謎のラブレター
■ はじめての依頼
生徒達の間で影郎の噂が広まって週が明けた月曜日の朝、いつものように登校してきた堀坂向汰は2年3組の教室へ入って自分の席に座った。やはりクラスの誰とも挨拶をしない。美少女アニメのキーホルダーをつけたカバンから教科書やノートを取り出して机の中に入れた。そして窓の外をぼんやりと眺めていると西村真一が話しかけてきた。
西村真一「堀坂!おっはよう。相変わらずアニメのことで頭がいっぱいなのか?」
堀坂向汰「西村か、おはよう。ただぼーっとしてただけだよ」
西村真一「堀坂には悪いけどよ、俺は目標を立てたんだ。今年こそ3次元の女子を彼女にしてみるぜ!」
堀坂向汰「そうか。僕も応援はするからがんばってね」
西村真一「おいおい、それだけかよ。俺も協力するからさ、お前もがんばって一緒に3次元の彼女作ろうぜ!」
堀坂向汰「僕は遠慮しておくよ。そんなことに興味がないからね。それより新しい同人誌を持ってきたよ」
西村真一「うおー!やっと手に入れたのか。見せてくれよ」
堀坂向汰がカバンの中から同人誌の入った袋を取り出すと、西村真一は手にとって袋の中から同人誌を取り出した。
西村真一「なんかすごそうだな。堀坂、今日、この同人誌借りてもいいか?前に借りたやつは返すよ」
堀坂向汰「別にいいよ」
そういって西村真一が前に借りてた同人誌を堀坂向汰に返して、新しい同人誌を借りることになった。そのやりとりを見ていた女子生徒達がヒソヒソと「ちょっとあの本、オタクまるだしで超キモイよね」、「キモオタが遠慮しておくだって!彼女なんてできるわけなのにね」などと話しているのが聞こえていた。堀坂向汰はそんな女子生徒達の話を全く気にしていなかった。
昼休みになり、いつものようにうつむきながらフラフラ歩いていると、気づけば1年生の教室の前を歩いていた。最近では1年生からも「またオタク系男子の2年生が歩いている」などと陰で言われるようになっていた。堀坂向汰はそんなことを気にせず、いつものように中庭の端っこにあるベンチに座って昼食を食べていた。今日の昼食は少なかったように感じていた。しばらくするとスマートフォンにメールが届いた。そのメールは『今日の放課後に集合』という内容だった。堀坂向汰はすぐにメールの意味を理解したので、そのメールを完全に削除した。
午後の授業が終わり、部活の準備をする生徒を無視して、女子生徒達が帰宅していった後、堀坂向汰はカバンを持ってのろのろと歩きながら教室を出た。そして、他の生徒に気づかれないように生徒会室に向かっていった。
生徒会室では既に琴宮梓颯と如月瑠衣が話をしていた。
琴宮梓颯「今回、影郎に届いた相談内容はとてもイタズラに思えない内容なの」
如月瑠衣「わたくしもそう思いますわ」
琴宮梓颯「これが裏クラブ初の活動になるわ」
如月瑠衣「それはわかりますが、わたくしは何をすればよろしいのでしょうか?」
琴宮梓颯「如月さんには調査をお願いするわ。まもなく向汰君が来るのでプロジェクターの準備をしておいてもらえる?」
如月瑠衣「わかりました」
生徒会室のドアからノックする音が聞こえると琴宮梓颯は「はい。どうぞ」と言った。ドアが開くと堀坂向汰が生徒会室へ入ってきた。琴宮梓颯は「向汰君、ドアの鍵を閉めてもらっていい?」というと堀坂向汰は生徒会室のドアの鍵をかけた。
その後、如月瑠衣は生徒会室の大きな壁にプロジェクターでパソコンの画面を映し出した。そして堀坂向汰はソファーに座ってカバンの中からスナック菓子とペットボトルのコーラーを出した。
琴宮梓颯「では、今回、影郎に届いた相談内容について説明するわ。如月さん、ダイレクトメッセージの画面を表示してもらえる」
如月瑠衣「はい。こちらになります」
画面がよく見えるように生徒会室の明かりを消して画面を映し出した。そして影郎に届いた相談内容とは次のような内容であった。
”
わたしは2年4組の沢村香苗といいます。
実は1週間ほど前から私の下駄箱の中に差出人不明のラブレター入っていて困っています。
最初の1通目は先週の火曜日の朝、2通目は先週の木曜日の朝にラブレターが入っていました。
最初は誰かのイタズラだと思っていましたが、金曜日の深夜に非通知で無言電話がかかってきました。
今回のラブレターと無言電話は全く無関係かもしれませんが、なんだか気になって夜も眠れません。
友達に相談しましたが、ただのイタズラだと言ってまともに話を聞いてくれません。
学園内では影郎アカウントに相談すれば解決してくれるという噂があったので、ダメ元でメッセージを送ってみました。
本当に解決していだけるのであればお願いします。
参考になるかわかりませんが届いた2通のラブレターの画像を送ります。
”
そのメッセージの下には2通のラブレターの写メールが届いていた。
琴宮梓颯「如月さん、届いた写メの画像を拡大してもらえる?」
如月瑠衣「はい」
1通目のラブレターには手紙の真ん中に『沢村さんのことを考えると夜も眠れません。大好きです』とだけ書かれていた。そして2通目のラブレターにはやはり手紙の真ん中に『沢村さんはとても可愛くて僕にとって天使のような存在です』とだけ書かれていた。どちらも同じ筆跡だと思われるが、少し雑な字で書かれている。
琴宮梓颯「差出人不明でこんなラブレターを出すなんて、まるでストーカー行為ね」
如月瑠衣「それにしても、なんて雑な字を書くのでしょう。ラブレターならもっと丁寧な字で書くべきですわ」
ソファーに座ってスナック菓子をぼりぼりと食べながら画面を見ていた堀坂向汰はペットボトルのコーラーを一口飲んで口を開いた。
堀坂向汰「もう一度、ラブレターの画像をよく見せてもらってもいいかな?」
如月瑠衣が1通名のラブレターの画像を画面に映し出した。そして「2通目のラブレターの画像を見せて」と言うと、2通目のラブレターの画像を画面に映し出した。堀坂向汰は「もういいよ。部屋の明かりをつけよう」と言った。そして如月瑠衣が生徒会室の明かりをつけた。
琴宮梓颯「向汰君、何かわかったの?」
堀坂向汰「これは単なるラブレターじゃなくて、別の目的があって出したラブレターだね」
如月瑠衣「別の目的ですか?男子生徒のイタズラしては少し度が過ぎてますわよね」
堀坂向汰「如月さん、このラブレターを書いた人物が男子生徒とは限らないよ」
如月瑠衣「しかし、とても女子生徒の書いた字だとは思えませんわ」
堀坂向汰「まず2通のラブレターを見ると、どちらも左下から右上に折り目がある。つまり差出人は左利きだってことだね。おそらく雑な字になっているのは筆跡がバレないように右手でこの文章を書いたんだろう。あと、差出人不明のラブレターを出したのは、沢村香苗を困惑させることが本来の目的なんじゃないかな。ただ、困惑させたい理由がわからないんだけどね」
如月瑠衣「無言電話のこともありますのでストーカー行為ということは考えられませんの?」
堀坂向汰「無言電話もおそらく同一人物の仕業だと思うけど、ストーカー行為なら、もう少し過激な行動に出ると思う。とにかく今の段階では、沢村香苗を困惑させるためにラブレターを出した。その人物は沢村香苗の近くにいて左利きであるということくらいかな」
琴宮梓颯「なるほど。だったらまずは沢村香苗さんの交友関係を調査する必要があるわね。それと下駄箱の場所も調べておきたいのだけど、それは如月さんにお願いしてもいい?」
如月瑠衣「職員室に全生徒の下駄箱表のようなものがありましたから、わたくしのほうで調べておきますわ」
堀坂向汰「あと、沢村香苗の詳しい情報も調べておいてね」
琴宮梓颯「わかったわ。じゃあ今日はこれで解散しましょうか。また新しい動きがあれば連絡するわ」
琴宮梓颯と如月瑠衣はそのまま生徒会室に残って調査を開始した。堀坂向汰はカバンを持っていつものように生徒会室を出てのろのろとうつむきながら歩いて帰宅していった。
■ 調査結果と推理
琴宮梓颯は沢村香苗の詳しい情報を調査していた。裏クラブの活動なので聞き込み調査も慎重に行わないといけない。一方、如月瑠衣は全生徒の下駄箱表や各クラスの座席表などの情報を手に入れていた。
昼休みになって、琴宮梓颯と如月瑠衣は生徒会室に入って集めてきた情報をまとめていた。するとSNSの影郎アカウントにダイレクトメッセージが届いていた。すぐに確認してみるとまた沢村香苗からのメッセージだった。
”
こんにちは、2年4組の沢村香苗です。
今朝も差出人不明のラブレターが下駄箱に入っていました。
このラブレターを読んでかなり怖くなってきました。
一応、このラブレターの画像も送っておきます。
もう影郎さんしか頼みの綱がありません。よろしくお願いします。
”
送られてきた画像を見ると手紙の真ん中に『先週は沢村さんの声が聞けていい夢が見れました。また声を聞かせてください』と書いてあった。それを見た琴宮梓颯は「これは放課後集合ね」と呟いて、堀坂向汰にメールを送った。
如月瑠衣「琴宮会長、実は下駄箱表や各クラスの座席表の他に手に入れたものがありますの」
琴宮梓颯「何を手に入れたの?」
如月瑠衣「全生徒の個人情報データです。不用心な先生のパソコンからコピーさせていただきました。しかし、これでわたくしも犯罪者になりましたわ」
琴宮梓颯「さすが如月さん、よくやってくれたわ。そのデータはわたし達にだけ見えるようにすることってできる?」
如月瑠衣「厳重なパスワードをかければ大丈夫だと思いますわ」
琴宮梓颯「それとわたし達はこのデータを悪用するわけではないので、あまり罪悪感を持たなくていいわ。早速、沢村香苗と交流関係のある生徒の情報を見させてもらうわね」
如月瑠衣「わかりました」
午後の授業が終わってしばらく椅子に座ったままぼーっとしていた堀坂向汰のところへ西村真一がやってきて話しかけてきた。
西村真一「堀坂、昨日借りた同人誌だけど、あれかなりロリロリでヤバイ感じだよな。お前もしかしてロリ系にハマったんじゃねえの?」
堀坂向汰「そんなことないよ。僕は美少女が好きだけどあんなロリ系には興味がないから」
西村真一「その定義がよくわかんねえけどさ、犯罪にだけは走るなよ」
堀坂向汰「それは大丈夫だよ」
西村真一「それより、たまには一緒に帰らねえか?」
堀坂向汰「今日は学校で課題を終わらせたいから遠慮するよ」
西村真一「お前、たまに学校に残ってることあるけど、課題やってたのか」
堀坂向汰「うん。家で勉強したくないからね」
西村真一「じゃあ、俺は先に帰って同人誌の続き読むことにするわ。じゃあまた明日な!」
堀坂向汰「じゃあ、また明日。さよなら」
西村真一が帰ったのを見計らって、堀坂向汰はカバンを取って教室を出た。そして、のろのろとうつむきながら生徒会室のほうへ歩いていった。堀坂向汰は周りに誰もいないことを確認して生徒会室のドアをノックした。すると琴宮梓颯の「はい。どうぞ」という声が聞こえたので、ドアを開けて生徒会室へ入っていった。
如月瑠衣が生徒会室のドアの鍵をかけると琴宮梓颯が「またラブレターが届いたみたいなのよ」と言った。堀坂向汰は「そうなんだ」と言いながらソファーに座ってカバンの中からスナック菓子とペットボトルのコーラーを出した。すると如月瑠衣が生徒会室の明かりを暗くして、大きな壁にプロジェクターで沢村香苗から送られてきたラブレターの画像を映し出した。それを見た堀坂向汰は鋭い目をしながら「やっぱりね」と呟いた。生徒会室の明かりをつけて会議がはじまった。
琴宮梓颯「今回の内容って自分が無言電話をしましたと白状してるようなもんじゃない。どういうつもりなんだろう」
堀坂向汰「俺の推理が正しかったということが証明できた。ラブレターや無言電話は沢村香苗を困惑させることが目的なんだよ。だから無言電話のことをわざわざ白状して、さらに困惑させて恐怖心を与えたんだよ。あとは火曜日の謎だね」
如月瑠衣「そういえば今日は火曜日ですわね。たしか1通目のラブレターが入っていたのも先週の火曜日でしたね」
琴宮梓颯「火曜日の朝は下駄箱にいる生徒が少ないとは考えにくいわ。如月さん、とにかく生徒の下駄箱表を向汰君にも見せてあげて」
如月瑠衣「わかりました」
如月瑠衣は生徒達の名前が書かれた下駄箱表をパソコンの画面に出した。そして沢村香苗の下駄箱の場所を堀坂向汰に伝えた。その下駄箱の場所はフロアの真ん中のほうに位置していた。それを見た堀坂向汰は何かを確信したようで「そういうことか」と呟いた。そこに琴宮梓颯が「沢村香苗さんの情報を伝えておくわ」と言った。
琴宮梓颯「沢村香苗さんは2年4組で同じクラスの桜川美奈子、小坂理恵の2人と仲良くしているみたい。ちなみに桜川さんと小坂さんは右利きだったわ。桜川さんは部活はしていなくて大人しく人見知りするタイプ、小坂さんはバレーボール部に入っていて、社交的で明るく誰とでも話せるタイプだけど悪く言えば八方美人といえるわ。問題の沢村香苗さんだけど、部活はしていなくて、内気なで繊細なタイプ。でも友達の前ではよく喋るみたい。ただ、クラスの男子生徒とはあまり交流がないみたいよ。あとは1年生の時から成績は優秀でクラス内ではトップ。学年でも10位以内に入るくらいで勉強に関しては優等生タイプね」
スナック菓子をぼりぼり食べながら琴宮梓颯の情報を聞いていた堀坂向汰はコーラーを1口飲んで話しはじめた。
堀坂向汰「今回の事に関して火曜日の謎が解けた。そのおかげで沢村香苗が仲良くしている2人は無関係だとわかったよ。ラブレターを下駄箱に入れたのは火曜日の朝じゃなくて、月曜日の夕方なんだよ。もし朝早くに登校して下駄箱にラブレターを入れるとしても、部活をしている生徒に目撃される可能性がある。そもそも部活をしてない生徒が朝早くから登校してると先生達からも不審に思われる。あとは如月さんに見せてもらった下駄箱表を見るとわかるけど、この場所はフロアの真ん中に位置するから、ちょっと早めに登校したくらいで、誰にも気づかれずに沢村香苗の下駄箱にラブレターを入れるのは危険な賭けになる。つまり誰にも気づかれない時間とは、部活を終えた生徒達が帰宅して、まだ職員室で残業をしている先生がいる18時前くらいということになる。木曜日の朝のラブレターも本当は水曜日の夕方に入れたものなんだよ。ここまでくればあとは月曜日と水曜日の夕方に焦点を当てて推理すればいい」
如月瑠衣「堀坂先輩のおっしゃってることは理解できましたが、どうして差出人は部活をしていないとわかりますの?」
堀坂向汰「如月さんは頭がいいんだから、ちょっと考えればわかるよ。部活をしながら隙を見て悪意のあるラブレターを下駄箱に入れるなんてかなりリスクが高い。それに部活中だとそのラブレターをどこかに隠しておかないといけない。これもかなりリスクが高い」
如月瑠衣「なるほど、よくわかりましたわ」
琴宮梓颯「それで月曜日と水曜日の夕方について向汰君はどう推理してるの?」
堀坂向汰「これは単なる想像になるけど、18時という時間に生徒が行く場所といえば塾なんじゃないかと思う。塾に通ってるということは成績はいいほうなんじゃないかな。そういえば沢村香苗も成績は優秀だったよね?」
琴宮梓颯「学年でも10位内の成績だからかなり優秀だといえるわ」
堀坂向汰はスナック菓子をぼりぼり食べながらいろいろと考えていた。真相解明まであと一歩のところなのだ。
如月瑠衣「成績で思い出しましたが、2年生はもうすぐ基礎学力テストがあるのではありませんか?」
如月瑠衣の言葉を聞いた堀坂向汰は頭の中でピンッときた。
堀坂向汰「そうか!そういうことだったのか!!如月さん、お手柄だよ!」
如月瑠衣「わたくし、何かしました?お手柄とはどういうことですの?」
堀坂向汰「梓颯、2年4組で成績のいい女子生徒を調べることできる?あと、その女子生徒は左利きで、月曜日と水曜日の夜は塾に通っているはず」
琴宮梓颯「わかった。すぐに調べてみるわね」
堀坂向汰「明日はちょうど水曜日だから証拠を掴んだら今回の問題は解決する」
堀坂向汰は自分の推理が正しければ全ての真相が明らかになって問題が解決すると確信していた。あとは琴宮梓颯の調査結果待ちとなった。
■ 真相解明
次の日の昼休み、堀坂向汰はいつものように中庭の端っこにあるベンチに座って昼食を食べているとメールが届いた。すぐにメールの内容を確認すると、2年4組の吉野彩という女子生徒の情報が記載されていて、顔写真まで添付されていた。その情報によれば、左利きで成績優秀、月曜日と水曜日の夜はこの学園から10分ほど歩いた場所にある南塾というところに通っているようだ。1年生の時も沢村香苗と同じクラスで、成績はそのクラス内でいつも2位か3位だったという。顔写真を見てみるとかなり真面目そうな印象だが、この吉野彩という女子生徒は、まさに堀坂向汰が推理している人物像と一致している。堀坂向汰は情報を確認するとすぐにメールを削除した。
放課後になって、生徒会室には裏クラブのメンバーが集まっていた。
琴宮梓颯「今日の夕方、証拠写真を撮っておいてもらいたいのだけど、それは如月さんにお願いしてもいい?」
如月瑠衣「わかりました。わたくし、そのために無音カメラを用意してきましたの。動画のほうがよろしくありませんか?」
琴宮梓颯「そうね。動画のほうがいいわ。下駄箱にラブレターを入れたのを確認したら、そのラブレターを回収して、この警告文を吉野彩さんの下駄箱に入れておけば、今回の問題は解決ね」
その警告文の文章はパソコンで入力して印刷したものなので誰の仕業かわからないようにしているのだ。
如月瑠衣「ところで堀坂先輩はどうして差出人が女子生徒だとおわかりになりましたの?」
堀坂向汰「ラブレターの文面だよ。男子生徒にしてはあまりにも穏やかで丁寧に書いてあったからね」
如月瑠衣「なるほど。結局、沢村香苗さんを困惑させていた理由とは何でしたの?」
堀坂向汰「学力テストで沢村香苗の成績を落とすためだよ。困惑させられて、おまけに恐怖心まで与えられると勉強に集中できなくなる。おそらく1年生の時から成績ではライバル視していたんだと思う。いくらがんばってもクラスでトップになれず、沢村香苗には勝てなかったんだろうね」
琴宮梓颯「皮肉なことに2年生でも同じクラスになってしまって、今回のラブレター作戦が思いついたわけね・・・」
堀坂向汰「さて、これで俺の役目は終わったから、そろそろ帰るよ。あとは梓颯と如月さんで処理できるでしょ」
琴宮梓颯「そうね。裏クラブの最初の活動だったけど見事な推理力だったわ。向汰君、お疲れ様でした」
堀坂向汰はカバンを持っていつものように生徒会室を出てのろのろとうつむきながら歩いて帰宅していった。
夕方になり、如月瑠衣は下駄箱のフロアの陰でじっと張り込みをしていた。すると制服を着た1人の生徒が下駄箱のほうへ歩いてきた。既に部活動をしていた生徒は帰宅して、周囲には誰もいなかった。下駄箱まで歩いてきた生徒は予想通り吉野彩であった。陰に身を潜めていた如月瑠衣はスマホの録画ボタンを押した。そして吉野彩は辺りを見回して、ポケットの中から取り出したラブレターらしき物を沢村香苗の下駄箱に入れた。再びあたりを見回した後、吉野彩はそのまま学園の外へ出て行った。その後、如月瑠衣はすぐさま沢村香苗の下駄箱の中からラブレターらしきものを回収して、吉野彩の下駄箱の中に警告文を入れておいた。
次の日の朝、登校してきた吉野彩が下駄箱をあけると四つ折りになった白用紙が入っていた。すぐに開いて見てみると『警告。あなたが沢村香苗さんにしている迷惑行為の証拠を持っています。これ以上、迷惑行為を続けるのであれば全てを公表します』と記載されていた。その警告文を読んだ吉野彩は青ざめながら冷や汗を流していた。
昼休み、生徒会室では琴宮梓颯と如月瑠衣が話をしていた。
琴宮梓颯「如月さん、昨日はお疲れ様。これで今回の問題は解決したわ」
如月瑠衣「わたくしが録画した動画ファイルは念のため、このパソコンの中に保存しておきますわね」
琴宮梓颯「あんな警告文を読めば、二度と同じようなことをしないと思うわ」
如月瑠衣「ところで、琴宮会長と堀坂先輩はいつからお付き合いされてますの?」
琴宮梓颯「そのことはいずれ話すことがあると思うわ。それより沢村香苗さんに問題を解決したことを伝えておかないといけないわね」
琴宮梓颯はパソコンから影郎アカウントにログインして、沢村香苗のアカウントへダイレクトメッセージを送った。送ったメッセージは『あなたの問題は解決しました。もうラブレターや無言電話はこなくなるでしょう』という簡単な内容だった。
如月瑠衣「琴宮会長、差出人のことは伝えなくてもよろしいのですか?」
琴宮梓颯「差出人のことを伝えると学園で問題沙汰になるでしょ?警告文だけで問題解決したからいいのよ」
如月瑠衣「たしかにそれはいえますわね」
琴宮梓颯「内密に依頼を受けて、内密に問題を解決する。それが裏クラブなのよ」
今回の依頼は裏クラブという秘密組織であったからこそ解決することができたのだ。表向きの生徒会や教師達ではこれほど穏便に解決させることはできなかっただろう。如月瑠衣はそのことを心の底から実感していた。