30話 シャマラカ防衛戦2
「よしっ!! いけるぞ」
ノアは十分に戦えると確信する。
ぽむの最大火力の深淵業火で複数のオールに大ダメージを与える。
こおりの攻撃スキル、アウトローブレイクも結構なダメージになる。
アウトローブレイクは攻撃力を若干上昇させて相手にかかっているバフ、デバフを無視してダメージを与えるというものだ。
スキル再発動まで時間はかかるが、通常攻撃でも十分だった。
そこから無心で戦い続ける。
精鋭部隊でないオールならばなんの問題にもならなかった。
それが通常の群れならば……
「くまくま」
「メェメェ」
こおりが魔力の切れたぽむが戦線を離脱できるように群がるオールをバットで殴る。
四方八方から迫る爪を華麗に避けて攻撃を通していくが、倒しても次から次へと穴から出てくる。
「うわぁ、逃げろ逃げろ」
「待ってくれよーー」
「防衛線を退げるんだ」
「南の防衛拠点が崩れそうです。ここもこれ以上退げれば街での戦闘になります」
圧倒的な数の暴力に冒険者たちの心が折れていく。
倒しても倒しても意味がないように湧いて出てくる。
死ぬことも気にせずにひたすらに特攻を続けるオールは喋ることもないし、恐怖を見せることもない。
ただただ上からの命令を遂行するのみなのだ。
意思が宿るのは一定以上の力を持つオールのみなので、弱いオールに意志はない。
「北に六爪が出てきたらしいぞ!!」
追い討ちをかけるように精鋭部隊が登場したとの報告が戦場に流れる。
「みっ、南もだ!!」
「西にも現れたらしい」
ノアは街の東側に位置している。
(六爪だもんな、そりゃあ数的にはそうだよな。一体が陽動、王の守りに一体で街に残る四体を投入か)
目の前から黄爪のジグルが歩いてくるのを確認した。
「東にも黄爪が現れた、応援を頼む」
ノアは冒険者ギルドに連絡をとって、応援を呼ぶ。
そして街の入り口である門の中に入って応援を待った。
ギルドとしても六爪が出てくるのは予想していた。
どの戦場にもできるだけ早く駆けつけれるようにシュレト、インハルト、ギーゼロッテ、エレノアが待機している。
相手によって得意であろうメンバーを選ぶのだ。
「はぁ、とっとと終わらせるよ」
ジグルがぶつくさと呟きながら爪に電気を流す。
ズン、ズン、ズン……
歩くたびに大地を歩く重い音が響く。
大きな鎧を纏ったインハルトが門の前に立つ。
「ここは私が守護する、何人も中には通さんぞ」
「そうかい、それじゃあ押し通させてもらおうかなぁ」
ジグルは勢いよく走って爪をインハルトに突き立てようとするが、大楯によって阻まれる。
そのままに爪から電気を走らせる。
電気が爪から大楯、大楯からインハルトへと流れた。
「何かしたかな?」
インハルトは何事もないように、ジグルに大剣を振り下ろした。
大剣が地面に深く突き刺さる。
攻撃を躱したジグルはオールたちにインハルトを避けて街に侵入するように命じる。
オールが街に入ろうとするところを回復した冒険者たちで侵入を拒む。
あくまでも時間稼ぎに徹して救援に出た冒険者を待つ構えである。
再び遠くの鉱山で大爆発した音が街まで届いた。
§
救援にきていた冒険者は生き埋めになっていた鉱夫たちを見つけていた。
ここからは急いで救援を終わらせて街まで戻らなければいけない。
かといって焦りは禁物なのである。
大爆発を起こしたオールの陽動部隊がここにいて、救援を邪魔しにくるはずだからだ。
細心の注意を払いながら警戒する。
それでも何も起こらない。
何が狙いなのか分からず一行は混乱していた。
「早く街に戻るべきだ!!」
「落ち着け、どんな罠があるのか分からないんだぞ」
「そうだ、奥には怪我人だっているんだ」
壁が崩れて鉱夫たちと冒険者の間には瓦礫が積み重なっていた。
「あんたらは街に家族がいないから落ち着いていられるんだろ。俺一人でも街に戻るぜ」
「ここでの戦力分散がいかに愚かな行為かは分かるだろ」
「いいや分かんないね」
「俺もついていくぜ」
強硬手段で救援をして街に戻ろうとする冒険者と罠がある可能性を考えてゆっくりと救援を行うという冒険者で対立することになっていた。
急ぐならば、崩れた道を魔法で吹き飛ばして、壁を固める方法を取ることになる。
しかし、それは明らかに危険な行為だ。
より崩壊がひどくなる可能性もあるし、その間は無防備に近くなってしまう。
そこを攻められたらひとたまりもない。
「とりあえずは調査隊の報告を待つんだ」
現在、大爆発付近を数人が調査している。
それと同時に索敵もしているので、それを待つべきだと男は主張した。
「さっきからずっとそんなことを言ってるが一体いつになれば調査が終わるんだ」
何度か調査隊と連絡をとってはいるが、もう少し時間がかかるとの報告しかこなかった。
「もういい……悪いが、俺は救援対象を放置して戻るぞ」
男の発言にそこにいた全員が驚く。
目の前にいる命を見捨てると言っているのだ。
しかし、その発言自体を責めるものはいなかった。
街が危機なのも事実だからだ。
「……」
言い争っていた男は説得を諦めて無言になる。
それを見てもう一人の男は背を向けて歩き出そうとした時だった。
ドゴォォォン。
足元から爆発音が聞こえ、鉱山全体が大きく揺れた。




