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明智学園裏クラブ  作者: 涼
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謎の盗難事件

■ 久しぶりの依頼


12月に入り、街の雰囲気がすっかりクリスマスモードになっていた。まもなく期末試験が開始されるのだが、それでも裏クラブの活動は続いていた。この日、生徒会室では裏クラブの新しいメンバーとなった牧瀬悠人が生徒会長である琴宮梓颯から影郎アカウントの目的や詳しい活動内容に関する説明を受けていた。もちろん、友達以上恋人未満からという条件で彼女になった如月瑠衣も副会長席に座りながら話を聞いていた。


牧瀬悠人「影郎アカウントや裏クラブの目的や活動内容は把握しました。ところで琴宮先輩にお聞きしたいことがいくつかあるのですがよろしいですか?」

琴宮梓颯「わたしに聞きたいことって?」

牧瀬悠人「琴宮会長って本当に可愛くて美人なので、この学園内ではアイドル的存在で有名になっていますが、街中で芸能事務所からスカウトされたりしないのですか?」

琴宮梓颯「何度かされたことはあるけど、わたしは芸能界に興味がないの。それに外見だけで判断されるのはもううんざりなのよ」

牧瀬悠人「たしかに堀坂先輩は美少女キャラクターが好きというだけで外見で判断するような人ではありませんね」

琴宮梓颯「そうなのよ。はじめて、わたしのことを1人の人間として見てくれて、わたしが本気で好きになれた人が向汰君だったの」

牧瀬悠人「なるほど。お二人が付き合っていることを隠している理由がわかりましたよ」

琴宮梓颯「そんなことが聞きたかったの?」

牧瀬悠人「いえ、その堀坂先輩のことなのです。あの推理力や人を見抜く力をどのようにして身につけたのでしょうか?」

琴宮梓颯「本人は物心がついた時からだと言ってたけど、人を見抜く力に関してはさらに磨きをかけてるみたいよ。これは内緒にしてほしいのだけど、向汰君の部屋にお邪魔したときにこっそり戸棚を開けてみたの。そしたら難しそうな心理学の本がたくさん並んでたわ」

牧瀬悠人「密かに心理学を勉強しているというわけですね。でも堀坂先輩の推理力を活かすのであれば将来は刑事か探偵になるのがいいと思います」

琴宮梓颯「向汰君は警察が嫌いみたいだから刑事にはならないと思うわ。それに普段は推理力をあまり使わないって言ってたから探偵の道もどうかしらねえ」

牧瀬悠人「それは勿体ないですね」

琴宮梓颯「ただ、それとは別に卒業したら入籍するつもりよ」


入籍という言葉を聞いた如月瑠衣は驚いた表情をしながら琴宮梓颯のほうを見た。


如月瑠衣「琴宮会長!卒業したら入籍って、まさか堀坂先輩と結婚するつもりですの?」

琴宮梓颯「そうよ。わたしと向汰君が結婚することに何か問題でもあるの?」

如月瑠衣「い、いえ・・・ただ、卒業後にすぐ結婚するって少し早くありません?」

琴宮梓颯「この先、本気で好きになれる人が他に現れるとは思えないの。それにわたしだって早く向汰君と一緒にいたいのよ」

如月瑠衣「入籍する場合、未成年だとご両親の許可がいるのではありませんの?それに琴宮会長は進学希望ですわよね?」

琴宮梓颯「わたしや向汰君の両親は好きにすればいいと言ってるから大丈夫よ。進学に関しては、わたしは国立大を狙ってるけど、向汰君はまだ決めてないみたいよ」

如月瑠衣「お二人が進学すると学生結婚ということになりますわね」

琴宮梓颯「そうなるわね。実はもう二人で住む場所も決めてるのよ」


そんな琴宮梓颯の話を聞いていた牧瀬悠人はちらりと如月瑠衣のほうを見た。自分は最終的に父親の探偵事務所を継ぐつもりだが、先輩達と同じように学生結婚には憧れる。卒業するまでには如月瑠衣との関係が今より進展しているだろうと牧瀬悠人は心の中で思っていた。そんなことを考えていると生徒会室のドアからノックする音が聞こえた。琴宮梓颯が「はい。どうぞ」と言うとドアが開いた。そして3年生の白石由希が生徒会室へ入ってきて笑顔で「こんにちは」と言った。


如月瑠衣「琴宮会長、白石先輩を呼んだということは、もしかして影郎アカウントにダイレクトメッセージが届いたのでしょうか?」

琴宮梓颯「そう、久しぶりの依頼よ。向汰君が来てから見せるけど、牧瀬君も一緒にお願いするわ」

牧瀬悠人「わかりました」


生徒会室内はしばらく沈黙が続いていた。それぞれ会話が途切れて何の話をすればいいのかわからない状態だったのだ。そこで琴宮梓颯が口を開いた。


琴宮梓颯「白石先輩、受験で忙しい時だというのに呼び出して申し訳ありません」

白石由希「琴宮さん、わたしはもう推薦入学が決まってるから気にしないで大丈夫だよ」

琴宮梓颯「それならよかったです」

白石由希「そういえば、今日は堀坂君、来るのが遅いね」

琴宮梓颯「今日は掃除当番だから少し遅れると言ってましたが、そろそろ来ると思います」


すると、生徒会室のドアからノックする音が聞こえた。琴宮梓颯が「はい。どうぞ」と言うとドアが開き、堀坂向汰が「遅くなってごめん」と言って生徒会室へ入ってきた。そして、いつものようにソファーに座ってカバンの中からスナック菓子とペットボトルのコーラーを取り出した。


琴宮梓颯「向汰君、ずいぶん遅かったけど、何かあったの?」

堀坂向汰「西村が紹介したい女の子がいるから一緒に来てほしいって言われて大変だったんだよ」

琴宮梓颯「その紹介したい女の子に会ってきたの?」

堀坂向汰「うん。西村の彼女の友達で1年生だったんだけど、面倒だったから適当な話をしてさっさと帰ってもらったよ」

琴宮梓颯「その女の子や西村君には悪いことしたわね」

堀坂向汰「西村の気持ちは嬉しいけど、少しおせっかいが過ぎるんだよ。まあ、クリスマスが近いということもあってのことだろうけどね。だからといって俺と梓颯の関係を公にするわけにはいかないから仕方ないよ」

琴宮梓颯「たしかにそうね」


そんな話を聞きながら如月瑠衣がパソコンにプロジェクター取り付けて「そろそろいいでしょうか?」と言った。すると琴宮梓颯が「お待たせしてごめんなさいね。如月さん、お願いするわ」と言った。如月瑠衣は生徒会室の大きな壁に影郎に届いたダイレクトメッセージを映し出した。今回届いたメッセージとは次のような内容であった。


影郎さん、はじめまして。

僕は3年7組の風間祐一と申します。

影郎さんのことは噂で聞いています。

しかし、今回の件に関しましては解決していただけるかどうか半信半疑でありながら、

神の手を借りたい気持ちでメッセージを送らせていただきました。


これは1週間ほど前のことになります。

僕は英語の課題をするのを忘れてしまいました。

そのことで英語の先生から授業が終わってから忘れた課題を終えて提出しなさいと言われました。

その日、6限目の授業が終わると僕だけ教室に残って忘れた課題をしていました。

その課題を終えた頃、すっかり外は薄暗くなっていたので、僕は急いで職員室へ向かいました。

職員室に入ると、もう数名の先生しか残っておらず、英語の先生も不在でしたので、

僕は課題のノートを先生の机の上へ置いてさっさと職員室を出ました。

職員室の外では、国語の先生が携帯電話で誰かと話をしていましたが、その時は何も気になりませんでした。

その後、僕は教室に戻り、カバンを持ってすぐに帰宅しました。


ところが次の日、僕はその国語の先生に呼び出されました。

先生の話によると電話を終えて職員室に戻ると机の上に伏せて置いていたはずの期末試験の国語の問題用紙が無くなっていたということでした。

あの時間、職員室に入った生徒は僕だけで、国語の先生の席は英語の先生の席のすぐ近くだったということもあって、

その国語の問題用紙を盗んだのではないかと疑われました。

僕は盗んだりしていませんと否認していますが『犯人は君以外に考えられない』と今も疑われている状況です。


もし真犯人がいるとすれば、まだ学園に残っていた生徒だと思います。

僕が帰宅するときに、体育館には数名の女子生徒が残っており、グラウンドにも数名の男子生徒が残っていました。

それにまだ明かりのついた教室がありましたので、他にも残っている生徒がいたと思います。


影郎さんには信じていただきたいのですが、本当に僕は盗んだりはしていません。

本当に国語の問題用紙は盗まれたのかもわかりませんが、どうかこの謎を解明して僕への疑いを晴らしていただけないでしょうか。

よろしくお願い致します。


琴宮梓颯「白石先輩、この風間祐一という生徒はご存じでしょうか?」

白石由希「風間君なら1年生の時に同じクラスだったから知ってるけど、あまり話したことないんだよ」

琴宮梓颯「どのような感じの生徒だったか覚えていますか?」

白石由希「大人しくて無口だったね。シャイなのかわかんないけど、かなりの草食系男子だと思うよ」


そこにソファーでスナック菓子をボリボリと食べながらコーラーを飲んでいた堀坂向汰が「まあ、この風間祐一という生徒は白だね」と言った。白ということはこの盗難事件のないということになるが、堀坂向汰はこのメッセージから何かを掴んでいるようだ。



■ 一致した二人の推理と謎


堀坂向汰が発言した途端、牧瀬悠人もここぞとばかりに口を開いた。


牧瀬悠人「どう考えても彼は白で間違いなさそうですが、このメッセージには謎がありますね」

堀坂向汰「それなんだよ。真犯人がいるかどうかも謎なんだけど、このメッセージに書かれていることも謎なんだよね」

牧瀬悠人「真犯人に関しては後回しにして、先に矛盾した点から解明していくほうがよさそうですね」

堀坂向汰「そうだね。このメッセージに嘘を書いてるとは思えないから、どうすれば矛盾がなくなるのか解明しないといけないね」

牧瀬悠人「あとは今回の盗難事件とこの矛盾点に関連性があるのかどうかが気になるところですね」


そんな2人の話を聞いていた琴宮梓颯が横から話に入ってきた。


琴宮梓颯「勝手に2人で納得しながら話を進めないで教えなさいよ!」

堀坂向汰「そうだね。ごめんごめん」

琴宮梓颯「まず、どうして風間祐一さんは白だとわかるの?」

堀坂向汰「この風間祐一という生徒が盗もうとした場合、国語の先生の机の上に伏せていた数枚の用紙を確認した後、どこかに隠して持ち出さないといけない。カバンは教室に置いたままだったから、隠すとすればポケットの中しかないんだけど、そうなると数枚の問題用紙を折りたたんでポケット中に入れないといけない。このメッセージからして、彼が職員室に入っていたのはわずか1分足らずだったはずだから、時間的にそんなことをするのは不可能なんだよ。そもそも職員室にはまだ数名の先生が残っていたわけだから、そんなことをしていたら他の先生に気づかれる可能性が高いことくらい誰にだってわかる。彼が職員室に滞在していた時間を確認してみれば一発で白だということが明らかになるんだけどね」

琴宮梓颯「なるほどね。たしかに問題用紙を盗もうとすれば、それなりに時間がかかるわね」

牧瀬悠人「風間祐一さんが職員室に滞在していた時間に関しましては、職員室の外で電話をしていたという国語の先生に確認すれば一発でわかりますね。この先生は必ず彼を2回目撃しているはずですからね」

堀坂向汰「それで彼の疑いを晴らすことはできるんだけど、あとは矛盾点と国語の問題用紙の行方についての謎を解き明かさないと問題解決にはならないんだよね」

琴宮梓颯「それについてなんだけど、このメッセージのどこに矛盾点があるの?」

堀坂向汰「梓颯、それはこの学園の構造を見てみるとわかるよ」


その言葉を聞いた琴宮梓颯と如月瑠衣が何かに気づいたようで思わず「あっ!」と声を出した。


如月瑠衣「この風間祐一さんはどこから帰宅していったのかという謎がありますわね」

琴宮梓颯「たしかに考えてみれば、どうして彼はグラウンドと体育館に生徒が残っていたと確認することができたのか・・・それが謎になるわね」

堀坂向汰「梓颯と如月さん、その通りなんだよ。次は牧瀬君が矛盾点について説明してあげて!」

牧瀬悠人「わかりました。帰宅するにはまず下駄箱に行くわけですが、3年7組の教室の位置から考えたとしても、わざわざ遠回りして体育館側から下駄箱に行くとは考えられません。下駄箱の位置を中心として、表門から帰宅した場合はグラウンドの生徒は目撃できますが、体育館の生徒を目撃することはできません。逆に、裏門から帰宅した場合、体育館の生徒を目撃することはできますが、グラウンドの生徒を目撃することはできません。ところが、この風間祐一さんのメッセージには『すぐに帰宅しました』といっておきながら『体育館には数名の女子生徒が残っており、グラウンドにも数名の男子生徒が残っていました』と書いていますので、矛盾しているというわけです」

堀坂向汰「まあ、教室から遠回りして体育館側から下駄箱に向かったのであればその矛盾はなくなるんだけど、今度はそんな行動をした理由が謎になってしまうんだよ」


それからしばらく生徒会室内で沈黙が続いた。矛盾点を解決させるにはこのメッセージを送ってきた風間祐一に直接聞きだせばわかることだが、今回の盗難事件に関しては生徒会が動くわけにはいかない。そもそも、生徒会はこの事件に関することを知らないことになっているのだ。それに、この矛盾点と盗難事件に関連性があるのかもわからない。


堀坂向汰「白石先輩、3年7組の教室付近の窓からグラウンドか体育館が見えるか確認してもらってもいいでしょうか?」

白石由希「それはいいけど、3年生の教室は1階の中央だから見えないと思うよ」

堀坂向汰「それと如月さんは、職員室から3年7組の教室まで歩いてみて、周りに何か見えないか確認してもらいたい。それと同時になんだけど、3年7組の教室から体育館経由で下駄箱まで歩いて何か変わったものがないか調べてみてほしい」

如月瑠衣「そのくらいのことでしたら明日にでも調べておきますわ」

堀坂向汰「あと梓颯には風間祐一についての詳しい情報を調べておいてほしい。住んでいる場所や彼の性格など、細かいことまで調べておいてもらえると有難い」

琴宮梓颯「わかったわ。生徒情報から成績表まで詳しいことを調べておくわね」

牧瀬悠人「堀坂先輩、今回の謎はシンプルでありながら、それを解明をするのはかなり難しいといえますね」

堀坂向汰「そうだね。ただ、シンプルな謎だからこそ、あまり難しく考えないように注意しないといけないかもね」


次の日、裏クラブのメンバーは堀坂向汰の指示通りに調査を開始した。まず、如月瑠衣は校舎の2階にある職員室から3年7組の教室まで歩いてみた。途中にある渡り廊下から体育館が見えることは確認できたが、とても体育館の中までは見えない。そして、3年7組の教室から体育館経由で下駄箱まで歩いてみたが、かなり遠回りになると感じることはできたが、特に変わったものなど見つからなかった。一方、琴宮梓颯は風間祐一に関する詳しい情報を調べてみたところ、白石由希が言った通りの草食系男子で、かなり気の弱い人物だとわかった。また、彼は自転車通学をしているようだが、自宅の住所からして表門から帰宅するのが自然であることがわかった。そもそも裏門から帰宅するには少し長い階段を下らないといけないので、とても自転車が通れるとは思えない。結局、誰もが何の情報も得ることができないまま放課後になり、生徒会室に裏クラブのメンバーが集まることになってしまった。


琴宮梓颯「結局、何の情報も得られなかったわけだけど、そもそもグラウンドと体育館の生徒を確認することができた矛盾点と、国語の問題用紙の盗難事件に何か関係性はあるの?」

堀坂向汰「まあ、あるかもしれないけど、ないかもしれない。ただ、全ての謎を解き明かさないと、真実には辿り着かないんだよ。特にこの件に関しては全体の動きを把握しないといけない」

琴宮梓颯「よくわからないけど、そういうものなのね」

牧瀬悠人「琴宮会長、つまりこういうことですよ。誰がどこで何をしていたのかを把握することで、盗難事件の犯人も浮かび上がってくる可能性があるということです」

堀坂向汰「まあ、そういうことだね。ところで、風間祐一は自転車通学だということは表門から帰宅したはずだから、どうして体育館に数名の女子生徒が残っていたことを知っていたかが謎になるね」


そこで黙っていた如月瑠衣が副会長席に座りながら口を開いた。


如月瑠衣「その日、体育館に残っていたのは女子バスケットボール部のメンバーということはわかっていますの。もしかするとどこからから声が聞こえたのではないでしょうか?」

牧瀬悠人「うーんっと、たとえどこかで体育館の声が聞こえたとしても、数名の女子生徒が残っていたという目撃したかのような表現はしないと思う」

堀坂向汰「如月さん、牧瀬君の言う通りなんだけど、もしかすると声だけじゃなくて、防犯カメラのモニタなんかで本当に目撃できるようなものがどこかにあるかもしれない。学園の防犯カメラの設置場所とモニターできる場所を徹底的に調べてみてもらえないかな?」

如月瑠衣「なるほど。それでは学園に設置されている防犯カメラに関する情報を調べてみますわね」

琴宮梓颯「たしかに、今の時代はどこの学校でも防犯カメラは設置しているはずね。わたしのほうでも詳しく調べてみるわ」


それから琴宮梓颯と如月瑠衣は学園に設置している防犯カメラの位置を徹底的に調べた。しかし、設置されている場所は校門の前と職員室のみで、防犯カメラのモニターは校長室にあることがわかった。結局、風間祐一が体育館の生徒を確認できたというのは謎のままとなってしまったのが、実は裏クラブのメンバーは簡単なことを見落としていただけなのである。



■ 一つの謎解明


次の日の放課後、再び生徒会室には裏クラブのメンバー全員が集まっていた。そこで、白石由希がある情報を掴んできたという。その情報とは、風間祐一が想いをよせる女子生徒が現在2年生のバスケットボール部員だということだった。その女子生徒の名前やクラスはわからなかったが、3年7組の一部の生徒の間では、そのことが噂になっているらしい。


堀坂向汰「盗難事件があった時、体育館にはバスケットボール部の女子生徒が数名残っていたのと、白石先輩の情報は偶然とは思えないね。俺たちは何か簡単なことを見落としている気がしてならない」

琴宮梓颯「簡単なことねえ・・・うーん」

堀坂向汰「最初からこの問題はシンプルな謎だってことはわかっていた。どうも難しく考えてしまっていたんだよ。もう一度、職員室から3年7組の教室の位置関係について調べてみたほうがいいかもしれない」

如月瑠衣「堀坂先輩、そうはいいましても、わたくしのほうでちゃんと調べ・・・あっ!」

堀坂向汰「ん?如月さん、何か気づいたの?」

如月瑠衣「職員室から3年7組の教室までの順路がもう一つありましたわ。少し遠回りであまり使われていない道があります」

牧瀬悠人「如月さん、あの老朽化した階段のことだね?」

如月瑠衣「そう・・・あの階段を使えば職員室から体育館前に行けますわ」

琴宮梓颯「先生達が使うなとうるさくいっているあの階段のことね?」

堀坂向汰「如月さん、お手柄かも!?まさか、あそこの階段を使うなんて誰も思わなかったけど、白石先輩の情報が本当であれば体育館に立ち寄って教室へ戻っても不思議ではないよ。ただ何か引っかかりはするんだけどね」

白石由希「でも、風間君が2年生のバスケットボール部員に好意を寄せてるというのは単なる噂にすぎないよ?」

堀坂向汰「白石先輩、その噂の信憑性はかなり高いといえますよ。何か根拠があるからこそ噂になったはずです」

牧瀬悠人「堀坂先輩のおっしゃる通り、その噂は真実と言えると思います」

如月瑠衣「つまり、風間さんはその好意を持っている女子バスケットボール部員の様子を見るために、職員室から老朽化したあの階段を使って体育館に立ち寄ってから3年7組の教室へ戻っていったということですね!?」

堀坂向汰「そういうことになるね。ただ、あの階段を使ったとなると国語の問題用紙はどこへ消えたのかが最大の謎になるんだよ」

如月瑠衣「もし、その問題用紙を盗んだ真犯人がいるのであれば、職員室のベランダに潜んでいたとは考えられませんの?」

牧瀬悠人「如月さん、職員室のベランダには外部からの出入口がないからそれは不可能だよ」

如月瑠衣「そうでしたわね・・・」


一つの謎は解けたが、国語の問題用紙の行方が謎のままなのだ。この謎を解明しないと解決にはならないことは誰もがわかっている。ここで堀坂向汰がふとある疑問を抱いた。


堀坂向汰「ところで、その問題用紙ってどのくらいの大きさで何枚あったんだろう?」

琴宮梓颯「期末試験の問題だから多くても3枚くらいじゃない?大きさはよくわからないわ」

如月瑠衣「試験の問題用紙はほとんどの先生はパソコンで作成しているはずです。職員室に置いているプリンターは最大でA4用紙1枚しか印刷できませんから、A4用紙2枚をコピー機に通してA3用紙にしていると思われますわ」

堀坂向汰「そういえば、この学園の試験問題はA3用紙を使っているね。その盗まれたとされる問題用紙はコピー機に通す前のA4用紙だと考えられるね」

琴宮梓颯「どうしてA4用紙だとわかるの?」

堀坂向汰「コピー機に通したのなら、生徒の人数分の問題用紙があったはず。ところが無くなっていたという表現からして、数枚程度と考えられるからだよ。まあ、そうだとしても風間祐一に犯行は無理だということは明らかになったけどね」

牧瀬悠人「たしかに盗み出すのは不可能だといえますね」

琴宮梓颯「また二人で推理して、わたし達にもわかるように説明してもらえない?」

牧瀬悠人「琴宮先輩、A3サイズの問題用紙が3枚だとA4サイズだとその倍の6枚ということになります。A4用紙を6枚折りたたんでポケットかどこかに隠したとしても、かさばってしまいます。それに折りたたむのに少し時間がかかります。風間祐一さんが職員室に滞在していた時間から考えると犯行は不可能だということです」

琴宮梓颯「たしかにそうね。だったらこれで風間祐一さんの無実を証明すればいいんじゃないの?」

堀坂向汰「梓颯、無実の証明をしたとしても完全に疑いが消えるわけでもないんだよ。それだと根本的な解決にはならない」

琴宮梓颯「この事件の真犯人を見つけるってことね?」

堀坂向汰「うーん・・・それについては、どうもきな臭いんだよ。そもそも真犯人なんて存在するんだろうか!?」

琴宮梓颯「真犯人が存在しなければ、国語の問題用紙はどこへ消えたの?」

堀坂向汰「それが最大の謎なんだよ。それさえわかればこの事件は解決するんだけどね。どちらにしても今後の調査や行動について少し考えてみるよ。牧瀬君も何かいい案があれば言ってほしい」

牧瀬悠人「わかりました」


結局、最大の謎を解き明かすための調査や行動などの方針が決まらず、この日の裏クラブメンバー会議は終了した。推理担当である堀坂向汰や牧瀬悠人は行き詰っていたのだ。まもなく期末試験がはじまるので、テスト休みに入る前にどうしても今回の盗難事件を解決させたいところであった。


次の日の放課後、再び影郎アカウントに風間祐一からのダイレクトメッセージが届いた。そのダイレクトメッセージを読んだ琴宮梓颯と如月瑠衣は裏クラブの緊急会議を行うことにした。既に帰宅途中のメンバーがいるかもしれないが、緊急事態なので生徒会室に集まるように促した。



■ 方針決定、調査開始


最初に生徒会室にやってきたのは掃除当番で学園内にまだ残っていた牧瀬悠人だった。その後、同じく掃除当番で残っていた3年生の白石由希が生徒会室に入ってきた。


牧瀬悠人「緊急事態ということは、新しいメッセージが届いたのでしょうか?」

琴宮梓颯「そうなのよ。内容に少し変な感じがしたから緊急で来てもらったの。わざわざごめんなさいね」

牧瀬悠人「内容が少し変?」

琴宮梓颯「とにかく向汰君が来てからメッセージを見せるわ。白石先輩もわざわざ来ていただいてありがとうございます」

白石由希「それは気にしないでいいよ。どうせ帰ってもネットゲームするだけだから大丈夫」


すると生徒会室のドアからノックする音が聞こえた。琴宮梓颯が「はい。どうぞ」と言うとドアが開いて堀坂向汰が「白石先輩、ネット麻雀もほどほどにしてくださいね」と笑いながら入ってきた。


白石由希「堀坂君、どうしてネット麻雀だってわかったの?」

堀坂向汰「白石先輩の左手の指は右手の指に比べてかなり不器用な動きをしています。ところが、右手の指だけは器用に動かせるところを考えてみれば、ほとんど片手でできるゲームだということがわかります。テレビゲームならコントローラーを左右の指を使ってプレイしないといけませんが、片手で操作可能なのはパソコンのマウス。マウスを片手にできて、白石先輩が家に帰ってプレイするパソコンのネットゲームといえばネット麻雀くらいしか考えられないってことです」

白石由希「ううー琴宮さん、また堀坂君にいじめられたよー」

琴宮梓颯「向汰君、あまり白石先輩をいじめないの!」


堀坂向汰は「わかったわかった」と言いながらソファーに座ってスナック菓子とペットボトルのコーラーを出した。そして如月瑠衣がパソコンにプロジェクター取り付けて「メンバーが揃いましたようですので、そろそろいいでしょうか?」と言った。すると琴宮梓颯が「みなさん、突然呼び出したりしてごめんなさいね。では如月さん、お願いするわ」と言った。如月瑠衣は生徒会室の大きな壁に影郎に届いたダイレクトメッセージを映し出した。新しく届いたメッセージとは次のような内容であった。


影郎さん、こんにちわ。

先日メッセージで依頼した3年7組の風間祐一です。


進捗情報として再びメッセージを送らせていただきました。

昨日、国語の先生から放課後、職員室に来るようにと呼び出しを受けました。

放課後になり、僕は何を言われるのだろうかと恐る恐る職員室へ向かいました。

職員室に入ると国語の先生は笑顔で「風間、こっちだ」と大声で呼ばれました。

国語の先生はかなり上機嫌な様子だったので僕は事件が解決したのかと思ってホッとしていました。

ところが、国語の先生は僕の耳元で「素直に認めたら何も無かったことにしてやるから正直に言いなさい」と囁きました。

僕は本当に盗んだりしてないので「本当に盗んだりしていません。先生、信じてください」と言いました。


僕がそう言うと、先生は「うーん」と言いながら少し沈黙していました。

そして「先生、新しく問題を作り直したからあの時のことはもう終わったことだと思って怒ってないんだ。ただ、先生という立場上から未解決のままにしておけないんだ。風間が素直に認めて謝ってくれさえすれば、気持ちよく解決できるんだ」と先生は言いました。


先生がそう言った後、僕は少し考えました。

この件に関して僕が盗んだことにすれば、穏便に終わらせることができるかもしれないと・・・

でも、今回は罰せられずに穏便に終わらせたとしても、今後、同じようなことが起こって他の誰かが疑われるかもしれません。

僕はいろいろと考えましたが、やはり無実の罪を負うのは、どうしても納得できませんでした。


最後に僕は「それでも僕は盗んでいませんから」と言うと、先生は「風間、先生、君にはがっかりしたよ」と言いました。

これ以上、会話をしても平行線になってしまうと思った僕は「もういいです。失礼します」といって職員室を出て帰宅しました。


しかし、後になって考えてみると、やはり僕が盗んだことにしておけば今回のことは穏便に終わったのかもしれません。

影郎さんの調査はどこまで進んでいるのかわかりませんが、今回のことはもう穏便に終わらせたほうがいいと思いますか?

よろしくお願いします。


このメッセージを読み終えた堀坂向汰は「なるほどね」と呟くとペットボトルのコーラーをゴクリと飲んだ。そして牧瀬悠人が「まるで引っ掛け問題のようなメッセージですね」と言った。


琴宮梓颯「国語の先生の態度がいきなり豹変したのが怪しいと思うのよ」

如月瑠衣「わたくしも琴宮会長と同意見ですわ。この豹変ぶりはかなり怪しいと思いますの」

堀坂向汰「明らかにおかしいのはわかるんだけど、態度が豹変したのは何か別の大きな力が働いてるように思えるんだよ。この国語の先生のことについて詳しく調べてみないとわからないね」

牧瀬悠人「これほど態度が豹変しているのはかなり不自然ですよね」

堀坂向汰「牧瀬君の言う通りで不自然すぎるんだよ。そういえば白石先輩、この国語の先生は誰かわかりますか?」

白石由希「たしか、3年7君の国語の担当教師は植野先生じゃないかな。植野文雄先生だと思うよ」

堀坂向汰「ありがとうございます。梓颯、この植野文雄先生の情報をできるだけ調べてほしいんだけどできる?」

琴宮梓颯「先生を調査するの?」

堀坂向汰「そうだよ。教師の情報に関しては如月さんに手に入れてもらえばいいよ。あと如月さんにはもう一つやってほしいことがあるんだよ」

如月瑠衣「もう一つですか?わたくしにできることですの?」

堀坂向汰「この植野文雄先生のパソコンをハッキングしてほしいんだけどできる?」

如月瑠衣「学園内のネットワークに繋がっていれば可能ですわ。ハッキングしてどのような情報を入手すればよろしいのでしょうか?」

堀坂向汰「期末試験の問題を作成したファイル情報とメールか何かでメッセージをやりとりしてるものがあると思うからそれもコピーしてほしい」

如月瑠衣「わかりましたわ。わたくし、裏クラブでかなりの犯罪行為をしているような気がします・・・」

堀坂向汰「あと牧瀬君にお願いしたいのは風間祐一について詳しく調べてほしいんだけど、理由は言わなくてもわかるよね?」

牧瀬悠人「大丈夫ですよ!風間祐一さんのプライベートについて推理しながら調査します」

琴宮梓颯「風間祐一さんのプライベートなんて調べて何か意味でもあるの?」

堀坂向汰「梓颯、俺の推理が正しければ風間祐一のプライベートは想像とはかなり違っているはずなんだよ」

琴宮梓颯「想像とかなり違っているってどういうことなの?」

牧瀬悠人「琴宮先輩、影郎アカウントに送られてきたメッセージからイメージできる人物像とはかなり違うってことです」

堀坂向汰「そういうことだね。最後に白石先輩には風間祐一の交友関係について詳しく聞き込み調査をお願いしたいです」

白石由希「どこまでできるかわからないけど、とりあえず3年7組の知り合いから色々聞いてみるね」

堀坂向汰「じゃあ、今週の金曜日の放課後にまた集まろう。各自、それまでにお願いするよ」


堀坂向汰が今週の金曜日と言ったのは来週から期末試験が開始されるからである。しかし、金曜日まではわずか2日しかないのだ。裏クラブのメンバーはすぐにでも動き出すしかなかった。今回の調査で一番リスクを負うのはまぎれもなく如月瑠衣であった。この学園の教師が使っているパソコンをハッキングするのは如月瑠衣にとって簡単なことであるが、足跡を残さないよう慎重に行わないといけない。そこで如月瑠衣はまず3年生全体の時間割を調べはじめていた。



■ 盗難事件の調査と報告


琴宮梓颯と如月瑠衣は木曜日の1限目の授業を欠席して生徒会室にいた。3年生の国語担当の先生はみんな授業にでているのでハッキングするならこの時間がベストなのだ。如月瑠衣は生徒会室のドアに鍵をかけるとカバンの中からノートパソコンを取り出した。そして学園内のネットワークの図面を確認した。琴宮梓颯は職員室の座席表をプリントアウトして如月瑠衣に渡した。


如月瑠衣「座席表からしてネットワーク図のこれが植野文雄先生が使っているパソコンに間違いないですわ」

琴宮梓颯「如月さん、本当に大丈夫なの?バレたら大変なことになるわよ」

如月瑠衣「大丈夫です。それにしてもこの学園のネットワークセキュリティは脆弱すぎます。小学生でも簡単にハッキングできるレベルですわ」

琴宮梓颯「そうなのね。それはそれで問題ね」

如月瑠衣「念のために海外経由でアクセスします。それでははじめますわ」


如月瑠衣がまるでピアニストのようにパソコンのキーボードをカタカタと叩いていた。それから5分ほどすると如月瑠衣は「ログイン画面に辿り着きましたが問題はここからですの。認証パスをクラックしないといけません」と言った。琴宮梓颯は不安そうな表情をしていると、如月瑠衣が「今回はこのツールを使いますわ」と言ってUSBメモリをパソコンに装着した。


琴宮梓颯「それ何のツールなの?」

如月瑠衣「ブルートフォース方式のクラッキングツールです。約2兆1800億通りの認証をわずか20秒ほどで試すことができるのです。この学園の先生のことですから、単純な認証パスだと思いますの」

琴宮梓颯「すごいわ。如月さん、そんなものを密かに作っていたのね」

如月瑠衣「全ては裏クラブためですわ」


如月瑠衣がツールを作動させてわずか数秒でログインに成功した。早速ファイル検索をかけると期末試験問題のファイルを見つけることができた。そしてメールの受信ボックスも見つけ出した。最新のメール受信日時を確認すると前日のものだった。如月瑠衣は期末試験問題のファイルとメールの送受信ファイルをさっさとコピーした。最後にログイン履歴を削除すると即座にログアウトして通信を切った。如月瑠衣は「ハッキングは無事に終わりましたわ。あとはファイルとメールの確認ですね」と言って、まずは期末試験問題のファイルを調べてみた。


如月瑠衣「あら?このファイルは盗難事件が起こる前に新規作成されていますわ。更新日時は3日前になっていますがどういうことでしょう」

琴宮梓颯「それは向汰君や牧瀬君に推理してもらいましょう」

如月瑠衣「そうですわね。では、メールのほうを確認してみますわ」

琴宮梓颯「他人のメールを盗み見るのは裏クラブの活動といっても心が痛いわね」

如月瑠衣「これは!!琴宮会長、このメールを見てください!!!」


琴宮梓颯が立ち上がって如月瑠衣のパソコンの画面を見ると、とんでもない内容のメールだったので驚いた。しかも、匿名でメールアドレスは海外経由で送信されたものだと判明した。とにかく、明日の会議で報告して堀坂向汰と牧瀬悠人に推理してもらいながら話し合おうということになった。


放課後になって裏クラブのメンバーが生徒会室に集まった。如月瑠衣はちゃんとドアに鍵がかかっていることを確認すると、ノートパソコンにプロジェクター取り付けていた。堀坂向汰はいつものようにソファーに座ってペットボトルのコーラーを飲みながら、ボリボリとスナック菓子を食べていた。牧瀬悠人はソファーに座りながら時折、如月瑠衣のほうをチラチラと見ていた。そして白石由希が最初に口を開いた。


白石由希「如月さんが準備している間に、わたしの調査報告をしておくね。風間君の交友関係だけど、これといって親しい友達はいないみたい。ただ、クラスの生徒達と話はしてるようで、男子生徒から遊びに誘われたりもしてるそうなの。誘われてもほとんど『用事があるから』とか言って断ってるみたい。最近は休み時間になると、ずっと一人でパソコン雑誌を読んでて人とあまり話さなくなったって何人かの生徒が言ってたよ。それ以上のことはみんなわからないみたい。わたしの調査報告はこれだけなんだけど、もっと聞き込みしたほうがよかったかな?」

堀坂向汰「白石先輩、ありがとうございます。それでも十分な情報になっています」

牧瀬悠人「十分な情報ですね。これで堀坂先輩と僕の推理が当たっている可能性が高くなりましたよ」

白石由希「それならいいんだけど、あまり深く聞き込むと勘違いされちゃうかもしれないからね」

堀坂向汰「まあ、白石先輩の恋人は東南西北白発中一九一九一九ですからね!」

白石由希「もう、またその話をする!わたし、その役であがったことないんだよ。狙ったことはあるけどね」

堀坂向汰「白石先輩はかなり後輩から慕われているみたいで、誰かに告白されたりしないのですか?それとも恋愛には興味なしですか?」

白石由希「この学園に入ってから4人の同級生から告白されたけど、4人とも好きになれそうになかったからお断りしたよ。中学生の頃に憧れだった人はいたけど、告白して付き合いたいとは思わなかった。恋愛に興味がないわけじゃないんだけど、わたしが好きになれそうな人とまだ出会っていないというのが本音かな」

堀坂向汰「その好きになれそうな人って、おそらく白石先輩のことを心から愛してくれる人だと思いますよ」

白石由希「そうかも・・・上辺だけで好きと言われてもうれしくないからね」


カチャカチャとキーボードを叩く音が止まると、如月瑠衣が立ち上がって「そろそろいいでしょうか?」と言った。そこで琴宮梓颯が「その前にわたしの調査報告もしておくわね」と言った。如月瑠衣は「はい」と言って再び椅子に座った。


琴宮梓颯「植野文雄先生についての調査報告だけど、32歳で独身。性格的には生徒に対して上から目線で接するところがあるみたいで、少しプライドが高いのかもしれないわ。これといって生徒達から慕われているわけでもなく、他の先生達とはあまり交流はないみたいよ。3年生の国語を担当するもう一人の石井美佳先生とはあまり関係がよくないらしいの。石井美佳先生は28歳なんだけど、一部の生徒達から人気があるの。これはわたしの想像だけど、植野文雄先生はそういった部分で少し妬んでいるんじゃないかしら。あとは高級車に乗って通勤してるんだけど、ときどき生徒達にその愛車のことを自慢してるそうよ。悪くいえばカッコつけて優越感に浸ってるとも考えられるわ」

堀坂向汰「まさに勘違い男の代表例といえる性格だね」

琴宮梓颯「モテない男の代表例ともいえるわよ」

牧瀬悠人「モテない男の代表例って・・・琴宮先輩、結構キツイこと言いますね。僕も気をつけないといけません」

如月瑠衣「ふふふ、牧瀬君も気をつけないといけませんわね」

牧瀬悠人「ううー・・・わかってるよ」


そこで如月瑠衣が再び立ち上がって「そろそろいいでしょうか?」と言った。裏クラブのメンバー全員が「うん」と呟いた。ここから重要な情報を手に入れて推理の確証を得ることになる。



■ 真相解明


如月瑠衣は室内の明かりを消して生徒会室の大きな壁にパソコンの画面を映し出した。そして如月瑠衣は「植野文雄先生のメールボックスにこのようなメールが届いてました」と言って受信メールを開いた。そのメールの内容は次のようなものであった。


植野文雄様への警告


私は真実を知る者だ。

私はあなたの秘密を知っている。

あなたは期末試験の問題を期日までに作成できないと思った。

そこで、問題用紙が盗まれたということを理由に期日を伸ばしてもらおうと考えた。

まだこの世には存在しない問題用紙を盗んだと一人の生徒に無実の罪を着せた。

このことはまだ公になっていないが、そうなればあなたも困るはず。


全てを無かったことにすれば、今回のことは見逃してやる。

しかし、まだ生徒に無実の罪を着せるのであれば真実を公開する。

その証拠を私は持っている。

あなたに選択肢はない。


真実を知る者より


このメールを読み終えた堀坂向汰は「やっぱりね」と呟くと牧瀬悠人が「明らかすぎますね」と言った。如月瑠衣が部屋の明かりをつけると口を開いた。


如月瑠衣「このメールを詳細情報を調べたところ、海外経由で送られてきていることがわかりましたが、送信元のアドレスは日本のものだと判明しました。海外経由といっても初心者ハッカーがよく利用する方法で、足跡が残ってしまいますの。所詮は素人のやり方ですわ」

堀坂向汰「如月さん、その送信元アドレスからどこのネット回線を利用してるかまで調べてもらえた?」

如月瑠衣「もちろんですわ。ネット回線はエスエフティーのものです」

堀坂向汰「牧瀬君、これに関する情報は一致してる?」

牧瀬悠人「はい、一致しています。やはり僕達が推理した通りですね」

琴宮梓颯「また二人だけで納得して!!その推理したことを話してよ」

堀坂向汰「この脅迫じみたメールを送ったのは風間祐一だってことだよ」

琴宮梓颯「ええ!?どうしてそんなことがわかるの?」

堀坂向汰「この盗難事件ことを知っている人間は裏クラブのメンバーを除けば植野文雄先生と風間祐一の二人しかいないからだよ」

牧瀬悠人「僕は風間祐一さんのプライベートについて調査していましたが、どこのネット回線を利用しているのかもちゃんと調べていたのです。それがエスエフティーだったので一致したと言ったのです」

如月瑠衣「どのようにして利用しているネット回線なんて調べましたの?」

牧瀬悠人「アンケート調査員だと偽って、風間祐一さんの自宅を訪ねて聞き出したんだ」

如月瑠衣「なるほど・・・」

堀坂向汰「牧瀬君は俺たちの推理に必要な情報をピンポイントで調査してくれると思ったからお願いしたんだよ」

琴宮梓颯「そういうことだったのね」

堀坂向汰「さて、そろそろ本題を話していくよ。そもそも、今回の盗難事件に関して最初から引っかかっていたことがある」

琴宮梓颯「最初から引っかかっていたことって?」

堀坂向汰「本当に期末試験の問題用紙を盗んだと疑いをかけたら、普通はその問題用紙を『返しなさい』というはず。ところが植野文雄先生は返せとは一度も言ってない」

琴宮梓颯「あっ!そういわれてみればそうよね」

堀坂向汰「あと、盗難事件のことを知ってるのは二人しかいないという理由だけど、もし期末試験の問題用紙が無くなって盗まれた可能性があるとすれば先生達の間で大問題になっていたに違いない。ところが何の騒ぎも起きなかった。もちろん、もう一人の国語を担当する石井先生すらこの盗難事件のことは知らなかったはず。その証拠として『何も無かったことにしてやる』という発言だね。他の先生が知っていれば何も無かったことになんてできないよ」


そこで如月瑠衣が「ごほんっ」と咳をして口を開いた。


如月瑠衣「それにしても風間祐一さんはどうして植野文雄先生にこのようなメールを送ったのか意味がわかりませんわ」

堀坂向汰「如月さん、フフフ・・・それは旦那さんに説明してもらうといいよ」


如月瑠衣は顔を赤くしながら小声で「旦那さんってそんな・・・」と言った。


牧瀬悠人「もし如月さんが植野文雄先生の立場だったらどうする?」

如月瑠衣「もし、わたくしだったらメールの指示に従って何も無かったことにしますわ」

牧瀬悠人「それで風間祐一が職員室の中で『僕は国語の問題用紙を盗んでいません。信じてください!!』と大きな声で発言したらどうなる?」

如月瑠衣「そんなことをされると他の先生方の耳に入りますのでかなり困りますわ」

牧瀬悠人「そう・・・困るのよ。だからといって今さら風間祐一に謝ることもできないよね?」

如月瑠衣「あっ!今さら言い訳する理由なんてありませんわね!!」

牧瀬悠人「だったらどうなるのか!?もう如月さんにも推理できるよね」


そこで白石由希も推理できたようで「あー!!」と大きな声を発した。


白石由希「わたしにもわかった!!これを口実に植野先生を辞めさせるつもりなんだ!!」

堀坂向汰「やっとみんなこのメールの意味を理解できたみたいだね。牧瀬君ありがとう」

白石由希「でも、風間君、過剰防衛じゃないけど、復讐にしてもちょっとやりすぎなんじゃないかな?」

堀坂向汰「これは風間祐一の復讐でもなんでもなくて、ただ人を陥れて楽しんでいるだけです。白石先輩がダマテンして楽しんでいるのと同じですよ」

白石由希「それだと本当にただの遊びじゃない!?ちょっと酷すぎると思う」

堀坂向汰「どうせ、パソコンでハッキングまがいのことができるようになって楽しんでる時期だっていうのもあると思いますよ」


そこで琴宮梓颯が口を開いた。


琴宮梓颯「白石先輩、植野先生を辞めさせたりしませんので安心してください」

白石由希「辞めさせたりしないって、裏クラブでだよね?どうするつもりなの?」

堀坂向汰「本当に何も無かったことにすればいいだけですよ」

白石由希「そんなことできるの?今日にでも風間君が職員室で騒ぐかもしれないよ」

堀坂向汰「すぐには動き出さないと思いますよ。植野先生に送ったメールの削除をして形跡を残さないようにしてから実行するはずですから、それまでに裏クラブのキュートなメイドハッカーが動きますので大丈夫です」

白石由希「キュートなメイドハッカー?」

堀坂向汰「あっもう人妻だった!!牧瀬君、ごめんね・・・ふふふ」

牧瀬悠人「あっいえいえ・・・メイドハッカーって思わず笑ってしまいましたよ」

如月瑠衣「堀坂先輩、わたくしのどこがメイドなのでしょう?それに人妻って・・・」

堀坂向汰「話し方から体型もだけどメイドそのものだし、今はもう旦那さんがいるわけだから人妻だよ・・・あははは」

琴宮梓颯「向汰君、あまり如月さんをいじめたらダメよ。白石先輩にもだけど・・・本当にロリコンの変態生徒になってしまうわよ」

堀坂向汰「そんなロリコンで変態生徒の彼女が梓颯じゃないの?」

琴宮梓颯「まあ、そういうところも含めて彼女しているのよね」

堀坂向汰「さてさて、冗談はそのくらいにしておいて、さっさと今回の依頼を解決させようか。梓颯は植野先生、白石先輩は風間祐一の様子を見ていてほしい。牧瀬君は念のために如月さんのボディーガード役ね。如月さんには少しヤバいことをしてほしい」

如月瑠衣「ヤバいことですか?」

堀坂向汰「風間祐一のパソコンをハッキングして再起不能にしてほしいんだよ。何もかも消去してほしい」

如月瑠衣「その程度のことでしたら今夜にでもしておきますわ」


そして、裏クラブのメンバーは解決に向けて話し合いを続けていた。



■ 依頼解決と新たな問題


深夜になり、如月瑠衣は自宅のパソコンで海外経由のアクセスをして風間祐一の自宅のパソコンへ侵入した。そして、あるコンピューターウイルスをばらまいて最後に『真実をしる真実知る者。何も無かった事にしなければ、あなたの行った行為を公にする。あなたのハッキングレベルはまだまだ初心者なのであまり調子に乗ると今度は痛い目をみてもらう』という警告メッセージ文だけを残した。そのコンピューターウイルスにより、風間祐一のパソコンデータやシステムは跡形もなく消去された。そして、学園の植野文雄先生のパソコンへ『あなたの秘密を公にしたくなければ罪を償いなさい』というメールを送信した。


次の日の放課後、裏クラブのメンバー達は生徒会室に集まっていた。


如月瑠衣「堀坂先輩のおっしゃる通りにいたしましたわ。痕跡もすべて消していますので大丈夫です」

堀坂向汰「如月さん、お疲れ様。これでこの事件は解決すると思うよ」

牧瀬悠人「僕のほうも如月さんの行動を見守っていただけですが、ボディーガードといえませんが・・・」

堀坂向汰「牧瀬君、如月さんのボディーガード役はまだ終わってないから、しばらく見守っていてほしい」

牧瀬悠人「わかりましたが、まだ終わっていないということは、裏クラブでは完全に解決したわけではないのですか?」

堀坂向汰「風間祐一は植野先生の秘密を暴いたわけだから、今回の件に関しても気づかれる可能性があるからね」

牧瀬悠人「気づかれることはないと思いますが、念のため如月さんをガードしつつ、風間祐一さんの動向を見ておきますね」

堀坂向汰「まあ、しばらく如月さんと一緒に下校すればいいかも・・・ふふふ」

如月瑠衣「ふふふってもう・・・一緒に下校させていただきますが、堀坂先輩がお考えしているようなことはいたしませんわ!」

堀坂向汰「如月さんもガードが堅いねえ。彼氏なんだから手を繋いで下校すればいいと思うけどなあ」

如月瑠衣「下校中にそのようなこと、とても恥ずかしくてできませんわ。それにわたくしたちの関係も公になっていませんのよ」

牧瀬悠人「堀坂先輩、同人誌の読みすぎですよ!琴宮先輩もよくついていけますよね!?」

琴宮梓颯「大丈夫よ!向汰君、本当はこういうことかなり奥手だし、人に言うばかりで自分のこととなると何もできないのよ」

堀坂向汰「梓颯、余計なことを後輩に吹き込まないように!」

白石由希「うふふ・・・わたしも聞いちゃったよ。堀坂君をイジメるネタを掴んじゃった」


今回の裏クラブでの活動はほぼ終わったが、まだ事態は動いておらず完全に解決したとはいえない。それに影郎アカウントでの最終メッセージを風間祐一に送らなければならない。問題は自分のパソコンデータを完全に消去されてしまった風間祐一がどのような行動に出るかである。


次の日の昼休み、突然「3年7組の風間祐一君、至急、職員室にいる植野文雄先生のところまで来てください」という呼び出しの校内放送がかかった。この放送を聞いた牧瀬悠人は急いで1年2組の教室へ向かった。そして如月瑠衣も何やら急いで教室を出ようとしていた。


牧瀬悠人「如月さん、さっきの放送聞いた?」

如月瑠衣「もちろん聞きましたわ。ですからわたくしも急いで職員室に行くつもりですの」

牧瀬悠人「さすが如月さん。仕事が早い!!では僕も一緒に行くよ」

如月瑠衣「わかりました。急ぎましょう!!」


如月瑠衣はノックをして職員室に入ると「各部の活動内容についての調査できました。すぐに終わりますので失礼します」と少し大きめな声で言って職員室へ入っていった。牧瀬悠人は職員室の外で待っていながら、暇つぶしに風間祐一が使用したとされる老朽化した階段があるドアを調べていた。ドアの前には大きく”使用禁止”と書かれたA4用紙が貼られていた。ドアノブをカチャカチャ回して開けようとしたが鍵がかかっていた。とても最近開けられた形跡もないので怪しいと思った牧瀬悠人はドアの下側にあるわずかな隙間を覗き込んだ。すると何か黒いものが置かれているのが見えた瞬間「これはもしかして!?」とある推理を立てることができた。すると職員室から如月瑠衣が出てきて「牧瀬君、どうかしましたの?」と声をかけた。牧瀬悠人は「如月さん大丈夫だった?」と聞くと如月瑠衣は「ええ、大丈夫でしたわ」と言った。


牧瀬悠人「如月さん、もう大丈夫だと思うから先に教室へ戻ってて!僕はちょっと調べたいことがあるんだ」

如月瑠衣「まだ何か調べたいことがありますの?」

牧瀬悠人「僕や堀坂先輩は一つだけ推理に大きなミスをしていたかもしれないんだ」

如月瑠衣「わかりましたわ。では、今日の放課後にでもお聞かせください」

牧瀬悠人「お昼一緒に食べようかと思って楽しみにしていたんだけど、ごめんね」


そう言って牧瀬悠人は走ってその場を去っていった。


放課後になり、この日も裏クラブのメンバー達は生徒会室に集まっていた。如月瑠衣はメンバー全員が集まったところで生徒会室のドアに鍵をかけた。そして、如月瑠衣は「では、本日のお昼休みの会話を録音いたしましたので再生します」といって、ボイスレコーダーの再生ボタンを押した。すると最初は周りの雑音が酷くガサガサする音がしていたが、ヒソヒソと話す声が聞こえてきた。そこで如月瑠衣は停止ボタンを押して「雑音をなんとかしますので、少々お待ちください」といって、ボイスレコーダーをノートパソコンへ接続して音質調整をした。そして「お待たせしました」といってパソコンから音声を再生した。


風間祐一「失礼します」

植野文雄「おぉー風間、よく来てくれた。先生、君に謝りたくてな。わざわざ来てくれてありがとうな」

風間祐一「謝りたいこととは何でしょうか?」

植野文雄「大きな声じゃ言えないんだけど、先生は風間に嘘をついてた」

風間祐一「それは国語の盗難事件のことでしょうか?」

植野文雄「そうなんだ。本当は先生、忙しくて問題用紙を印刷していなかったんだ。しかし、あの時は勘違いしてて風間のことを疑ってしまったんだ。本当に申し訳ないことをしたと思ってる」

風間祐一「2度目に呼び出した時も僕のことを疑っていらっしゃいましたが、いつ勘違いだと気づかれたのでしょうか?」

植野文雄「2度目に風間を呼び出した時は勘違いだったのか半信半疑だったんだけど、そのあとでやっと勘違いだったことに気がついたんだ。あの時も本当に申し訳ないことをした。風間、ごめんな!」

風間祐一「もう終わったことですし、僕はもう気にしていません。しかし、無実の生徒を疑った罪は償っていただきたいです」

植野文雄「先生なりに反省して、償いにならないかもしれないけど、今後は生徒の心を大切にして優しく接していこうと思ってる」

風間祐一「それが罪の償いですか・・・もう僕は気にしていませんのでいいです」

植野文雄「風間、それと図々しいお願いだけど、今回のことは誰にも言わないでほしい」

風間祐一「それももうわかりました。気分が悪いのでこれで失礼します」


ここで如月瑠衣は停止ボタンを押した。この会話の音声を聴き終えた後、白石由希が「風間君、まだ納得がいかないみたいだね」と呟いた。すると琴宮梓颯が「そうですね。まだ植野先生を陥れようとしてるんじゃないかしら」と言った。しかし、堀坂向汰は何気ない表情をしながらペットボトルのコーラを片手にスナック菓子をボリボリ食べていた。


牧瀬悠人「ところで堀坂先輩、今日になって僕たちの推理には一つ間違いがあったことがわかりました。あの風間祐一さんはとんでもないことをしていたのです」

堀坂向汰「ということは牧瀬君は風間祐一が仕掛けたものを見つけたんだね。どこに仕掛けていたのかわからなかったけど、今日ということは昼間だから例の老朽化した階段の上あたりかな」

牧瀬悠人「どうしてわかったのですか?」

堀坂向汰「そのことは既に推理できていたからだよ。今回は合同で調査して推理したから牧瀬君が気づかなかったのは当然なんだけど、これも人を心を見抜く力だよ」

牧瀬悠人「僕はまたその部分で推理を見逃してしまっていたのですね。もっと勉強します!」

琴宮梓颯「また二人で話をして!どういうことか教えなさいよ!!」

如月瑠衣「わたくしも何のことかさっぱりですわ」


牧瀬悠人が「僕から説明しましょうか?」というと堀坂向汰は「ありがとう。でも、これは俺の方から説明する」と言った。


堀坂向汰「もともと風間祐一は使用禁止の老朽化された階段を使って体育館経由で教室に戻ったという推理をしたけど、実は後で俺がその階段のドアを調べに行ったら、鍵がかかっていたのと錆ついてとても開けられないことがわかったんだよ。つまり体育館の様子を見るのは不可能だってわかった。そこで推理し直してみると『風間祐一が想いをよせる女子生徒は現在2年生のバスケットボール部員』だってこと。そこでピンときたのが、どこかに小型の隠しカメラを設置しているんじゃないかって推理できた。そして今日の昼間、牧瀬君が老朽化した階段からその隠しカメラ見つ出したおかげで俺の推理は正しかったと証明されたよ。老朽化した階段は誰も使っていないから隠しカメラを設置するにはちょうどいい場所だしね。あとは、風間祐一が好意を抱く2年生のバスケットボール部員だけど、まだストーカー被害にあってるようには思えないけど今のうちに対策しておかないとまずいかもね」


堀坂向汰の推理を聞いたメンバー全員は唖然としていた。


白石由希「あの風間君がその女子生徒にストーカー行為をしてるの?」

堀坂向汰「今はまだ軽いストーカー行為だと思いますが、間違いないと思いますよ。最近はパソコンに興味を持ってハッキングまがいのことをしたことも考えると、パソコンに興味を持った本来の目的はストーカー行為だったと思います」

琴宮梓颯「そういうことだったのね。なんだか頭がスッキリしたわ」

如月瑠衣「しかし、老朽化した階段にカメラを仕掛けたのは何故でしょう?隠し撮りするのであれば更衣室などが一般的ではありませんの?」

堀坂向汰「あははは・・・如月さんもエッチなこと知ってるんだね。ただ、風間祐一は部活動が終わる時間、つまり下校する時間を詳しく知りたかっただけで、更衣室なんかに仕掛けるだけの根性なんてなかったんだよ」

琴宮梓颯「なるほど。その女子生徒の学園生活における行動時間を調べていたのね」

堀坂向汰「行動時間がわかるだけで1日のライフスタイルがわかるからね。風間祐一の目的は出会いじゃなかったのかな。おそらくその女子生徒と交友関係はないと思うから偶然を装って出会いを作ることによって運命を感じさせるといたところだと思う」

牧瀬悠人「別れさせ屋や結婚詐欺師がよく使う手ですね」

琴宮梓颯「それでこの件に関してはどうするつもりなの?」

牧瀬悠人「一応、隠しカメラはそのままにしておきましたが、しばらく泳がせておくのがいいかと思います」

堀坂向汰「牧瀬君の言う通り、しばらく泳がせておけばいい。最後の調査をして、全てを一気に解決させるつもりだよ」

白石由希「もしそうだとしたら卒業式まであと数ヵ月しかないから、風間君も焦っているんじゃないかな?」


そこで裏クラブのメンバー全員で話し合いが行われて、琴宮梓颯は風間祐一が好意を抱いている女子生徒の調査、如月瑠衣は隠しカメラのハッキングと風間祐一のスマホ調査、白石由希は風間祐一の噂の出所調査、牧瀬悠人は風間祐一とその女子生徒の行動調査とそれぞれの役割が決まった。

風間祐一はまだ植野文雄先生を陥れようと企んでいるのか。それらを一気に解決させようとしている堀坂向汰の考えとは何であろうか!?



■ もう一つの問題会議


次の日の朝、ホームルームが始まる前に白石由希は3年7組の教室へ行っていた。2年生の頃に同じクラスで結構仲良くしていた秋山一葉というセミロングヘアーに少しキュートな丸顔でタレ目気味のほっそりした体型の女子生徒と話していた。


白石由希「一葉ちゃん、変な事聞くけど風間君が2年生の女子バスケ部員の誰かのことが好きだって噂は知ってる?」

秋山一葉「もちろん。だってこのクラスじゃ有名になってるもん」

白石由希「その噂って本当なの?」

秋山一葉「あたしにはよくわからないけど本当なんじゃない。風間の生徒手帳にその子の写真が入ってたのを見たって人がいたから・・・」

白石由希「そうなんだ。でも、その写真の子が2年生だってどうしてわかったの?」

秋山一葉「えっとね、これはただ聞こえてきたからハッキリ言えないんだけど、その子は女子バスケ部の中でかなりモテるみたいなこと言ってたよ」

白石由希「へえーそんなモテる子がいるんだね」

秋山一葉「それでも琴宮さんほどではないじゃない。それにしても由希は風間君に興味でもあるの?」

白石由希「別に興味があるわけじゃないんだけど、その噂がうちのクラスにまで広がってきてたから気になっただけだよ」

秋山一葉「由希のクラスにまで広がってるんだ。それより由希、麻雀ばかりして寝てないんじゃないの?」

白石由希「最近はメンバーがいないからそこまでしてないよ。ゲームでちょっとしてるくらいかな」

秋山一葉「そっかあ。まあ、あたしも推薦が決まってのんびりしてるけどね」


その後、二人は適当な話をし続けていた。


一方、如月瑠衣は隠しカメラが設置している老朽化した階段へ行き、そのカメラをスマホで撮影して製品番号のメモをしていた。そして、あらかじめ調べておいた風間祐一のスマホと同じ機種を持っている1年3組の女子生徒を割り出していたので「スマホの機能を見せてほしい」という理由でスマホを1時間(1限目)だけ預かった。そして1限目が終わってすぐに1年3組の教室へ行き「ありがとう」と言ってスマホを返した。


1限目の授業が終了して休み時間になると琴宮梓颯にメールが届いた。送信元は白石由希で内容は「女子バスケ部の中でかなりモテる人」とだけメッセージが書かれていた。琴宮梓颯はポケットの中から2年生のバスケットボール部員の表を出して当てはまる人物を割り出していた。2年生の部員は11人でそのうち8名は琴宮梓颯の知っている人物でほとんどが交際している男子生徒がいる。残り3人のうち2人は2年3組、つまり堀坂向汰と同じクラスであった。琴宮梓颯は「向汰君はリアル女子に興味がないからね」と呟いた。あとの1人は2年4組の女子生徒だが、クラス内唯一のバスケ部でモテる女子であれば何かしらの噂になるはずなので、次の休み時間は2年3組に行くことに決めた。もちろん堀坂向汰の日常を知りたいという理由も少しあってのことであった。


次の休み時間になり2年3組の教室では西村真一が堀坂向汰の席の前に立っていた。


西村真一「なあ堀坂、せっかくイブに優奈が友達連れてくんのにさ、マジこねえのかよ?」

堀坂向汰「僕は女子に興味がないし、イブはイベントがあるから行けないんだよ」

西村真一「そんなこと言ってると一生彼女なんてできねえぞ!」

堀坂向汰「彼女なんて出来たら僕がやりたい事できなくなるから今はいいんだよ」


そんな二人の話を聞いていた女子生徒達がヒソヒソと「彼女よりやりたいことって想像しただけでキモイ」、「キモオタに彼女なんて出来るわけないのにね」などと話しているのが聞こえてきた。その瞬間、廊下から走って教室へ入ってきた女子生徒がいて、クラス中の生徒が何やら騒ぎ出した。その入ってきた女子生徒こそ琴宮梓颯であった。


西村真一「堀坂、学園アイドルが走って入ってきたぞ!」

堀坂向汰「あれって生徒会長の琴宮さんだよね!?何しに来たんだろう?」

西村真一「さあ・・・うちのクラスで問題でも起こったのか?」

堀坂向汰「なんか急いでるみたいだね」


琴宮梓颯は座席表を目にしてスタスタと堀坂向汰のほうへ歩いて行った。すると周りの女子生徒達は「学園アイドルがキモオタに用事?」、「もしかして、キモオタなんかしたんじゃない?」などと小声で話していた。そして琴宮梓颯は堀坂向汰の席の前まで行くと西村真一のほうを見て「あなた西村君よね?わたしのこと覚えてる?」と聞いた。西村真一は即座に「もちろん覚えてますよ。琴宮さんのおかげで俺・・・」と答えた瞬間に琴宮梓颯は腕を掴んで「ちょっとこっちに来てもらえる」といって西村真一を廊下の外まで引っ張り出した。堀坂向汰は「このクラスの女子だったのか」と小声で呟いた。


西村真一「琴宮さん、何でしょうか?」

琴宮梓颯「正直に答えてほしいのだけど、3組のクラス内で一番好みか一番モテる女子は誰?」

西村真一「あの、俺にはもう彼女がいるので答えにくいのですが2人います」

琴宮梓颯「その2人の名前を教えてもらえる?泉原さんに言ったりしないから安心して!」

西村真一「えっと1人は館林奈々という自分好みのタイプで、もう1人は宮下苗子というバスケ部員です」

琴宮梓颯「その宮下苗子という女子は西村君のタイプなの?」

西村真一「いえ、一番モテる女子が宮下なわけでして・・・」

琴宮梓颯「わかったわ。バタバタと無理に引っ張ってきてごめんなさいね。では失礼するわね」


そう言って琴宮梓颯は去っていった。西村真一は教室に入って堀坂向汰の席の前に立つと「突然、びっくりしたぜ。しかも変な事聞かれたし・・・」と言った。


堀坂向汰「何を聞かれたの?」

西村真一「なんか、うちのクラス内で一番好みか一番モテる女子は誰?って聞かれたんだけど優奈のことだったらやべぇよ」

堀坂向汰「違うんじゃないかな。琴宮さん、教室に入ってすぐ座席表を見てたから何か生徒会で調べてるんじゃない?」

西村真一「それだったらいいけどよ、突然のことでパニックになったぜ」


そんな話をしてると担任の水瀬先生が教室に入ってきて「はーい、みなさん席についてください」と大きな声で言った。


放課後になって、再び裏クラブのメンバーが生徒会室に集まっていた。もちろん生徒会室には鍵がかけられて密会する状態になっていた。


如月瑠衣「スマホハッキングに成功しましたわ。想像以上の画像数でした。これは全て隠し撮りでピンぼけしているものばかりですね」


如月瑠衣がフルスクリーンで女子生徒の画像を表示してメンバー全員に見せた。


琴宮梓颯「この女子生徒は2年3組の宮下苗子さんよね?」

堀坂向汰「間違いなく宮下苗子だよ。まさかうちのクラスの女子だったとは予想外だったけどね」

琴宮梓颯「向汰君、宮下さんのことは知っていたでしょ?」

堀坂向汰「クラスでモテる女子生徒だから存在は知ってたけど、話したことはないよ」

牧瀬悠人「1日だけの行動調査でしたが、どうにも風間祐一さんはこの宮下苗子さんを狙っていますね。ずっと行動を監視しているようでした」

如月瑠衣「ストーカー被害であれば琴宮会長の時と同じように警察に通報したほうがよくはありません?」

堀坂向汰「まだ何の被害も出てないし、宮下苗子本人も自分がストーカーされてるなんて気づいてないから、警察は相手にしてくれないよ」

如月瑠衣「ではどのようにいたしますの?」

堀坂向汰「牧瀬君、例の写真は撮影できた?」

牧瀬悠人「ええ、証明できる写真をバッチリ5枚ほど撮影しておきました」


そこで堀坂向汰はスナック菓子とペットボトルをテーブルの上に置いて立ち上がった。


堀坂向汰「これから何をするかを説明するよ。まず、如月さんには契約書を作成してもらう。契約の内容はこの生徒会室内で見たり聞いたりしたことは他言しないということ。契約に違反したら全ての内容を警察および学園の先生に報告するという条件でね。梓颯は宮下苗子に事情を説明して俺たちの言う通りに動いてほしいと説得してほしい。牧瀬君は風間祐一の動きをみながら推理して引き続き如月さんのボディーガードをお願いしたい。あと、白石先輩が風間祐一に好意を持ってるという噂を流すので、白石先輩にとって厄介ではありますが、あくまでその噂を否定し続けて対応していただきたいです」


琴宮梓颯「宮下さんを言う通りに動かすように説得するということは、裏クラブのことを打ち明けるつもりなの?」

堀坂向汰「いや、裏クラブや影郎アカウントのことは打ち明けなくてもいいよ。ただ、裏で生徒会が探偵まがいのことをしていることや、俺と梓颯の関係や本性は明かさないといけないから契約書を交わしてもらう」

琴宮梓颯「本質的な活動のことは隠しておくのね」

堀坂向汰「如月さんが契約書を作成して印刷したら、梓颯は早急に放送室に行って宮下苗子を生徒会室に呼び出してほしい。この時間だとまだ部活していると思うし、1分1秒を争うほど危険は迫ってるからね」


その時、如月瑠衣が「契約書のほうは簡単に作成できました。生徒会側用と宮下さん用の2枚を印刷しておきました」と言った。そして琴宮梓颯は立ち上がって生徒会室から出て行った。



■ 事件解決とその後


夕方4時30分を過ぎた頃に突然、学園内の放送音が聞こえた。そして琴宮梓颯の声で「女子バスケットボール部員、2年3組の宮下苗子さん、至急、生徒会室まで来てください。繰り返します・・・」という内容で流れた。

その後、急いで生徒会室に戻ってきた琴宮梓颯は少し息を切らしながら「それにしても、向汰君はいいの?」と言った。


堀坂向汰「いいって何が?」

琴宮梓颯「向汰君の本性が同じクラスの女子にバレてしまうのよ」

堀坂向汰「そのための契約書なんだし、宮下苗子なら口も堅そうだし問題ないよ。それに今回は彼女を守るために行うことだから、ペラペラと人に話さないと思う」

琴宮梓颯「だったらいいんだけど、同じクラスの女子でモテるというのが・・・」


琴宮梓颯は少し顔を赤くしていた。


如月瑠衣「琴宮会長、もしかして少し心配、いえ、嫉妬してますの?」

琴宮梓颯「ち、違うわよ。ただ、同級生でわたし以外の人が向汰君の本性を知ってしまうというのが少し複雑なだけよ」

堀坂向汰「梓颯、いつかはみんなにバレてしまうかもしれないことだし、俺は梓颯にしか興味がないから、なんというか・・・」

如月瑠衣「お二人ともそのようなお話をこのような場所でしないでいただけます?」

堀坂向汰「ごめんごめん、そうだね。如月さんも旦那さんと二人きりのときじゃないとこんな話しないだろうしね・・・うふふ」

如月瑠衣「旦那さんって・・・あのですね・・・」


そういう話をしていると「トントン」と生徒会室のドアをノックする音が聞こえた。如月瑠衣は「はい、どうぞ」とドアのほうへ歩いていくとドアが開いた。すると水色で真ん中に7番と大きく書かれたタンクトップに短パンのユニフォームに、黒髪のミディアムヘアに少し大きな二重瞼で少し団子鼻でアヒル口をした小さい卵型をした顔で、身長はバスケットボールをしている割には160cmほどのグラマーな体型をした宮下苗子が立っていた。宮下苗子はどちらかといえば美人系というよりキュートで可愛らしい。如月瑠衣は「どうぞお待ちしておりました」と言うと、ソファーに座っていた堀坂向汰は生徒会長横のパイプ椅子に移動した。宮下苗子が生徒会室に入ると如月瑠衣は生徒会室のドアを閉めて鍵をかけた。


琴宮梓颯「宮下苗子さんよね?突然、呼び出したりしてごめんなさい」

宮下苗子「いえいえ。ただ部活中なのですぐに戻らないといけないのですが何か御用でしょうか?」

琴宮梓颯「宮下さん、緊急事態なので今日の部活動はこれで早退していただきたいの」

宮下苗子「緊急事態ですか!?それでは、顧問の先生に伝えてきますので待っていてください」

琴宮梓颯「その必要はないわ。既にわたしのほうからバスケ部の顧問の先生に伝えておいたので大丈夫よ。それよりわたしのことは知ってるかしら?」

宮下苗子「琴宮梓颯生徒会長ということは知っています。学園のアイドル的存在でも有名ですから」

琴宮梓颯「この生徒会室内で他に知ってる人はいるかしら?」


そう聞かれて宮下苗子は生徒会室を見回した。すると「あっ」と思わず声をあげた。


宮下苗子「そこの椅子に座ってるのは堀坂じゃない?」

堀坂向汰「あっ、はい。どうも・・・」

宮下苗子「堀坂、こんなところで何やってんの?何か学校にヤバいものでも持ってきて見つかったの?」

琴宮梓颯「宮下さん、緊急事態のこともですが、人は見かけによらないということも今からわかるわ」

宮下苗子「人は見かけによらない?」

琴宮梓颯「まずは宮下さんに危険が迫っているの。わたしたちがその問題を解決したいと思っているんだけど、その前に、契約書にサインをしてもらえる?」

宮下苗子「サインですか?どのような契約書ですか?」

琴宮梓颯「ここで見たこと聞いたことは他言しないという契約書よ。如月さん渡してあげて!」


如月瑠衣は契約書の1枚を宮下苗子に渡した。契約書の内容は琴宮梓颯が言った通りの内容だったが、一番下の行に『堀坂向汰の本性も他言しないこと』と記載してあった。契約書の内容は特に問題がなかったので宮下苗子はサインをした。如月瑠衣がもう1枚の契約書を出して「こちらも同じ内容の契約書ですが、サインをお願いします」と言ったのでサインをした。


琴宮梓颯「これで契約は成立したわね。1枚は宮下さんにお渡ししておくわ。もう1枚は生徒会側が保管しておくわね。さて、ここからは向汰君にお任せするわ」

宮下苗子「向汰君!?」


すると堀坂向汰はパイプ椅子から立ち上がってソファーに腰掛けた。そして如月瑠衣が「宮下さんもそちらのソファーに座ってください」と言った。宮下苗子は向かって右側のソファーに座った。そして右斜め奥のソファーに堀坂向汰が「ふぅ、疲れた」といってカバンの中からペットボトルのコーラーを取り出した。


堀坂向汰「梓颯、この件のことは単刀直入に話してもいいんだね?」

宮下苗子「梓颯って、どうして呼び捨て?」

琴宮梓颯「もちろん構わないわ。ただ、あまり怖がらせたりしないように注意してね」

堀坂向汰「単刀直入に言うけど、宮下さんはストーカー被害を受けているんだよ」

宮下苗子「ストーカー被害!!?堀坂、どういうことなの?」

堀坂向汰「今はまだ隠し撮り程度だけど、相手は隠しカメラを設置して宮下さんの行動を監視してるくらいだから、このままだとエスカレートする可能性がある」

宮下苗子「ちょっと待って!隠し撮りとか監視とかわたしがそんなことされてるって何か根拠でもあるの?」

堀坂向汰「牧瀬君、例の写真を見せてあげて!」


牧瀬悠人はスマホをポケットから取り出して風間祐一が隠し撮りをしているシーンの写真を開いた。


堀坂向汰「顔はハッキリしないけど、この男子生徒がストーカー行為をしている。これらは全て宮下さんを隠し撮りしている所を撮影した写真だよ」

宮下苗子「うわー本当だ!マジ怖いしキモイ!!!この男子生徒って誰なの?」

堀坂向汰「残念だけど、生徒会としてはその男子生徒のことは教えることはできない」

宮下苗子「だったら先生に相談する。わたしの知らないところでこんなことされていたなんて考えただけで怖くてたまらない」

堀坂向汰「契約書にも書いてあったけど、他言しないでほしい。それにまだ何の被害も受けてないから先生に話したとしても相手にされないよ」

宮下苗子「だったら堀坂がどうにかしてくれるの?でも、あなたみたいにキモオタなんて言われてる人には無理よね?」

堀坂向汰「まあ、そう熱くならないでほしい。宮下さんのことは俺やここにいる裏生徒会が何とかするつもりだよ」

宮下苗子「堀坂、教室に居るときと全然感じが違うんだけど気のせい?」

琴宮梓颯「宮下さん、気のせいなんかじゃないわ。向汰君は表面上、根暗でキモオタだけど本性は頭脳明晰推理力抜群の秀才なの」

宮下苗子「秀才って・・・だったら教室ではいつも仮面をかぶっているの?」

琴宮梓颯「半分仮面をかぶっているといったほうが正しいわね。それに向汰君はわたしの彼氏でもあるのよ」

宮下苗子「ええええええ!!!!!学園のアイドルといわれている琴宮さんの彼氏が堀坂ってマジ信じられない!!!!!!」

琴宮梓颯「宮下さん、そのことも他言無用でお願いね」

宮下苗子「ストーカーのことなんて忘れるくらい驚かされた~!!」


堀坂向汰は鋭い目をしながら「まあ、驚くのも無理はないけど本題に戻るね」と言った。宮下苗子は唖然とした表情をしながら堀坂向汰を見つめていた。


堀坂向汰「今回のストーカー被害はすぐに解決できるんだけど、宮下さんには彼氏を作ってもらう」

宮下苗子「わたし、バスケに夢中だから彼氏なんて今は作る気がないんだけど」

堀坂向汰「本当に作れと言ってるわけじゃない。架空の彼氏をここにいる副会長の如月さんに作ってもらう。そして宮下さんには彼氏がいるとこちら側から噂を流す。架空の彼氏であることやストーカー被害を受けてることは、本当に信頼できる友達だけには教えてもいいよ。あとは裏生徒会側がこのストーカー行為をしている男子生徒の心を宮下さんから離していくよう、既に仕向けている。宮下さんは架空の彼氏の名前と設定を覚えてもらって最終的にはこちら側がトドメを刺すので心配しなくてもいい」

宮下苗子「わたしは架空の彼氏の名前や設定を覚えるだけでいいのね」

堀坂向汰「如月さん、架空彼氏の作成や設定はお任せしていいかな?」

如月瑠衣「はい。空手有段者で大学生のイケメン彼氏という設定にしますわ。合成写真も今夜中に作成しておきます」

堀坂向汰「しばらくの間、生徒手帳にでも架空彼氏の写真を入れておくといいよ。ストーカー行為をしている男子生徒は根性がないから、しばらく下手なことはしてこないと思う」

宮下苗子「どうして根性がないってわかるの?」

堀坂向汰「隠し撮りをしている場所は全て学園内で、監視カメラを設置したのも学園内。根性があるなら宮下さんの自宅まで後を付けたり、自宅に盗聴器を仕掛けたり、隠し撮りも学園の外でするはず。学園の外で何かやらかしたら警察沙汰になるからね。まだそこまで勇気がないのか、エスカレートしていないと考えられるってことだよ」

宮下苗子「なるほど。そんな細かいところまで注目してそう判断できるわけか・・・たしかに鋭い!堀坂、どうして教室の中で本性を出さないの?」

堀坂向汰「俺にもいろいろあるんだよ。俺の本性のことも他言しないでね」

宮下苗子「そっか。人にはいろいろ事情があるからこれ以上は聞かないけど、わたしにはもう堀坂がキモオタには見えなくなってしまった」


それから数日が経ち、白石由希は毎日のように3年7組の教室へ行き秋山一葉と話をしていた。もちろん風間祐一に好意を抱いているという噂も広がっていた。白石由希が風間祐一のことをどう思っているか女子生徒達に聞かれると決まって「興味はあるんだけど、話したことないからわからないし、まだ好きという感情はない」と答えていた。その噂は当然のごとく風間祐一本人の耳にも入っており、いつも自分の教室へ来る白石由希のことが気になりはじめた。

一方、宮下苗子には3歳年上の大学生の彼氏ができたという噂も広がっていた。生徒手帳の中には如月瑠衣が合成した架空彼氏の写真を入れていて、女子生徒達からどんな彼氏か聞かれると決まって「わたしの彼氏は空手5段で怒らせると怖いって言われてるけど、本当はものすごく優しくて、結構イケメンなんだ」と答えていた。ただし、特に仲良くしている友達2人には架空彼氏であることやストーカー被害にあっていたことを伝えていた。


ちなみにこれらの噂は如月瑠衣が学園のSNSで拡散させたのだ。今回も如月瑠衣の仕事は多かったがまだトドメを刺す仕事が残っていた。まず、如月瑠衣は老朽化した階段に設置してあった隠しカメラを内部から破壊して使い物にならなくした。


琴宮梓颯はパソコンから影郎アカウントにログインして、風間祐一のアカウントへダイレクトメッセージを送った。送ったメッセージは次のような内容であった。


『風間祐一さん、影郎です。あなたの問題は解決させました。しかし、あなた自身も犯罪行為を侵していたことは確認済みです。隠しカメラの設置や女子生徒の隠し撮りなどは完全なストーカー行為です。もし、このことが公になれば退学処分となるでしょう。今後、ストーカー行為をせず、国語の問題用紙の盗難事件のことも全て無かったことにするのであれば、今回はこちらも目をつぶります。卒業まであとわずかですので余計なことはしないよう警告しておきます』


それから数日後、いよいよ冬休みが始まる直前に生徒会室に裏クラブのメンバーが集まっていた。


琴宮梓颯「そろそろ冬休みね。3学期から再び生徒会長選挙が始まるわ」

如月瑠衣「琴宮会長は次回も立候補されるのでしょうか?」

琴宮梓颯「そうね。わたしがいなくなったら裏クラブは解散になっちゃうでしょ?」

如月瑠衣「それもそうですね」

琴宮梓颯「もちろん副会長候補は如月さんにするつもりだけど、如月さんも立候補してほしいの」

如月瑠衣「わたくしが生徒会長に立候補ですか?琴宮会長、当選する自信がありませんの?」

琴宮梓颯「もしものためよ。裏クラブはわたしが卒業するまで続けたいの」

如月瑠衣「なるほど。それではわたくしは副会長候補に琴宮会長を指名すればいいのですね」


そんな話をしていると白石由希が生徒会室に入ってきて「冬休みはずーっと麻雀三昧!!」と言いながらニコニコしていた。その後ろから堀坂向汰と牧瀬悠人が何か紙を見ながら生徒会室に入ってきた。


牧瀬悠人「堀坂先輩、この暗号の答えがわかりましたよ!」

堀坂向汰「おぉー!俺はこういうトンチの問題はどうも苦手でね」

琴宮梓颯「また二人で暗号ゲームしてる!それより裏クラブの密会パーティーについての話をするわよ」

堀坂向汰「それより梓颯、あの一件以来、やたらと宮下さんから相談事の手紙が来るんだけど対応しきれないんだよ」

琴宮梓颯「向汰君、それは自業自得よ」


今回の事件の裏にはさらに事件があったのでさすがに裏クラブのメンバーも最後は疲れ切っていたようであった。その後は本当に何事もなかったかのように平和な日常生活に戻った。


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