5話 ひつじはレベルアップした
「ルイ、エアロハウンド」
ルイの咆哮が土で固められた盾を持ったゴブリンを襲い、吹き飛ばす。
ここのゴブリンはそれぞれが役割を明確に持っていてパーティのような連携を取っている。
「よいしょーーー」
ほのかの従魔のルイがタンク役を排除したのを見てアマンダが剣を持ったゴブリンに斧を振り下ろす。
ゴブリンも剣で反撃をするが頭を二つに割られて崩れ落ちた。
「アマンダ大丈夫、腕に傷が……」
「ほんとだちょっと掠めてたか」
傷口にロゼルが手をかざすと回復していく。
アマンダは稀に見る自らが前に出るタイプのテイマーだった。
ロゼルはヒーラーとしてアマンダの後ろで控えているが、戦闘中にアマンダが危ないとオロオロして、ゴブリンを倒すと喜んでと一喜一憂していた。
弓を持ったゴブリンが木の矢を放ってくる。
「ぽむ、やってくれ」
「メェメェ(燃えろ、プチファイヤ)」
炎の玉は飛んでくる木の矢を燃やして、そのままゴブリンに直撃する。
「ありがとう、ぽむ」
(しかし、魔法の発動速度が遅くなっているけど、威力は高くなっている。何故だろうか? ステータスを確認しても同じプチファイヤなんだけどな)
魔法はステータスでも威力が上下するが術者のイメージ力でも威力が変わる。
詠唱なしでも発動はするが詠唱をしてその魔法のイメージを明確にできるのなら詠唱した方が威力が高くなる。
よって、詠唱は術者によって千差万別なのだ。
ぽむも詠唱を加えることで威力アップに成功していたのだが、ノアには「メェメェ」としか聞こえないので詠唱しているかの判断はつかない。
一通りのゴブリンを倒し終えて、それぞれレベルアップしたステータスを確認する。
「おっ、レベルが上がって新しい魔法を覚えたな」
ぽむのステータスにファイヤボールが追加されていた。
ファイヤボールは初歩的な魔法の一つでプチファイヤの威力が上がったものだ。
そしてノアも従魔強化という新たなスキルを覚えた。
従魔強化は名前の通りで従魔を強化するテイマーの基本スキル。
状況に応じて一つのステータスを選択して発動できる。
テイマーになった瞬間から覚えていたテイミングと合わせると二つ目のスキルとなる。
テイマーの本来の姿はフィールドにいるモンスターをテイミングすることにある。
しかし、ノアはガチャチケットでぽむと出会ったのでテイミングを使う機会がなかった。
さらに今のレベルでは一体までしか従魔にできないので当分は日の目を見ることがないであろうスキルでもある。
「ノア、どうする?」
「新しいスキルと魔法を少しだけ試したいんだけどいいかな」
「私も試したいな、ほのかは?」
「私も大丈夫だよ」
「ぽむ、ファイヤボールだ」
ノアはまず、ぽむに普通にファイヤボールを放ってもらう。
「メェメェメェ(燃えてはじけろ、ファイヤボール)」
ゴブリンの顔にファイヤボールが当たり炎が広がる。
プチファイヤだと炎の範囲が顔から首あたりだったが、ファイヤボールはゴブリンの全身を余裕で包んでいる。
「プチファイヤに比べるとかなり威力が上がった代わりに発動がほんの少し遅くなったか。それでも断然こっちの方がいいな」
威力に関してはプチファイヤの倍以上でMP消費は丁度2倍。
発動の遅さは「メェ」一個分と純粋な強化といっていい結果だった。
二つの魔法を無詠唱で発動しても威力は2倍以上の差が出る。
ではプチファイヤの詠唱を長くすれば威力が上がると思うかもしれないが、これは逆効果で合っていないイメージの詠唱では威力が弱くなる。
イメージと言語化は魔法使いの優劣をつける際のステータスにはない要素なのだ。
ノアはぽむに新たなスキルをかける。
「従魔強化INT」
五つある選択肢の中で選んだのはINTだ。
STRはストレングスの略で物理的な攻撃力に影響を与える。
VITはバイタリティの略で防御力に影響を与える。
INTはインテリジェンスの略で魔法に影響を与える。
DEXはデクステリティの略で器用さ、命中率に影響を与える。
AGIはアジリティの略で回避率、素早さに影響を与える。
ぽむは魔法使いなのでINTを強化すれば魔法の威力も精度も上昇する。
強化されたファイヤボールは確かに先程よりも威力が上がっているが、ここにいるゴブリンでは結局一撃で屠れるためあまり参考にはならなかった。
「ぽむのMPも切れたし魔法の威力も見れたから俺はいつでも大丈夫だよ」
「オッケー、じゃあ街に戻ろうか」
帰りもぽむは大人気で満足気に手を振りながら街へと戻る。
それはぽむだけではなく、ルイもロゼルも顔を指して結構なプレイヤーが声をかけて来ていた。
唯一声をかけられないのがノアだ。
ほのかもアマンダも容姿が整っていてリアルでもモテている。
ほのかは可愛い系でアマンダは美人系で時々、変な男に絡まれそうになるがほのかの前にはルイが立ち塞がり威嚇する。
アマンダの前にはロゼルが立って睨みつける。
そして、そんな様子を見ていた周りのプレイヤーが大騒ぎしている。
どことなく孤独感を味わいながら歩みを進めるノアの足の裾をぽむは引っ張る。
「ぽむ、お前……」
「メェェ」
なんとなく良い雰囲気が流れてるような感じだがノアは気づいていた。
「わたがしが食べたいんだろ」
「メェ」
目を輝かせ力強く頷く。
「用事が済んだらだぞ」
ぽむの歩く速度が若干だけ速くなった。