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明智学園裏クラブ  作者: 涼
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犯罪者への制裁

■ 犯罪的依頼


ある日の朝、2年3組の教室では堀坂向汰が自分の席に座りながら窓の外を眺めていた。外は秋晴れで澄んだ青空が広がっていて、見ているだけですがすがしい気分になる。そこへ西村真一がニコニコしながら登校してきた。


西村真一「よう堀坂、おはよう!」

堀坂向汰「西村、おはよう。朝からなんか嬉しそうだね」

西村真一「まあな。実は優奈がさ、今日、俺の弁当を作ってきてくれたみてえなんだ」

堀坂向汰「そうなんだ。それはよかったね」


優奈とは西村真一と付き合うことになった1年3組の泉原優奈のことである。今では名前で呼び合う仲になっているのだ。


西村真一「やっぱりリアル彼女がいると人生楽しくなるわ。夏休み中に一緒に海行ったんだけどさ、最高だったんだぜ」

堀坂向汰「一緒に海に行ったんだ。とうとう西村もリア充になったんだね」

西村真一「お前もさ、やっぱリアル彼女作れよ。そしたらダブルデートもできるしさ、人生変わると思うぜ」

堀坂向汰「そう言われても出会いがないよ。それにダブルデートなんて興味はないね」

西村真一「おいおい、悲しいこと言うなよ。その気になったら優奈に頼んで誰か紹介してもらえばいいじゃねえか」

堀坂向汰「僕は今のままで満足してるからどうでもいいや」

西村真一「なんか俺だけ幸せになってるみたいで申し訳ない気分なんだよな」


その言葉を聞いた堀坂向汰は少し申し訳ない気持ちになっていた。もし、学園のアイドル的存在である琴宮梓颯が付き合っている彼女と知ったら、おそらく西村真一は驚きのあまり気絶するだろう。それは他の生徒達にも同じことが言える。しかし、このことは口が裂けても言えない。


堀坂向汰「西村の気持ちは嬉しいけど、僕のことは気にしなくていいよ」

西村真一「それならいいけどさ、そろそろ三次元女子にも目を向けたほうがいいぜ」


それを聞いた堀坂向汰が「うん」と頷くと、担任の水瀬先生が教室に入ってきて「はーい、みなさん席についてください」と大きな声で言った。


昼休み、琴宮梓颯と如月瑠衣の2人はいつものように生徒会室で昼食をとっていた。本来であれば昼休みに生徒会室に集まる必要はないのだが、裏クラブの活動をするためには、この時間を利用して生徒会の仕事をしておかなければならないのだ。


琴宮梓颯「如月さん、毎日のように昼休みに来てもらって悪いわね」

如月瑠衣「いえいえ、お気になさらないでください。友達にも生徒会の仕事が忙しいことは理解していただいていますから」

琴宮梓颯「それならいいんだけど、友達との関係も大事だから無理しないでね」

如月瑠衣「ありがとうございます。わたくしより琴宮会長こそ大丈夫ですか?」

琴宮梓颯「わたしのほうは全然大丈夫よ。さて、そろそろ影郎アカウントのチェックをしておきましょうか」


琴宮梓颯は昼食を終えると、生徒会長の席に座ってパソコンから影郎アカウントにログインした。すると新しいメッセージが届いていた。すぐにそのメッセージを確認すると次のような内容であった。


影郎さん、はじめまして。

僕は2年1組の永瀬晃といいます。

実は先生や両親に相談できない悩みを抱えています。


僕のお小遣いは月に3万円なのですが、同じ年齢の人に比べて多いみたいです。

いつも財布にお金を入れていたので、ときどき友達におごったりしていました。


ある日、先輩達から呼び出しを受けてお金を貸してくれと言われました。

怒らせると怖い先輩だったので、僕は怯えながらいくら貸してほしいのか聞いてみました。

すると3千円でいいと言われましたので、僕はその先輩達にお金を貸すことにしました。


数日後、またその先輩達から呼び出しを受けました。

前に貸したお金を返してもらえるのかと思って先輩達のところへ行きました。

ところが先輩達から「前の3千円もそのうち返すから、もう5千円貸してほしい」と言われました。

僕は仕方なく先輩達に5千円を貸しました。


それからのことです。数日おきに先輩達から呼び出しを受けるようになり、

「そのうち全額返すからまた金を貸してくれ」と言われるようになりました。

さすがの僕も貸せるお金がなくなってしまいました。

ところが先輩達から「だったら親の金をくすねてくればいいだろ」と言われました。

僕にはそんなことできなかったので、日払いのアルバイトをしてなんとかお金を用意しました。


最近では週に1度だけ呼び出しを受けて「明日までに金を持ってこい」と言われるようになり、

先輩達の要求金額もエスカレートして数万円単位となっています。


今はなんとかがんばってお金を用意していますが、もう僕には限界なのです。

先輩達を怒らせると何をされるかわかりませんので、誰にも相談できずにいました。


そこで影郎さんに相談すれば誰にも気づかれないと思いメッセージを送ってみました。

噂通りに悩み事を解決してもらえるか半信半疑ですが、よろしくお願いします。


如月瑠衣「これはもう犯罪行為ですわね。ところで、2年1組といえば琴宮会長のクラスではありませんの?」

琴宮梓颯「そう、わたしのクラスにいる生徒なんだけど、永瀬君とはあまり話したことがないのよね」

如月瑠衣「それならこの先輩達というのは3年生ということになりますわね」

琴宮梓颯「そういうことになるわね。とにかく放課後に集合しましょう」


琴宮梓颯は裏クラブのメンバー全員に『放課後、生徒会室に集合』というメールを送った。しかし、今回の問題は完全に犯罪行為であるので、裏クラブのメンバーだけでは解決できないかもしれないと琴宮梓颯は思っていた。


放課後になり、生徒会室には裏クラブのメンバーが集まっていた。如月瑠衣はパソコンにプロジェクターを接続して、今回影郎アカウントに届いたメッセージを壁に映し出した。堀坂向汰はソファーに座ってスナック菓子をボリボリと食べながらそのメッセージを読んでいた。


如月瑠衣「堀坂先輩、また間食にスナック菓子とコーラーだなんて、不健康にもほどがありますわよ」

堀坂向汰「推理を立てるためのエネルギー源なんだよ」

白石由希「この永瀬晃さんは2年生だから、先輩達というのは3年生ってことね?」

琴宮梓颯「そういうことになりますね。だから今回も白石先輩に来ていただきました」

白石由希「でもこのメッセージには先輩達とだけ書かれているだけで、具体的なことは何も書いてないね」

琴宮梓颯「それに永瀬君と先輩達の関係性についても書かれてないのです」

白石由希「それにしてもお小遣いが月3万円って多すぎるね」


そこで堀坂向汰はペットボトルのコーラーをゴクリと飲んで口を開いた。


堀坂向汰「このメッセージから推理できることは、『怒らせると怖い先輩だった』と書いているので、永瀬晃とその先輩には接点があったはず。つまり、その先輩というのは永瀬晃が以前よく知っている人物ということになる。先輩達と書いてるから複数なんだろうけど、全員のことを知ってるかはこの際どうでもいい。あとは『ときどき友達におごったりしていました』と書いてところからすると、その友達と恐喝してる先輩と接点があるはず。そして何かしらの形で永瀬晃が大金を持っていることを知って、カモにしたってところだと思う。恐喝がはじまったのは2学期がはじまった頃くらいだろうから、その情報を得たのは始業式の前後ってことになるね」


堀坂向汰が話し終えると如月瑠衣は明かりのスイッチを入れて生徒会室を明るくした。


琴宮梓颯「問題はその接点よね。永瀬君は同じクラスなんだけど、授業が終わるとすぐ帰宅してるから部活ではなさそうね」

白石由希「それにうちの3年生に怖そうな不良ぽい生徒なんて見たことないよ」

堀坂向汰「白石先輩、人は見かけによりませんよ。いつも可愛らしい笑顔をした女子生徒が陰でチッチーとか跳ねたとか言ってるわけですから」

白石由希「またそのネタなのね。琴宮さん、堀坂君がいじめてくるよー」

琴宮梓颯「向汰君は本当に白石先輩のことが好きよね?ちょっと妬いちゃうかも」

堀坂向汰「あははは・・・まあ、それはいいとして・・・もしかすると永瀬晃は部活していて辞めたのかもしれない。梓颯にはそれを調べてほしい。おそらく上下関係の厳しい運動部だと思う」

琴宮梓颯「わかったわ。今回は聞き込み調査をしてみるわね」

堀坂向汰「部活をしていたのが判明したら、永瀬晃がおごっていたという友達についても調べておいてほしい。その友達が何人いるかわからないけど、同じ部活をしていたはずだから」

琴宮梓颯「永瀬君が部活をしていたなら、その時の交友関係も調べてみるわ」

堀坂向汰「あと、如月さんは、しばらくの間、昼休みに人があまりこない場所、たとえば焼却炉付近とか体育館裏にたまっている3年生がいないかチェックしてほしい。必ず恐喝する相談をどこかでしてるはずだから」

如月瑠衣「わかりましたわ」

堀坂向汰「今回は白石先輩にも調査をお願いすることになると思います」

白石由希「わたしの初仕事ってことになるんだね。わかった」


今回は恐喝されている生徒の問題を解決させるだけなので、そこまでの調査や推理力は必要がないように思われた。ところが、これが意外にも難しい問題であることを、この段階では誰も気づかなかった。



■ 調査難航


琴宮梓颯は1年前の生徒名簿をこっそり持ち出して、永瀬晃が1年生の時に同じクラスだった女子生徒からそれとなく聞いてみることにした。下手な質問をすると誤解される恐れもあるので、帰宅部の生徒の話題をしながら「そういえば永瀬君ってガッチリした体型してるけど、ジムにでも通ってるのかな?」という質問をしてみた。すると永瀬晃は1年生の時にラグビー部に所属していたという情報を得ることができた。しかし、あまりにも学力テストの成績が悪かったので昨年の12月に退部したようだ。ここまでは簡単に情報を得ることができたが、おごっていたという友達の存在まではわからなかった。永瀬晃が1年生の時に仲良くしていたクラスメイトはラグビー部ではなかったらしい。ラグビー部での交友関係を調べるにも、これ以上の聞き込み調査はできない。ここで琴宮梓颯の調査は行き詰ってしまった。


如月瑠衣は堀坂向汰の指示通り、昼休みになると焼却炉付近や体育館裏の見回りをしていた。見回りをはじめて1週間ほど経つが、たまっている生徒なんていなかった。無駄な努力なのかと諦めかけた時、ふと堀坂向汰の「昼休みに人があまりこない場所」という発言を思い出した。そこで琴宮梓颯からラグビー部という情報を得ていたので、部室はどうなのかと考えてみた。基本的に部室の鍵は顧問の先生が管理していて、3年生はもう部活を引退しているので可能性はきわめて低いと思った。しかし如月瑠衣は念のためにラグビー部の部室を見に行ってみることにした。ラグビー部の部室がある非常階段の近くには2つのドアがあった。向かって左側のドアにはラグビー部と書かれた紙が貼られていたが、右側のドアには何も貼られていなかった。すると、その右側のドアの中から男子生徒達の声が聞こえてきた。如月瑠衣は非常階段の踊り場まであがって身を潜めながら男子生徒が出てくるのを待っていた。しばらくすると、赤色のネクタイをした3人の男子生徒が出てきたのだ。ネクタイの色から3年生だということがわかったので、如月瑠衣はすかさず無音カメラをポケットから取り出して、その3人の男子生徒を撮影しておいた。しかし、少し離れた場所から撮影したので、写真から生徒の顔を特定するのはできなかった。


それぞれの調査が行き詰ってしまったということで、琴宮梓颯は裏クラブのメンバー全員に『放課後、生徒会室に集合』というメールを送った。簡単に考えていたが、調査して見ると意外に難しいことに気づかされたのだ。


放課後、生徒会室に集合した裏クラブのメンバーはすぐに会議をはじめた。まず、琴宮梓颯が調査結果を報告すると、如月瑠衣がパソコンにプロジェクターを接続して、壁に撮影した3人の男子生徒の写真を映し出した。


白石由希「この写真から生徒の名前を特定するのは難しいよ」

如月瑠衣「それにこの3人の男子生徒がラグビー部かどうかもわかりません」

琴宮梓颯「如月さんにラグビー部の部員名簿を手に入れてもらったけど、3年生は12名、2年生は11名もいるのよ。その中からおごってもらっていた友達を絞り込むのは難しいわ。それにその友達が今もラグビー部に所属してるかわからないわよね」

堀坂向汰「その友達は間違いなく今もラグビー部に所属してるはずだよ。何かしらの形で関係している人物だからね」

琴宮梓颯「そうだったとしても、さすがにこの11名の部員から聞き込み調査はできないわ」

堀坂向汰「全員から聞き込み調査をする必要はないよ。この部員の中に梓颯の知ってる人はいる?」

琴宮梓颯「1年生の時、同じクラスだった生徒がいるわ。あと、もう1名いるけどこの人はちょっと・・・」

堀坂向汰「そのもう1名のほうに何気なく聞いてみるといいよ」

琴宮梓颯「だから、この人はちょっと話しづらいのよ」


堀坂向汰はニヤリとした表情をした。


堀坂向汰「梓颯が告白されて断った人だからでしょ?全く話したことのない人より聞きやすいと思うよ」

琴宮梓颯「あーバレちゃったみたいね。そうなんだけど、やっぱり話しかけづらいわ」

堀坂向汰「生徒会からの取材ということにすればいい。ラグビー部の人はガッチリした体型の人が多いけど食費はどのくらいかかるかの質問からお小遣いの話にもっていけばいい」

琴宮梓颯「なるほど・・・取材ということでがんばって話しかけてみるわ」

如月瑠衣「それで部室の隣の部屋にいた男子生徒達はどうしましょうか?今回のことに無関係かもしれませんが・・・」

堀坂向汰「おそらくその3人はラグビー部だと思う。部室の隣が空き部屋だと知ってる生徒なんてそんなにいないと思う」

如月瑠衣「そうですか。しかし、あの場所は身を潜める場所がないので困りましたわね。非常階段の踊り場だと遠すぎるのです」

堀坂向汰「ここで白石先輩の出番です。しばらくの間、如月さんと一緒にその空き部屋を監視してもらえますか?この3人の男子生徒を特定してほしいのです」

白石由希「うん、わかった。でも、その3人の男子生徒が恐喝してるとは限らないんだよね?」

堀坂向汰「たしかにそうですが、その3人がラグビー部だったら可能性は極めて高いです」

白石由希「可能性が極めて高いんだ。よくわからないけど、その3人の男子生徒のことを調べてみるね」


今後の調査方針が決まったところで、裏クラブのメンバーはそれぞれ調査していくことにした。


次の日の朝、琴宮梓颯は2年5組の教室へ行き、石井剛史という男子生徒に話しかけた。石井剛史は数ヶ月前、琴宮梓颯に告白して見事にフラれてしまったのだ。それ以来、お互いに話すこともなければ、顔を合わせることすらできなくなっていた。その琴宮梓颯が突然話しかけてきたことに驚いていた。


琴宮梓颯「石井君、突然話しかけてごめんなさい。実は生徒会で取材したいことがあるんだけど、協力してもらえるかな?」

石井剛史「生徒会の取材って?」

琴宮梓颯「ラグビー部の人ってガッチリした体型の人が多いけど、どういう食生活なのか、食費はどうしてるのか聞いてみたいの」

石井剛史「そんなこと聞いてどうするの?」


琴宮梓颯は面倒なことを聞いてくる人だと思った。


琴宮梓颯「学園生徒の食生活やお金の使い方について調査をしてるの」

石井剛史「よくわかんないけど、そういうことなら答えるよ。飯は朝昼晩の他に部活が終わった後に買い食いしてる。夕食まで腹持たないんだ」

琴宮梓颯「買い食いするお金ってお小遣いよね?それで足りてるの?」

石井剛史「全然足りてないよ。俺はそんなに小遣い貰ってないから月末は水ばっか飲んでる」

琴宮梓颯「そうなんだ。高校生のお小遣いだけでは足りないのね。ラグビー部はみんなそんな感じなの?」

石井剛史「みんなそうだと思う。でも1年の時にいた永瀬ってやつはめっちゃ金持ってたな」

琴宮梓颯「その永瀬って、わたしのクラスにいる永瀬晃君のこと?」

石井剛史「そう。そういえば、その永瀬晃といつも一緒にいた黒木ってやつがよくおごってもらったって言ってたな」


それを聞いておごってもらっていた友達というのは黒木という生徒であるということがわかった。その後、琴宮梓颯は適当な質問をして取材を終わらせた。最後に「取材のご協力ありがとうございました」と言って自分の教室へ戻って行った。


如月瑠衣と白石由希は昼休みになるとラグビー部の部室の横にある非常階段の踊り場で身を潜めていた。白石由希はいつもお弁当を持ってきてクラスメイトと昼食をとっていたが、生徒会活動の協力をするという理由で昼休みは抜けていた。張り込みをして2日目になるが、前に空き部屋から出てきた3人の男子生徒はなかなか現れなかった。ところが次の日の昼休み、ついに赤いネクタイをした3人の男子生徒がラグビー部の部室のほうに向かって歩いてきた。白石由希は非常階段の踊り場から3人の男子生徒の顔を確認した。写真ではハッキリわからなかったが、実際に見てみると、顔がよく見えた。如月瑠衣は念のためにもう1度無音カメラで撮影しておいた。白石由希が「あの中の1人は須藤君に間違いないよ」と言った。如月瑠衣が「他の2人は知らない人でしょうか?」と聞いてみると白石由希が「顔は知ってるんだけど、名前までは知らない」と答えた。白石由希の話によると須藤君というのは、3年2組の須藤輝彦という生徒のことで、2年生の時のクラスメイトであり、しかもラグビー部だったという。ここまでくれば、他の2人のことは白石由希が調べればすぐにわかるという話になった。また、如月瑠衣は前回、3人の生徒が空き部屋に入った時は木曜日で、偶然なのかこの日も木曜日であることに気づいた。そして次の日、白石由希は琴宮梓颯から渡された各クラスの座席表から他の2人の名前を割り出した。


これで、難航していた調査も終えることができて、役者が全て揃った。永瀬晃がおごっていた友達というのは2年6組の黒木徹也という生徒である。そして、恐喝をしている可能性がある先輩達というのは3年2組の須藤輝彦、3年3組の館林淳史と清川伸行という3人の生徒であるということがわかった。



■ 推理の見直しと最後の調査


週が明けた日の放課後、生徒会室には裏クラブのメンバーが集まってそれぞれ調査結果を報告していた。ところが、それを聞いていた堀坂向汰はソファーに座りながら頭を悩ませていた。


琴宮梓颯「向汰君、これで全ての情報が明らかになったと思うんだけど、まだわからないことがあるの?」

堀坂向汰「情報は全て揃ったんだけど、逆に謎が増えてしまったんだよ。どうも俺の立てた推理のどこかに間違いがある」

琴宮梓颯「謎が増えたってどういうこと?」

堀坂向汰「恐喝している先輩達はいつどこで永瀬晃を呼び出してるかってことだよ。それにいつどこで金を受け取ってるのかもわからなくなった」

琴宮梓颯「そう言われてみればそうよね。わたしの教室に3年生が訪れたことなんてなかったわ」

如月瑠衣「横から話に入って申し訳ありませんが、3人の生徒が空き部屋に訪れたのは2回とも木曜日だったというのは偶然だったと思いますか?」

堀坂向汰「いや、木曜日というのは偶然ではなく何かしらの意味があるはず。それも含めてもう1度、仮説から立て直してみる必要がある」

白石由希「木曜日に特別なことなんてないんだけどね」

堀坂向汰「如月さん、悪いんだけど、もう1度、影郎アカウントに届いたメッセージを映し出してもらえる?」

如月瑠衣「わかりました。では明かりを消しますね」


堀坂向汰は壁に映し出したメッセージを何度も読みなおしてみた。もし推理のどこかに間違いがあるとすれば、このメッセージの何を見落としてるはずなのだ。そう考えながら何度も読み直していると、堀坂向汰はあることに気がついて「そうか!捉え方を間違っていたんだ」と呟いた。


如月瑠衣「もう部屋の明かりをつけてもよろしいですか?」

堀坂向汰「うん。もう明かりをつけてもいいよ。俺はメッセージの読み方を間違っていた」

琴宮梓颯「読み方を間違っていたってどういうこと?」

堀坂向汰「捉え方を変えて読んでみたら謎だった部分が明らかになったよ」

琴宮梓颯「うーん・・・それでもよくわからないわ」


堀坂向汰は今回立て直した1つの仮説について説明しはじめた。


堀坂向汰「先輩達から呼び出しを受けたって部分がポイントなんだよ。みんな先輩達が直接永瀬晃を呼び出したと解釈してしまっていたと思う。でも、呼び出しを受けたってことは、先輩達が間接的に永瀬晃を呼び出していたと捉えることもできる。つまり、先輩達は第三者に永瀬晃を呼んでくるよう命令をしているという解釈ができるというわけだよ。そしてその第三者とは黒木徹也や2年生の部員だと仮定すれば謎だった部分が明らかになる。それと昼休みに部室横の空き部屋では、誰に永瀬晃を呼び出すよう命令するか、今回はいくら要求するかを話し合っているんだよ。あとは如月さんが気づいた木曜日の謎についてだけど、木曜日の放課後に永瀬晃を呼び出して、次の日、つまり金曜日の放課後に金を受け取っているんだろうね。どうして金曜日の放課後に金を受け取るかというと、もし恐喝がバレそうになった場合でも土日が挟まれば、言い訳などを考える時間がたっぷりある。それに受け取った金を使うのも土日というのも理由の1つかもしれない。どちらにしても先輩達にとって金曜日の放課後というのは都合がいいんだろうね」


この話を聞いた琴宮梓颯は「それだと最後の調査が必要になるのね」と呟いた。


堀坂向汰「如月さん、盗聴器なんて持ってないよね?」

如月瑠衣「さすがに盗聴器なんて持っていませんわ」

堀坂向汰「うーん・・・部室横の空き部屋での会話を録音できればいいと思ったんだけど、それは難しそうだね」

如月瑠衣「ノイズが入ってもよろしいのであれば、小型のFMトランスミッターを使う方法がありますわよ」

堀坂向汰「小型のFMトランスミッターなんて持ってるんだ?」

如月瑠衣「車で音楽を聴くために購入しましたの。マイク付きですので、空き部屋に仕掛ければ音声録音は可能ですわ」

堀坂向汰「さすがは瑠衣ちゃん!じゃあ今度の木曜日に音声録音しておいてほしい」

如月瑠衣「わかりました。それにしても瑠衣ちゃんって・・・わたくし、そのような呼び方されたことありませんのでなんだか恥ずかしいですわ」

琴宮梓颯「如月さんは瑠衣ちゃんというより、瑠衣お嬢様って感じのほうがあってるわね」

如月瑠衣「たしかにお嬢様と呼ばれることはあります」

堀坂向汰「如月さんにはもう1つしてもらいたいことがあるんだよ。かなり危険なんだけど、先輩達が永瀬晃を恐喝しているところ、そして金を受け取ってるところを動画撮影してほしいんだよ。木曜日と金曜日の放課後、永瀬晃を尾行してほしい」

如月瑠衣「わかりました。やってみますわ」

堀坂向汰「あと梓颯には、しばらくの間、黒木徹也を監視していてほしい。どうもこの件に関して黒木徹也が1枚噛んでるような気がするんだよ」

琴宮梓颯「わかったわ」

堀坂向汰「最後、白石雀士にお願いしたいのは、3人の先輩達の中で誰がリーダー的存在か調べてもらえますか?」

白石由希「雀士ってまたそのネタなんだね。とにかくわかった。3人のことをもう少し調べてみるね」


これで推理を立て直して、裏クラブのメンバーは最後の調査と証拠集めをすることにした。その中でも如月瑠衣はかなり危険な証拠集めをすることになるのだ。


次の日から琴宮梓颯は休み時間になると、2年6組の教室のほうへ歩いていって黒木徹也の様子を伺っていた。最初の2日間は特に不審な動きは見られなかった。ところが木曜日の昼休みが終了する10分前くらいに、黒木徹也は1人で教室を出て行った。琴宮梓颯はあとつけて行くと、3年3組の教室の前で立ち止まった。すると、その教室から館林淳史が出てきて黒木徹也に何か話をしているのが見えた。そして館林淳史が教室に戻ると黒木徹也はポケットからスマートフォンを取り出して文字入力をしているような操作をしているのを目撃した。琴宮梓颯は2人が何の話をしていたのか、スマートフォンで何をしていたのかはわからなかったが、明らかに今回の問題と関係がある行動だと思った。


一方、同じ木曜日、如月瑠衣は4限目の授業を途中退出してラグビー部の部室横の空き部屋へ向かった。空き部屋の中に入ってみると、右側にいくつかの段ボールが積まれている棚があって、左側にいくつかの体育用具とパイプ椅子が置かれいた。如月瑠衣は部屋の中を見回しながらどこにFMトランスミッターを仕掛けるか考えていた。すると右側の棚と床との間に数センチほどの隙間があった。その隙間の中に仕掛けることにした。そしてラジオで音声受信を確認すると空き部屋を出て非常階段の踊り場に潜んでいた。昼休みに入って15分ほどすると、前回と同じ赤いネクタイをした3人の男子生徒が空き部屋に向かって歩いてきた。その3人の男子生徒が空き部屋に入るのを確認すると、如月瑠衣はラジオをパソコンに接続して録音をはじめた。イヤホンで確認すると結構ノイズが入っているが男子生徒の声が聞こえてきた。


「なあ、そろそろ永瀬は限界じゃねえ?」

「あいつ、毎日バイトしてるみたいだからまだいけるよ」

「だな、絞れるだけ絞り取ろうぜ」

「今日はいくらにするよ?」

「今日も3万でいいんじゃねえ?それ以上は無理っしょ」

「そうだな。あとは誰に呼び出させる?」

「また黒木でいいんじゃねえ?他のやつだとまた面倒なことになりそうだし」

「じゃあ黒木に呼び出しメールするわ」

「今日もあの公園に呼び出せばいいんだよな?」

「うん。あそこしかないっしょ」


その後も3人の男子生徒は話し続けていたが、今回の問題に関係する会話はしっかりと録音することができた。そして、3人の男子生徒が空き部屋から出てきたのを確認すると、如月瑠衣は仕掛けておいたFMトランスミッターを回収した。


白石由希は知り合いの女子生徒からラグビー部のことについて聞き込み調査をしていた。その女子生徒は3年生でラグビー部だった同級生と付き合っているので内部事情に詳しいのだ。その女子生徒から得た情報によると、最も恐れられていたのはキャプテンだった小早川健司という生徒らしい。ところが次に恐れられていたのは部員の中で最もケンカが強かった館林淳史だったという。だからといって館林淳史が3人の男子生徒の中でリーダー的存在になっているかどうかはわからないが、永瀬晃が最も恐れている先輩であることは間違いないと白石由希は思った。



■ 犯罪者の処罰と問題解決


その日の授業が終わって、如月瑠衣はすぐに2年1組の教室まで走っていった。そして永瀬晃が教室から出てくるのを確認すると、こっそりあとをつけていった。校門を出て駅のほうに向かって5分ほど歩いていくと、突然右に曲がって住宅街の中へ入って行った。住宅街の中はいくつも曲がり角がある複雑な道になっているので、如月瑠衣は見失わないよう注意して尾行を続けた。しばらく住宅街を歩いていると左側に寂れた公園があり、永瀬晃はその公園の中へ入っていった。その公園の奥は樹林で覆われているのを見た如月瑠衣は、すぐに公園の反対側に回って柵を乗り越え、その樹林の中に身を潜めた。それから10分程すると、昼休みに空き部屋に入っていた3人の男子生徒が公園の中に入ってきた。如月瑠衣は持ってきていたビデオカメラに小型の集音器を取りつけて録画ボタンを押した。永瀬晃はすぐさま立ち上がって頭を下げた。


館林淳史「永瀬、明日、3万でいいから持ってこい」

永瀬晃「は、はい。わかりました。明日、3万円持ってきます」

館林淳史「忘れたらどうなるかわかってるよな?」

永瀬晃「わかっています」

館林淳史「あと、このこと誰かにチクったりしてねえだろうな?」

永瀬晃「誰にも言っていません」

館林淳史「誰かにチクったりしたら、前よりもっと痛い目にあわせるからな」

永瀬晃「わかりました」

館林淳史「じゃあ、明日の放課後、またここでな」

永瀬晃「はい」


そして館林淳史を含む3人の男子生徒は公園から出ていった。如月瑠衣はビデオの録画停止ボタンを押して、しばらく様子を伺っていた。すると永瀬晃はベンチに座って涙を流しはじめた。その様子からして精神的に限界がきているように感じられた。如月瑠衣はそんな永瀬晃をずっと見ていた。


次の日の放課後、如月瑠衣は先に昨日の公園に行って、樹林の中に身を潜めながら待っていた。ところが永瀬晃も3人の男子生徒もなかなかやって来ない。この日、1年生の授業は5限目で終了したが、2年生や3年生は6限目まで授業があったのだ。あらかじめ各学年の時間割を調べていなかった如月瑠衣は、ひたすら待ち続けることになった。そして1時間半程して永瀬晃が公園に入ってきてベンチ座った。それからまもなくして3人の男子生徒達も公園にやって来たのだ。如月瑠衣はすかさずビデオカメラに小型の集音器を取りつけて録画ボタンを押した。永瀬晃は立ち上がるとすぐにカバンの中から茶色い封筒を取り出した。そして館林淳史がその封筒を取り上げて中から3枚の万札を取り出した。


館林淳史「よし。ちゃんと持ってきたな」

永瀬晃「あの・・・先輩。僕にはもう限界です」

館林淳史「はあ?何言ってんのお前?」

永瀬晃「もうこれ以上のお金は用意できません」

館林淳史「お前、バイトしてんだろ?」

永瀬晃「今のバイトの給料だけでは週に何万円も稼げません」

館林淳史「甘えたこと言ってんじゃねえぞ!だったらもっと稼げるバイトすりゃーいいじゃねえか」

永瀬晃「高収入のバイトは時間的に無理なのです」

館林淳史「それが無理なら親に借りるなりすりゃー金ぐらい集められるだろ?」

永瀬晃「そんなこと・・・」

館林淳史「とにかくお前は言われた通りに金を集めてくりゃーいいんだよ」

永瀬晃「わ、わかりました・・・」


最後に館林淳史は永瀬晃の背中をバンッと叩いて「まあ、しっかりバイトして稼いでこいよ」と言って他の2人の生徒達と公園から出て行った。如月瑠衣はビデオの録画停止ボタンを押して、今日はさっさと立ち去ることにした。


週明けの放課後、生徒会室に裏クラブのメンバーが集合していた。全ての証拠が揃ったところで3人の男子生徒の処罰と解決方法を考えていた。如月瑠衣はこの件に関して「もう警察沙汰にしてしまって、恐喝していた3人の男子生徒は退学処分にさせるべき」との意見だった。白石由希も如月瑠衣の意見に同意していた。ところが琴宮梓颯の意見は「そこまですると裏クラブの活動方針に反する」とのことだった。そこにソファーでスナック菓子をボリボリと食べていた堀坂向汰が口を開いた。


堀坂向汰「如月さんや白石先輩の意見もわかるけど、ここは裏クラブらしい処罰を与えて問題を解決させよう」

琴宮梓颯「向汰君には何かいい考えがあるのね?」

堀坂向汰「まあね。まず、如月さんにお願いしたいのは撮影した動画の音声だけを取り出してほしい。それで永瀬と名前を言ってる部分は自主規制音のピー音で隠すように音声ファイルを編集することってできる?」

如月瑠衣「それなら簡単に編集できますわよ」

堀坂向汰「その編集した音声をCDプレーヤーで聴けるようにCDRディスクに入れて明日持ってきてほしい。捨ててもいいディスクでいいよ」

如月瑠衣「わかりました。安いCDRディスクならたくさんありますわ」

堀坂向汰「梓颯、今から放送部のスケジュール表を手に入れるのって難しい?」

琴宮梓颯「それなら簡単よ。放送室にいけばスケジュール表が貼ってあるからスマホで撮影してくるわ」

白石由希「あっ!ちょうど職員室に用事があったから、わたしが今から放送室に行ってスケジュール表の写真撮ってくるね」


白石由希は生徒会室を出て職員室に行った。その間、堀坂向汰は放送部のスケジュール表を撮影してくるのを待っていた。10分ほどして白石由希が戻ってきた。


白石由希「放送室って鍵かけてないんだね。スケジュール表を撮影してきたよ」


白石由希がスマートフォンを出して撮影した放送部のスケジュール表の写真を画面に表示した。


堀坂向汰「放送部が昼休みに音楽を流す時間は30分間だったよね?」

琴宮梓颯「そうね。昼休みの前半だけ流れてるわね」

堀坂向汰「如月さん、明日の昼休みの後半、放送室を見張っていてほしい。放送部の生徒が出てきて教室に戻ったのを確認したら、こっそり放送室に入って、さっき言った音声入りのCDをリピート再生して最大の音量で放送してほしい。放送されたらすぐにその場から逃げ出してね」

如月瑠衣「それはいいのですが、わたくし、放送室にある機器の操作方法をよく知りませんの」

堀坂向汰「じゃあ今日の帰りに放送室に行って確認しておいてほしい。生徒が簡単に操作できる機器だから、如月さんなら見ればすぐわかると思う」

如月瑠衣「わかりました」

堀坂向汰「よし!明日の放送で恐喝している3人を脅して、放課後までに館林淳史の下駄箱に警告文を入れておけば今回の問題は解決だよ」

琴宮梓颯「でも警告文で脅して恐喝を辞めさせれば問題は解決するけど、それだけだと処罰にならないんじゃない?」

堀坂向汰「いや、その3人が恐喝して脅し取ったお金はしっかりと返してもらうようにするよ。罰金込みでね」

琴宮梓颯「警告文にそのことを書くのね?」

堀坂向汰「そうだよ。梓颯、早速だけど警告文の作成をしよう」


次の日の昼休み、如月瑠衣は放送室から少し離れた場所で待機していた。お昼の放送が終わって5分くらいすると放送室から放送部の生徒2名が出てきた。2名の生徒が完全に放送室から去っていったことを確認すると、如月瑠衣は急いで放送室に入った。そしてミキサーの音量を最大にして、持ってきた音声入りのCDをプレイヤーにセットするとリピートボタンを押して再生した。雑音のような音が校内放送に流れると、如月瑠衣はさっさと放送室から出ていった。学園内に設置されている全てのスピーカーから館林淳史と永瀬晃の会話がしっかり聞こえてきた。名前を呼んでいる部分はしっかりとピー音で隠されいた。そのCDには木曜日に金を要求した時の会話と金曜日に金を受け取った時の会話が入っていた。放送を聴いてる誰もが恐喝して金を脅し取ってる会話だとわかった。さすがの先生達もその放送を最後まで聴いていたが、音声だけなので人物までは特定できない。そして再び最初の会話が流れ出した時に放送が停止された。その後、男の先生が「先ほどの会話を放送した生徒は直ちに職員室までくるように」という放送が流れた。もちろん、如月瑠衣は知らないフリをしていた。


ところで、この放送を聴いた館林淳史は冷や汗を流していた。誰がどこで録音したのか全くわからなかったのだ。それよりも、声からバレてしまわないかと心配していた。そこに清川伸行がやってきて「これやばいんじゃねえ?」と声をかけてきた。館林淳史は怯えた声で「やべえよ」と呟いた。しばらく沈黙していると須藤輝彦が顔面蒼白になりながら3年3組の教室に入ってきた。須藤輝彦は「淳史、バレるのも時間の問題だぞ」と言った。館林淳史は腕で汗をぬぐって「声だけだし、疑われてもとぼければバレねえと思う」と小さな声で言った。それを聞いた須藤輝彦は「もし疑われても俺達の名前は出さないでくれよ」と言うと、館林淳史は怒りながら「お前、自分だけ助かろうなんて汚ぇぞ」と言った。その話を聞いていた清川伸行は小さな声で「まあ声だけだから大丈夫っしょ」と囁いた。


それから午後の授業が始まっても館林淳史の震えは止まらなかった。心の中で声だけだからバレることはない、疑われてもとぼければいいと何度も自分に言い聞かせていた。そして長く感じていた午後の授業が終わると、館林淳史はさっさと帰宅することにした。時間が経つにつれて、震えもおさまっていた。しかし、その落ち着きは一時的なものであった。館林淳史が自分の下駄箱を開けると四つ折りにされた白用紙が置かれていたのだ。その用紙を開いて中身を確認すると次のような文章が書いてあった。


『館林淳史さんへ警告。あなたが同じクラスの清川伸行さんと3年2組の須藤輝彦さんの3人で2年1組の永瀬晃さんを恐喝して多額の金銭を脅し取っていたことは調査済みです。昼休みに流れた放送は音声だけでしたが、こちらはその動画も持っています。つまり、この動画はあなた達3人が恐喝行為をしていた証拠品となります。刑法第249条、人を恐喝して財物を交付させた者は10年以下の懲役に処するという法律をご存じでしょうか。もし、警察沙汰になれば、あなた達3人は退学処分はもちろん、恐喝罪で逮捕されるでしょう。それでもまだ恐喝行為を続けるのであれば、こちらは警察沙汰にさせていただきます。もう二度と恐喝行為をしないと断言すれば、今回のことは内密にしておきます。ただし、あなた達3人が脅し取った全金額および罰金を含めた30万円を永瀬晃さんにお返ししていただくのが条件です。もし、この条件に応じるつもりがなかったり、そういった行動が見られない場合は、遠慮なく警察沙汰にさせていただきます。』


この文章を読んだ館林淳史は顔面蒼白になって冷や汗を流していた。昼休みに流れた放送など比べ物にならないくらい怯えさせられる内容なのだ。まさか動画まで撮影されていたとは思いもしなかったのである。これで完全な証拠は掴まれているので3人とも逃れることはできないとわかった。館林淳史はこの文章を他の2人にも読ませて「この条件に従うしかねえよ」と呟いた。すると清川伸行と須藤輝彦も震えだして「3人でバイト探そうぜ」と言った。


一方、生徒会室では裏クラブのメンバーが集まっていた。


堀坂向汰「あそこまで追い込んでおけば、もう大丈夫だよ」

琴宮梓颯「でもあの3人は本当に永瀬君に30万円も返すと思う?」

堀坂向汰「必ず返すと思うよ。まあ、3人でバイトすれば、30万円くらいはすぐ集められるでしょ」

琴宮梓颯「さて、影郎アカウントにログインして、問題解決のメッセージを送るわね」


琴宮梓颯は影郎アカウントにログインして永瀬晃のアカウントにダイレクトメッセージを送った。送ったメッセージは『あなたの問題は解決させました。二度と先輩達から恐喝されてお金を脅し取られることはないでしょう。脅し取られたお金について、その先輩達から全額返してもらえるでしょう。だからといって今後はあまり多額のお金を持ち歩かないようにしてください。』という内容だった。


今回の問題は完全に犯罪行為が絡んでいたが、たとえ大きな問題を起こした生徒であっても、すぐに退学処分にして切り捨てるようなやり方をしないのが裏クラブの方針なのである。


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