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弟が人間を辞めました  作者: 氷雨 蒼
1章 弟が人間辞めた
8/21

8話 事件の正体

次は家庭科室に行こうと思ったが、さっきから背後に誰かがいる気配がする。俺が後ろ向くとそこには誰も居ないが、何者かにずっとつけられている。


俺がちょくちょく後ろに向くと誰も居ないが後ろについてきているのは明らかだ。ついて来ている何者かを釣るためにある作戦を思いつく。


「家庭科室はここだな」


作戦を実行しようかと思ったが、理科室の次に見ないといけない教室に来た。中に入り教室内を軽く歩き、家庭科室を出る。


ここから俺は、ある作戦を実行する。とゆうかつけ回れた時に有名なやり方だが。俺が意図的に誘い出しその正体を知れば良い。次の目的地は音楽室だ。ここから音楽室までの距離は少しある。気づかれないよう少しずつ足のスピードを上げていく。


後ろをついて来ている何者かは、しっかり後を付いてくる。ここでポイントは、足のスピードをほんの少し上げるだけであって走ってはいけない。ここで走ってしまったら、逆に誘われている事がバレてしまう。


「音楽室はここだな。・・・それで俺の事をついて来ている奴出て来い」


音楽室に入り奥まで入って行き、その正体を知る。それと同時に、サイレントを鳴らす。これで四宮さんはここに来るはずだ。それまでの間、俺は何とかして時間を稼ぐ。


「あれ〜?いつから気がついてたの?」


ここ数日で聴いた覚えのある声に似ている。


「夜の学校には生徒は来ないはずなのに、何でいるの?」

「おm!・・・山口さん!?」

「うふふ」


目の前に現れたのは、この学校の生徒会長で昨日学校案内をしてくれた山口さんその人だった。


「山口さんどうしてここに居るんですか?」

「私?この時間になると、夜の学校を徘徊して人を驚かせているだけよ」

「驚かす?」

「そう。楽しいわよね。誰も居ないはずの教室から、学校を見回りしている警備員とかを驚かすの」


山口さんは本当に楽しそうな顔で思い出しながら話していた。それを聞いた俺は、山口さんが連日続いた事件の正体である事が分かった。


俺がここで気になったのは、あんなに優しく接してくれた山口さんがなぜこんな事をしているのかが気になった。


「山口さんどうしてこんな事を?」

「うん?それはね。人格の入れ替わりとでも言えば良いかしら?」

「人格の入れ替わり?」

「私・・・いえ、私達には表と裏みたいに二つの側面が存在しているの。それは、急に代わる事が多くよく体調を崩すわ」


この言葉でそういえばと思い出した事がある。悠真さんや先生が山口さんの体調面で心配していたことを思い出した。あれはただ病み上がりではなく、人格の代わる代償だったのか。


「もう1人はもう長くは持たないわ。だから、私は人格を代わって生き残るための準備をしているの。邪魔はしないでくれる?」

「準備?」

「もう1人の私には無くても、私には必要な事よ。それは——」

「人の感情を喰らう大喰らいか」


山口さんの後ろから人影見える。この声は四宮さんだ。


「人の感情を喰らう?」

「山口は人の感情を喰らうことで、自分を生かして来たんだ」


四宮さんから放たれる言葉は、俺の中で記憶に新しいことを連想させる。


「人ならざる者。他種族」

「正解だ、水野交代だ。ここからは私が奴を倒す」

「!待ってください!」

「なんだ?」

「山口さんを殺さないでください!!」


山口さんの正体が分かったからにはほって置けない。俺は一度失ったんだ。その時と同じ過ちは起こしたくない。たとえ、救える手段がなくてもずっと苦労して生きて来た人を救える力があるのならば俺の命を犠牲にしてでも助けたい。


「分かった。だが仮死状態まではやるからな」


四宮さんは俺の意思を汲み取ってくれたのか、殺しとまでは行かないでくれた。


「そこに私の意見は無いんですかね?まあいいです。私はここで居なくなるわけには行かない!」

「水野!頭を守れ!」


四宮さんが俺に命令をした次の瞬間、山口さんを中心に暴風が起こった。音楽室に飾られている歴代の音楽家の写真が宙に舞っている。


「あははは!」

「ここまで侵食していたか」

「山口さん・・・」


四宮さんは着ている白衣のポッケから、小瓶を出して中の物を飲み込む。


「“八仙乱が1人『研究者』の四宮小春!私の研究は世界を変える!”」


高らかに四宮さんは宣言すると同時に、人とは思えないスピードで山口さんの間合いに入った。これには流石に驚き、山口さんはすぐさま後ろに後退しようとするが四宮さんの方が動きが早く拳が腹に入る。


「ぐふっ!!」


山口さんは勢いよく音楽室の壁にぶつかる。それを観ていた俺は、壁が壊れるぐらいの勢いだったのにも関わらず壁が壊れていない事に驚いた。


「予想はしていましたが、ここまでとは思いませんでしたよ?」

「ちっ!今ので気絶してくれれば楽だったんだがな」

「次はこっちの番です!」


壁に勢いよく吹き飛ばられて、流石に無傷とは言えず多少のふらつき共に立ち上がり、山口さんは動き出した。


山口さんはまるで異世界の魔法のような力を使って、眼に見える風の刃を無数に放つ。四宮さんは無言で、向かってくる風の刃を滑らかに避け続け白衣のポッケからまた何かを取り出し、次第に大きくなったのと同時に風の刃にぶつけ相殺し始める。


「刀?」


風の刃を相殺している物は、刀のような形をしていた。暗くてはっきりとは分からないが、おそらく武器なのだろう。


「そんななまくらに負けるか!」


山口さんは、風の刃の数と同時に1発1発も威力を上げる。そして、少しずつ前に歩き始める。四宮さんもキツくなって来たのか、風の刃を相殺しきれずダメージを喰らっている気がする。


「これはなまくらでは無い!これは私の研究成果の一つだ!」

「!?」


刀の刀身が伸びて、鞭のような形に代わり風の刃を全て相殺させた。俺はただ観ていることしか出来なくて何か出来ないかと探していると誰かが肩を掴んだ。


「ようやく見つけましたよ。水野君」

「先生!」

「ここに居てはあの人の邪魔になってしまいます。私が来た道がまだ使えるのでそこから離れましょう」

「でも」

「ここはあの人に任す事しか出来ないです。さあ早く行きましょう」


先生の言っている事は本当だ。ただ俺は、このままこの戦いから離れてもいいのだろうか。たとえ、力が無くても山口さんの暴走を止められないのか。


「埒が明かない!このままこの場所ごと、吹き飛べ!」

「そうはさせん」

「水野君、早く手を!」

「俺は、こんな所で逃げてたまるものか!」

「水野君!!」


俺は身体を動かし、この場から逃げるのでは無く山口さんの所に行って手を伸ばす。


ごめんなさい。西原先生。俺は、この戦いをどうしても逃げないで自分自身で止めたいみたいです。


俺の体が、だんだん軽くなっていき速度も上がっていく。


「水野!?」

「山口さん!!」

「・・・!?」


だんだん軽くなっていった身体の速度を制御出来ず、手を握るつもりが抱きついてしまった。俺は抱きついてしまった物はしょうがないとして、山口さんの顔を見る。


「山口さん!もう辞めましょう?本当はやりたく無いですよね?ずっとずっと辛いんですよね?」


山口さんの体の力が抜けていく。後もう少し押しせばもしかしたら。


「山口さん!ずっと体を崩したまま、今まで誰にも言わずに生活して来たんですよね?それをみんなに話しませんか?1人で抱え込まなくていいんです。みんなに自分の状態を言って、その苦しみを少しは楽にしませんか?」

「うっ・・・」

「俺はその最初の1人になります。だから、1人で抱えないでください」

「うっ・・・うっ」


山口さんの涙が俺の肌に当たる。それをキッカケに、俺の体から何らかの力を感じる。


なんだ?心の底から、何かが溢れて来る。なんだろう。とても暖かく、包み込んであげられるようなそんな感じをしたので溢れて来る物に身を任せて山口さんを包み込む。


「これは!」

「四宮様これは?」

「分からない。ただ分かるのは、水野が山口の暴走を止めたって事だけだ」


しばらくすると山口さんの呼吸音が変わり、何も話さなくなる。山口さんの顔を見ると疲れ果てて眠ってしまったようだ。


「四宮さんと先生。山口さんは眠ったようです」

「・・・はっ!とりあえず保健室まで運びましょう。四宮様ひとまず、この場はお任せします」

「了解した」


俺は山口さんを抱え、先生の後についていき保健室に向かった。


***


音楽室に残った四宮小春は、音楽室の復元作業をしている。流石に壊れてしまった物はすべて直すには、業者を頼まなければいかないが自分で直せるところは直してしまおうと作業していた。


「先程のあれはなんだっただ?」


私はずっと作業を続けながらその事で頭がいっぱいだった。水野が山口を抱きしめて声をかけ続けた事で山口の暴走が止まり、水野は何らかの力を使ったかのように見えた。


あいつの話では、水野の弟が予言の子だと言っていたし水野には他種族の血が流れているだけで発現はしないと小さい頃に断言していたはずだ。


だが、水野が何らかのカを使った時のアレは間違いなく他種族としての力だ。弟のようにこんなに時差で発現する他種族なんて聞いたことがない。


「一度、水野家の家系図を見直す必要があるな」


水野兄弟の他種族の力について、調べ検証をし真実を突き止めようとする研究者としての本能が、体を疼き始めた。


「これからはもっと忙しくなりそうだ」

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