表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/33

19話 しろくまは戦闘がしたい

 黒い炎によって半分以上の面積を燃やされた森はすでに新たな緑は芽吹き始めさせていた。

 大量の灰を栄養にして前よりも強くたくましく、生存競争に勝ち残れるように成長する。

 以前はアーミーアントの群れが王者として森の覇権を握っていた。

 数を増やして森の栄養になるべき存在を根こそぎ食い荒らしていた。

 しかし、動くことのできない植物はその場でただじっと待つしかない。

 憎きアーミーアントに利用されて大樹の根を巣にされても何もできなかった。


 森にとって今回の山火事は都合が良かった。

 進化をするのには大量の栄養が必要だ。

 自らの半身を焼いて進化のための栄養を作る。

 木々の一本一本の意思はなく、森全体として生きている。

 普通ならば燃えそうな部分に地面から溜めていた水分を送るのだが、今回は逆に水を抜き取った。

 そうすることで乾燥した木々は見事に燃えていく。

 防波堤として許容範囲の外側の木に大量に水を含ませることで想定通りの森半分を燃やした。

 嬉しい誤算だったのはアーミーアントのほとんどが燃えて栄養となったこと。

 そのおかげで想定よりも強力な進化を遂げることができる。


 クイーンを失ったアーミーアントたちは新たなクイーンが産卵できるように、巣穴から出て獲物を探していた。

 次代のクイーンはまだ産卵できる状態ではない。

 新たな命を誕生させるためには相当の栄養が必要となる。

 それを別の命から搾取しなければいけない。

 しかし、山火事を起こした森には生命が少なく獲物と呼べるほどのものはいない。

 三体一部隊として各方面に散っているがどこも似たような状態であった。


 アーミーアントの一部隊が触覚を細かく動かして獲物を探している。

 この触覚は高度なセンサーのような役割を果たし、魔力感知をして敵を察知する。


 そんなアーミーアントの側で動く存在があった。

 大樹の根が地面の上に出て、複数の根の先を使って自由に移動する。

 太い枝を振り上げて一体に突き刺す。

 そこから栄養を吸収すれば干からびて絶命する。

 残る二体は何が起きたか分かっていない。

 目の前で確かに仲間が殺され、その瞬間を目撃したはずなのに混乱をしていた。

 

 アーミーアントの触覚の魔力感知はこの森の木々には反応しないようになっている。

 これが反応してしまうとあちらこちらに反応が出て、感知の役割を果たせないからだ。

 それにまさか木々が動いて攻撃してくるなど考えられていない。

 混乱したまま動く大樹に殺され、それが各方面で起きている。

 アーミーアントのホームだった森は一転してアウェイとなり、その森が牙を剥いている。

 そして複数の動く大樹が森を徘徊していた。



§



「いけっ!! そこだっ!!」

 こおりとゴブリンは一対一で勝負をしていた。

 こおりの戦闘は素手による喧嘩技だ。

 さすがは無法者といえるが、残念ながらこおりにはあっていないように思える。


 ゴブリンが棍棒を振り下ろすのを左腕で受け止めて右ストレートを顔面に叩きつける。

 が、本来の戦い方なのだが、こおりはゴブリンの攻撃を全て避ける。

 それだけならいいが、いかんせん目を閉じて大きく回避してしまうため攻撃に繋げれないのだ。


 とうとう目を閉じてる隙にゴブリンの攻撃がこおりの頭にモロにヒットした。

 しかし、こおりにダメージはほとんどない。

 無法者はINTを除く全体のステータスが高く、特に攻撃力と耐久力は初期職業の中でもトップクラスだ。

 帝国の帝都を選んだプレイヤーが一番初めに出会う初心者御用達のゴブリンに遅れを取るわけがない。

 

 何度も攻撃を受けて痛くないと分かっていても、目を閉じてしまっていた。

 その様子をノアとぽむはセーフティエリアの丸太に座って眺める。


 すると、涙目になりながらこおりが2人の元へ走ってきた。

 もう嫌になったのだろう。

「こおり、あまり無理はしなくていいからな。そろそろ帰ろう」

 ノアは無理やり戦闘をさせようなどとは思っていない。

 何度か帰ろうと促しても頑なにこおりは首を横に振る。

 戦闘はしたいのだ。ただ、どうしてもビビってしまう。

 こおりは少しの休憩を挟んで、すぐにゴブリンを追いかけていった。

 結局、この日こおりがゴブリンを倒すことは叶わなかった。


 昼過ぎにはゴブリンを諦めてもらって、次はぽむのレベル上げに森へと向かう。

 今回はこおりは見学になる。

 ノアはかなりの速度で元の状態に戻りつつある森に驚くが、これはゲームの世界だったとすぐに納得する。

 進んでいると目の前に一本の木が歩いてきた。


「ぽむ、焼き尽くせ」

 ノアは最近気づいたことがある。

 それは、こういうワードをチョイスした方がぽむのやる気がアップするのだ。

「メェメェメェメェ、メェェェ(黒き炎は灰すら残さぬ、一切合切灰燼と帰せ、『深淵業火(アビスファイヤ)』)」

 幸いにもボーヒゥンは動きが遅く、ぽむは安心して魔法を放つことができる。

 黒の炎がボーヒゥンを焼き尽くす。


「気を抜くなよ、まだくるぞ、従魔強化(テイムアップ)INT」

 左右からボーヒゥンがゆっくりと近づいてくる。

「メェメェメェ、メェェ(黒き炎は灰すら残さぬ、黒炎(ダーク・ファイヤ)

 INTを強化、黒炎で倒せるようにしてMPの節約をする。

 ここら辺のノアとぽむの連携はバッチリだった。

 思惑通りMPを節約してボーヒゥンを全て倒す。

「よくやったぽむ」

(動く大樹ボーヒゥンというモンスターが森に出現するようになったのは聞いていたが思っていたよりも数が多いな)


 ぽむが敵を倒してポーズをとるのを見てこおりは拍手をしていた。

 なんとも平和な光景だったが、ぽむのすぐ後ろの木の枝が突如大きく揺れ始めた。

 枝の先端が尖りぽむ目掛けて勢いよく振り下ろされた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ