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「暴走した友人を介錯する話」』

作者: 結晶蜘蛛

 オレーー白井しろい 鏡真きょうまは虚ろであった。

 人と会話などをしてもなにか言い知れぬ渦のようなものが渦巻くが、それ何なのかわかりづらい。

 まるでくしゃみを我慢しているようだ。

 失感情症というらしい。感情はあるのだが、その感情の種類を判別するのが苦手なようだ。

 心当たりはある。

 オレはダイヤモンドに属する『鏡』の能力者だ。

 能力者カラード――ダイヤモンド。 

 光や反射に関連する能力者。

 相手の能力を模倣したり、光を用いて分身したりできる能力を持っている。

 だから周囲の人間の意見や感情を模写しているだけで今一つピンとこなかった。

 よく近くの相手の動きを真似して怒られたもんだ。

 そんな時に歌が聞こえたんだ。


 ――初めてだった。

 心のうちがぽかぽかと温かくて、これが安らぐということかと、初めて知った。

 歌の主は姫路ひめじ りつ。音符型の髪飾りが特徴的なクォーツに属するカラード能力者だった。

 すごく明るくて誰にでも話しかけて、悩んでたり落ち込んでるやつがいると歌って元気づけてくれる優しい奴だ。


「……どうしてオレに声をかけた?」

「じーっと見てるから寂しいのかなって」

「そういうわけではないが……でも、その歌はすごく心地がいいと思う」

「ありがとう! 君はいい人だね! 私は歌で人に感情を伝えることができるんだ!」


 律は笑顔でオレの手をつかみ、上下に振りまわした。

 それからというもの律はオレを友人と呼んでくれた。

 律は人との境を簡単に飛び越えれるやつで、一度喜んでくれたからもう友人だと言ってくれた。

 オレはそれが心地よかった。

 いまも感情の判別は得意じゃない。

 他人の感情が流れ込んできて、すぐにオレ自身の感情と混じるってしまうからだ。


「お前はすぐに人と仲良くなれるな」

「うん! だって悲しんでる人には元気になってもらいたいじゃない」

「なぜだ? 他人は他人だろう」

「なぜって……その人がきらきらに輝いてるほうがいいじゃない!」

「……なるほど」


 悲しいというのは痛みに似てるというのは知っている。

 ならばオレは律を悲しませたくはない。

 だから、善くあろうと決めたのだった。



 オレが生まれ育ったジェムジンゲートの施設はそういう能力者の子供が集められた施設だ。

 カラード能力者に対応するため、同じくカラードの能力者を集め、組織員として雇用するための施設だ。

 しかし、カラード能力の制御だけではなく、一般的な学校と似たようなカリキュラムも行う。 

 これは一般的な社会でも活動できるように常識を身に着けるためだ。


 オレは律や石砕いしくれ 静香しずかとよく共に行動していた。

 静香はオレよりも先に律と友人になった少女だ。

 明るいが無鉄砲な律と感情豊かで無鉄砲な静香の二人だが、オレは嫌いではなかった。

 そして、今は絵の授業を受けている。

 ……オレは能力の特性上、真似をするのが得意だ。

 しかし、あくまで真似どまり。それ以上のアレンジが苦手だ。

 たとえば絵を精密に書き写すことは得意だが……正直、写真と変わらない代物しかできない。


「君は小器用でうらやましいね」

「……そうか?」

「たしかに鏡真は器用だよね。でも、私は静香の絵も個性的で好きだよ」

「失敗作をほめられてもうれしくないよーう」


 だから静香のように味のある絵を描くのは苦手である。

 律を書いたのだろう。目が大きすぎ、顔の輪郭線は揺れてゆがんでいるが……オレも正直、個性的で味があっていいと思う。

 これはオレには決してかけない、彼女の絵なのだから。

 誇ってほしい。

 割といじけやすい静香を元気づけるため、オレはほめることにした。


「いいや。オレも静香の絵はいいものだとおもう」

「……ほんとう?」

「すごく味があるからな。額にいれて飾りたいぐらいだ」

「そうかなぁ?」


 石砕が笑みを浮かべだした。

 どうやら成功のようだ。


「律の髪飾りが音符なのかフラットなのかよくわからなくなってるが」

「おい」

「線がぶれすぎて顔の輪郭がわからなくなってるのも」

「おい」

「目より鼻が大きいのもそう見えてるからに違いない。しかし、それを見事に書き写せてえらいぞ」

「おまえ、本当は罵倒したいんでしょう!? 喧嘩なら買うからな!? 僕が不器用な気にしてるの知ってるんでしょう


 そして静かに胸倉をつかみあげられた。

 律は顔を手で覆っている。

 ほめたはずなのに、どうしてこうなった……。



 カラード能力者は千差万別だ。

 元が鉱物だからか人間以外にも猫や犬など動物、蜻蛉などの虫……場合によって桜や雨といったものも存在する。

 そして、同じく年齢にも関係ない。

 だから未成年のオレたちがカラード能力者らしき事件の調査に別の学校に転校することもある。

 もともとジェムジンゲートはカラード能力者を隠蔽・保護し、世界の平穏を保つための組織だ。

 特別手当が出るためか静香は喜んでいたし、律も新しい友人を作れたらうれしいなって、わくわくしていたようだ。


 だから、


「律――なんで僕をかばったのさ!」

「静香……無事だったのね。よかった」


 次々と生徒が失踪する事件。

 そこにいたのは人食いの怪物だった。

 人間に紛れるために複数の生徒を食らい、その顔を奪った怪物とそれと組んだ青年に騙されてしまった。

 騙し討ちで静香が狙われ律がそれをかばって負傷して――オレは怪物と相対した。

 静香はエメラルドのカラード。今は傷を治せる能力を持つ静香に律を任せるしかない。



「逃がさないよ。その歌の能力、ぜひ欲しい……彼女の調律と合わせれば、僕たちを誰も追えなくなる」

「……律の能力を使い洗脳する気か」

「ああ、彼女の歌は脳に直接作用できる。そうすればこれまで以上に狩りをしやすくなる」

「……させん」


 淡い発光と共にオレは複数人に増える。

 ダイヤモンドのカラード――分身能力。

 虚像を投影した分身たちだ。

 相対する黒髪の女は両手を膨らませ、巨大な黒い毛皮の獅子の手を出現させる。

 オレも同じく相手の能力を模倣し、腕に黒い毛皮の獅子の爪を出現させる。


「邪魔よ、退いて」

「どかして見せろ。お前の逃避はここまでだ」


 そして、オレたちは戦闘へと踏み込んだ。



 結論から言うと律は死亡した。

 人食いの爪には肉片がつけられており、それに内部から食われて死んだ。

 そして、静香はしばらくふさぎ込んだ後にどこかへ失踪してしまった。

  ……行方は気になる。


「……静香はどこに行ったのだろうな、律」


 形見としてもらった音符型の髪飾りに話しかける。

 答えはない。

 静香はもともと「自分は不器用」と気にしすぎていたきらいがある。

 律が死んだ直後は部屋に閉じこもりでてこなかった。

 ……正直、オレにかけられる言葉はなかった

 律が死んでも「死んだか」としか思わなかったオレが静かになんと言葉をかければよかったのだろうか。

 正直、今でも検討がつかない。

 だが、それでも、律からもらったものをオレは忘れない。

 「善くある」のだ。

 だから、昼は静香の行方を聞き込みしながら、任務をこなして人を助けていった。

 


 そして、静香の行方について報せが入った。

 高濃度のクリスタルダスト鉱石――賢者の石の事件にかかわっていた。

 もともとクリスタルダストは隕石で地上に落ちてきて、その塵が風にのり地球上に広がったものだ。

 その鉱石のうち高濃度のものが集まっていてもおかしくはない。

 ジェムジンゲートと敵対するカラードのテロ組織:ドラコーンが賢者の石を争奪しているときに横から現れた静香は賢者の石を奪取したらしい。

 その追跡にオレは志願した。

 いまだに静香を止める言葉は思いつかないが、それでも何か力になれるかもしれない。

 そして――相対した。


「ねぇ、見て、鏡真! 私、こんなに強くなったんだよ!」

「ずいぶんと……変わったな」


 静香はだいぶ変わっていた。

 戦闘形態になった静香は百近くある腕が背中から生えていた。

 なんとなく授業で習った千手観音を連想した。

 もともと彼女は生命を操るエメラルドの能力者だ。

 人体を活性化し、傷をいやす優しい能力だったはずだが……。



「くっ……」

「君はずいぶん弱くなったね。模倣も分身もつかわないの? いつもの無神経な言葉どうしたのさ」

「……友人を傷つけたくはない。ともに戻ろう静香。

 その賢者の石を取り除く方法はわからないが、罪をつぐないまた再び一緒に歩けるよう日がくるはずだ」

「やだよ。もう何もできない僕じゃないんだ。ねぇ、知ってる? 賢者の石で増幅された僕はほかの人の才能を手の形で奪うことができるようになったんだ。これで僕はなんでもできるし誰にも負けないんだよ!」

「律がそんなことをしてるってしったら悲しむ」

「律はもういない。だから僕が律の分までがんばるんだ」


 本来、静香が使えないはずの重力を放ってくる。

 黒い重力弾がオレの右手をひしゃげさせる。

 激痛を感じるが、だが倒れるわけにはいかない。

 しかし、退避するときに音符型の髪飾りを落としてしまった。


「ねぇ、僕と一緒にきてよ鏡真。律の分まで一緒に世界を回ろうよ」

 

 静香が腕を差しのべてくる。


「それでこれからも人から奪っていくのか?」

「強くなるためには仕方ないじゃないか」

 

 静香がこちらに歩み寄ってくる。

 音符型の髪飾りに気づいてないようで踏み、砕いた。


「大丈夫だよ。僕が律の代わりになる。手始めに彼女の喉をいただいていくから。これで僕も彼女になれる」

「……そうか」


 ああ、そうか、静香はもう戻れないのか。

 そう悟ったオレの周囲が淡くきらめき、オレの分身が現れる。


「――オレはお前を止める。お前の逃避もここまでだ」


 ここから先は――倒すための戦いだ。



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