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明智学園裏クラブ  作者: 涼
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過去をふりかえって

■ 前半(出会い)


この日、生徒会室には琴宮梓颯と如月瑠衣がソファーに座って紅茶を飲みながらまったりしていた。いじめ問題が解決して以来、影郎アカウントに新しいメッセージは届いておらず、生徒会の簡単な仕事をこなすだけの毎日が続いていた。琴宮梓颯の向かいに座っていた如月瑠衣が何かを思い出したかのように話し出した。


如月瑠衣「そういえば琴宮会長、以前にも伺いましたが堀坂先輩とはいつ頃からお付き合いされているのですか?」

琴宮梓颯「向汰君と付き合いはじめたのは去年の10月からよ」

如月瑠衣「去年の10月ということは1年生の時からなんですね。わたくし、未だに理解できないことがありますの」

琴宮梓颯「理解できないことって?」

如月瑠衣「堀坂先輩って女子生徒の間からなんて呼ばれているか知っていらっしゃいますか?」

琴宮梓颯「知ってるわ。キモオタでしょ。それがどうかしたの?」

如月瑠衣「学園のアイドル的存在である琴宮会長が、なぜそんな人とお付き合いされてるのでしょう?それに堀坂先輩は頭脳明晰で推理力は抜群だと思いますが、どうして表向きはそのことを隠しているのですか?」

琴宮梓颯「いろいろあったの。これでも向汰君と付き合うのに結構苦労したのよ」

如月瑠衣「苦労ですか・・・それって堀坂先輩はなかなか告白してこなかったということですか?」

琴宮梓颯「違うわ。わたしのほうから告白したのよ。あの向汰君が女子に告白するようなタイプに見える?」

如月瑠衣「ええー!!驚きましたわ。まさか琴宮会長から告白しただなんて・・・たしかに堀坂先輩は女子に告白するようなタイプには見えませんが、そもそも2人の間に何があったのですか?」

琴宮梓颯「そうね。今日は暇だから昔話でもしてみるわ。少し長話になるわよ」


琴宮梓颯は過去にあった出来事を語り始めた。


あれは去年の10月上旬のことだったわ。その日はかなり雨が降っていたの。当時、9月頃からずっとストーカー被害にあって悩み怯えていたわたしは、雨に打たれながら学園の近くにある公園のベンチに1人で座りながらずっと泣いていたの。ストーカー被害といっても深夜の非通知電話と匿名メールが毎日のように送られてきただけなんだけど、匿名メールの中にはわたしを隠し撮りした画像が添付されてることもあって本当に怖かったわ。もちろん親に話して警察に相談したんだけど、わたしの持ってる情報だけでは加害者を特定するのは難しいと言われて詳しく捜査してもらえなかったの。わたしを助けてくれる人はもういない、誰も信用できない、そんなことを考えると絶望感で涙が止まらなかったわ。ずぶ濡れになりながら公園のベンチに座って泣いているところに、1人の男子生徒がやってきたの。水色のネクタイをしていたから同級生だとすぐにわかったわ。そしてその男子生徒が「何かあったの?」と話しかけてきたの。そっと振り向くと、カバンには美少女キーホルダーをつけてて、片手にはアニメ系の本を持ってたから、完全なオタク系男子だと思ったわ。その男子生徒こそ堀坂向汰君だったんだけど、見た目で判断したわたしは「あなたに話してもどうにもならない問題なの!」と泣きながら叫んだの。そしたら向汰君が「どうにかなるかもしれないよ。世の中、何処に何が転がってるかわからないからね」って言ったの。その言葉を聞いたわたしは訳の分からないこと言う人だと思いながら「それって、あなたならどうにかできるって意味なの?」と聞いてみたの。そしたら向汰君が「僕にできることであればね」って答えたから、わたしは思わずクスっと笑ってしまったの。


堀坂向汰「やっと笑ってくれたね。まだ笑えるだけの元気があってよかった」

琴宮梓颯「ところで、あなたお名前は?」

堀坂向汰「僕は1年2組の堀坂向汰だよ。君は琴宮梓颯さんだよね?」

琴宮梓颯「どうしてわたしの名前を知ってるの?」

堀坂向汰「琴宮さんは学園のアイドル的存在で有名だよ。僕には興味のないことなんだけどね」

琴宮梓颯「アイドル的存在か・・・でも、有名だからっていいことばかりじゃないの」

堀坂向汰「そうなんだ。何かあったんだと思うけど、僕でよかったら話を聞くよ。誰かに話したら少しは気持ちが楽になると思う」

琴宮梓颯「そうね。堀坂君だっけ?今から話すことは誰にも言わないって約束してもらえる?」

堀坂向汰「うん。約束するよ」


向汰君は悪い人ではなさそうだったから、わたしはストーカー被害にあってることを全て話したの。警察に相談しても対応してもらえず、悩み怯えながら過ごす毎日がもう絶望的にしか感じないと涙を流しながら話していったの。向汰君は親身になってわたしの話を聴きながら、ときどきいたわりの言葉をかけてくれたわ。話を聴いてもらっているうちに、わたしの気持ちが少し落ち着いてきたの。そしたら向汰君が「琴宮さん、1人でよくがんばったね」って言ったの。その言葉を聞いて、やっぱり変なこと言う人だと思ったわ。普通なら「大変だったね」とか「辛かったよね」って言う人がほとんどだと思うの。それなのに「1人でよくがんばったね」って言葉の意味がよくわからなかったわ。でもね、実はこの言葉こそ向汰君の本性であったんだと後で知ることになるの。


堀坂向汰「琴宮さん、よかったらなんだけど、これまで届いた匿名メールを見せてもらえない?」

琴宮梓颯「別に構わないけど、気持ち悪い内容ばかりよ」

堀坂向汰「最初に届いたのが9月2日なんだね。それから毎日のように送ってきてるわけだね」

琴宮梓颯「もうそのメール削除したいと思ってるの」

堀坂向汰「いや、絶対に消したらダメだよ。もしもの時のために残しておいたほうがいい」


向汰君は1通ずつ匿名メールを確認してたんだけど、一瞬、鋭い目になった気がしたの。瞬時のことだったから気のせいだったのかと思ったわ。


堀坂向汰「添付画像を見てもいい?」

琴宮梓颯「隠し撮りされた画像のことね。別にいいよ」

堀坂向汰「この3枚の画像は全部隠し撮りされたものなの?」

琴宮梓颯「そうよ。制服姿がたまらなく可愛いとか気持ちの悪いこと書いて送ってきたの」


そして匿名メールを全部見終えると向汰君がわけのわからない質問してきたの。


堀坂向汰「琴宮さん、夏休みにどこか出かけた?」

琴宮梓颯「夏休みは家族で海に行ったのと、おばあちゃんのいる田舎に帰省したわ。あとは同窓会に参加したくらいね」

堀坂向汰「それっていつの同窓会?」

琴宮梓颯「中学3年生の同窓会よ。卒業して半年だけどみんなで集まろうってことになったの」

堀坂向汰「そうなんだ。琴宮さんって中学生の頃は彼氏とかいなかったの?」

琴宮梓颯「中学3年生の時に2ヶ月だけ付き合った人がいたわ。わたしは乗り気じゃなかったんだけど、周りから圧倒されて、お試しという条件で付き合うことになったの。でも受験が終わってすぐ別れたわ」

堀坂向汰「その付き合っていた人は同窓会にこなかったの?」

琴宮梓颯「来てたよ。でもあまり話さなかったわ」

堀坂向汰「なるほど」


それから向汰君は黙って考え込んでたの。しばらくしてまた意味不明な事を言ったの。


堀坂向汰「僕にできることをしてみるよ」

琴宮梓颯「どういうこと?」

堀坂向汰「そのままの意味だよ」

琴宮梓颯「意味がよくわからないんだけど、とにかく話を聴いてくれてありがとう。少しは気が楽になったわ」

堀坂向汰「それならよかった。琴宮さん、ずぶ濡れになってるから早く帰って着替えたほうがいいよ」


それで向汰君は帰宅していったんだけど、わたしの中で変なことを言う優しいオタク男子という印象が強く残っていたわ。そして次の日の朝、登校してクラスの女子に向汰君のことを聞いてみたの。そしたらクラスの女子達がいつも1人でいるキモいオタク、キモオタだと言ったの。わたしの話を親身なって聴いてくれた人だし、オタクだとは思ったけどキモいとは思わなかったわ。でも、しばらく向汰君のことは忘れていたの。それからも深夜の無言電話や匿名メールが送られてきてたから、他のことを考える余裕がなかったのよ。たしかに話を聴いてもらえて気持ちは楽になったけど、問題は何も解決してないんだと感じさせられていたからね。


それから10日ほど経った日の夜、突然、警察から電話がかかってきたの。わたしにストーカー行為を行っていた加害者を検挙したから警察署まで来てほしいとのことだったわ。わたしは両親と一緒にすぐに警察署に行ったの。そして生活安全課の警官から加害者の名前を聞いて驚いたわ。加害者は中学3年生の時にお試しという条件で付き合った彼氏だったの。本人が直接会って謝罪をしたいと言ってたみたいだけど、顔を合わせたくなかったからそれは断ったわ。それから、ストーカー行為に関する誓約書にサインをしてほしいといわれてサインだけしたの。わたしは加害者の名前を聞いて驚いていたんだけど、それとは別に1つの疑問が生じたの。それは以前、警察に相談した時、わたしの持ってる情報だけでは加害者を特定するのは難しいと言われたのに、どうして今になって見つけ出せたんだろうって疑問ね。たしかに被害届は出していたけど、それ以降、わたしは何の情報も提供してなかったから、警察が捜査していたとは思えなかったのよ。そこで、担当の警察官にどうして加害者を見つけることができたのか聞いてみたの。


警察官「警察署相談窓口のメールに匿名の人物からタレコミがあったのです。匿名なのでイタズラかと思ったのですが、読んでみるとかなり信憑性があり、真実味のある内容だったので、念のため加害者を事情聴取してみたのです。そのメールをお見せすることはできませんが、事情聴取をしてみるとそのメールに書いてある通りだったわけです」


警察官の話を聞いて「そうですか」とだけ答えておいたわ。これでストーカー被害で悩むことはなくなったのでよかったんだけど、わたしの中で煮え切らない感じがしてたの。警察でも難しいと言われた加害者を特定してタレコミのメールを送った人物は誰なのかという疑問がわたしの中で残ってしまったの。おそらく、わたしの知らない人ではなく、必ず知ってる人に違いないと思ったわ。いろいろ考えみたけど、最初は誰なのか全くわからなかったの。どちらにしてもストーカー問題が解決したので、なんだか解放的な気分になったわ。



■ 後半(真実そして交際)


琴宮梓颯が語っているのをずっと聞いていた如月瑠衣は「紅茶のおかわりはいかがですか?」と言った。琴宮梓颯「ありがとう。お願いするわ」と答えた。そして如月瑠衣がカップにお湯を注いでソファーに座った。


如月瑠衣「琴宮会長も大変でしたのね。ストーカー被害にあわれていたなんて思いもしませんでした」

琴宮梓颯「学園のアイドル的存在と言われてるけど、そういう苦労もあるのよ。それに、アイドルといわれてもわたしは嬉しいと思わないわ」

如月瑠衣「それにしても堀坂先輩は変なことを言ってらっしゃったようですわね」

琴宮梓颯「それが、変なことを言ってたわけではないことが後になってわかったの」

如月瑠衣「どういうことですの?」

琴宮梓颯「うふふ・・・わたしにだって推理できることもあるのよ。じゃあ続きを話していくわね」


琴宮梓颯はその後にあった出来事を語り始めた。


ある日の朝、登校中にたまたま1人で歩いてる向汰君を見つけたの。わたしはストーカー問題が無事に解決したことを報告して、話を聴いてもらったお礼をしようと思ったからこっそり話しかけてみたの。そしたら向汰君は「そうなんだ。それはよかったね」と言って、さっさとわたしから離れていったわ。なんだか向汰君に避けられてる感じもしたけど、後で考えてみるとわたしに気をつかってくれてたのよね。それからのわたしは悩み怯えることもなく、元気に毎日を過ごしていたわ。ところが、心の底ではタレコミのメールを送った人物が誰なのか気になっていたの。しかし、そのことをいくら考えても答えを出すことはできなかった。


ところがある日、廊下を歩いているとわたしと同じ中学出身で1年2組の木島美乃梨という生徒にバッタリ会って話しかけられたの。


木島美乃梨「あら、琴宮さんじゃない。同じ中学だった木島だけど覚えてる?」

琴宮梓颯「覚えてるよ。木島さんもこの学園に入学してたのね」

木島美乃梨「琴宮さん、この学園でもかなりモテてるみたいで羨ましいよ」

琴宮梓颯「でも、わたしは恋愛に興味がないから気にしてないんだけどね」

木島美乃梨「この前もさ、うちのクラスにキモオタと呼ばれてる男子から琴宮さんのことを聞かれたんだよね」

琴宮梓颯「何を聞かれたの?」

木島美乃梨「琴宮さんが中学3年生の時に付き合っていた人のことだったかな」

琴宮梓颯「木島さんは何て答えたの?」

木島美乃梨「その人の名前とどこの高校に進学したか話しただけだよ。そのキモオタは『ありがとう』と言ってすぐに自分の席に戻っていったんだけど、何が聞きたかったのか全く意味不明だったよ」


その話を聞いたわたしはキモオタというのは向汰君のことだとすぐにわかったわ。しかし、どうしてそんなことを木島さんに聞いたのかは謎だった。ただの興味本位だったとしても、中学3年生の時に付き合っていた彼氏の名前と進学した高校を知ったとしても向汰君には何のメリットもない。もしかすると何かを調べていたのではなかと思った。そんなことを考えているうちに、わたしは堀坂向汰という生徒に興味を持ち出したの。見た目は友達もいない1人のオタク系男子で、他の女子生徒からはキモオタと呼ばれているけど、それは仮の姿で、実は本性を隠しているのではないかと思うようになった。


わたしはまずストーカー問題のことについて頭の中を整理してみたの。考えてみれば、わたしがストーカー被害を受けていることを知っていたのは、両親と学園で仲良くしている1人の女子生徒、そして向汰君だけだったことに気がついた。その中にタレコミのメールを送った人物がいるのは間違いないと確信できたわ。あとは消去法で両親ではないことは明らか、学園で仲良くしている1人の女子生徒は中学生の頃のわたしのことは知らないはず、そして最後に残ったのは向汰君だった。つまりこの消去法からタレコミのメールを送ったのは向汰君しか考えられないということに気づいたの。


そしてあの雨の日のことを思い出してみた。最初に向汰君が発言した「どうにかなるかもしれないよ。世の中、何処に何が転がってるかわからないからね」という意味を考えてみると”自分ならどうにかできるかもしれない”と捉えることができる。それと向汰君が発言した「1人でよくがんばったね」という言葉の意味を考えてみると”これからは1人じゃないんだよ”と捉えることができる。あとは匿名メールを確認し終えた後に「夏休みにどこか出かけた?」というわけのわからない質問。もしかすると、あの時点で向汰君は何か掴んでいたのかもしれない。そして加害者のことを質問してきたのは偶然ではなかったのかもしれない。最後に向汰君が発言した「僕にできることをしてみるよ」という意味を考えてみると”何かをするつもり”だと捉えることができる。そう推測してみると今回の出来事に関して全てのつじつまが合うことに気づいたわ。もし、わたしの推測が正しければ、堀坂向汰の本性は、非常に頭のキレがよく推理力抜群の秀才だということになる。わたしの話を親身なって聴いてくれて、優しい言葉までかけてくれた。そして、絶望的になっていたわたしを救ってくれた男子生徒だと考えると、さすがにシビレてきたの。もう恋愛なんてどうでもよかったんだけど、もし堀坂向汰が推理した通りの人物だとすれば、わたしは一瞬でハートを突かれると思ったわ。


わたしは堀坂向汰の本性を暴くために、1つの罠を仕掛けることにしたの。いくら秀才だったとしても油断はあると思ったから。そして、次の日の朝、わたしは向汰君の下駄箱に匿名の手紙を入れておいたの。それは『今日の放課後、1人で化学室内にある準備室に来てください』とだけのメッセージにしておいたの。あとはちゃんと来てくれるかは賭けだったわ。放課後になって、向汰君はうつむきながらフラフラと廊下を歩きながら化学室のほうへ歩いていった。わたしはその後をつけていった。そして向汰君はキョロキョロと辺りを見てから化学室に入っていったの。その日の夕日は綺麗で、化学室の中はオレンジ色に染まっているようだったわ。向汰君はそのまま化学室の中から入れる準備室の中へ入った。あとをつけていたわたしも準備室の中へ入って鍵をかけたの。


堀坂向汰「琴宮さんだったんだね。でも、どうして鍵かけるの?」

琴宮梓颯「堀坂君に聞きたいことがあるの。事と次第によっては簡単に帰宅させないつもりよ」

堀坂向汰「僕に聞きたいことって?」

琴宮梓颯「警察にタレコミのメールを送ったのは堀坂君でしょ?」

堀坂向汰「琴宮さんは僕にそんなことができると思う?」

琴宮梓颯「質問に質問で返すのはよくないわ。わたしの質問に答えてもらえる?」

堀坂向汰「それは・・・」

琴宮梓颯「あなたしかいないのよ。それ以外に考えられないの」

堀坂向汰「僕しかいないってどういうこと?」

琴宮梓颯「警察にタレコミのメールを送った人物は、わたしがストーカー被害を受けてることを知ってる人物以外に考えられないの。堀坂君は内密に調査をして、加害者の通う高校まで行って尾行した」

堀坂向汰「僕は聖林学院なんて行ってないし、尾行なんてして・・・あっ!」

琴宮梓颯「引っかかったわね。もう誤魔化せないわよ。どうして加害者が聖林学院に通っていることを堀坂君が知っているの?」

堀坂向汰「わかった。全て白状するよ」


向汰君はストーカー問題のことについて内密に調査していたこと、加害者を尾行して真実を明らかにしたこと、そして、推理した文章を海外のフリーメールを使って警察にタレコミのメールを送ったことを説明しはじめたわ。


琴宮梓颯「やっぱりわたしの推測した通りだったわ。堀坂君、表向きはキモオタなんて呼ばれてるけど、本性は頭のキレる推理力抜群の秀才だったのね。それにしてもどうして本性を隠しているの?」

堀坂向汰「こうなったら本音で話すけど、俺はアニメ好きだし美少女も好きだけど、周りの人間とは価値観が合わないんだよ。だから俺には友達なんていらないし、1人でいるほうが気が楽なんだ。子供の頃から鋭い洞察力とすぐに人見抜くことのできる力を持っていた。この推理力も子供の頃から発揮させていたけど、周りにはつまらない人間しかいないことに気づいた。もう俺は見限って、1人でひっそりと過ごしていくことにした。だからキモオタというキャラクターでいることにしたんだよ。琴宮さん、このことは誰にも言わないでほしい」

琴宮梓颯「わかった。誰にも言わないって約束するわ。ところでどうして加害者を特定することができたの?警察に相談しても難しいと言われていたのよ」


向汰君は「少し話が長くなるよ」と言って、ストーカー問題で推理したことを話しはじめたの。


堀坂向汰「今回、深夜の無言電話からは何も得られないと思ったので、この際どうでもよかった。加害者についてのヒントがあるとすれば、匿名メールの中に隠されてると思った。あの雨の日、琴宮さんから届いた匿名メールを見せてもらって、読み続けているとあることに気がついた。4通名に送られてきたメールに『まだ琴宮のことが忘れられない』と書かれていた。それと7通目のメールに『今も琴宮のこと好きでたまらない』と書かれていた。この2通のメールから共通点を見つけ出した。”まだ”、”今も”という言葉をいい換えると前からという意味になる。つまり、以前に何かしら関係していた人物ということになる。それと添付されていた画像は全て夏服の制服であったことと、学園の外で盗撮されたものだった。そのことから考えて、少なくとも学園の生徒ではないと確信できた。もし学園の生徒であれば、学園内のほうが盗撮しやすいからね。学園の生徒でないとすれば、加害者は中学生の頃に関わった人物だということになる。最初に匿名メールが送られてきたのは9月2日だから、夏休みがポイントになっているんだと思った。そこで琴宮さんに夏休みに出かけた場所を聞いてみると、同窓会に参加したと言った。そこには中学3年生の時にお試しという条件で付き合った彼氏も参加したと聞いたからピンッときたんだよ。以前に何かしら関係していた人物に当てはまるのはその彼氏であると推測できた。そして俺は確証を得るために、聖林学院まで行って加害者が琴宮さんを盗撮してる現場を目撃した。俺は証拠としてそのシーンをスマホで撮影しておいた。自分の推理が正しいと確信できた俺は、推理した内容を書き、撮影しておいた証拠写真を添付して警察にタレコミのメールを送った」


わたしは向汰君の話を聞いて涙を流しながら何度も「ありがとう」と言ったわ。それと同時に堀坂向汰という人間はわたしにとってとても魅力的な存在に感じたの。


琴宮梓颯「あの時からそこまで推理してたなんてすごい。本当に世の中って何処に何が転がってるかわからないのね」

堀坂向汰「まあ、そういうことだね」

琴宮梓颯「堀坂君、わたしの気持ちを受け取ってほしいのだけど、ちょっと目を閉じてもらえる?」

堀坂向汰「別にいいけど・・・」


向汰君が目を閉じて、わたしはリボンをとってシャツのボタンを外したの。そして向汰君に唇にキスをしたの。向汰君は目をあけて、かなり驚いていたわ。わたしはそのまま向汰君に抱きついて離れなかったの。


堀坂向汰「ちょっと琴宮さん、落ち着いて、ちゃんと服を着て!」

琴宮梓颯「わたしはずっと恋愛なんて興味がなかった。でも、はじめて、こんな気持ちになれた」

堀坂向汰「琴宮さん、ちょっと困るよ」

琴宮梓颯「このまま最後までわたしの話を聞いて!あなたが欲しいの。あなた以外に考えられないの」

堀坂向汰「そんなことを言われても、俺どうすればいいかわからないよ」

琴宮梓颯「これが初恋なの。わたしのこと好きにしていいのよ」

堀坂向汰「琴宮さんの気持ちはわかったから一旦落ち着こう」


わたしは感情的になっていたんだけど、向汰君が困っているみたいだったからそれ以上は迫らなかったわ。


堀坂向汰「琴宮さんは学園のアイドル的存在なんだからもっといい人が見つかると思うよ」

琴宮梓颯「わたしがアイドル的存在であることなんてどうでもいいの。1人の人間としてわたしのことを見てほしい。わたし、絶対に諦めるつもりはないから」

堀坂向汰「俺は学園のキモオタ的存在だし、琴宮さんとは釣り合わないよ」

琴宮梓颯「みんな、わたしの外見だけで好きだと告白してくるけど、もうそんなのうんざりなの。でもあなたは違う。わたしの心の中をちゃんと見てくれて守ってくれる。それに、あなたの本性をしってしまったから、もうキモオタには見れないわ」

堀坂向汰「琴宮さんがそう言ってくれるのは嬉しいけど、俺にも考える時間がほしい」

琴宮梓颯「わかったわ。わたし、本気だからね」


それからが大変だったのよ。向汰君は全く返事をしてくれなかったの。それに校内ですれ違っても挨拶すらしてくれなかったわ。それどころか、なんだか避けられてるようだった。そんなある日の放課後、別のクラスの男子から中庭に呼び出されたの。その男子生徒は柔道部で結構ガッチリした体型をしてたわ。中庭に行くとその男子生徒から「友達からでいいので付き合ってほしい」と告白されたの。わたしは向汰君のことしか頭になかったから「ごめんなさい。わたしは恋愛に興味がなくて誰とも付き合う気はないの」と言ってお断りしたわ。するとその男子生徒はわたしの腕を強引に掴んで「付き合ってみてダメだったら別れてくれていいから」としつこく迫ってきたの。わたしは「そういうことはしたくありません」と言って断り続けたわ。そこに偶然にも向汰君がフラフラと歩きながらやってきたの。わたしは思わず「堀坂君!」と大きな声で呼んだわ。そしたら向汰君が歩いてきて「琴宮さん、困ってるみたいだから手を離してあげてもらえない?」とその男子生徒に言ったの。その男子生徒は向汰君にむかって「無関係のオタク野郎は引っ込んでろ」と言ったの。それに対して向汰君が「どれだけがんばっても付き合えないよ。それにそんな強引なことをしたら柔道部に傷がつくんじゃないかな」と脅すように言ったのよ。そしたらその男子生徒は舌打ちをしながら手を離して去っていったわ。わたしが「堀坂君、ありがとう」と言ったら、向汰君が「やっぱり俺がいないといけないのか」って意味深な発言をしたの。


次の日の放課後、わたしはもう1度、向汰君を屋上へ呼び出したわ。


琴宮梓颯「堀坂君、あれからわたしのことを考えてくれた?」

堀坂向汰「琴宮さんは世話がかかるけど、俺が一緒にいればそれもマシになりそうだね」

琴宮梓颯「それじゃあ、わたしと一緒にいてくれるってこと?」

堀坂向汰「そういうことだよ。ただし、俺と琴宮さんが付き合ってることは内緒にしてほしいのと、学園内で会っても話しかけないでほしい」

琴宮梓颯「それはわかってる。これからは向汰君って呼ぶようにするね。わたしのことは梓颯って呼んでほしいの」

堀坂向汰「わかった。最初は慣れないけどそう呼ぶようにするよ」

琴宮梓颯「それにしても向汰君の推理力をそのままにしておくのは勿体ないと思うの」

堀坂向汰「俺はここって時にしかこの推理力を使わないことにしてるんだよ」

琴宮梓颯「わたし、来年度の生徒会長選挙に立候補しようと思ってるの。もしわたしが生徒会長になったら、その推理力を使わせてほしいと思っているわ」

堀坂向汰「なるほど、同じように問題を抱えている生徒を助けるわけだね」

琴宮梓颯「うん。向汰君、あのね・・・大好きよ」

堀坂向汰「そんなこと言われても、俺はなんて言えばいいのか・・・なんか恥ずかしいよ」

琴宮梓颯「うふふ・・・向汰君はそのままでいいよ」


こうして、わたしと向汰君は内緒で付き合うことになったの。これでわたしと向汰君にあった出来事は全て話したわ。


ソファーに座ってずっと話を聞いていた如月瑠衣が「なるほど、そういうことがあったのですね」と呟いた。琴宮梓颯は少し照れながら「化学室の準備室では少し大胆に迫ってしまったわ」と言った。


如月瑠衣「堀坂先輩も一応は男子ですのよ。もし手を出されたらどうするつもりでしたの?」

琴宮梓颯「その時のわたしは別にそうなってもいいと思っていたわ。今でも別にいいと思ってるのよ」

如月瑠衣「琴宮会長、健全な高校生として不純な異性行為はしないようにしてください」

琴宮梓颯「それはわかってるわ。向汰君って意外とそういうことに奥手なのよね。付き合うのに大変だったことわかるでしょ?」

如月瑠衣「わかりますわ。堀坂先輩って素直じゃないところあるみたいですね」

琴宮梓颯「そうなのよ。でも、それが向汰君らしいところでもあるのよね」

如月瑠衣「それにしても、そういう経緯があって裏クラブを結成したわけですのね」


琴宮梓颯が生徒会長になり、裏クラブを結成したのは、自分が体験したストーカー問題がキッカケになっていることは言うまでもない。そこには他に悩み苦しんでいる生徒を救ってあげたいという気持ちが込められているのだ。

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