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22話 しろくまの急成長

 炎の玉の前にこおりが立ってバットを抜いた。

 バットを両手で強く握ったこおりは自分よりも大きな炎の玉を飛んできた軌跡そのままにUターンさせて、ゴブリンメイジに打ち返した。


 スキルや魔法での影響は基本的に術者本人には効きづらい。

 さらにその系統を扱いなれていれば耐性がついて、より影響を受けない。

 ゴフリンメイジは炎への耐性があり、自分で放った魔法なので打ち返された炎の玉のダメージはそれほどではないはずだった。


 しかし、ゴプリンメイジはものの見事に自らの魔法の炎に包まれて結構なダメージを負った。

 盾持ちのゴブリンがいなければ死んでいただろう。

 守ってくれたゴブリンは目の前で燃え尽きた。


 自らの魔法というのには少し語弊があったかもしれない。

 こおりの持つバットはただのバットではない。


 魔力を高濃度に蓄えている鉱石、魔石を精製することによって魔鉄が作られる。

 熟線の職人でも難しい魔鉄の精製をチャコルルファミリーお抱えの鍛冶職人口レンツィオは難なく成功させる。

 白髪の老人の手は長年に渡り槌を振り続け、分厚い職人の手になっていた。


 表の世界で槌を振るっていれば名の知れた名工になったはずだが、性格が頑固すぎた。

 遥か昔にとある貴族に目をかけられたロレンツィオはその貴族お抱えになるように何度も誘われるが頑なに拒否をする。

 断った理由は貴族の態度が気に入らなかったから。

 それなりに権力のあった貴族はロレンツィオを領土から追い出し、関係者各位に徹底的に圧力をかけた。

 そこを保護したのが若き日のチャコルル・シュトロフス。

 ロザリーアの祖父にあたる。


 それ以来ロレンツィオはチャコルルファミリーに力を貸していて、特にロザリーアのことは孫娘のように可愛がっている。

 そんな孫娘からの願いに全力で応えた結果がピッカピカに光る銀色のバット。

 最高級の魔鉄と最高峰の技術が組み合わさってできたそれはあらゆる攻撃を自分の攻撃に変換して打ち返す。

 攻撃と防御を兼ね備えた『不倶戴天の銀バット』。


 ゴブリンメイジは魔法を切り替えて数で攻めるプランに変え、指ほどの大きさの炎の弾丸ファイヤバレットを連射する。

 こおりは機敏に動いてその全てを打ち返した。

 ゴブリンメイジは返されたファイヤバレットを炎の壁で防いだ。

「くまくま」

 こおりはかかってこいと挑発をする。


 こおりの稼いだ時間をぽむは無駄にしない。

 前に出てきていたゴブリントロールと他二体のゴブリンを一気に深淵業火(アビスファイヤ)で焼く。

 しかし、そこはさすがのボスモンスターということだろう。

 ゴブリン二体は消炭になってもトロールは表面が焦げた程度。


 鈍重なトロールはゆっくりと跳躍をした。

 体が大きく少ししかジャンプしてないように見えるが結構な高さから両拳を握って叩きつける。

 ノアが間一髪でぽむを担いでその場を脱したが、トロールの一撃で大地が陥没して大きくひび割れる。


従魔強化(テイムアップ)INT」

「メェメェメェメェ、メェェェ(黒き炎は灰すら残さぬ、一切合切灰燼と帰せ、『深淵業火(アビスファイヤ)』)」

 ノアのスキルでバフがかかった状態で全力の深淵業火(アビスファイヤ)だった。

 今までの敵はこの業火の前で全て燃え尽きている。


 しかし、残念ながらトロールの火傷跡が多少広がった程度で燃やし尽くすには全然火力が足りなかった。

 ゆっくりとぽむとノアに近づくトロールを相手に2人はじりじりと後退りをする。

「くまくまーーー」

 トロールの頭部をこおりが思いっきりバットでぶん殴った。

 ゴブリンメイジを倒して2人に加勢に来たのだが、トロールはポリポリと頭を掻く。


 こおりが前衛でトロールの気を引きつつ攻撃を重ねる。

 気を引かなければいけない以上は離れすぎることはできない。

 目を閉じて大きく回避していた頃と比べればかなりの成長といえる。

 こおりはギリギリの攻防を続けていた。


 ぽむは隙をみてこおりとアイコンタクトを取って、こおりがトロールから一瞬離れた瞬間に魔法を放つ。

 少しずつではあるがダメージを与える。

 切れかけたMPを苦い顔をしながらポーションで回復する。

 ポーションは本当に苦いのだ。

 特に甘党のぽむにとってこの苦味は拷問ともいえる。

 しかし、仲間が前線で体を張ってる手前、苦味でわめくことなどない。


 少しずつ少しずつ、徐々に徐々にダメージを積み重ねていく。

 これを続けていればいつかは勝てる。

 しかし、作戦は唐突に破綻を告げた。

 こおりの足が滑ってトロールの薙ぎ払うような拳の一撃がもろにヒットした。

 バットで防いだものの数メートルはじき飛ばされたこおりはかなりのダメージを負っていた。


 ダメージがなくても体力も気力も限界に近かった。

 一撃死の攻撃をいつまでもギリギリで躱すというそもそもの作戦に無理があったのだ。

 攻撃を躱す度に精神がすり減っていく感覚をこおりは永遠にも感じる時間味わっていた。

 特攻服に精神状態異常の耐性付与の効果があったとしても、ここまで持ったことが奇跡ともいえる。


 起き上がるのにも時間がかかるこおりは地面を影が覆うのを見て顔を上げると目の前にはトロールがいた。

 その顔から邪悪な笑みが溢れる。

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