」


グラが、どうしてここまで『ノマド』の活動に本気なのか。俺は最初、そういう使命感に駆られている優しく、正義感の強い人だからだと思っていた。だが違ったのだ。きっとグラは罪悪感から動いている。もう自分のように不本意で人を殺してしまう人を増やさないために。


「ここにいたんだ。」


その時グラが部屋に入ってきていた。あの椅子は下がっていたのにどうやって、と思ったがグラが飛べることを思いだした。


「グラ…。」

「その本…てことは話したんだ、博士。あの話。」

「同じ仲間として、伝える必要があると思ったのでな。」

「…私に許可も取らずに、ユラ君に話したんだ。」

「すまなかった。だがグラは話さないと思って…。」

「話してほしくなかった。」

「だがユラにグラと同じ過ちはさせたくない。そうだろ?」

「そうだけどさ!…でも…あぁもう!博士のバカ!」


グラがこんなにも怒っているところを俺は初めて見た。買ってきたものであろうレジ袋を落として、グラは飛んで行ってしまった。


「…馬鹿、か。そう言われたのは人生でも数少ないのだがな。」


博士は落ち込みながらも、グラの落とした袋を拾った。


「博士、俺行ってきます。」

「…あぁ、すまないね。私が人づきあいが苦手なばかりに。」


俺は慣れないが炎を出し、空を飛んで博士の部屋へと戻った。とりあえず玄関まで走ったが、グラの靴はある。もしかしたら履かずに飛んでいったのかと思ったが、グラの部屋から泣き声が聞こえてくることに気付いた。


「グラの部屋…そういえば言ったことなかったな。」


俺はグラの部屋の前まで行って、ノックをする。もちろん返事は帰ってこないだろう。だからと言って無理矢理入り込めるほど俺は芯が太くない。

どうしようか迷っていると、ドアにぽすん、と何かが当たる音がした。


「…入って。」


入れてくれるのか。


「…おじゃまします…。」


中に入るとそこはぬいぐるみまみれ…かと思いきや意外にも綺麗な想像通りの女の子の部屋があった。真の部屋のように参考資料や漫画、小説は少なく、ぬいぐるみ多めなのがグラらしい。

入ってすぐにバスケットボールのぬいぐるみが落ちていた。さっきのぽすん、という音はこれをドアに投げた音か。

部屋を見渡すとベットで毛布に全身包まりながらも、手だけだしてデカいウサギのぬいぐるみをぎゅっとしてる謎の生き物がいた。なんだあれ。


「…グラ、未知の生命体になってるぞ。」

「…。」


返事はない。ただの屍か?俺はバスケットボールのぬいぐるみを拾って、壁際に置き、ベットに近づいた。


「グラ、一つ、俺の自分勝手ながらも言っておきたいことがある。」

「…なに。」

「悪かった。すまないと思っている。」

「…ユラ君が謝る必要は、ない。」

「さっきの話の件もだが、最近グラ俺に冷たかっただろ?なんか…態度がよそよそしいというか。俺が何かグラの気に障るようなことをしたのかと思ってるんだが…。」

「…きゅう」


小動物の鳴き声みたいな変な声が聞こえたと思ったら、次には毛布に包まれている未知の生命体のため息が聞こえてきた。


「はぁ…真、ごめん。」

「ぐ、グラ?」

「ユラ君、聞いてください。」

「うん…?」

「私は、好きな人ができたのですが、その人は真面目で、『ノマド』の一人としてこの先も人助けを本気でやっていく勢いの人です。なので私は邪魔をしないようにと前みたいにガンガン絡んでいくのは止め、普通に接しようと思っていたのですが…。…ユラ君?聞いてる?」


そう言って毛布の中からグラが顔を覗き込ませてきた。俺はと言えば、顔を両手で全力で隠していた。


「なんでそんな顔赤くなってるの…?」

「…好きな人に、好きな人と言われたからです。」


あー…俺は、いやもうこれはグラも馬鹿だな。俺もグラも馬鹿だ。博士が一番賢いよ。うん。大人だったよ博士は。


「…えっと。」

「とりあえず博士に謝りに行きませんか、グラさん。」

「…わかりました。」


俺は今のこの状況からとにかく離れたかった。人にあまり関心を持つことのなかった、初めての恋。彼女は人助けの事しか見ていないから、この恋は諦めるとか言って。いざこうなって結局このざまだ。情けない。

グラがもぞもぞと毛布から出てくる。顔を見るとまだ少し泣いていた。


「グラ、目。」

「うん…ありがと。」


俺がハンカチを渡すとグラは受け取って泣いていた感情を拭きとった。ナイス俺。ハンカチを常備していてよかった。男がハンカチを使わない理由、それは女性の涙を拭くため。真がよく見せてきたクソつまらないあの恋愛小説の主人公が言っていたことが今なら理解できる。

グラについていこうとすると、


「んや、良い。私一人でだいじょ…今のこれは冷たくとかじゃなくてその…」

「わかった。行ってきな。」

「…うん。」


そのあとの二人の会話は知らないが、また泣いていたグラの頭を優しくなでている博士を見てもう大丈夫だとわかった。


「はぁ…ご飯作るか。」

「立ち直り早。」

「おなかすいたし。すぐできるからちょっと待ってて。」


グラはさっき買ったものであろう調味料を使って料理を再開した。俺が座って待っていると、博士が耳打ちしてきた。


「あの調味料、なんでわざわざ買いに行ったかわかるかい?グラなら別のもので代用したって美味しくはなるのに。」

「…それ話してグラに怒られない?」

「うっ…やめる。」


博士は口をチャックで閉める仕草をして自分の部屋へと帰っていった。鈍感すぎる俺も、不器用なグラもそうだが、人の事を想ってなんでも話してしまう博士も博士だ。誰かの事を想ってやっている行為だから、悪くは言えないのだが…。


「博士はしゃべりたがりだから困っちゃうよ。」

「聞こえてたのか。実際、なんで買いに行ったんだ?」

「それは…ユラ君が好きな味…これが一番近いから。」


俺はまた顔を赤くする羽目になった。聞かなきゃよかった。


「はい、できたよ。」

「今朝は一緒に食べてくれなかったけど。」

「いじわる言わないでよ。食べよ、一緒に。」


そうして俺とグラは少し遅くなってしまった夕飯を食べた。グラの味は変わらず、俺が好きな味だった。なんで俺の好きな味知ってるんだろうと思ったが、そういえばバックに幼馴染がいたんだった。


食べている最中、グラが話しかけてきた。


「ユラ君、私たち、りょ…両想いじゃん?」

「お、おう。そうだな。」


お互い震えながら話している。他から見たらさぞ滑稽に見えていることだろう。


「ただ…その、つ、付き合うとかはまだやめない?」

「あぁ…それは俺も思っていた。」


俺たちは若い青春を謳歌する者である前に能力を使って、国を守ることを決めた能力者だ。恋愛ばかりにうつつを抜かしてはいけないだろう。


「だから、最低でもデートするとか一緒に同じベットで寝るくらいにしておこうね。約束だよ。」

「それどこが最低なんだ?」

「…キスの先はまだって話。」

「…ハイ。」


そのあとは何も話さず、黙々と二人食事をした。会話なんてできるものか。全く、恥ずかしい。


「ふぅ…ごちそうさま。美味しかったです。」

「おそまつさまだよ。そう言ってもらえるために頑張ってるんだから。」


グラはガッツポーズをしつつ、皿洗いをしだした。


「俺がやるよ。」

「ううん、いいよ。ユラ君は座ってて。…あ、他にしたいことあったら別にとどめないけど…。」

「いや、今日はグラといたい。」

「そ、そっか。…お風呂も一緒に入っちゃう?」

「…攻撃したつもりなんだろうがグラ、お前が一番ダメージ受けてるぞ。」

「…うぅ。」


グラは相変わらず、不器用だ。でも攻撃を仕掛ける勇気がある。そんなところがなんだかんだ一番好きかもしれない。


「ラブラブな雰囲気をぶち壊してすまないが少し話したいことがある!」


その時、博士が何やらノートパソコンをもって全く申し訳なさそうにしてなさそうな顔で入ってきた。


「…何。」

「グラ、その顔やめて。傷ついちゃう。博士、その顔トラウマ。」

「ごめんごめん、冗談だよ。」

「表情変わってないよ?」

「グラ、博士いじめないの。」

「はーい…。」

「それで、何の話だ?」

「これを見てほしい。」


博士が持ってきたパソコンには一つのニュース記事があった。


「えーっと…『悪による悪事、能力使いの男、暴走して逃走。犯人は「無罪、冤罪だ」と叫んで悪事認めず』…。新しい能力者の情報か。」

「これを私たちが倒して警察に渡せば良いんだね!よしユラ君レッツ…」

「待つんだグラ。もう外も暗い。それに私はこの男を倒すんじゃなく、説得してほししいんだ。」

「説得…?悪事を認めろってか?」

「そうじゃない。仲間にならないか、とだ。」


考えてもいなかった博士の言葉に、俺とグラは目を見合わせた。

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