29話 シャマラカ防衛戦
「そんな大穴あるとはな……」
鉱山都市『シャマラカ』の冒険者ギルド支部長は難しい顔をして思案する。
体つきは細身ながらも鍛えられていて、一挙手投足に芯が通っていた。
支部長はオールと長年に渡り戦ってきている。
ギルドにいるメンバーにオールについての詳細を話す。
街の近くに穴があるということは守る範囲が広がったことになる。
他にも穴がある可能性を考えれば総力戦になる可能性があるため末端の冒険者にも情報を開示したのだ。
支部長の話によると王を頂点にしてその配下に六爪と呼ばれる6体のオールがいる。
赤爪のガザル、黄爪のジグル、青爪のババル、緑爪のゼジル、黒爪のゲビル、白爪のデダル、この6体が将軍として王に仕える軍隊のような組織が形成されている。
主に爪を使った攻撃が多く、爪を変形させたりして戦闘を行う。
中には魔法を使う個体も存在しているが、数は少ない。
鉱山都市『シャマラカ』とは長年の隣人にして最大の敵ともいえるのがオールだ。
話を聞いたノアを含めた冒険者たちは街の警護依頼を受けることになった。
プレイヤーの数は少なく、ほとんどが現地人と呼ばれるNPCなのは、この世界がゲームなのだと割り切っているか、割り切っていないかの差は大きい。
プレイヤーは現地人から来訪者と呼ばれる。
報酬がいいならまだしも、今回のクエストは面倒な上に報酬も少なかった。
大爆発のあった鉱山だが、最初は事故だと思われていたのだが、オールによる工作となると一気に危険度が増す。
しかし、ギルドの上位ランク冒険者が向かっていたし、オールに気をつけろとの連絡も入れることができたため概ね大丈夫だろうと思われている。
それよりも問題なのは街の警護であった。
上位ランクがノアを助けた4人しか残っておらず、しかもオールの話から大爆発のあった鉱山は囮で街の攻撃が本命ということで、厳しい戦いが予想されている。
救援に向かった冒険者たちが街に戻って来れるならいいのだが、その鉱山と街は少し距離がある。
さらに、簡単には街に帰さないようにオールが邪魔をするだろう。
「さっきはありがとうございました」
ノアは助けてくれた4人にお礼を述べる。
「いやぁ、間に合ってよかったよ」
4人パーティのリーダーを務めるシュレトは槍を扱う。
「ですな、ギーゼ殿のおかげです」
重装備のインハルトがいうギーゼ殿とは赤髪のギーゼロッテのことだ。
「ほらね、私の判断は正しかったんだから」
ギーゼロッテは満面の笑みを見せる。
「たまたまでしょ」
エレノアはやれやれとため息をつく。
4人が街に残っていた理由はぽむとこおりにあった。
ぽむとこおりは帝都だけでなく世界的に有名になっている。
シャマラカにノアたちが入ったのはすぐに噂となり、それを聞いたギーゼロッテがどうしても本物を見たいと駄々をこねて街に残ったのでノアを助けることができたのだった。
そんな話を聞いたノアはもちろんぽむとこおりのもふもふを堪能させてあげた。
ギーゼロッテは贅沢にもぽむとこおりを両手で抱き抱えて同時にもふもふを楽しむ。
最初は「私は大丈夫ですから」と冷静に断っていたエレノアももふもふの魅力の前ではそのクールな表情から笑顔が溢れる。
それが見られたのが恥ずかしかったのか、すぐにクールな表情に戻ったものの赤面していた。
シュレトとインハルトは手で撫でる程度だったがそれでもぽむとこおりの良さは伝わったようだ。
4人と別れたノアは警備へと向かう。
オールと戦えるかの不安はあるが、ノアが出会ったオールたちは六爪のうちの一体の黄爪のジグルとその部下の精鋭部隊だったらしく、他のオールはもっと弱いらしい。
それでも一抹の不安は拭えないがやるしかないと気合を入れる。
それが伝わってぽむとこおりの面持ちも真剣なものになる。
「出たぞー!!」
巡回していた冒険者の1人が声を上げる。
ノアたちはすぐにそこに向かうと複数のオールが侵攻するべく攻めてきていた。
そこからはまさに総力戦だった。
至る所からオールの目撃情報が入り、街を取り囲むように侵略してきていた。
冒険者たちに有利な点があるとすればオールは地底でこそ本領を発揮する。
しかし、シャマラカの地面は魔法によって強く固められていてオールでも掘り進めることはできない。
さらに結界も張っているため下からの攻撃は万全ともいえる。
そのためにオールはわざわざ地上に出てきて戦闘をするしかないのだ。
急に集まった冒険者たちにまともな連携を取ることなどできない。
お互いに何ができて、何ができないのかも分からないし、はじめましての人間ばかりなのだ。
最低限、外見からどんな職業なのかを当たりをつけて前衛と後衛に分かれるくらいしかない。
パーティを組んでいるところは各パーティだけで戦闘をするように冒険者ギルド支部長に言われている。
ノアとぽむとこおりもパーティなので他の冒険者とは少し離れた位置で戦闘の狼煙を上げようとしていた。




