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明智学園裏クラブ  作者: 涼
9/15

推理対決

■ 推理力抜群の転校生


冬の訪れを感じる11月下旬、肌寒い日が続いて外を見ると紅葉の真っ盛りの時期になっていた。2学期もそろそろ終わりに近づいていた頃、1年5組に新しく転校生が編入してきた。転校してきたのは牧瀬悠人という男子生徒で、身長は170cmほどの細身の体型で、少し髪の量が多いストレートヘアに七三分けをして前髪を分けている。目はきりっとしていて、ちょっとしたイケメン男子といえる。なにより父親が探偵事務所を開業していて牧瀬悠人自身も自称IQが高いと言っており、ときどき警察の捜査に協力しているくらい抜群の推理力があるという。転校した早々から学園内の1年生の生徒達から注目を浴びている。


そんな牧瀬悠人が編入してからすぐに目をつけたのが学園内で噂が広まっている影郎アカウントの存在であった。そもそも影郎アカウントの正体は裏クラブのメンバー以外には知られていない。ところが牧瀬悠人は自分の推理力を発揮して影郎アカウントの正体を見破ろうとした。そして、影郎アカウントの正体は学園の生徒会が裏で活動しているのではないかと疑いはじめたのだ。そこで、牧瀬悠人は休憩時間に1年2組の教室へ行って如月瑠衣に声をかけた。


牧瀬悠人「君が生徒会副会長の如月瑠衣さんだね!?はじめまして。僕は先日転校してきた1年5組の牧瀬悠人です」

如月瑠衣「あなたが牧瀬悠人さんなのですね。はじめまして。わたくしは生徒会副会長の如月瑠衣です」

牧瀬悠人「如月さん、少し君と2人で話がしたいので、お昼休みに屋上へ来てもらってもいい?」

如月瑠衣「わかりました。それは構いませんが、どのようなお話でしょうか?」

牧瀬悠人「影郎アカウントと生徒会のことについてだよ」

如月瑠衣「影郎アカウント・・・何のことでしょうか?」

牧瀬悠人「そこでとぼけるんだ。まあいいさ。昼休みにゆっくり聞かせてもらうことにするよ。それじゃあ、昼休みに屋上で!逃げたら認めたことになるのでよろしく」


そう言うと牧瀬悠人はさっさと教室から出ていった。如月瑠衣は内心、胸がドキドキして体が少し震えていた。噂で聞いたとおりの推理力で、影郎アカウントと生徒会の関係性について、既に気づかれている可能性が高い。だからといって、今すぐに生徒会長である琴宮梓颯や堀坂向汰に相談することはできない。たとえ気づかれていたとしても、あくまで白を切るしかないのだ。結局、如月瑠衣は昼休みになるまで悩み続けて落ち着かない状態だった。


昼休みになり、如月瑠衣が屋上へ行くと牧瀬悠人が石段に座りながら購買部で買ったパンを食べて、パックのオレンジジュースを飲んでいた。そして「如月さん、こっちだよ」と呼びかけた。如月瑠衣が近づいていくと、牧瀬悠人が立ち上がって「昼休みにわざわざ呼び出して悪かったねえ」と言った。


如月瑠衣「わたくしに何のお話があるのでしょうか?」

牧瀬悠人「さっきの休憩時間に言ったけど、影郎アカウントと生徒会のことについて聞きたいことがある」

如月瑠衣「生徒会のことでしたらお答えできますが、わたくし、影郎アカウントについては全くわかりませんの」

牧瀬悠人「あくまで白を切るんだ。いいかい?僕はこの学園の影郎アカウントがあらゆる難しい問題を解決させたと聞いた。しかし、そんな難しい問題を解決するには生徒達の情報と探偵並みの調査が必要になる。そして、かなりの推理力を持った人間がいないとできない。この学園内でそれほどの情報を集めれるとすれば生徒会しかないんだ。そして、如月さんはパソコンや機器に詳しく探偵並みの調査をしているはず」

如月瑠衣「それは、あくまで牧瀬君の憶測ではありませんの?証拠などございませんよね?」

牧瀬悠人「如月さん、かすかに眼鏡の後があるけど、目が悪いわけでもないよねえ?それに爪がかなり短いのはパソコンのキーボードを打つの邪魔になるからじゃないの?相当なパソコン技術があって、脆弱な学園のパソコンをハッキングして生徒情報も密かに盗み出したんじゃないのかなあ」

如月瑠衣「そ、そのようなことはしておりませんわよ」


如月瑠衣は牧瀬悠人の推理がほぼ当たっていたので動揺していた。このまま話を続けているとぼろを出して気づかれてしまう。


牧瀬悠人「ねえ、如月さん。君は相当に可愛くて美人なのに、どうして影郎アカウントで危ない調査なんかしてるの?」

如月瑠衣「だから、わたくしは影郎アカウントとは無関係だと言っているではありませんか!」

牧瀬悠人「そうやって素直じゃないところも可愛いねえ」


突然、牧瀬悠人は如月瑠衣の目の前に立って顎を右手で掴んでキスをした。如月瑠衣は驚いて硬直してしまった。


如月瑠衣「と、突然、何をしますの?こ、これがわたくしのファーストキスになりますのよ・・・酷いじゃありませんか」

牧瀬悠人「僕は如月さんに一目惚れをしたからキスをしたくなったんだ。僕の気持ちは本気だよ。それが何か悪いの?」

如月瑠衣「こ、こんなことはお互いの同意があってするものではありませんの?」

牧瀬悠人「如月さんに同意を求めたら一生キスなんてできないんじゃない?それより、そろそろ素直になってくれない?」

如月瑠衣「素直になるとはどういうことですの?」

牧瀬悠人「影郎アカウントで受けている問題を推理しているのは誰なの?」

如月瑠衣「わたくし、本当に影郎アカウントとは無関係なのです」

牧瀬悠人「まだそのことを隠すんだ。僕にはもうわかっていることだからそれはもういいかな。ただし、僕は影郎アカウントの問題を推理している人と推理対決がしたいと思ってる」

如月瑠衣「推理対決ですか?」

牧瀬悠人「ちょうどこの前、学園で転落事故があったよね。影郎アカウントと僕のどちらが早く、その事故の真相を掴めるかの勝負だよ」

如月瑠衣「それとわたくしに何の関係がありますの?」

牧瀬悠人「もし、僕がその推理対決に勝ったら、如月さんと正式に付き合って僕の彼女になってもらう」

如月瑠衣「そんな勝手なことできませんわ」

牧瀬悠人「少し強引かもしれないけど、そこまでしないと影郎アカウントの関係者が本気で推理しないでしょ?」

如月瑠衣「そのようなこと、わたくしにはわかりませんわ」

牧瀬悠人「でも、如月さんに一目惚れして好きになったことも、彼女になってほしいことも本気だから、それだけは信じてほしい」

如月瑠衣「それは・・・わかりましたが、わたくしにも考える時間がほしいです」

牧瀬悠人「それじゃあ、改めて宣戦布告するのでよろしくね」


そう言って牧瀬悠人は立ち去って屋上のドアを開けて階段を降りていった。


しばらく屋上で如月瑠衣は困惑しながら立っていた。牧瀬悠人の推理力は抜群で影郎アカウントのことはほとんど気づかれているのだ。それに突然、キスをされて一目惚れしたと告白された。しかも推理勝負をして負けたら彼女にならないといけないかもしれない。牧瀬悠人の好きだという気持ちは嫌ではないが、恋愛経験の少ない如月瑠衣とって、この先どうすればいいのかわからないというのが本音だった。とにかく放課後、生徒会室で裏クラブのメンバーに今回のことを相談するしかないと思った。早速、如月瑠衣は琴宮梓颯にメールをして、放課後、堀坂向汰も生徒会室に呼んでもらうようにお願いした。



■ やる気のない推理


放課後になり、生徒会室には琴宮梓颯と如月瑠衣が先に来ていた。それからしばらくすると、生徒会室のドアからノックする音が聞こえた。琴宮梓颯は「はい。どうぞ」と言った。ドアが開くと堀坂向汰がフラフラと歩きながら生徒会室へ入ってきた。そして、ソファーに座って「ふぅー」とため息をつくと、カバンの中からスナック菓子とペットボトルのコーラーを出した。裏クラブのメンバーが揃ったところで、如月瑠衣は昼休みにあった出来事について説明した。


琴宮梓颯「その転校生、牧瀬悠人君ってずいぶんと大胆なことしてくるのね」

如月瑠衣「その通りですわ。それに最後まで隠し通していましたが、牧瀬君の推理はほとんど当たっています。もう影郎アカウントの正体に気づいているようですの」

琴宮梓颯「なるほど。それは少し困ったことになったわね。牧瀬悠人は探偵事務所の息子さんで、警察の捜査に協力しているくらい推理力は抜群なのよね?」

如月瑠衣「それと、わたくしと正式に付き合うという条件で先日起こった学園で転落事故の真相について推理対決をしたいとおっしゃっておりました」

琴宮梓颯「それって向汰君と推理対決をするということになるわけね。向汰君、どうするつもりなの?」


ソファーに座ってペットボトルのコーラーを飲みながらスナック菓子をボリボリ食べていた堀坂向汰が口を開いた。


堀坂向汰「推理対決なんてバカバカしい・・・推理は競い合うものではないんだよ。それに、頭の良い人間が現れたら影郎アカウントのことはすぐに気づかれることくらいわかっていたことだったから、この際、ほったらかしておいていいんじゃないの?」

琴宮梓颯「今回のことについて無視しておくのは構わないけど、裏クラブの存在に気づかれるとまずいのよ。それにこのままだと如月さんがあまりにも可愛そうだわ」

堀坂向汰「推理対決は別として、如月さんは牧瀬悠人のことをどう思ってるの?本気で告白されてファーストキスまで奪われたんだよね?」

如月瑠衣「正直、告白されたことについては嬉しい気持ちもありましたわ。でも、まだわたくしの気持ちはハッキリしていませんの。それに推理対決という形で彼女になるか決めるなんて絶対に嫌です。わたくしは物でもなければ景品ではありません」

堀坂向汰「せっかく本気で告白してくれた人が現れたわけなんだから、このまま付き合ってしまえばいいんじゃないの?」

如月瑠衣「堀坂先輩、そんな簡単な問題ではありませんのよ。もっと真面目に考えてください」

琴宮梓颯「宣戦布告をするって言ってたわけよね?もしかすると影郎アカウントにメッセージが届いてるかもしれないから確認してみるわね」


琴宮梓颯がノートパソコンで影郎アカウントにログインして確認すると一件のダイレクトメッセージが届いていた。そのメッセージを開いてみると、牧瀬悠人から届いたものであった。琴宮梓颯は「如月さん、ダイレクトメッセージの画面を表示してもらえる」と言うと、如月瑠衣は「わかりました」と言って大きな壁にプロジェクターでパソコンの画面を映し出した。その影郎に届いたメッセージとは次のような内容であった。


影郎さん、いや生徒会のみなさん、はじめまして。

僕は最近転入してきた1年5組の牧瀬悠人です。


皆さんもご存じの通り、僕は探偵事務所の息子で、ときどき警察の捜査に協力しているくらい推理力には自信があります。

これまで学園のあらゆる問題を解決してきた影郎さんも相当な推理力をお持ちだとお見受けしました。

そこで僕と推理対決をしていただきたいのです。

先日、1年3組のクラスで起こった転落事故の真相をどちらがはやく解き明かすかの推理対決です。

あの転落事故で疑われている女子生徒が2人もいて、未だに不可解な謎が残っています。


この転落事故について、僕か影郎アカウントのメンバーのどちらが早く真相を解き明かすか勝負してください。

そして、もし僕が勝利した場合、如月瑠衣さんと正式にお付き合いさせていただこうかと思っています。

お互いに本気で調査および推理してフェアに勝負しましょう。


それではよろしくお願いします。


堀坂向汰は「もういいよ。如月さん、部屋の明かりをつけて」と言った。そしてプロジェクターの画面を消して如月瑠衣が生徒会室の明かりをつけた。このメッセージを読んだ琴宮梓颯は肩の力が抜けた。


琴宮梓颯「これって完全な挑戦状ね。向汰君はどうするつもりなの?」

堀坂向汰「やっぱり推理対決なんてバカバカしいね。俺はこんな挑発に乗らないよ。それに俺の正体を明かすわけにもいかないしね」

琴宮梓颯「無視しておくのはいいけど、如月さんが心配だわ」

堀坂向汰「如月さんはどうしたいと思ってるの?」

如月瑠衣「わたくしは・・・もうどうすればいいのかわかりません。ただ、推理対決という形で彼女になるなんて絶対に嫌ですわ」

琴宮梓颯「ようするに転落事故の真相を解き明かせばいいのよね?推理対決という形でなく、こちらで調査して向汰君が独自で推理すればいいんじゃない?」

堀坂向汰「この牧瀬悠人が既に調査して推理しているものを、改めてこっちもするなんて、面倒なんだよね」

琴宮梓颯「向汰君の気持ちはわかるけど、ここは如月さんを助けるという意味も含めて、裏クラブのメンバーの一員として協力してあげてほしいの」

堀坂向汰「裏クラブのメンバーの一員としてか・・・わかった。あまりやる気はでないけど、今回は如月さんのために協力するよ」

如月瑠衣「琴宮会長、堀坂先輩、本当にありがとうございます」

琴宮梓颯「では早速、調査開始ね」


裏クラブのメンバーは如月瑠衣を助けるという意味で調査を開始した。



■ 転落事故に関する裏クラブの会議


ところで、牧瀬悠人の言っている1年3組のクラスで起こった転落事故とは、10日ほど前の出来事だった。1年3組のクラス全員のアンケート用紙が入った段ボール箱をかかえていた藤崎朱莉という女子生徒が階段の踊り場から足を踏み外して階段の下へ転落したのだ。幸いなことに、藤崎朱莉は足を捻挫する程度のケガで済んだ。しかし、転落直後、うつぶせで倒れていたことから不信に思った先生達は、藤崎朱莉に転落する直前のことを聞いてみた。すると藤崎朱莉は「後ろから誰かに押された感じがした」と証言したのだ。その証言により真っ先に疑われたのは、転落する直前に藤崎朱莉の後ろを歩いていた1年3組の水原有里香と安城希の2人だった。しかし、その2人とも「後ろから押したりしていない」と容疑を否認している。そのことからこの転落事故には2つの謎が残った。その1つは、もし藤崎朱莉が足を滑らせて階段から転落した場合、普通はあおむけに倒れていないとおかしいという点。そしてもう1つは事故直前に後ろを歩いていた水原有里香と安城希のどちらかが後ろから押して転落させたとしても、すぐに容疑がかかることくらい誰にでもわかる。それがわかっていながら後ろから押して転落させるようなことをわざわざするのかという点だ。いたってシンプルな事故でありながら、この2つの謎を解き明かさないと、この事故の問題は解決しないのだ。


如月瑠衣は藤崎朱莉、水原有里香、安城希の関係性について聞き込み調査を開始した。その結果、この3人はいつも一緒にいる仲良しグループだということ。藤崎朱莉には1ヵ月ほど前から交際している他校の男子生徒がいるということがわかった。藤崎朱莉に彼氏ができたということで、水原有里香と安城希の二人は少し妬んでいるという情報も得ることができた。


聞き込み調査を終えて1年3組の教室から出た如月瑠衣が廊下を歩いていると、後ろから誰かにトントンと肩を叩かれた。振り向くと後ろにいたのは牧瀬悠人だった。


牧瀬悠人「如月さん、おはよう。3組の教室から出てきたってことは、影郎アカウントでの調査開始なんだね。つまり僕の挑戦を受けたってことでいいのかな?」

如月瑠衣「何をおっしゃっているのかわかりませんわ。ただ、わたくしは転落事故のことが気になって聞き込みをしただけですわ」

牧瀬悠人「やはり素直じゃないところも可愛いねえ。いつまでとぼけていられるのか楽しみだよ」

如月瑠衣「わたくしが影郎アカウントの関係者かどうかを知ったところで、あなたに何のメリットがあるのでしょう?」

牧瀬悠人「如月さんの秘密が知れるというのは僕にとって大きなメリットだよ。それに影郎アカウントで推理している人にご挨拶ができる」

如月瑠衣「わたくしの秘密は別として、どうして影郎アカウントで推理をしている人に対して、そこまで挑戦的なのですか?」

牧瀬悠人「それは、僕が本気で如月さんのことが好きだからだよ」

如月瑠衣「こんなところで何をおっしゃいますの!それに質問の答えになっていませんわ」

牧瀬悠人「その意味はそのうちわかるよ。じゃあ授業がはじまるので教室に戻るね」


牧瀬悠人はそう言って1年5組の教室へ走っていった。


放課後になり、生徒会室では裏クラブのメンバーが集まっていた。この日は3年5組の学級委員長である白石由希も来ていた。


琴宮梓颯「そういえば白石先輩、会議をはじめる前にお聞きしたいのですが、先日、向汰君と麻雀をしてどうでしたか?」

白石由希「そのことなんだけど、堀坂君って麻雀でも意地悪なんだよ」

琴宮梓颯「あはは・・・麻雀でも、ですか!?」

白石由希「堀坂君の麻雀の打ち方っていやらしいんだよ。最初からありえない配を捨ててきて、そのうえダマテンばかり。つまり、平気で人を騙してくるような打ち方をしてくるんだよ」

堀坂向汰「横からすみませんが白石先輩、麻雀は騙し合いの勝負じゃないですか!?最初にいらない配を捨てていったりすると、相手に手配がわかってしまいますからね」

白石由希「それはそうだけど、堀坂君の捨て配は変わりすぎてるよ。それにあのいやらしい単騎待ちでロンしてくるなんて思いもよらなかったよ」

琴宮梓颯「騙し合い・・・たしかに向汰君らしいといえますね。それで向汰君は麻雀が強かったのでしょうか?」

白石由希「麻雀が強いというより、変わった打ち方をするといったほうが正しいね。それを利用すればプロの雀士を目指せるとは思う」

堀坂向汰「プロの雀士には興味がありませんし、最後は点数差でトップにはなれませんでしたからね」

琴宮梓颯「麻雀の話はこのくらいにしておいて、早速会議をはじめましょうか。如月さん、調査結果を報告してもらえる?」


麻雀の話には全く興味がなかったので、ぼーっとしていた如月瑠衣が「は、はい」といって立ち上がった。そして、今回の転落事故に関する出来事と休み時間中に1年3組で聞き込み調査をして得た情報について詳しく話しはじめた。


堀坂向汰「そもそもなんだけど、どうして藤崎朱莉がアンケート用紙の入った段ボール箱をかかえていたの?」

如月瑠衣「そのことですが、その日の日直だった水原有里香さんが段ボール箱を職員室まで運ぶ予定だったようですの。ところが、多数決ジャンケンで負けた人が段ボールを運ぼうということになったそうです。そして、その多数決ジャンケンに負けた藤崎朱莉さんが段ボール箱を運ぶことになったとのことです」

堀坂向汰「多数決ジャンケンって1人だけがジャンケンに勝つか負けるしたら、それは負けってこと?」

如月瑠衣「そういうことになりますわね」

堀坂向汰「なるほど。おそらく、その多数決ジャンケンはイカサマしてたんじゃないかな。つまり、水原有里香と安城希はあらかじめ何を出すか決めていたんだと思う。そうすれば3分の2の確率で藤崎朱莉が負けるわけだからね。まあ軽いイジメのようなものだろうね」

琴宮梓颯「どうしてその2人がイカサマをしてたってわかるの?」

堀坂向汰「勝敗を決めるんだったら普通のジャンケンをすればいいでしょ。わざわざ多数決ジャンケンをした意味を考えてみれば簡単にわかることだよ」

琴宮梓颯「たしかに言われてみるとそうよね」

堀坂向汰「だからといって転落事故の真相には繋がらないんだけどね。如月さん、この転落事故について、後ろを歩いていた水原有里香と安城希の2人はどう証言しているの?」

如月瑠衣「突然、藤崎朱莉さんが転んで階段の下へ転落したとしか証言していないそうです。咄嗟とっさのことでしたので、2人ともよく覚えていないというのが本音だそうです」

堀坂向汰「うーん・・・やはり謎だけが残ったままになるね」

如月瑠衣「やはり先生達も抱いている2つの謎のことでしょうか?」

堀坂向汰「いや、その2つの謎については俺の中でほぼ解明できているからどうでもいいんだよ」

琴宮梓颯「ちょっと横からごめんなさい。向汰君、先生達が抱いている2つの謎をもう解明できたの?」

堀坂向汰「うん。ほぼ解明できてるよ。まず、あおむけに倒れていないとおかしいという謎だけど、それは滑って転んだ場合のことであって、何かにつまづいて前のめりに転べばうつぶせになる。つまり、どちらに倒れていても不自然でも謎でもないんだよ。あとは後ろから押して転落させたかどうかだけど、それは藤崎朱莉の『後ろから誰かに押された感じがした』という証言から後ろを歩いていた2人が疑われて謎になってしまったわけだよね。でも、後ろを歩いていた水原有里香と安城希の2人は押してなんかいないと断言できる」

琴宮梓颯「どうしてそれが断言できるの?」

堀坂向汰「それは『押したとすれば後ろを歩いていた人に容疑がかかることくらい誰にでもわかる』という点を考えてみれば簡単だよ。それはその通りで謎でもなんでもないんだけど、先生達が難しく考えすぎなんだよ」

琴宮梓颯「考えてみれば確かにそうね」

堀坂向汰「この転落事故に関して、本当の謎は『後ろから誰かに押された感じがした』という証言の真相だよ。つまり、藤崎朱莉が嘘をついていなければ、後ろから押された感じがしたのはなぜかという点だね。この謎はシンプルなようで真相を解明するにはかなり難しいんだよ」


堀坂向汰がそう言うと、しばらく生徒会室内で沈黙が続いた。


白石由希「横から話に入ってごめんなさい。たとえば藤崎朱莉さんがバランスを崩して転びそうになった時、その後ろを歩いていた2人が持っていた荷物に当たってしまったことで前のめりに転落してしまったとは考えられない?」

堀坂向汰「それは俺も考えてみましたので、さっき如月さんに後ろを歩いていた水原有里香と安城希の証言を聞いてみました。でも、それならその荷物を持っていた人も転びそうになるはずなんですよね」

白石由希「それもそうだね。後ろを歩いていた2人が持っていた荷物が気になったんだけど、余計なことだったみたいでごめんね」

堀坂向汰「白石先輩!余計なことじゃなくて、それはとても重要なことで忘れていましたよ!」

白石由希「えっ?重要なこと?」

堀坂向汰「如月さん、転落事故の時、後ろを歩いていた2人が何を持っていたか調べることってできる?」

如月瑠衣「そうですね。直接、水原有里香さんと安城希さんに聞いてみることにします」

堀坂向汰「それとこれは梓颯にお願いしたいんだけど、藤崎朱莉に関する情報を調べておいてほしい」

琴宮梓颯「藤崎朱莉さんの情報!?そんなことを調べてどうするの?」

堀坂向汰「ちょっと理論的な問題で気になることがあるんだよ。特に人間性についてわかる範囲でいいよ」

琴宮梓颯「理論的な問題ね。わかったわ。人間性といっても生徒情報から得られる範囲でいいの?」

堀坂向汰「うん。それでいい。あとは俺が明日にでも事故現場に行って調べてみるので、それぞれ調査のほうをよろしくね」


これでこの日の裏クラブのメンバー会議は終了した。いよいよ本格的な調査を開始することになった。



■ 情報調査と推理


次の日、裏クラブのメンバーはそれぞれ調査をはじめた。

休み時間になると如月瑠衣は1年3組の教室へ行き、水原有里香と安城希の2人から話を話を聞いた。その結果、転落事故があった時に所持していた物はもちろんのこと、後ろを歩いていたその2人の位置関係までの情報を得ることができた。


安城希「そういえば5組の牧瀬君からも同じ質問されたけど、如月さんもあの事故について何か調べているの?」

如月瑠衣「そうです。今回のことで先生達から疑われている生徒がいるわけですから、生徒会側としても調べておく必要がありますの」

安城希「なるほど。でも私たちは後ろから押したりしていないの!それだけは信じてほしい」

如月瑠衣「わかりました」


そう答えた如月瑠衣はさっさと1年3組の教室を出た。それにしても既に牧瀬悠人が2人に同じ質問をしていたとは思いもよらなかった。やはり密かに推理対決が行われているのだと実感したのだ。そして、如月瑠衣は堀坂向汰がこの推理対決に負けたら自分はどうなってしまうのかと不安になりながら自分の教室へ戻っていった。


一方、堀坂向汰も休み時間中に転落事故のあった現場に行って色々と調べていた。事故現場である階段の踊り場は特に滑りやすいわけでもなく、見渡す限り変わったところなどなかった。それでも堀坂向汰が念入りに踊り場の地面を調べていると、背後から「あの、すみません」という声がした。その声を聞いて即座に振り返ると緑色のネクタイをした男子生徒が立っていた。それはまさに推理対決の相手である牧瀬悠人であったのだ。


牧瀬悠人「水色のネクタイということは2年生の方ですね。こんなところで何をされているのですか?」

堀坂向汰「実は、キーホルダーの鎖の一部をどこかに落としてしまって探してたんだよ」


その時の堀坂向汰は美少女キャラクターの同人誌を片手に抱えながら根暗な表情をしていたので、牧瀬悠人にはただのオタク系男子にしか見えなかった。ところが、

堀坂向汰はその相手こそ推理対決の相手である牧瀬悠人と一瞬で見抜いていたのだ。


牧瀬悠人「その鎖の一部ってどのくらいの大きさですか?」

堀坂向汰「米粒くらいの大きさなんだけど、さっきここで転んだから、その時に落としたんだと思って探してたんだよ」

牧瀬悠人「なるほど。では僕も一緒に探しましょうか?」

堀坂向汰「ありがとう。でも、かなり探してみたけど見つからないのであきらめることにするよ」

牧瀬悠人「そうですか。わかりました」

堀坂向汰「本当に気を使ってくれてありがとう」

牧瀬悠人「あの、2年生の方なのでお聞きしたいのですのが、生徒会長の琴宮梓颯という方を知っていますでしょうか?」

堀坂向汰「うん。学園のアイドル的存在で有名だから知ってはいるけど、その琴宮さんがどうかしたの?」

牧瀬悠人「あ、いえ、何でもありません」

堀坂向汰「じゃあそろそろ授業がはじまるので行くね」


堀坂向汰はそう言って、フラフラと歩きながら自分の教室へ戻っていった。


それから放課後になって再び裏クラブのメンバーが生徒会室へ集まっていた。堀坂向汰はソファーに座りながらぼりぼりとスナック菓子を食べながらコーラーを飲んでいた。そんな姿を見ていた如月瑠衣は「堀坂先輩、またそんなものを飲み食いしているなんて、相変わらず不健康ですのね」と言うと「これが俺のエネルギー源なんだよ」と答えた。そんな二人のやりとりを聞いていた琴宮梓颯は「うふふふ」と笑った。


堀坂向汰「梓颯、それで藤崎朱莉に関しての情報で何かわかったことはあったの?」

琴宮梓颯「そうね・・・生徒情報から調査した結果だけど、藤崎朱莉さんはとても素直で誰に対しても優しい性格をしているみたいよ」

堀坂向汰「そうか。やはり、俺が推理した通りの人物だったわけだね」

琴宮梓颯「推理通り人物って、向汰君はもう何かを掴んでいるの?」

堀坂向汰「まあね。それで、如月さんのほうは何か情報を得ることはできた?」


少し不安な表情をしていた如月瑠衣が口を開いた。


如月瑠衣「転落事故があった時、2人が所持していたものがわかりましたわ。水原有里香さんはバスケットボール部の自主練で行うマイボールとカバン、安城希さんはカバンだけを所持していたみたいです」

堀坂向汰「そのマイボールって、もちろん収納袋に入れて持ってたんだよね?」

如月瑠衣「ええ。そのマイボールを収納袋に入れて肩から下げていたようですわ」

堀坂向汰「なるほどね。ということは、転落事故があった時、後ろを歩いていた2人の位置関係だけど、左側に水原有里香、右側に安城希が並んで歩いていたんじゃない?」

如月瑠衣「おっしゃる通りですが、どうしてそれがわかりましたの?」

堀坂向汰「ふふふ・・・そうじゃないとつじつまが合わないからだよ」

如月瑠衣「つじつまが合わないとはどういう意味ですの?」

堀坂向汰「それは後でわかるよ。ところで、今日の休み時間に事故現場に行って調査してたんだけど、その時、牧瀬悠人君だっけ!?バッタリ会ったので話をしてみたよ」

如月瑠衣「えーーー!?話をして牧瀬君に何か気づかれませんでしたの?」

堀坂向汰「何も気づかれていないと思うよ。それより牧瀬悠人君ってすごく優しくていい人だと感じたよ。だからお返しじゃないけど、推理のヒントを与えておいた」

如月瑠衣「推理のヒントですか!?どうして推理対決をしている相手にヒントなんて与えたのですか?」

堀坂向汰「まあ、武士の情けってやつかな!?如月さん、この際、もう牧瀬悠人君と付き合えばいいんじゃない?」

如月瑠衣「そ、そんな簡単に付き合ったりできませんわ。それよりこの推理対決に負けた時のことを考えると、わたくし不安で仕方ありませんの」

堀坂向汰「そんな不安にならなくても大丈夫だよ。この推理対決に関してはほぼ俺の勝ちが決定してるから。あとは最後のピースを揃えてパズルを完成させれば転落事故の問題は解決する」

如月瑠衣「最後のピースですか?」

堀坂向汰「そうだよ。如月さん、最後にイエスかノーかの調査をしてもらう。藤崎朱莉から答えを聞いてきてほしい」

如月瑠衣「わかりましたわ」


堀坂向汰が推理対決においてほぼ勝ちが決定しているとはどういうことなのだろうか。それを聞いていた裏クラブのメンバーには何のことなのかさっぱりわからなかった。堀坂向汰は一体何を考えて、どこまで推理できているのだろうか。



■ ある意味の敗北


次の日の放課後、生徒会室には琴宮梓颯、如月瑠衣、そして白石由希の3人が集まっていた。もう裏クラブのメンバーが集まって会議をすることはなかったのだが、推理対決の挑戦状を受けていたことで、しばらくの間は誰もが落ち着かなかったのだ。3人で何気ない話をしていると生徒会室のドアからノックする音が聞こえた。琴宮梓颯は「はい。どうぞ」と言うとドアが開いて「お邪魔しますよ」といって男子生徒が入ってきた。その男子生徒とはまぎれもなく1年5組の牧瀬悠人だったのだ。そこで如月瑠衣が立ち上がって「あ、あなた・・・生徒会室に何の御用ですの?」と言うと牧瀬悠人は黙って生徒会長の席の前まで歩いていった。


牧瀬悠人「この人が生徒会長の琴宮梓颯さんですか。さすが学園のアイドル的存在だけあって、すごく可愛くて美人ですね」

琴宮梓颯「あなたが牧瀬悠人君なのね。如月さんから話は聞いているわ」

牧瀬悠人「この学園の生徒会・・・いや影郎アカウントの関係者といえばいいのか、琴宮先輩や如月さんのような可愛くて美人揃いなんだね」

琴宮梓颯「そんなことを言うために生徒会室に乗り込んできたわけではないでしょ!?何か用でもあるの?」

牧瀬悠人「転落事故の謎が全て解けたので推理対決にきたのですよ。しかし、その前に琴宮先輩達が影郎アカウントの関係者であるという証拠について明かしていきましょうか」

琴宮梓颯「おもしろいことを言うのね。だったら先にその証拠を聞かせてもらいましょうか」


琴宮梓颯がそう言うと牧瀬悠人はニヤリとしながら一歩後ろに下がって如月瑠衣と白石由希を見た。


牧瀬悠人「さて、如月さん、君のことについては先日、僕が推理したことを話したけど、影郎アカウントで生徒達の問題を解決させるにはそれなりの情報調査が必要となる。そして学園のパソコンをハッキングして生徒情報を密かに盗み出せすようなことができるのは如月さんしかいないだよ」

如月瑠衣「わ、わたくしがそのようなことをしたという証拠でもありますの?」

牧瀬悠人「学園の先生達が管理しているパソコンと直接つながっているのは生徒会室にあるパソコンだけらしいねえ。コンピューター情報部の人がそう言ってたよ」

如月瑠衣「だ、だからといって・・・」

牧瀬悠人「それと、そこにいる赤いリボンをつけている方は主に3年生の調査担当をされてるはず。そもそも1年生と2年生、そして3年生が1人ずつこの場にいるのが不自然なのです」


その話を聞いた裏クラブのメンバー3人は何も答えられず沈黙してしまった。さらに牧瀬悠人は話を続けた。


牧瀬悠人「あとは影郎アカウントで問題を解決させるには、それなりの推理力が必要となる。おそらく、その推理を担当しているのは琴宮先輩、あなたと深く関係している人ではないですか?」

琴宮梓颯「わたしと深く関係している人ねえ。それこそ何の証拠もないわよね?」

牧瀬悠人「琴宮先輩は学園内でアイドル的存在でありながら、表向きは誰とも付き合っていないことになっているようですが、本当は内密に付き合っている彼氏がいる。その人は推理力抜群で頭のキレる人物ではないですか?そして学園内でも琴宮先輩のことをアイドル的存在としてみてない唯一の存在なのでしょう」

琴宮梓颯「たとえそうだったとしても、そんなことを知ったところで牧瀬君は何の得もしないわよね?」

牧瀬悠人「たしかに僕は何の得もしませんが、今この場にいないということは転落事故の謎をまだ解けていないということになります」

琴宮梓颯「なるほど、牧瀬君の推理が正しかったとすればそういうことになるわね。それなら転落事故の真相について話してもらえる?」


牧瀬悠人はニヤリとして生徒会室の真ん中まで歩いていった。そして振り向くと如月瑠衣の顔を見ながら「では転落事故の真相をお話しましょう」といった。


牧瀬悠人「まず、なぜ藤崎朱莉さんがアンケート用紙の入った段ボール箱を運ぶことになったのかというと、多数決ジャンケンで負けてしまったからなのです。しかし、あの多数決ジャンケンは必ず藤崎朱莉さんが負けるように仕組まれていた。いわゆるイカサマだったというわけです。そして、あの転落事故における2つの謎に関して、藤崎朱莉さんが階段を踏み外して前のめりに転落すれば当然うつぶせになって倒れてしまいます。つまり、あおむけになって倒れていなくても不自然ではありません。もう1つの後ろから誰かに押されたかどうかについての謎に関してですが、自ら疑われてしまうことを後ろを歩いていた2人がするわけがありません。そこで理論的に真相を導き出す方法があります。みなさんは大学の入試などで出題される『嘘つきパズル』というものを知っているでしょうか。A、B、Cの3人のうち、正直者が2人、残りの1人が嘘つきだとします。それを今回の転落事故の3人に当てはめてみると、転落した藤崎朱莉さんだけが「後ろから誰かから押された」と証言しているわけです。ところが、先ほども言いましたが後ろにいた2人が自ら疑われるようなことをするとは考えられないとすれば、藤崎朱莉さんの「後ろから誰かから押された」という証言が嘘ということになります。その理論に基づいて推理してみると、多数決ジャンケンがイカサマだったと気づいた藤崎朱莉さんが2人に疑いがかかるように嘘の証言をしているということになります。そう推理すれば全てのつじつまが合うというわけなのです。謎とされていた転落事故も真相なんてこんなものなのですよ」


牧瀬悠人の推理を聞いた琴宮梓颯、如月瑠衣、そして白石由希の3人は唖然としていた。たしかに全てのつじつまが合っているのだ。生徒会室内でしばらく沈黙が続いていると牧瀬悠人は勝ち誇った表情をしながら「どうやら僕の推理に異論がある人はいないようですね」と呟いた。如月瑠衣は自分はどうなってしまうのかと不安で体が震えだしていた。


牧瀬悠人「さて、如月さん、約束だよ」


牧瀬悠人がそう言うと、外からパチパチパチと拍手をしている音が聞こえてきた。みんな生徒会室のドアのほうを見た瞬間、突然ドアが開いて美少女キャラのキーホルダーをつけたカバンを持った堀坂向汰が立っていた。琴宮梓颯が小さな声で「向汰君・・・」というと、堀坂向汰は生徒会室に入ってドアを閉めた。


牧瀬悠人「あなたは、事故現場でお会いした2年生の方・・・まさか!?」


そして堀坂向汰はソファーに座ってカバンを下した。


堀坂向汰「梓颯、俺たちの負けだよ。もう素直に認めよう」

琴宮梓颯「わたしたちの負けなの?」

堀坂向汰「牧瀬君は俺たちが影郎アカウントの関係者だと完全に気づいているよ」

琴宮梓颯「たしかにそうだけど・・・」

如月瑠衣「堀坂先輩、それだとわたくしはどうなってしまうのでしょう?」

堀坂向汰「如月さん、焦らないで、そこは素直に認めるしかないんだよ」


そこに牧瀬悠人が話に入ってきた。


牧瀬悠人「まさかあなたが影郎アカウントの推理担当だったのですか。堀坂さんとおっしゃるのですね」

堀坂向汰「そうだよ。俺は堀坂向汰といって、牧瀬君の言う通りだよ。それにしても見事な推理力で驚いたよ」

牧瀬悠人「ありがとうございます。では、堀坂先輩が負けを認めたということは、僕が推理対決に勝ったということでよろしいですね?」

堀坂向汰「俺は推理対決で負けたとは一言もいってないよ」

牧瀬悠人「はあ?どういうことでしょうか?」

堀坂向汰「影郎アカウントの関係者だと気づかれたことについては負けを認めたけど、転落事故に関する牧瀬君の推理には異論がある」

牧瀬悠人「では、その異論を聞かせていただけますか?」


堀坂向汰は如月瑠衣のほうをみて「如月さん、藤崎朱莉から答えはどっちだった?」と聞いてみると如月瑠衣は「堀坂先輩のおっしゃった通りイエスでした」と答えた。


堀坂向汰「やっぱり俺の思った通りだった。じゃあ、牧瀬君の推理に対する異論も含めて真相を話していくことにするよ」

牧瀬悠人「ぜひ聞かせていただきましょうか」


如月瑠衣は不安を抱えて体が震えながらも、堀坂向汰の推理を信じるしかないと心の中で思っていた。



■ 推理対決の勝敗


白石由希は体が震えている如月瑠衣のところへ行って「堀坂君なら大丈夫」と小さな声で囁いた。


堀坂向汰「牧瀬君の推理はほとんど当たっているから、その部分に関しての説明は省略するね。異論があるのは『嘘つきパズル』の理論が間違っているということ。たしかに俺も同じことを考えたので梓颯に藤崎朱莉の人間性についての情報調査をしてもらった。その結果、藤崎朱莉の性格からしてとても嘘をついたり人を恨んだりするような人間でないことがわかった。つまり、誰も嘘なんてついていないってことになるので、嘘つきパズルの理論に当てはまらないことに気づいた。そこで残る謎となるのは『後ろから誰かに押された感じがした』という証言ということになる。俺はその謎だけに焦点を当てながら推理していくことにした。そして如月さんの調査報告を聞いてその謎が明らかになった。藤崎朱莉は本当に押されていたってことがね」


堀坂向汰の推理を聞いていると、みんな少し中途半端に感じていた。


牧瀬悠人「藤崎朱莉さんが本当に押されたという証拠はあるのでしょうか?」

堀坂向汰「牧瀬君、転落事故があった時、後ろを歩いていた2人が所持していたものについて調査はしているよね?」

牧瀬悠人「たしか、カバンとバスケ部の自主練で使うマイボールでしたよね」

堀坂向汰「後ろを歩いていた2人の位置関係が左側に水原有里香、右側に安城希だったわけだけど、目の前で階段から転落しそうな人がいた場合、牧瀬君ならどうする?」

牧瀬悠人「無意識に利き手をあげて助けようとする・・・あっ!」

堀坂向汰「どうやら、わかったみたいだね。思わず右手をあげて助けようとしたとき、右肩に下げていたマイボールの入った収納袋が前へ動いてしまった。前のめりに倒れて体が斜めになっていたので右手は肩に届かなかったけど、ボールに関しては腰のあたりに当たってしまった。まあ、当たったというより触れてしまった程度だったと思うけどね。これが『後ろから誰かに押された感じがした』という証言の真相だよ。それに瞬時のことだったこともあって、後ろの2人もボールが当たってたことすら気づいてもいなかっただろうね」

牧瀬悠人「でも、それだとまだ確証とは言えませんよね?」

堀坂向汰「だから如月さんに最後の調査として藤崎朱莉さんに確認したんだよ。押された感じがしたのは腰のあたりじゃなかったかとね。そしてその答えはイエスだった。それと水原有里香が肩から下げていたマイボールの収納袋の長さとほぼ一致することもね」

牧瀬悠人「そうですか・・・」

琴宮梓颯「向汰君がいってた理論的な問題で気になることって嘘つきパズルのことだったのね」


牧瀬悠人は少し悔しそうな表情をしながら黙っていた。


堀坂向汰「牧瀬君、はじめて事故現場で会って話をしたとき、この推理対決はほぼ俺の勝ちで決定だと思っていたよ」

牧瀬悠人「どうしてですか?」

堀坂向汰「俺は牧瀬君の存在に気づいていたけど、牧瀬君は見た目で判断して全く俺の正体に気づいていなかった。あの時、牧瀬君は推理力が抜群であっても、人を見抜く力はないと感じていたんだよ。だから俺はヒントを与えてチャンスをあげたんだけどね」

牧瀬悠人「ヒントですか?」

堀坂向汰「あの時、俺は『さっきここで転んだから』と言ったのを覚えてる?あんなところを俺が歩いていて転ぶなんて不自然でしょ?」

牧瀬悠人「そう言われてみるとたしかに・・・」

堀坂向汰「やっぱり、俺を見た目で判断してしまっていたから疑いもしなかったんだね。牧瀬君、今度から推理するときは人を見抜くことを忘れないことだよ。それに推理は競い合うものじゃなくて、真実を導き出すものだと俺は思ってる」

牧瀬悠人「そうですね。わかりました」


如月瑠衣は体の力が抜けてホッとした気分でいた。その隣にいた白石由希も如月瑠衣の肩に手を置いてにっこり笑った。


如月瑠衣「今回の推理対決は堀坂先輩の勝ちということになりますのね。わたくし、どうなってしまうのかと不安で仕方ありませんでしたの」

堀坂向汰「俺は裏クラブのメンバーのみんなが協力してくれたからこそ、転落事故の謎を解くことができた。ところが、牧瀬君は一人で調査をしてここまで推理したんだ。そこはちゃんと認めてあげないといけないよ」

如月瑠衣「それはそうですが・・・」


そこに牧瀬悠人が話に入ってきた。


牧瀬悠人「僕は堀坂先輩より人を見抜く力が劣っていましたので、負けを認めますよ。今後、人のことも考慮して推理していこうと思っています」

琴宮梓颯「横からごめんなさい。牧瀬君、影郎アカウントのことや裏クラブのことでお願いがあるの」

牧瀬悠人「琴宮先輩、わかっています。そのことは内密にしますので安心してください」

堀坂向汰「ちょっと待った!牧瀬君、ちょっとこっちに来てもらえるかな」

牧瀬悠人「は、はい」


堀坂向汰は牧瀬悠人の背中に手を当てると、2人はソファーに座ってヒソヒソ話をはじめた。


堀坂向汰「あのね、如月さんのことはもういいの?」

牧瀬悠人「えっと、僕は負けてしまったので・・・」

堀坂向汰「それで諦めてしまうなんて、その程度の気持ちだったの?」

牧瀬悠人「そんなことはありませんが、フラれてしまったも同然ですから諦めるしかないじゃありませんか」

堀坂向汰「いや、如月さんの気持ちもまんざらじゃなさそうだし、そのことに関しては俺たちも全面的に協力するよ」

牧瀬悠人「本当ですか!?」

堀坂向汰「その代わりなんだけど、2つのことをお願いしたいんだよ」

牧瀬悠人「2つのことって何でしょうか?」

堀坂向汰「1つは影郎アカウント、つまり生徒会裏クラブに牧瀬君も参加してほしい。毎回じゃなくても暇なときに協力してほしいんだよ。推理してくれる人が増えると俺も助かるし、牧瀬君も如月さんと一緒にいれる時間が増えるから一石二鳥でしょ?」

牧瀬悠人「暇なときであれば構いませんが、他の人達の意見を聞かなくてもいいのですか?」

堀坂向汰「それは気にしなくて大丈夫。あともう1つなんだけど、俺と梓颯のことも含めて、ここでのことは学園内では内密にしてほしいんだよ。特に外で俺とすれ違っても話しかけないでほしい」

牧瀬悠人「わかりました。でも、どうして堀坂先輩は表向き、根暗なオタク系を演じているのですか?」

堀坂向汰「それはまた話すよ。裏クラブのことは梓颯の指示に従ってくれればいいのでよろしくね」


そんな2人がヒソヒソ話をしているのを見ていた琴宮梓颯が「悪巧みの密談はそのくらいにしてね」と言った。それを聞いた如月瑠衣は「堀坂先輩、何か企んでいるのですか?」と言った。それを聞いた牧瀬悠人が焦ってソファーから立ち上がった。


堀坂向汰「梓颯、牧瀬君は全て内密にしてくれるみたいだから、裏クラブのメンバーに入れても別に構わないよね?」

琴宮梓颯「影郎アカウントや生徒会裏クラブのことを内密にしてもらえるなら別に構わないわ」

堀坂向汰「それと如月さん、牧瀬君の気持ちは本気みたいだから、真剣に考えてあげてほしい」

如月瑠衣「それは・・・」

堀坂向汰「ここまで好きになってくれる人なんてなかなかいないよ」


如月瑠衣は顔を赤らめながら「わかりましたわ」と小さな声で答えた。


今回の転落事故の真相に関して、生徒会での調査報告書として担当の先生に提出された。そのことにより2人の生徒の疑いもなくなり全ての問題が解決した。



■ 如月瑠衣の恋:おまけ


転落事故の件が解決した後、如月瑠衣は湯舟につかりながらいろいろと考えていた。


自分は実は密かに思いを寄せている人がいたことを思い出していた。それは頭がキレて推理力抜群の先輩だった。しかし、それは単なる憧れだったにすぎず、叶わぬ恋だということはわかっていた。そこに本気で自分のことを好きだと言ってくれる人が現れたのだ。それは決して嫌な気分ではない。強引な形でファーストキスは奪われてしまったが、ここまで強く想いをぶつけられて告白されたのも初めてのことなのだ。その告白に対して、どう答えればいいのかわからないが、断る理由も見つからない。むしろ、自分も先輩達のように恋をすれば幸せになれるかもしれない。素直になって相手の気持ちを受け入れることができれば、これからの人生が大きく変わっていくのではないだろうか。初めてのことなので臆病になっているだけで、勇気を出せばいいだけのこと。でも、ほんの少しだけ時間がほしい。少しでいいので、相手のことを観察したい。


そんなことを考えていた如月瑠衣が出した答えは「まずは友達以上恋人未満の関係からはじめてくれるのであれば、あなたとお付き合いします」ということであった。それを聞いた牧瀬悠人は「わかった。それでも僕はいいよ」と答えた。そして、如月瑠衣と牧瀬悠人の恋愛関係がはじまったのである。

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