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32話 鉱山都市の歴史

 白爪のデダルを取り囲む冒険者たち。

 両手両足を縛られて対面するのは冒険者ギルド支部長だ。

 街を囲うように侵攻していたオールはすでに穴の中へと帰っている。

 とはいっても、策略かもしれないので防衛に街の各所に冒険者が配置されている。


「モンスターが降伏なんておかしいだろ、何かの作戦だ」

「しかし、あの状態なら街が落とされる可能性が高かった。それを急に引く意味があんのか?」

「モンスターなんか信用できないぜ」

 冒険者たちが意見を交わす中、支部長は静かにデダルを見て思案する。

 デダルもまた大人しくしていた。


「メェ……」

 ぽむがノアのズボンの裾を引っ張る。

「くま……」

 こおりも反対側のズボンの裾を引っ張って何かをノアに訴えかける。

 2人は物悲しげな顔をしていて、ノアには何を考えてるのかが分かった。


「分かってるよ」

(たしかにさっきまで殺し合った敵同士だけど、一体のみで敵陣に身を寄せるのがどれほどの覚悟がいることなのか)

「モンスターだとしても、話し合えばわかる奴もいるよな」

 ノアは2人に笑みを見せる。

「メェェ!!」

「くまま!!」

 2人の表情が明るくなる。


「支部長、ちょっといいですか」

「えぇっと、君は……」

「テイマーのノアといいます」

「ノア君、何かね?」

「モンスターには凶暴なのも多いけど、話し合えば分かる奴だっていますよ」

 ノアはぽむとこおりを両手で抱いて支部長や冒険者に見せる。


「現にこいつらはすっごくいいやつです」

「メェェ」

「くまま」

 2人は少し照れ臭そうに頭を掻いた。


「そうだな……」

「おいおい、支部長まさかそんな若造の話を聞くんじゃないだろうな」

「そうだぜ、だいたいそいつは部外者だろうが」

 この部外者という言葉は街の市民ではないというものだけではない。

 そんな人間なら結構な数がいる。

 どちらかといえば来訪者(ビジター)だからと侮蔑的な言葉だった。


「やめないか、神により遣わされているのだぞ」

 一部の地域で来訪者(ビジター)は神が送った存在だと信じられている。


「たしかに俺が部外者だっていうのはもっともだ。でも……だからこそ客観的な意見が出せる。そもそもがオールとの共存はできないものなのか? 聞けば、オールが鉱山を取り戻そうとするのはそんなにおかしなことではない気もするんだが……」

 ノアがこの街にきて歴史をちょこちょこと聞いた限りでは、もともと住んでいたオールをさらなる地底に追いやったのは人間なのだ。

 鉱山が金になると分かるや否やそこにいたオールに攻撃を仕掛けて、鉱山を自分たちのものにしたのだ。


 それがあるからこそオールは人間を憎んでいる。

 特にモンスターというのは寿命が長く、かつて住んでいた場所を追いやられたオールも存在している。

 しかし、人間の寿命でそこまで長生きな存在はいない。

 すでに土地を奪った世代から何代にも渡り命を繋げてきた人間側はいつからか、その土地がもともと自分たちのものだと思うようになってしまった。

 だからこそ、オールたちを侵略者だと呼ぶ。


「これは痛いところをつかれたな」

 支部長はため息を一つついて、立ち上がった。

「信じてみようか」

 その言葉には重みがあった。

 冒険者ギルドの支部長になる人間がそこらの冒険者なわけがない。

 現役時代に活躍した歴戦の猛者なのだ。

 先程まで反対意見を出していた冒険者も静かになる。


「やることが山積みだな」

「まずは救援部隊と連絡を取らないとな」

 2回目の大爆発以降、救援部隊とは連絡が途絶えている。

「それに、デダル……といったかな、そちらの王との話もしなければいけないと思うんだが」

「許していただければ、すぐにでも連絡をとりにいきます」

 すでにデダルを縛っていた鎖は外されている。

「ではよろしく頼む。地竜の脅威も知りたいし、地上に出てくる可能性があるならば、討伐を検討に入れなければいけない」



§



「うぅ……」

「くそっ、ミイラ取りがミイラになっちまうぜ」

 救援部隊は2回目の大爆発による暴落に巻き込まれていた。

「おーい、そっちは大丈夫か?」

 救援対象からの安否確認に苦笑いをしながら答える。

「あぁ、何人かが負傷してるがとりあえずは大丈夫だ」

「しかし、ここでオールに襲われればひとたまりもないぞ」

 地底はオールにとってホームで、人間は地底での戦場に慣れていない。

 戦闘になれば一方的ななぶり殺されるのが目に見えている。


「くそっ、街に戻らないといけないってのに……」

 最も街に戻りたがっていた男の足は瓦礫に挟まれて悲惨なことになっている。

 ただ、魔法の存在するこの世界ならそこまで大したことはないのだが、瓦礫のせいで回復しても意味がない状況だった。

 かといって瓦礫をどかすには細かな計算をしないと、考えなしにどかせばさらなる崩落を招くことになる。


「俺はよ……街に女房を待たせてるんだ。もう少しでガキが生まれてくんだよ。こんなとこで死ねるかよ」

 全員がこいついいやがったという目で見る。

「なんだよ……んっ!?」

 男は外から土を削る音を聞き取る。


「おーい、ここだ!!」

「バカっ!! やめろ」

 周りの声も虚しく、土を削る音は大声を出した男に向けて一直線に近づいてきていた。


 ガラララ……


 掘られた穴から顔を出したのはオールだった。

 全員で戦闘態勢に入るが、爪は男に触れている。

 助けるには不可能な距離だと諦めるしかなかった。

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