3話 ひつじはわたがしに夢中
お昼寝も終えてゴブリン狩りに戻る。
ゴブリンに近づいてぽむがプチファイヤを放つとノアはすぐにぽむを抱えて距離を取る。
個体差によっては倒れないゴブリンがいたが、そんな奴はぽむのMPが回復するのを待ってから2発目のプチファイヤで倒す。
逃げながらでは瞑想が使えず回復には時間がかかるがこれしかできることがないとノアは全力で走る。
五匹倒したところでクエストの討伐数に達して街に戻り、冒険者ギルドに報告しにいく。
他のクエストは約束の時間を考えると微妙だったので街の探索をすることに決めた。
「ではぽむ殿、いざしゅっぱーつ!!」
「メェェェェェ」
ノアとぽむは何故かゴブリン討伐よりも気合を入れて片手を天高く上げる。
街灯に火がともり、街ゆく人の数も朝に比べれば幾分と落ち着きを見せている。
それでも人は多く、ノアは何気なく避けていたつもりだったのだがぽむが歩くには難しかったようで、コテンと後ろで音が聞こえる。
振り向くとぽむが涙目で転んでいた。
「大丈夫か?」
「メェェ」
「ごめんごめん、おいで」
小走りで寄ってくるぽむを抱きかかえる。
「メェェ」
ぽむは満足げな表情で力強く抱きつく。
夕食には少し遅い時間、屋台がちらほらと営業をしているのを目にする。
一つの屋台を通り過ぎようとしたとき、ぽむの視線が一点に集中しているのに気づく。
「欲しいのか?」
「……メェ」
顔を横に振っているが、明らかに欲しそうにしている。
「すみません、一つ貰えますか?」
「ありがとうございます!! 従魔ですか、かわいいですね。おまけしときますよ」
「良かったなぽむ、こんなにおっきいぞ」
「メェェ」
ぽむは自分の体と同じ大きさのわたがしを持ってご満悦だ。
「遠慮せずに食べていいぞ」
(美味しいんだろうな。顔がとろけてる)
「メェェェェェェェェェ」
「メェ」
ぽむはノアにも食べさせようと、口元にわたがしをもってくる。
「ありがとう。甘くて美味しいな」
二人でわたがしを食べながら階段を登る。
結構な階段を登ったがさすがはゲームの世界。
ノアは疲れをあまり感じなかった。
「見てみろぽむ、凄いだろ!!」
わたがしに夢中なぽむはその景色を数秒見て、再びわたがしを口にする。
高台から見下ろす夜景はなんとも神秘的でノアは感動するがぽむは花より団子だったようだ。
近くで見ると生活感漂う家の明かりもこれだけ離れれば無数の星のようになって光り輝いている。
そして、帝都の中心にそびえ立つ城がファンタジーの世界を強調していた。
§
所定の時間になり俺たちは集まった。
集まったといっても画面越しの通話だが、お互いの顔は見えている。
そして今回の一番の議題はルキファナス・オンラインでのはじめての従魔をお互いに見せ合い自慢し合う。
それぞれが自分の従魔の写真や動画を撮って自慢する気満々だった。
「集まったようだね、早速だが俺からいこうか……」
「待って、ノアは一番最後にしとこう」
「そうだよ、きっとみんな凄いってなると思うし」
ノアが一番に発表しようとするのをほのかとアマンダが止めた。
「そんなに凄いのか……じゃあ俺からいくよ」
手を挙げたのはおどろおどろしいモンスターを好む『ぬらり』。
特に妖怪系統のモンスターが好きで初期スタート地点を東邦をテーマにした武国『東梁天』を選択していた。
送られてくる動画や画像には大柄でガッチリとした体躯の男を中心に青色の炎の玉が回っていた。
ぬらりが動けばその炎の玉はまるで生まれたてのアヒルのようにフワフワと宙に浮いて後ろをついていく。
手のひらサイズの炎の玉は『鬼火玉』という妖怪系モンスター。
東梁天の初期に出てくるモンスターなのだが、本来はオレンジ色をしている。
しかし、ぬらりの鬼火玉は青色なのでユニークモンスターの『鬼火魂』ということになる。
「ふふっ、結構粘ったからな。テイムできて良かったよ」
「僕もユニークをテイムしたよ」
エトムンはスライム系のモンスターを好んでいて、β版でもスライム系だけで従魔を統一していた。
唯一プレイヤー種族を獣人に選択したエトムンの初期スタート地点は獣人国『ルビラ』。
黒髪が頭の上で猫耳のように集まっていて、細長い尻尾が生えている。
エトムンのテイムしたユニークスライムは薄い水色のスライムだった。
そもそも、スライムといえば最弱モンスターとしてルキファナス・オンラインでも名前が上がるが進化の幅が広く無限の可能性を持っている。
現にβ版のエトムンの従魔のスライム達は多くのプレイヤーから恐れられていた。
普通のスライムよりも色の薄い水色のスライムは『スカイスライム』と呼ばれ何をしなくても死んでしまうという誰もテイムしたがらないような不人気スライムである。
エトムン以外の4人は不安な表情を浮かべる。
「大丈夫だよ、僕も何も考えなしでテイムしたわけじゃないさ」
その言葉で少し場が和む。
エトムンが言うのであればそういうことなのだろうという信頼があるからだ。
「じゃあ次は私がいくね」
アマンダの写真には毒牙にかけられた可哀想なモンスターの姿が写っていた。
前二人とは違いユニークではなく通常種のモンスター。
初心者用交換チケットではユニークモンスターなどは交換できない。
身長は150センチ程のつり目の幼い少年はむすっとした表情で写真を睨んでいる。
特徴といえば背中にある蝙蝠のような翼、細長く生えた尻尾の先が逆三角の形をしていること。
インキュバスはその手の熱烈なファンが付いている人気のあるモンスター。
戦闘面ではあまり活躍する機会はないが、そんなのはアマンダには全く関係ない。
よだれを垂らしているアマンダを呆れた目で見つめる4人。
いや、若干一名アマンダ寄りの人間が潜んでいる。
これがリアルならまず間違いなく捕まっているはずだが、アマンダが従魔に無理矢理、何か嫌なことをさせていると言うことはない。
そんなことをすれば従魔は契約破棄して逃げれるからだ。
髪型は銀髪のオールバックにされ、執事服をビシッと着せられて執事ごっこをさせられている。
しかし、割とノリノリでポーズを取っている写真などもあることから、このインキュバスはツンデレなのだ。
それに勘づいているほのかもインキュバスに熱い視線を送っていた。
「グフフフフ、まだお金や素材が足りなくて執事服が精一杯だったけどこれからもっと……グフフ、グフフフ」
涎を拭きながら何かを言っている狂人に男性陣はドン引きしながらも聞き流す。
「つっ、次は私だね」
ほのかは何とか熱い視線を切って自分の従魔の紹介に移った。
狼のような見た目をした犬。
緑色の美しい毛並みがさらさらと流れている。
ほのかの従魔である『クー・シー』はもふもふとかっこよさを兼ね備えている犬の妖精だった。
今はまだ小型犬程度の大きさだが、成長すれば人をゆうに超える大きさになって毛も伸びる。
そこに身を寄せてもふもふに包まれることができるのは全員が簡単に想像できた。
クー・シーのいいところは大きくなれば乗ることができる点だ。
もふもふ毛並みの乗り心地はさぞいいことだろう。
「ほのか、その子が大きくなったら乗せてね」
「うん、もちろんいいよ」
「アマンダ、卑怯だぞ俺も乗せてほしい」
ノアも追随すると残りの2人も続く。
「僕も乗せてほしいな」
「俺もだぞ」
ほのかの動画はクー・シーがフリスビーをするほのぼの動画だった。
それを見て全員が和み、時間がゆっくりと流れていく。
動画を十分に堪能してようやくノアの番がやってきた。