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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第十三話 思考

 次の日、俺は『ノマド』の拠点で目を覚ました。昨日は大変な一日だった。隣町の書店で能力者が暴れて、グラはケガをして病院に。俺は後処理で忙しく。最終的には店内に残った鉄も得体が知れないからという理由で俺が拠点に持ってくる羽目になった。置く場所もないので博士に渡すとなんか喜んでた。自分の車の色を青と黄色のシマシマにするような人だ。そりゃ喜ぶだろう。いつも通り猫の着ぐるみパジャマでぴょんぴょん跳ねながら喜んでたので相当嬉しかったようだ。


「ふぁ~あ…博士はあれ何に使うんだろうなぁ…。おっと、もうこんな時間か。」


今日はジェネシスシティの外の町の俺の家に戻るつもりだった。まだ俺が『ノマド』に入ってから一週間くらいしか経っていないが、二、三日は帰っている。空きっぱなしにするにはもったいないからな。真や冬矢に話したいこともいっぱいある。主に変な博士の話なのだが。だが今日は昨日の事件について話せる。真は俺が危ない場所で戦っていた話は嫌がるだろうが冬矢は興味津々に聞いてくれるだろう。

…そしてもう一つ。俺は二人に、特に真に聞かなきゃいけないことがあるのだ。

それはというと…

俺は部屋を出て、キッチンへ向かう。この時間ならグラが朝ご飯を作ってくれているはずなのだ。そう、その朝ご飯を作っている人について、少々問題が起きている。


「おはよう、グラ。」

「…おはよ。私もう食べたから。一人で食べて。」


グラはそう言って颯爽と部屋から出て行った。まるで俺が来たから部屋を出るように。問題というのはこれである。なんか昨日からグラが冷たいのだ。昨日病院から戻ってきたときのことを俺は思い出す。


ーーー


夜、俺は事件の後片づけを終え、自分の部屋で帰りの遅い博士とグラの二人を待っていた。テレビを見ると本を襲撃した能力者、そして俺達『ノマド』についての話題が多かった。これで少しでも『ノマド』の存在が知れ渡ったらいいのだが。


「俺達の存在で、悪さを考える能力者が一人でも減ればな…。」

「ただいまー、ユラ。ちょっと手伝ってくれー。」


玄関の方から博士の声がして、俺はその声に向かう。すると荷物を多く持った博士と足を不自由そうにしているグラがいた。


「なにそれ。」

「車を出す事も中々ないから。少し色々買ってきたんだ。悪いな。遅くなってしまった。この段ボール運んでくれ。」

「了解。…ってこれ水かと思ったら違うな。なんだよこれ。」

「薬品。危ないから慎重にな。」

「何買ってきてるんだ…。博士の部屋に置いとくぞ。そういえばグラ、足大丈夫だったか?」

「大丈夫。」

「歩けるくらいでよかっ…。」

「うん、そうだから。ついてこなくていい。一人で歩ける。」


グラは急ぎ足で自分の部屋まで歩いて行ってしまった。足も痛むだろうに。


「なんか冷たくね…?」

「うーん…今日は疲れたんだろう。死にそうにもなったらしいじゃないか。まだグラもユラも若いんだ。あまりこういう事にはならないよう、私も頑張らなきゃな…。」


ーーー

 昨日の夜はそれで解散になった。グラを病院に送る前には普通に話していたと思うんだが…。俺は何かしてしまったのだろうか。だとしたら謝らねば…。でも理由も知らず謝ったって駄目だろう。と、いうことで。


「真に相談だ!女の子とほとんど関わることのない人生だった俺には女の子の事何もわからん!」


グラの作ってくれた朝ご飯を食べながら俺はそう決めた。相変わらずグラのご飯は美味しい。俺も一人暮らしが長かったからそれなりに自炊することが多かったのだがグラには負けた。丁寧さが俺には足りないのだろう。…まさかそれが原因?


「何を朝から大声で悲しいことを言ってるんだ君は…。」

「博士か。おはよう。珍しいな朝起きてるなんて、しかも二日連続だ。」

「最近は少し忙しいからな。あんまり寝てないんだ。」


寝ぼけ眼の博士は冷蔵庫からコーヒーを取り出して飲む。博士はアイスコーヒー派だ。なんでも猫舌なんだとか。見た目も舌も猫の博士。変を通り越してもはや愉快である。


「今日は家に帰るんだろう?真君や冬矢君によろしく言っておいてくれ。」

「おう、わかった。夜ご飯には帰るよ。」

「そういえばさっき廊下ですれ違ったグラが変な顔をしていたが何かあったのか?」

「変な顔…?なんか昨日から少しグラが冷たいんだよ。博士も見ただろ?」

「え、大丈夫か…?毛布をいくつか出そうかな…。」

「そっちの冷たいじゃないわ。態度、態度が冷たいの。」

「そうなのかい?私にはいつも通りだけど…ユラ君何かしたのか?」

「わからないんだそれが…だから今日二人に聞いてくる。」

「…あぁ、なるほど。」

「なんだ?」

「いや、なんでもないさ。とりあえず行ってきなよ。私は当分水を差すのはやめるから。」

「?」


博士はよくわからないことを言って自分の部屋へと帰っていった。多分だがグラが怒っている理由がわかったのだろう。あの博士がわかるようなことをわかれない俺はこの先やっていけるんだろうか。とりあえず食べ終わった皿を洗って、仕度をして俺は自分の家まで向かった。

まだ安定して空を飛べないのと、グラと違って炎は危ない。なので結局いつも通り電車で帰る。早くなんとかして能力者らしく家に帰りたいものだ。


電車に揺られ、歩き、家に着いた。約一時間半。少し遠い。グラなら飛んで十五分ほどらしい。グラにとって、この世の物件ほとんどが駅から近い状態だと思うと羨ましい。


「ただいまー…って誰かいる訳…。」

「おかえり。」

「…なんでいるんだ、真。」

「今日土曜日だし、暇だったから。」

「自分ちでいいだろ。」

「良いじゃん。誤差誤差。」

「アバウトすぎる。」


真には俺の家の合い鍵を渡している。どうせいないのなら使わせろと冬矢と真が言ってきたからだ。防犯対策にもなるしいいか、と思ったのだがこいつら自由すぎる。冷蔵庫や部屋にお菓子、アイスが補充され出したり。自分たちの趣味の物を置いたり。挙句の果てには家具のレイアウトまで変わってやがった。もはや俺の家と言えるのか。だがすべて迷惑どころか家がどんどん明るくなっていくため何も言えない。すまなかったな家、俺が住んでて。


「まぁ立ち話もなんだし、入れば。」

「俺の家なんだよ。」


パジャマ姿の真に部屋に招かれた。俺の家なのに。

真は着替えてくるからくつろいでてと言っていなくなった。俺の家なのに。

冬矢の好きな漫画や筋トレ道具に猫の本。真の好きな恋愛小説や難しそうな参考書。

前の状態とは変わりすぎている自分の家のリビングにどこか落ち着かない。

俺の家なのに。


「本はまだいいとして筋トレ道具は邪魔だ…。」

「ただいま。何?ユラも筋トレ?」

「…しようかな。」

「そうね、これからは沢山戦うことになるかもしれないしね。昨日みたいに。」

「昨日の事件見たのか?」

「逆に見ないほうがおかしい。SNSはその話で一杯よ。見飽きたくらい。」


そう言って俺にスマホを見せてきた。確かに昨日の話の関連が多い。


「『美少女ヒーローグラの躍進』…って俺は?」

「そういえば結構探したけどユラの話は少なかったかな…。」

「俺が最後倒したんだぞ…。」

「まぁ世間は美少女を求めてるから」

「なんかおっさんみたいになったな。」

「ん?」

「真さんも十分美少女ですはい。」

「全く…それで、今日は何しに帰ってきたの?私たちの顔見に?」

「それもあるが今日は相談事がある。」

「相談、なら冬矢もいたほうがいい?午後から来るけど。」

「いや、真に聞いてもらいたい。」

「…わかった。」


真はそう言って冷蔵庫からお茶、棚から二つコップを持ってきた。手つきが完全に家の者だ。こいついつから俺の家に…。


「はい。」

「ありがとうございますね真さん、この家に住んで長いのですか?」

「ざっと四日は。」

「帰れよ、家に。親心配するだろ。」

「ユラが寂しいから帰れないって言った。すぐ信じてくれた。」

「普段優等生の言葉を疑う余地なし!」

「そゆこと。それで?何か困ったことでも?」


真はどこから持ってきたのか丸眼鏡をかけてなんだかカッコつけだした。なんのつもりなのだろう。とりあえず乗るか。


「真先生…昨日からグラがなんだか冷たくて…。」

「グラが?あの子誰にでも楽しそうに接する子だよ?」


いつの間にか真とグラはかなり仲良くなっていた。お互い呼び捨てるほどには。グラのガードはないようなものだが真は結構硬い。初対面や顔見知り程度にはあまり素を出さないのだがグラには結構早く懐いた。グラの魅力のおかげだろう。


「そうだよなぁ…。でもなんか態度が…。博士には普通なんだ。」

「博士さん…ってあのへんな?」

「そうあのへんな。」


俺が博士に関して話すことが全部変なところばかりなのでまだ会ったことのない冬矢と真は博士を変な人としか認識していない。すまない博士。あなたが偉大で苦労してきていることを、俺はしっかりわかってるつもりだ。もう一度言う、すまない。


「…昨日の事件について詳しく教えてくれたらわかるかも。」

「それもそうだな。昨日までは普通だったから。」


俺は真に昨日の事件について話した。書店に鉄の能力者が現れたこと。グラがまず一人で突入したこと。俺がそのあと助けたことから後処理、グラが病院に行ったことなどすべて話した。話していくうちに、真の顔があきれ顔になっていくのがわかった。


「で、今朝起きて俺は…。」

「その先良いから。関係ないでしょ。…なんとなくわかったよ。グラがユラに冷たい理由。」

「おぉ!流石真だぜ。頼りになる。」


俺がそういうと真は心の底から呆れていますとでも言うかのような顔で俺を見てからクソデカため息をした。


「手出さないって言ってたのに…。いやでも…うん、そっか…」

「なんだって?」

「とりあえずユラ、あんたが悪い。」

「お、おう…。やっぱりか。でも俺は何を…。」

「はぁ…。まぁ、グラは多分冷たく接したくて接してるわけではないと思うよ。あの子不器用だからね。多分別の理由があるんだよ。うん、多分。当たらないでくれ私の考え。…いや無理があるよねぇ。」

「なに一人で話してるんだ。でもそうか…何か別の理由…。俺はどうすれば…。」


そう言われてもわからない。本当に俺何をしたんだ?いや逆転の発想だユラよ。何もしてないことが何かしてしまったんじゃ…何を言ってるんだ俺は。


「一個確認したい。今の話とは関係ない話。」

「グラの話にか?」

「そう。いやグラの話ではあるんだけど。ずばり聞きます。」

「は、はい。真先生。」

「グラのこと、ユラはどう思ってますか。」

「え?えーっと…と、共に戦い、守り合う仲間、友です!」

「…もっと簡単にでいいよ。役に入りすぎ。」

「あ、そうか?そうだな…まぁ守りたいって言うのは本音だ。グラは本気で守ってやりたい。仲間としても、友達としても俺はグラの事が好きだから。」

「1人の女の子としては?」

「恋愛的にってことか?最初はそう思った。可愛いし、外面だけじゃなくて中身も。だがグラの内面を知っていくうちに、好きより申し訳ないの方が上回った。人を助けて、守ることに真面目なんだ。そりゃバカがつくくらい。ドもつくかも。」

「ドバカ真面目はもう悪口じゃない?」

「少しふざけた。だからまぁ、そんなグラを見たら不純なことを考えている俺はダメ人間だって。バカがつくくらい。ドも来るな。」

「ドバカダメ人間。」

「悪口だぞそれ。…そう考えてから、俺はグラを本気で仲間として見るようになったよ。」

「なるほどねぇ…。結局顔か…。」


そう言いながら真は上を見上げた。


「俺帰ったらグラにちゃんと聞くよ。で、謝る。」

「…そうだね。多分グラも悩んでる。」

「え…?」

「グラも、同じだと思うよ。だからちゃんと話してきなさい。」

「…はい!真先生!」

「それじゃちょっと掃除でもしようか、この家。遊びすぎたし。」

「そうだな。俺の家なんだがな。」

「ユラの家だから掃除するんでしょ、ユラが。」

「うん…?うん…そうだな。…ん?」

「ほらほら、まずは玄関から。」


なんかよくわからず俺は俺の家の掃除をして、拠点に帰った。掃除の後半には冬矢も手伝ってくれた。いやぁ、真と冬矢は俺の家の掃除をしてくれて、ほんとにいい友達だ!…納得はいっていない。

そんなことより、俺は考えなければいけないことがある。


「今は…グラの事を考えなきゃな。」

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