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明智学園裏クラブ  作者: 涼
6/15

恋の不登校

■ 休み明けの依頼


長い夏休みが終わって2学期が始まった。まだ残暑が続き外を歩くと汗だくになる。琴宮梓颯は夏休みの間もときどき自宅から影郎アカウントにログインしていたが、新規メッセージは届いていなかった。始業式の日、生徒達が帰宅していった後、生徒会室で会議が行われていた。会議といっても表向きは何の問題も起こってないので、各委員からの連絡事項を確認するだけで終わった。その会議が終わって、生徒会室に残っていた琴宮梓颯と如月瑠衣はソファーに座ってまったりと話をしていた。


如月瑠衣「夏休み中、影郎に新しいメッセージは届かなかったはよかったですわ」

琴宮梓颯「そうね。夏休み中だと裏クラブの活動もやりにくいからね」

如月瑠衣「そういえば琴宮会長は夏休みにどこか行かれましたか?」

琴宮梓颯「向汰君とバイクで海に行ってきたわ」

如月瑠衣「堀坂先輩がバイクの免許を持っているなんて意外ですわね」

琴宮梓颯「そうなの。わたしも驚いたんだけど、16歳になってすぐに免許をとったらしいのよ」

如月瑠衣「よく教習所に通えるだけのお金を持っていましたね」

琴宮梓颯「それがね、向汰君って小学生の頃からずっとオフロードバイクに乗ってたらしいの。プロ並みの運転技術が身についてたみたいで、教習所に通わず一発試験で合格したらしいのよ」

如月瑠衣「それはすごい・・・本当に人はみかけによりませんわね」


そんな夏休み中の話をしながらのんびりしているともう17時を過ぎていた。


次の日の昼休み、琴宮梓颯は生徒会室で昼食をとりながら、いつものように生徒会室で影郎アカウントにログインするとダイレクトメッセージが届いていた。そのメッセージとは次のような内容であった。


影郎さんへ

はじめまして。私は1年6組の羽島美佳と申します。


実は、同じクラスの古賀智美さんという生徒のことで、

ご相談がありましてメッセージを送らせていただきました。


1学期の期末テストが終了した頃から、突然、古賀智美さんが不登校になりました。

最初はあまり気にしていなかったのですが、終業式までずっと欠席していましたので、

心配になって古賀さんの家に行ってみました。

その時、もう1人、同じクラスで仲良くしていた朝戸菜穂さんという生徒も一緒に来てくれました。


家のチャイムを鳴らすと古賀さんが少し暗い表情をしながら出てきました。

それから部屋にあがらせてもらって、私達は古賀さんに悩んでることがあれば相談に乗ると言いました。

しかし、古賀さんは「もう勉強に疲れた」、「学園に行くのが怖くなった」としか言いませんでした。

私達は何が怖いのか聞いてみましたが「なんとなく」としか答えてくれませんでした。

あまり質問攻めにするとかえって困らせてしまうと思いましたので、私達はそっとしておくことにしました。


しかし、夏休みが終わって2学期になっても古賀さんは登校してこなかったのです。

そこで私達はいろいろ考えてみました。古賀さんは担任の先生のことをかなり慕っていましたので、

念のために先生に聞いてみましたが、わからないとのことでした。

誰かからいじめを受けてるような感じでもなさそうで、私達が傷つけるようなことを言った覚えもないので

不登校の原因がさっぱりわかりません。


もう誰に相談していいのかわからず、神頼みのつもりで影郎さんに相談してみました。

古賀さんが退学したいのであれば、それは仕方のないことだと思いますが、

誰にも言えない悩みを1人で抱えているのであれば、なんとかしてあげたいと思っています。

どうか、よろしくお願いします。


このメッセージを読んだ琴宮梓颯はすぐに裏クラブのメンバーにメールを送った。今回は1年生からの依頼であったが、裏クラブの活動を体験してもらうという意味で3年5組の白石由希も呼び出した。


そして放課後、生徒会室には裏クラブのメンバーが集合した。堀坂向汰はいつものようにソファーに座ってカバンの中からポテトチップスとペットボトルのコーラーを取り出した。如月瑠衣はプロジェクターで今回届いたメッセージを生徒会室の大きな壁に映し出した。白石由希はソファーに座って必死にメッセージを読んでいた。


琴宮梓颯「今回は1年生の不登校という問題なんだけど、如月さんはこの生徒のことを知ってる?」

如月瑠衣「いいえ。わたくしの知らない生徒です」

白石由希「1年6組の担任って林先生じゃなかったかな?」

琴宮梓颯「林先生って、あの女子生徒達から人気のある林弘幸先生のことですか?」

白石由希「うん。たしか生徒達の間で林先生が1年6組の担任になって残念だって言ってたのを覚えてるよ」

如月瑠衣「たしかに1年6組の担任は林弘幸先生でしたわ」


その1年6組の担任である林弘幸先生とは26歳とまだ若い数学教師で、サッカー部の顧問をしている。オシャレな黒のナチュラルショートヘアで身長は165cmほど、少しツリ目で鼻筋が通っていて面長、全体的にさわやかな雰囲気をしたスポーツマンタイプ。独身で一部の女子生徒から人気がある先生なのだ。


白石由希「林先生って普段は生徒に優しいみたいだけど、部活ではかなり厳しいみたいだよ」

琴宮梓颯「まあ今回のことに林先生が関係しているかどうかはわからないわね」


バリバリとポテトチップスを食べながらコーラーを飲んでいる堀坂向汰が口を開いた。


堀坂向汰「このメッセージの前に・・・白石先輩、目の下のクマ・・・テツマンもほどほどにしたほうがいいですよ」

白石由希「あれ、バレてたの。えへへ・・・昨日、雀卓を持ってる友達から誘われて、朝までやっちゃった」


堀坂向汰はどうやら白石由希に麻雀ネタのツッコミを入れるのが面白いようだ。


堀坂向汰「さて、このメッセージからは推理できることがあまりないんだけど、ポイントを整理してみたよ。まず、不登校のキッカケになったのは1学期の期末テスト後であるということ。勉強に疲れたという言葉と学園に行くのが怖くなったという言葉に何かしらの繋がりがあると思うんだけど、今の段階ではわからない。何が怖いのか聞いてみて『なんとなく』と答えたということは、それを答えられない理由があるということだね。もし、古賀智美の怖いという理由に人物が絡んでいるんだとすれば、その人物は脅したりしているわけではないと思う。古賀智美が脅されているように感じているのか、もしくはその人物をかばっているのかもしれない。どちらにしてもわからないことだらけなので、まずは調査からはじめていくしかないね。それとこの古賀智美という生徒から直接話を聞いてみるのがいいと思う」


しばらく裏クラブのメンバー全員は黙って考え込んだ。今回は本人ではなく第三者からの依頼なので、推理できるまでの情報がないのだ。情報がなければ集めてくるしかないのだが、古賀智美が不登校であるという情報はあまり学園内で知られていないのである。つまり、下手な聞き込み調査などをしてしまうと裏クラブの活動だと気づかれてしまう恐れがある。


琴宮梓颯「如月さん、今、1年6組の生徒名簿を印刷したんだけど、この中に知ってる人はいない?」

如月瑠衣「確認してみますわね」


如月瑠衣は印刷された生徒名簿に目を通していった。


如月瑠衣「この宮村優斗という男子生徒なら同じ中学出身ですので知っていますわ」

琴宮梓颯「その男子生徒と話をすることはできる?」

如月瑠衣「うーん・・・名前と顔を知っているくらいで、一度も話したことはありませんので難しいですわ」

琴宮梓颯「そう・・・いきなり話しかけるのは不自然よね」


そこでポテトチップスを食べながら堀坂向汰が口を開いた。


堀坂向汰「だったら如月さんが林先生のことを好きになればいいんだよ」

如月瑠衣「堀坂先輩、食べながら話すなんて行儀が悪いですわよ。わたくしが林先生のことを好きになるとはどういうことですの?」

堀坂向汰「つまり、如月さんが林先生に好意を抱いてることにして、その宮村優斗という生徒に話しかければいいんだよ」

如月瑠衣「それを口実にして古賀智美さんのことを聞き出すということですか?」

堀坂向汰「そうだよ。如月さん、最近物分かりが良くなってきたね」

如月瑠衣「そんなことをして変な噂が広まりますと、わたくし、困りますわ」

堀坂向汰「そこは言い方に注意すれば大丈夫だよ。林先生のことは単なる憧れだと感じさせれば、噂にまではならないよ」

琴宮梓颯「そうね。他にも林先生に憧れている女子生徒はいるから大丈夫だと思うわ。如月さん、その方向でお願いできない?」

如月瑠衣「わかりました。琴宮会長もそうおっしゃるのでしたらやってみますわ」


そこでずっと話を聞いていた白石由希が少し驚いた表情をしながら口を開いた。


白石由希「裏クラブって頭使うだけじゃなくて、そんなことまで実行して情報を集めるんだね。ちょっと驚いたよ」

琴宮梓颯「白石先輩にもそういうことをしていただく時がくるかもしれませんよ」

白石由希「わたし、演技とか苦手だから自信ないなあ」

堀坂向汰「白石先輩なら大丈夫ですよ。ポーカーフェイスなら麻雀で慣れているはずです」

白石由希「あはは、また麻雀ネタでわたしをいじめるんだね」

堀坂向汰「いやーそれだけ白石先輩のことが好きってことですよ」

白石由希「こらこら、彼女の前でそういうこと言っちゃだめだよ」

琴宮梓颯「向汰君は白石先輩をいじるのが相当好きみたいね」

堀坂向汰「とにかく第1段階はその方向でいこう。如月さんが古賀智美の不登校情報を聞き出すことができれば、生徒会は動き出せる」

如月瑠衣「では、夜に会話のシュミレーションをして、明日にでも聞き出してみせますわ」


生徒会副会長である如月瑠衣に不登校情報を話すということは、生徒会に漏らしていることと同じことなのである。しかし、一般的に不登校の生徒に関しては生徒会でなく教師やスクールカウンセラーなどが取り扱う問題なのだ。それにもかかわらず生徒会はどのように動くつもりなのだろうか。



■ 生徒会からの交渉


次の日の朝、如月瑠衣は1年6組の教室へ行き、同じ中学出身の宮村優斗という男子生徒に話しかけた。


如月瑠衣「同じ中学出身の宮村優斗君ですわよね?わたくしのことはご存じでしょうか?」

宮村優斗「生徒会副会長の如月さん!?だよね。もちろん知ってるよ」

如月瑠衣「突然で申し訳ないのですが、少しお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

宮村優斗「はい。僕に何か用でもあるの?」

如月瑠衣「わたくし、恥ずかしながらこのクラスの担任である林先生に憧れてますの。そこで林先生のことを少し教えていただきたいのです」

宮村優斗「やれやれ、副会長さんまで林先生に憧れているんだ。でも僕は林先生のこと、あまりよく知らないよ」

如月瑠衣「その言い方ですと、他にも林先生に憧れている生徒がいるのですか?」

宮村優斗「うん。このクラスにも何人かいるみたいだけど、詳しくは知らない」

如月瑠衣「そうですか。それだけ人気の先生のクラスであれば、問題なんて起こす生徒もいなさそうですね」

宮村優斗「そうでもないよ。うちのクラスには不登校の女子生徒がいて、林先生も頭悩ませてるんじゃないかな」


如月瑠衣は簡単に不登校の生徒のことを聞き出せたので、一瞬、表情がニヤけてしまった。


如月瑠衣「それは大変ですね。その不登校の女子生徒は何か問題でも起こしたのでしょうか?」

宮村優斗「これといった問題を起こしたわけでもなく、突然、不登校になったみたいだよ」

如月瑠衣「その女子生徒のことを詳しく教えていただけませんか?生徒会副会長として何かできることがあればと思いますの」

宮村優斗「詳しいことは知らないけど、古賀智美という女子生徒で1学期が終わる頃くらいからずっと欠席しているんだよ」

如月瑠衣「古賀智美さんですね。そのことについて林先生は何かおっしゃっていましたか?」

宮村優斗「林先生は自宅訪問して直接本人から話を聞いてみると言ってたけど、それ以外は何も言ってないよ」

如月瑠衣「わかりました。お話していただいて、ありがとうございました」

宮村優斗「林先生のことはもういいの?」

如月瑠衣「はい。林先生はライバルが多いと知って、わたくし、気持ちが冷めてしまいました」


如月瑠衣はきっちりと古賀智美の情報を聞き出すことができたので、さっさと会話を切り上げて自分の教室へ戻っていった。


昼休みになり、琴宮梓颯と如月瑠衣の2人は生徒会室に集合していた。如月瑠衣は1年6組の宮村優斗から古賀智美の情報を聞き出せたことを報告していた。


琴宮梓颯「如月さん、よくやってくれたわ。それじゃあ次の段階に進むことにしよう」

如月瑠衣「次の段階はどのようなことをするおつもりですか?」

琴宮梓颯「林先生から許可をいただいて古賀智美さんの自宅に訪問するのよ」

如月瑠衣「これは生徒会が関われる問題ではないのではありませんか?」

琴宮梓颯「それはわかってるわ。だから今回は生徒会が不登校の生徒と話をするという形にしてしまうの。つまり生徒同士でコミュニケーションをとってみるということね。もちろん登校を促したりはしないわ」

如月瑠衣「なるほど。その訪問には堀坂先輩も連れていったほうがよろしいのではありませんか?」

琴宮梓颯「向汰君には少し変装してもらって一緒に来てもらうわ。自宅訪問は情報収集が目的だから、部屋の中もよく観察しておく必要があるわね」

如月瑠衣「チャンスがあれば動画撮影もしておきますわ」

琴宮梓颯「早速だけど、職員室に行って林先生に交渉してみましょう。如月さんも一緒にきてね」

如月瑠衣「わかりました」


琴宮梓颯と如月瑠衣の2人は職員室へ向かった。そして林弘幸先生のところへ行き、生徒会として古賀智美と話がしたいので自宅訪問させてほしいと交渉した。林先生は「このことは問題沙汰にしてほしくない」と言って交渉に応じてくれなかった。しかし、琴宮梓颯は「生徒会として登校を促しに行くのではなく、ただ生徒同士でコミュニケーションをとってみるだけなので問題沙汰にはならない」と言い返した。それを聞いた林先生はしばらくの間「うーん」と呟きながら考えていた。そこで如月瑠衣が「では、わたくしが古賀智美さんに電話をして確認してもよろしいですか?」と言った。林先生は「わかりました。電話で確認して本人がいいと言えば許可します」と言って古賀智美に電話をかけた。


林先生「もしもし古賀智美さんのお電話でしょうか?担任の林です。実は古賀さんと話がしたいという生徒がいるんだけど代わってもいいかな?」


電話の向こうから「わかりました」という小さな声が聞こえた。林先生は如月瑠衣に受話器を渡した。


如月瑠衣「もしもし、はじめまして。わたくし、1年2組の如月瑠衣と申しまして生徒会副会長をさせていただいております。実は、生徒会として古賀智美さんと生徒同士のコミュニケーションをとってみたいと考えておりますの。ただ生徒同士で輪になって世間話をするだけだと思ってください」

古賀智美「はあ・・・コミュニケーションですか。よくわかりませんが世間話をするくらいなら別にいいですよ」

如月瑠衣「では、明日の放課後、わたくしと、生徒会長の琴宮先輩、そして学園に不満があるという男子生徒の3名で古賀智美さんの自宅に訪問させていただいて構わないでしょうか?」

古賀智美「そっか!わたしの家でしか話せる場所がありませんね。わかりました。明日、お待ちしています」

如月瑠衣「それでは、よろしくお願いします」


古賀智美と話が終わると如月瑠衣は林先生に受話器を渡そうとした。すると林先生は「先生はもう話すことないから電話を切ってくれていいよ」と言った。如月瑠衣は「先生からは特に話すことがないらしいのでこのまま電話を切ります」と言って電話を切った。その後、林先生は「自宅訪問は許可するけど、不登校のことについては話題にしないでほしい」と言って、古賀智美の住所と最寄り駅をメモ用紙に書いて琴宮梓颯に手渡した。


その日の放課後、生徒会室には裏クラブのメンバーが集まっていた。そして琴宮梓颯と如月瑠衣の2人は昼休みに林先生に交渉したことや、古賀智美と電話で話したことを説明した。


堀坂向汰「なんか林先生の態度が引っかかるねえ」

琴宮梓颯「わたしも林先生の態度が冷たいように感じたわ」

如月瑠衣「不登校の生徒に電話して、最後は話すことがないなんて言ってましたからね」

堀坂向汰「冷たい態度もだけど、問題沙汰にしてほしくないというのが引っかかるんだよ。実は何かを隠してるんじゃないかな」

琴宮梓颯「たしかに自分のクラスに不登校の生徒がいるくらいで大きな問題にはならないわよね」

堀坂向汰「それに不登校のことについては話題にしないでほしいと言った理由も気になる。その話題をされると何か都合の悪いことでもあるんじゃないかな」

白石由希「横から話に入ってごめんなさい。古賀智美さんって、かなり林先生のことを慕っていたんじゃなかった?」

琴宮梓颯「そういえば影郎に届いたメッセージにそう書いていましたね」


白石由希の発言を聞いた堀坂向汰はピンときて、1つの仮説を立てることができた。


堀坂向汰「如月さん、古賀智美の成績表を手にいれることってできない?」

如月瑠衣「先生達のパソコンにアクセスすれば簡単に手に入れることができますわ」

堀坂向汰「先生達のパソコンって簡単にアクセスできるの?」

如月瑠衣「実は、わたくし、ある不用心な先生のパソコンに、いつでもアクセスできるような仕掛けを入れましたの」

堀坂向汰「そんな仕掛けを入れてバレたらまずいんじゃないの?」

如月瑠衣「この学園の先生達の知識では、絶対にその仕掛けを見つけることはできないと思いますわ」

堀坂向汰「じゃあ、早速だけど古賀智美の成績表を手に入れてほしい」

如月瑠衣「わかりました」


その会話を聞いていた白石由希は驚いた表情をしていた。それからしばらくして、如月瑠衣が「古賀智美さんの成績表のデータを手に入れました」と言った。そして、如月瑠衣がパソコンにプロジェクターを繋いで生徒会室の壁に古賀智美の成績表を映し出した。その成績表を見た堀坂向汰は「やっぱり、思った通りだった」と呟いた。


琴宮梓颯「古賀智美さんは理系がかなり苦手みたいね。中間テストも期末テストも数学と物理は赤点になってるわ」

堀坂向汰「特に数学は中間より期末のほうが悪くなってる。数学といえばもうわかるよね?」


みんな一斉に「林先生!」と少し大きな声で言った。


堀坂向汰「これで不登校の原因が見えてきたよ。数学の成績のことで古賀智美と林先生の間で何かがあったに違いない。明日の自宅訪問で、その確証を得ることができれば、あとは問題の解決方法を考えればいい。ただ、今回はその解決方法が難しくなるかもしれないけどね」


古賀智美の自宅に訪問すれば、堀坂向汰は自分の推理が正しいという確証を得ることができるはずだと考えていた。しかし、堀坂向汰が何を考えているのか、他のメンバーにはわからなかった。



■ 生徒会の家庭訪問


次の日の放課後、琴宮梓颯と如月瑠衣は古賀智美の自宅近くにある駅前で堀坂向汰と落ち合った。一緒に歩いているところを他の生徒に見られるとまずいので、別々に行くことにしたのだ。堀坂向汰はいつもおろしている前髪をあげて、耳元を出して髪の毛全体をスプレーで整えていた。そしてマスクをして顔がわからないようにした。この駅から古賀智美の自宅までは歩いて10分ほどなので3人は歩きながら打ち合わせをしていた。


堀坂向汰「今日は梓颯が中心となって話していけばいいんだけど、話題のネタは恋バナでお願いしたい」

琴宮梓颯「なるほど。林先生に対する気持ちを間接的に聞き出すわけね」

堀坂向汰「そう。あと如月さんは、チャンスがあれば本棚や机の上に置いてあるものを中心に動画撮影してほしい」

如月瑠衣「わかりましたわ」


坂道をあがっていくと右手に古賀と書かれた表札があった。2階建ての少し大きな家でポストの横にカメラ付きのインターホンが設置されていた。琴宮梓颯が「ここで間違いないわ」と言ってインターホンのチャイムを鳴らした。しばらくするとドアが開いて、サラサラのセミロングヘアーに水色のワンピースを着た古賀智美が出てきた。古賀智美は暗い表情をしながら「生徒会の方々ですね。お待ちしていました。中へどうぞ」と言った。3人は玄関まで歩いていくと「お邪魔します」と言って家の中に入った。古賀智美は3人を2階の自分の部屋へ案内すると「お茶を用意してきますので、そちらに座ってお待ちください」と言った。床には4枚の座布団が輪のように敷かれていて3人はその座布団に座った。古賀智美がお茶を用意するため部屋から出ていくと、如月瑠衣はすかさずポケットからスマホを取り出して動画撮影をはじめた。しばらくして階段を上ってくる足跡が聴こえてくると、如月瑠衣は動画撮影をやめて座布団に座った。古賀智美は4人分のお茶とお菓子をトレイにのせて部屋に戻ってくると「お待たせしました。テーブルがないので床で申し訳ありませんがどうぞ」と言って床にトレイを置いた。そして部屋のドアを閉めると古賀智美は空いている座布団に座った。


琴宮梓颯「あらためて自己紹介させてもらうわね。はじめまして。わたしは生徒会長の琴宮梓颯です」

如月瑠衣「わたくしは、1年2組の如月瑠衣と申します。お電話でもお伝えしましたが、生徒会副会長をさせていただいております」

堀坂向汰「僕は2年の堀といいます」

古賀智美「みなさん、はじめまして。わたしは1年6組の古賀智美です」

琴宮梓颯「古賀さん、今日、ご家族はご不在なの?」

古賀智美「はい。うちの両親は共働きしていますので夜まで帰ってきません。兄は大学に通っていて1人暮らしをしています」


堀坂向汰は古賀智美の部屋の中を観察してた。床にはファッションやテレビ、映画、SNSなどの情報雑誌がたくさん置いてあり、本棚には数学の参考書が数冊並べられていた。


琴宮梓颯「古賀さん、あらかじめ言っておくわね。今日は生徒同士のコミュニケーションをとることが目的で訪問させてもらったので、登校を促したりしないから安心してほしいの」

古賀智美「はい。わかりました」

堀坂向汰「そうそう。僕は学校なんて行きたくなければ行かなくていいと思う」

古賀智美「わたし、別に学校に行きたくないわけじゃないんです」

琴宮梓颯「そうなの?」

古賀智美「はい。ただ、ちゃんと勉強しないと怖いというか、でも勉強するのに疲れちゃったというか・・・」

琴宮梓颯「古賀さん、今日はその話をするのが目的ではないから違う話をしましょう」

古賀智美「そうでしたね。ごめんなさい」


堀坂向汰は古賀智美の「ちゃんと勉強しないと怖い」という発言を見逃さなかった。


琴宮梓颯「せっかく女子が3名いるから恋バナの話にしましょうか。そこに男子がいるけど気にしなくていいわ」

古賀智美「わたし、恋バナなんてしたことないから話に入れる自信がありません」

琴宮梓颯「それは気にしないで大丈夫よ。じゃあ、まず古賀さんと同じ1年生の如月さんに聞いてみましょう。如月さん、好きな人とかいないの?」

如月瑠衣「好きな人ですか?今はこれといった人はいませんね」

琴宮梓颯「じゃあ如月さんはどんな人が好みのタイプなの?」

如月瑠衣「好みのタイプですか?そのようなことは考えたこともありませんが、頭が良くて優しくて、わたくしのことを本気で好きだと言ってくださる人なら惹かれてしまうかもしれませんわ」

琴宮梓颯「それなら、学園で成績優秀な生徒の中から見つけるといいかもしれないわね」

如月瑠衣「そういう頭の良さではなく、頭の回転が速い人といえばいいのでしょうか」


琴宮梓颯はニヤっとしながら「なるほどね」と言ってチラリと堀坂向汰のほうを見た。その仕草を見た如月瑠衣は「琴宮会長、ち、ちがいますわよ。勘違いしないでくださいね」と言った。


琴宮梓颯「それじゃあ、次はわたしの番ね。こうみえて初恋は去年、つまり1年生の時だったの」

古賀智美「ええー!琴宮先輩って学園のアイドル的存在で有名じゃないですか。それまで好きになった人とかお付き合いした人はいなかったんですか?」

琴宮梓颯「小学生や中学生の頃にいいと思っていた人なら何人かいたけど、それは好きというより単なる憧れって感じだったの。付き合ってみた人もいたけど憧れと好きは違うってことに気づいたからすぐに別れたわ」

古賀智美「そうなんですか。憧れと好きは違うんですね・・・」

琴宮梓颯「本気で好きだと思える人に出会えたのが去年だから、わたしの初恋は去年ということなのよ」

古賀智美「その初恋の人とはお付き合いしているのですか?」


この質問に琴宮梓颯は少し悩んでしまった。もし付き合っている彼氏がいるということが学園の生徒達に知られると非常にまずいことになる。相手は誰だと必死で調べる生徒も出てくるだろう。


琴宮梓颯「わたしの片思いになってしまったかも」

古賀智美「そうですか。琴宮先輩みたいな人でも片思いで終わっちゃうこともあるんですね」

琴宮梓颯「わたしもただの人間なのよ。じゃあ次は古賀さんに質問だけど、好きな人とかいないの?」

古賀智美「わたしは・・・その・・・好きな人はいましたが、それは単なる憧れだったかもしれません」

琴宮梓颯「どういうこと?」

古賀智美「さっき、琴宮先輩が好きと憧れは違うって言ってたのを聞いて、わたしはその人に憧れていただけなんじゃないかと思ったのです」

琴宮梓颯「なるほど。それってどういう人だったの?」

古賀智美「えっと、年上で誰に対しても優しいスポーツマンですね。でも時には厳しくて怒らせると怖い人です」

琴宮梓颯「そうなんだ。古賀さんはその人に告白しなかったの?」

古賀智美「告白しても絶対に無理だってわかっていましたのでしませんでした。それに、わたし、その人を怒らせてしまったので嫌われたと思います」

琴宮梓颯「その人と喧嘩でもしたの?」

古賀智美「喧嘩したわけではないのですが・・・わたしがちゃんとしなかったというか・・・」


古賀智美はかなり暗い表情になり、今にも泣きそうな感じであった。


琴宮梓颯「古賀さん、もうそれ以上話さなくていいわ。辛いことを思い出させてしまったみたいで、ごめんなさいね」

古賀智美「いえいえ、そのことはもう大丈夫です」

琴宮梓颯「古賀さんと如月さんはまだ1年生だし、これからいい出会いがあるかもしれないわね」


その後、恋バナから話題を変えて1時間ほど話をしていた。そして18時を過ぎた頃、裏クラブのメンバー3人は古賀智美の家を出た。


古賀智美の自宅を訪問して、かなりの情報を得ることができたのだと誰もが感じていた。堀坂向汰は「これで俺の推理が正しいという確証を得ることができた」と呟いた。ここまでくると、あとは解決方法を考えるのみとなるのだ。



■ 難しい解決方法


古賀智美の自宅を訪問した次の日の放課後、裏クラブのメンバーは生徒会室に集合していた。堀坂向汰はいつものようにソファーに座りながらぼりぼりとスナック菓子を食べながらコーラーを飲んでいた。


琴宮梓颯「古賀智美さんの恋バナを聞いて、林先生のことだとわたしでもわかったわ」

如月瑠衣「年上で誰に対しても優しいスポーツマンだなんて、林先生のことだと言ってるようなものでしたわね」

琴宮梓颯「でも、林先生を怒らせてしまった理由がわからないわね」

堀坂向汰「それは簡単だよ。中間テストで赤点をとって、期末ではさらに成績が落ちて赤点をとった。体育会系の先生のことだから、かなりの暴言を吐いたと思う。それで古賀智美は立ち直れないくらいにまで落ち込んでしまったんだと思う。でも、それだけじゃなくてもう1つの問題もある」

琴宮梓颯「もう1つ問題って?」

堀坂向汰「古賀智美はクラス内で仲良くしている2人の友達との会話についていけなくなることを恐れているんだよ。話に入れなくなるとハブられると思っている。部屋にあらゆる雑誌が置いてあったのは、話に入れるように、あらかじめ流行りのファッションや人気のテレビドラマなんかをチェックしておくためだと思う」

琴宮梓颯「つまり、勉強しないと怖いというのは、数学だけではなく、そういう流行りのことも含まれているというわけね?」

堀坂向汰「そういうことだね。林先生が原因で不登校になったのかもしれないけど、今さら登校しても友達の話に入れない恐怖もあるってことだよ。今回は2つのことを解決させないといけない」

琴宮梓颯「なるほど。でもそれを同時に解決させるのは難しそうね」

堀坂向汰「まずは友達関係のほうから解決させたほうがいいね。梓颯、古賀智美が学園のSNSにログインしているか調べることはできる?」

琴宮梓颯「それなら簡単よ。ちょっと待ってね」


琴宮梓颯はパソコンで学園のSNSの管理画面を出した。そして古賀智美のアカウント情報からログイン日時の一覧を見た。すると毎日のようにログインしていることがわかった。


琴宮梓颯「毎日ログインしているみたいよ」

堀坂向汰「だったら影郎アカウントで古賀智美にダイレクトメッセージを送ることにしよう。友達から相談を受けたこと、そして俺が推理したことを書けばいい。如月さん、今から俺の言った通りのメッセージを入力してほしい」

如月瑠衣「わかりました」


堀坂向汰が言ったメッセージは次のような内容であった。


1年6組の古賀智美さんへ


はじめまして。影郎と申します。

影郎アカウントのことは噂で聞いたことがあると思います。

実はあなたと同じクラスの羽島美佳さんから相談を受けています。

羽島美佳さんはあなたの不登校についてとても心配されていて、

誰にも言えない悩みを1人で抱えているのであれば、なんとかしてあげたいとおっしゃっています。


そこでこちらは、あなたの不登校の原因について調査させていただきました。

その調査結果から考えて、次のような出来事があったのではないでしょうか。


あなたは林弘幸先生に好意を持っていましたが、数学が苦手でした。

中間テストでは赤点をとってしまい、林先生に注意されてしまいました。

あなたは必死に数学を勉強しましたが、期末テストではさらに悪い成績で赤点をとってしまいました。

そのことで林先生からかなり傷つくようなことを言われて、精神的に立ち直れなくなりました。

そして、次に顔を合わせると何を言われるかわからないという恐怖心すら感じてしまったのでしょう。

必死に勉強して疲れ切っていたこともあって、もう登校する気力すら失ってしまいました。

これがあなたが不登校になった原因の1つです。


それから夏休みに入って、あなたの気持ちも少しは落ち着きました。

ところが2学期が始まり、あなたは別の恐怖心を抱くようになりました。

それは今更登校しても友達との話題についていけず、仲間外れにされるかもしれないという恐怖心です。

どんな顔をして友達と話せばよいのかもわからないというのもあるでしょう。

これがあなたの不登校が続いている原因です。


これまでの内容に間違っているところがあれば言ってください。


あなたが素直になってくださるのであれば、こちらは全力でこの問題を解決したいと思っています。

それではよいお返事をお待ちしております。


如月瑠衣「では、この内容で古賀智美さんにダイレクトメッセージを送りますわね」

堀坂向汰「このメッセージに対して古賀智美がどういう返信をしてくるかだね。これで素直になれば、友達関係のほうは解決する」

琴宮梓颯「林先生の問題はどうやって解決させるつもりなの?」

堀坂向汰「それは古賀智美の友達に解決してもらうことにするよ」


次の日の昼休み、琴宮梓颯は影郎アカウントでログインして新着メッセージをチェックした。すると、古賀智美からメッセージが届いていた。そのメッセージは次のよう内容であった。


影郎様へ

1年6組の古賀智美です。

メッセージを読ませていただきました。


素直になって打ち明けますが、影郎さんのおっしゃる通りです。

私は林先生に好意を抱いていました。

苦手な数学を必死になって勉強しましたが、期末テストで赤点をとってしまいました。

そのことで林先生から「古賀が先生のことが嫌いなら、先生も古賀のこと嫌いになる」と言われ、

最後に「古賀は落ちこぼれのクズ生徒として扱う」と言われました。

好意を抱いてる人からそのように言われてすごくショックで、林先生と顔を合わせるのが怖くなりました。

友達から悩みがあるなら相談してほしいと言われましたが、私はこのことを打ち明けられませんでした。

なぜなら林先生に好意があるだなんて、とても恥ずかしくて言えなかったのです。


あとは影郎さんのおっしゃる通り、夏休み中に気持ちは落ち着きましたが、今更友達と顔を合わせづらいです。

私はこれからどうすればいいのかわかりませんが、今も友達が心配してくれてることはわかりました。

勇気を出して登校してみようかと思いましたが、まだ恐怖心があります。

影郎さん、私はどうすればいいと思いますか?


このメッセージを読んだ琴宮梓颯はすぐ裏クラブのメンバーに放課後集合のメールを送った。


そして放課後になって生徒会室に裏クラブのメンバーが集まって話をしていた。


白石由希「林先生、ちょっと酷すぎるね。しかも好きな人にこんなこと言われたら誰だって立ち直れなくなると思う」

琴宮梓颯「たしかにこれは想像以上だったわ」

堀坂向汰「まあ、林先生も相当頭にきて、つい暴言を吐いてしまったんだと思う。今の冷たい態度からして罪悪感はあるんだろうけどね」

如月瑠衣「わたくしも想像以上でしたので驚きましたわ。それで、どうしましょうか?」

堀坂向汰「古賀智美には登校したい気持ちがあるみたいだから、あとは友達2人に任せよう」

琴宮梓颯「林先生のことも古賀さんの友達2人に解決してもらうの?」

堀坂向汰「最初はそう思ったんだけど、ここまでくると裏クラブから警告文を出さないといけないね」

琴宮梓颯「そうね。林先生の問題は1年生の女子生徒だけで解決できるとは思えないわ」

堀坂向汰「とりあえず、影郎アカウントで羽島美佳と古賀智美にそれぞれメッセージを送ってほしい」


琴宮梓颯は影郎アカウントにログインした。

まず羽島美佳のほうには『羽島美佳さんの相談内容についてこちらで調査しました。今回の問題を解決させるにはあなたの協力が必要です。これからしばらくの間、あなたと朝戸菜穂さんの2人で古賀智美さんの自宅に訪問して話を聞いてあげてください。ただし、無理に不登校の理由を聞き出そうとはしないで、古賀智美さんのほうから打ち明けてくれるのを待っていてください。そして3人で仲良く楽しい話ができるようになれば、今回の問題は解決するでしょう』という内容のメッセージを送った。

続いて、古賀智美のほうには『古賀智美さん、素直に打ち明けていただいてありがとうございます。あなたのお気持ちはすごく伝わってきました。少し厳しいことを言いますが、あなたのことをこれほど心配してくれている友達にも素直に打ち明けるべきです。恥ずかしい気持ちはわかりますが、友達の気持ちになって考えてみてください。きっとあなたから信じてもらえてないようで悲しい気持ちになっているのではないでしょうか。友達は近いうちにあなたの自宅に訪問しますので、素直に打ち明けてください。きっと友達はあなたの味方になってくれるはずです。そして、これからどうすればいいかという答えはあなた自身で導き出すことができるでしょう』というないようのメッセージを送った。


最後は林先生に対する解決方法を考えなければならないが、先生に警告文を出すというのは初めてのことなので、裏クラブのメンバーは少し頭を悩ませていた。



■ 不登校の問題解決


影郎からのメッセージを読んだ古賀智美は、友達である羽島美佳と朝戸菜穂に全てを打ち明ける決心をしていた。しかし、その友達がいつ家に来てくれるかわからなかった。勇気を出して登校してみようかと考えてみたが、まだ恐怖心があって体が動かない。ところが、次の日の夕方、家のチャイムが鳴った。インターフォンのモニターを見てみると、制服姿の羽島美佳と朝戸菜穂が立っていた。古賀智美は急いで玄関のドアを開けると2人から「智美ちゃん、元気にしてた?」と少し大きな声で話しかけられた。古賀智美は「うん。ありがとう」と答えた。そして「入って」と言って2人を自分の部屋にあげた。


古賀智美は3人分のお茶とお菓子を用意してきて座布団に座ると、軽く深呼吸をして「今更なんだけど、美佳ちゃんと菜穂ちゃんに打ち明けたいことがあるの」と言って話しはじめた。古賀智美は林先生のことや不登校になった理由など全て打ち明けた。そして、今更、羽島美佳と朝戸菜穂の2人に合わす顔がなくて悩んでいたことも正直に話した。


羽島美佳「智美ちゃんが林先生のことが好きなのは知ってたけど、林先生、それは酷すぎるよ」

朝戸菜穂「わたしも気づいてたけど、林先生ってそんなこと言うんだ。それは驚きかも」

古賀智美「2人とも、黙っていて本当にごめんなさい。正直、恥ずかしいことだと思ってたからとても言えなかったの」

羽島美佳「恥ずかしいことなんかじゃないよ。智美ちゃん、すごく辛かったよね?」

古賀智美「うん。しばらくずっと部屋で泣いてた・・・」

朝戸菜穂「智美ちゃんはそれでも林先生のことが好きなの?」

古賀智美「もう冷めちゃったかな。それに好きというより単に憧れていただけだって気づいたの」

羽島美佳「でも林先生とは顔合わせづらいよね?」

古賀智美「うん。まだちょっと怖いし・・・」

羽島美佳「智美ちゃん、これからは悩み事があったら相談してね。わたしも菜穂ちゃんも智美ちゃんの味方だよ」

朝戸菜穂「そうだよ。わたしも美佳ちゃんもだけど1人で悩むの無しにしよ」

古賀智美「ありがとう。そう言ってくれて本当に嬉しいよ」


古賀智美はこれほど心配してくれていた友達がいたことに改めて気づかされた。そして信頼できる友達であるということにも気づいたのだ。古賀智美はもう無理をして話を合わせたりするのを辞めようと心の中で思っていた。


一方、生徒会室では裏クラブのメンバーが集まって林先生の問題をどうするか話し合っていた。


琴宮梓颯「向汰君、本当に林先生に警告文を出すの?」

堀坂向汰「それしかないんだよ。そもそも林先生のしたことって公になったら大問題になるよ。下手したら懲戒免職になると思う」

白石由希「たしかに不登校の生徒をほったらかしにしてるわけだから、教師として失格だよね」

琴宮梓颯「でも警告文をどのようにして渡すかが問題だわ。下駄箱に入れるわけにはいかないのよね」

白石由希「職員室のデスクの上に置くのは目立っちゃうね」

堀坂向汰「如月さん、林先生の個人のメールアドレスを調べられない?」

如月瑠衣「個人のメールアドレスは難しいですわね。一応、学園SNSの登録情報を確認してみますわ」


如月瑠衣は学園のSNSの管理画面を開いて、林という文字列で検索してみた。すると4名の名前が表示された。その中に、林弘幸という名前が見つかった。そこから登録情報の詳細画面を開いて確認してみると、HH.Tというハンドルネームでメールアドレスは携帯電話のものだとわかった。


如月瑠衣「林弘幸という名前で登録されているものがありましたわ。しかし、同姓同名の生徒のものかもしれません」

堀坂向汰「梓颯、念のために同姓同名の生徒がいるか調べてみてほしい。ハンドルネームからして最後のTはティーチャーという意味だと思うんだけどね」

琴宮梓颯「今、全校生徒のデータを検索してみたけど林弘幸という生徒はいなかったわ」

堀坂向汰「じゃあ間違いないく、そのSNSアカウントは林先生だよ。そのメールアドレスに警告文を送ることにしよう」

白石由希「警告文って先生を脅すってことだよね?そんなことしてバレたら大変じゃない?」

堀坂向汰「白石先輩、如月さんに任せておけば絶対にバレないです。まあ、さすがにテツマンしてるのはバレると思いますけどね」

白石由希「もう・・・堀坂君にとってわたしは麻雀オタクなのね」

堀坂向汰「あははは、オタク以上だと思っていますけどね」

如月瑠衣「では、海外経由でメールを送る準備をしますわね」


今回の警告文は裏クラブのメンバー全員で考えた。あまりにも脅迫的な内容だと、逆上させてしまう恐れがあるのだ。また、余計なことを言ってしまうと、古賀智美に危害が及ぶ可能性がある。そして次のような内容でメールを送ることになった。


『林弘幸先生に警告です。古賀智美さんの不登校についてこちらで調査をさせていただきました。まず、古賀さんは林先生に好意を抱いていました。古賀さんはとても数学が苦手だったので、必死に勉強しましたが、期末試験で赤点をとってしまいました。そのことで、林先生は古賀さんに暴言を吐かれたようですね。好意を抱いている人から傷つくようなことを言われた古賀さんは立ち直れないほど落ち込んでしまったのです。そして古賀さんは林先生に対して恐怖心を抱くようになり、登校する気力を失ってしまったのです。現在も不登校が続いているのは、林先生と顔を合わせるのが怖いと感じているからです。そこで林先生にお願いがあります。もし、そのことで林先生に罪悪感が残っているのであれば、古賀さんに謝罪していただけないでしょうか。一言、謝っていただければ、古賀さんも登校できるようになります。このまま不登校が続けば、そのうち学園内で問題になると思います。問題沙汰になってしまうと林先生もかなり困るのではないでしょうか。どうかよろしくお願いします』


林先生がこのメールを見たのは部活動が終わった後のことであった。どこの誰が送ってきたかわからないメールだったが、信憑性のある内容だったので考え込んでいた。林先生はまさか自分のクラスの生徒から好意を持たれていたとは知らなかったのだ。そしてそんな女子生徒に対して暴言を吐いてしまったと深く反省していた。


次の日の朝早く、林先生は古賀智美の自宅へ訪問した。古賀智美が恐る恐るドアを開けると林先生が立っていた。そして林先生は「先生、あの時はつい感情的になってしまって暴言を吐いてしまった。古賀には本当に申し訳ないことをしたと思ってる」と頭を下げて謝罪した。それを聞いた古賀智美は「先生、もういいですから頭をあげてください」と言った。林先生は頭をあげて「先生、古賀の気持ちは本当に嬉しいと思ってるからな。気が向いたら登校してほしい」と言った。古賀智美が「わかりました!」と明るい声で答えると林先生はその場を去って行った。


そして、その次の日になって古賀智美は久しぶりに登校した。


放課後、生徒会室には裏クラブのメンバーが集まっていた。


如月瑠衣「古賀智美さんが登校したみたいですわ。これで問題解決ですわね」

琴宮梓颯「ところで向汰君、1つだけ疑問に思ったんだけど、どうして古賀智美さんが2人の友達との会話についていけなくなることを恐れてるってわかったの?」

堀坂向汰「そこがポイントだったんだよね。自宅訪問した時、恋バナについて『話に入れる自信がない』と言ってたんだけど、おかしな発言だと思ったんだよ。話に入るのに自信なんていらないでしょ。つまり普段からそういうことを意識しているから、そんな発言をしてしまった。それと部屋に置いてあった多くの情報雑誌から繋がるキーワードは友達同士の会話ってことになる。そして2学期になっても不登校だった理由に繋がったわけだよ。これについて推測はしなかった」

白石由希「堀坂君って人の言葉に敏感すぎるよ。嘘なんてすぐに見破りそう」


ノートパソコンを触っていた如月瑠衣が何かを思い出したかのように話に入ってきた。


如月瑠衣「そういえば、琴宮会長は堀坂先輩と夏休み海に行かれたとおっしゃっていましたよね?」

琴宮梓颯「そうよ。綺麗な海だったわ」

如月瑠衣「琴宮会長みたいな方が水着姿で歩いていてナンパとかされませんでしたの?」

琴宮梓颯「それがね、向汰君が連れていってくれた海はとっておきの場所らしくて、人なんていなかったの。でも、海の底まで透き通って見えるくらい綺麗だったの」

如月瑠衣「人がいない海岸ですか?なんだか淋しそうですわね」

琴宮梓颯「スキンダイビングをして、ずっと海の中を眺めていたから淋しいとは思わなかったわ」

堀坂向汰「人の多いビーチなんて俺には興味がないからね」

如月瑠衣「堀坂先輩って意外とアウトドアにも詳しいのですね」


そんな話をしているとあっという間に時間が過ぎていった。


今回の依頼は裏クラブにとって異例なこともあったが、不登校の生徒の問題を解決させることができたのだ。しかし、裏クラブの活動において、さらに難しい問題に直面するかもしれない。そういう意味ではいい経験になったとメンバー全員が思っていた。


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