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徘徊老人レース

作者: 雉白書屋

『さあさあさあ、今夜も素晴らしい走者出揃いましたっと、おおっと! ははははは! フライングです!

四番、エトウさん、まだですよ! さあ、気を取り直して、あっと今度は二番のキクチさん、お戻りくださいねー。

さあさあ、ああ、わははははは! もう六番のスナガワさーん、勝手に動かない動かない! よろしくお願いしますよホント。スタッフさんもちゃんと抑えててください! ああ三番のハラさん、お漏らしですかぁ! さあさあでは、よーい、ああ、もうはい! スタート!』


 ある時、徘徊老人たちのレースが開催された。

 第一回目、その番組予告から不謹慎だと世間から大いにバッシングを食らったそのテレビ番組のワンコーナーだったが、高額な介護費用に喘ぐ参加者の家族にギャラが支払われる他、観てみれば不思議と胸を打つと評判になり第二回、三回と続けられた。

 徘徊老人が自宅から、かなり遠く離れた場所で見つかったというニュースをディレクターが見てこの企画を思いついたのだが、第一回目はかなりグダグダであった。

 参加者が認知症ゆえ、コースやルール説明など理解できないことを考慮し、真っ直ぐの距離を走る単純なレースであったにもかかわらず、立ち止まり、座り込み、引き返しなど、仕方がないとはいえ意図が上手く伝わらなかったのだ。

 よって第二回目からは一般募集ののち、簡単なテストを受けてもらうことになった。その結果、歩くことに長けた八名が選出された。

 そして、第四回目からは放送時間を大幅に拡大。スタッフ付き添いのもと町に出て、生放送中にどれだけの距離を進めるか競争。コースなきレースになった。

 疲れも忘れ、無心にただひたすらに歩くその姿に、どこか修行僧や開眼者のような神聖さを感じ、実際に見かけた者の中には自然と手を合わせる姿もちらほら。テレビの前の視聴者も、胸にきてグッと手を握る。

 八回目からはそれを意識した衣装。そして九、十と回を重ねるごとに放送時間は増えていった。やがて密かに賭けの対象になり、また子供の憧れ、将来の夢となり、その人気っぷりには政府も注目した。

 第十四回目からは高齢化の波もあり、参加者を大幅に増員。

 第十八回目は科学技術が進み、安価な介護アンドロイドの普及により、個々の介護疲れや費用など介護問題などが緩和され参加者がやや減るかと思いきや、貧困層からの参加はむしろ増えた。また、この時期からアンドロイドたちのレース番組等も人気。流行に。そちらも回を重ねるごとに大規模かつ、刺激的になものへと変化していった。

 第二十二回目は樹海脱出レースに。

 第三十回目はそれに加え、砂漠横断などバリエーションが増えた。

 第三十八回目は地雷原横断。

 第四十四回目は認知症か否か問わず八十歳以上が対象に。

 第五十二回目からは七十歳以上対象に引き下げとなり武器の使用も許可。

 第六十回目からは高齢者に加え、犯罪者や生活保護者なども。

 第七十回目からは上記に加え無職も。

 

 そして記念すべき今夜、百回目は抽選によって選ばれた者。そう、全人間が対象となった。

 革命を成功させたアンドロイドたちによる人間競馬である。

 耳栓と目隠しされ、涙と尿を垂らし処刑アンドロイドから闇雲に逃げ惑うその姿は弱者を軽んじ、虐げた者たちの当然の末路なのかもしれない。

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