31話 膠着
シャマラカで防衛戦が始まり数時間、お互いに遅延戦闘に入っていたため、被害はほとんど出ずに膠着状態が続いていた。
人間側は救援に向かった冒険者が戻ってくるのを待つために、オール側も一定時間が経てば王を先頭に一気に攻める構えだった。
そんな中で起きた大爆発に人間側は救援に向かった冒険者に何かあったのではないかと不安を煽る。
しかし、その一方でオール側にも困惑があった。
いつまで経っても援軍が来ないどころか、二発目の大爆発のことなど聞いていない。
王に何かあったのではと考える。
事態が一変したのは穴から援軍のオールが多数出てきてからだ。
「くそっ、ここに来て援軍が……」
「諦めるな、多少数が増えたところでここは一歩も通さない」
弱音を吐く冒険者にインハルトは強く宣言した。
「ぽむ!!」
「メェメェメェ、メェェ(黒き炎は灰すら残さぬ、黒炎」
「メェメェメェメェ、メェェェ(黒き炎は灰すら残さぬ、一切合切灰燼と帰せ、『深淵業火』)」
今回の戦闘で大量の経験値を得たノアたちはレベルアップをしていた。
ノアは総合レベルが25、ぽむはレベルが28、こおりは20となって戦闘力も上がっている。
イベントによる戦闘ならばそのイベントをクリアしないと経験値は入らないのだが、今回のは特にイベントというわけでもない一般的なモンスター討伐なので倒せばその都度経験値が入る。
特にぽむは範囲攻撃でオールにダメージを与えているので3人の中で最も成長している。
「ぽむ殿もなかなかやりますな」
インハルトに褒められてぽむはポーズをとる。
一体のオールが深淵業火を抜けて街へ侵入しようとしている。
「くまくま!!(喧嘩上等!!)」
こおりが新たに獲得したスキル喧嘩上等は自身の攻撃力、耐久力、敏捷力の三つを上昇させるバフ系のスキル。
素早くオールの懐に潜り込み見事なアッパーでオールをノックアウトすると、勝利のポーズとして拳を高々に上げる。
「ぽむもこおりもまだ終わってないんだぞ」
ノアは敵を目の前にポーズをとる2人に注意する。
「ふむ、こおり殿もなかなか……」
インハルトがぶつくさと呟いているが、ノアはそんなこと気にしない。
「くっ、あの黒炎がなかなか厄介だな」
ジグル精鋭部隊の一体のオールがぽむを睨みつけた。
援軍が来たと思ったら下級兵士ばかりで期待外れもいいとこだった。
「ジグル様、このままでは無駄に数を減らすだけになってしまいます」
「そうだねぇ、だいたいさぁ、どうしてこんなことしないといけないのかねぇ。人間と争っていいことなんかあんのかなぁ」
ジグルは根っからの面倒くさがりで人間と争うことに反対している。
人間と争うか否かの議論は六爪の将軍会議でも上がっている。
実は人間と争うのに否定的な声の方が多く、大人しく地下深くで暮らそうという話になっていた。
しかし、王が地上への侵攻を決定したのなら、それはそういうことだ。
地上へ侵攻しなければいけない理由があるのはオールも分かっている。
地底に住むのが難しくなり、住む場所が失われつつあるのだ。
最大の原因は地下に巣食う地竜のせいだ。
竜とは名ばかりのワームのようなモンスターに同胞がどれだけ喰われたことか。
それでも竜の力は凄まじく、竜と戦うぐらいなら人間と争った方がいいと王が決断した。
ジグルとしては、なぜそこで戦闘による地上侵攻なのだろうかと不思議に思う。
人間とは言葉も通じるのだから話し合い、助けて貰えばいいというのがジグルを含めた戦闘反対派の意見である。
ジグルはまだ六爪でも若い部類のためこれまでの人間との争いの歴史を知らないから簡単にそういう発想に至れるわけだ。
古参は逆にその歴史を知っていて、人間の恐ろしさを知っているから戦闘に反対している。
「あっ、あれは……」
オールの一体が穴の中から出てくる白爪のオールたちに気づく。
「やっときたかい、遅すぎるよぉ」
ジグルは爪が最も白いオールに話しかける。
彼女こそが六爪の一体、白爪のデダルだ。
「申し訳ないですが、侵略作戦は中止です。すぐに戻ってください」
「何があったんだい?」
よく見ればデダルの身体中が傷だらけになっている。
他のデダル配下の精鋭も傷ついている。
「巣の中層部で爆発が起こり、巣のいくつかが崩落しました。王は避難できましたし、被害はそこまで大きくはなかったのですが……」
「地竜かい?」
「その通りです。巣まで近づいてきていて、急を要する事態になっています。王を説得して人間との対話をすることを決定しました。ですので、人間に降伏宣言をして対話の機会を作ります。あなたは巣に戻ってください」
「あなたはどうするんだい?」
「私が人間に降伏宣言をしにいきます」
「殺されるよ。こっちから攻めといて急に助けてくださいなんて、虫がよすぎるだろうさ」
「それは当然です。ですが、一族絶滅の危機なのですよ」
覚悟を決めたデダルをジグルは見送るしかなかった。




