23話 ひつじとしろくまの連携
「くまくま……」
トロールのとどめの一撃をなんとか躱して距離を取るものの、先ほどまでのような動きはもうできない。
ここからはじわじわとなぶり殺される。
否、作戦通りだ。
ゴブリントロールは実力的に格上の存在。
いくらこちらが3人でも単純にぶつかれば勝つことは難しい。
勝つためには作戦がいる。
そして罠を張らなければいけない。
地面はトロールが攻撃してあちらこちらが陥没してひび割れている。
こおりはリーゼントをちょんちょんと整えて挑発する。
トロールの最大火力は跳躍から両拳の振り下ろし。
自分よりも格下でボロボロの存在に挑発されて作戦通りの行動に移った。
それを見てこおりは地面をバットで思い切り叩いて、その場を離脱。
飛んできたトロールがそこに着地した瞬間に地面が大きく崩れてトロールの足が埋まる。
抜こうと必死になっているが踏ん張りの効かない態勢では簡単に抜け出せるものではない。
ぽむはそれを見て出来る限り小さく圧縮した深淵業火をこおり目掛けて放った。
そしてすぐに次の深淵業火の準備をする。
こおりは向かってくる業火をバットでトロールの方へ打ち返す。
「グガァ、グガァァァァ」
トロールは怒り狂ったように脱出を試みるが、その度により深くハマっていく。
こおりの打ち返した業火とぽむの放った二発目の業火がトロールに同時に着弾して大きな火柱を上げる。
黒き炎は螺旋を描いて高々と燃え盛る。
驚くべきはゴブリントロールの耐久力だろう。
森を半分焼失させるほどの火力を受け続けてもまだ生きている。
しかし、暴れる力は徐々に弱まっていく。
3人はその様子を静かに見守ることしかできない。
ノアはここで倒せなければ逃げることを決めていた。
いくらポーションでMPやHPを回復しても集中力がなければ戦闘はできない。
その点で言えばもはやぽむもこおりも限界以上の力を発揮してくれていた。
炎が弱まってきて全身黒焦げのトロールの姿が現れる。
それでも未だに立って動こうとしていた。
「グガ……」
腕を動かせば方から崩れて灰になる。
足を動かせば腰から下が崩れる。
下半身を失った上半身は地面に落ちる。
両腕がないので受け身を取ることもできない。
仮に取ることができたとしてもどうしようもなかっただろうが。
地面に落ちた衝撃で亀裂が顔まで伸びてゴブリントロールは命の火を消した。
「よっしゃぁぁぁ」
ノアはガッツポーズをとった。
強敵との戦闘を勝利することができた。
ただの勝利ではなく今後につながる大事な勝利である。
ぽむとこおりの成長に連携も見ることができた。
「くまくま……」
「メェェ……」
ぽむとこおりは緊張の糸が切れたようでその場でへたり込む。
しかし、休んでいる暇はなかった。
ゴブリンの丘は帝都近くと違ってセーフティゾーンがない。
ここでゆっくりしていればまたゴブリンが湧いてきて戦うハメになってしまう。
安全圏まで帰るのが重要なのである。
ルキファナスの世界には最後まで油断するなという物語がある。
勇者が悪しきドラゴンを激闘の末討伐したが、その帰り道にゴブリンに負けてしまうという物語だ。
地域によってこのゴブリンの部分がスライムだったり、スケルトンだったりと、弱いモンスターに変わったりしているが意味合いとしては同じだ。
「さぁ、帰るぞ。今日はお祝いだな!!」
「メェ!!」
「くま!!」
ぽむとこおりはすぐに立ち上がって帝都へ向かって歩き出した。
§
帝都ではチャコルルファミリーの内部抗争が激化していた。
「おい、テメェら人数を集めやがれ。強引だろうと親父を殺しにいくぞ」
「うすっ!!」
チャコルル・キリロフスは組員を集めて父の入院する病院へ殴り込みをかけようとしていた。
「なんて愚かなことを……堅気の方に迷惑をかけるなんて」
「ふん、マフィアが人助けしてどうなるというんですか? あなたは大人しくここにいればいいんですよ」
母親を奥の部屋に閉じ込める。
母であるチャコルル・ミザリーを生かしているのには意味があった。
ミザリーは元々、クレナドファミリーという武闘派マフィアの一人娘だった。
ボチャロフスと結婚をしてクレナドはチャコルルの傘下に入ったのだ。
その武力は帝国も恐れるほどのもので、今でもクレナドファミリー発言権は強い。
クレナドファミリーの特徴としてはミザリーを第一に考えている。
それもそのはずでミザリーこそがクレナドのボスなのだから。
今はボチャロフスの妻としてクレナドの若頭であるカッツェオに実権を譲って大人しくしているが、カッツェオとしては自分がクレナドのボスになろうとは思ってもいない。
ミザリーが人質にとられてはキリロフスの命令を聞くしかなかった。
これがキリロフスがミザリーを軟禁している理由だ。
クレナドファミリーの力がなければ一瞬で潰されるほどに力の差がある。
しかし、ここを上手く乗り切ればチャコルルファミリーの本家筋、クレナドファミリーは互いに削りあって漁夫の利で自分が帝国の裏を牛耳れると考えていた。
様々な思惑が交錯する中、帝都は混乱に陥ることになる。




