11話 ひつじのリベンジ
赤の高級ソファーに深く座るのはカルセオファミリーの若頭、ボランチオ。
その後ろには数名の部下が控えている。
カルセオファミリーは帝都の裏を支配しているチャコルルファミリーの傘下のファミリーだ。
「で、俺になんかようか?」
「最近巷で噂になってるひつじをあんたらが探してるって聞いたんだ」
「ほぉ、何か知ってるのか?」
ボランチオは情報を売りにきた男を吟味する。
レベルのかなり低い来訪者なのだが、そもそも来訪者は総じてレベルが低いので気にはならない。
それに来訪者は特筆すべき能力があるため接触したいという思いもあった。
問題は目の前の男が使えるかどうか。
「実はひつじの飼い主とは知り合いでな。色々と知っている」
従魔にとってのテイマーは何よりも大事な存在である。
テイマーの情報は価値が高い。
「よし、話せ」
男はノアについて知ってる限りを話す。
男の名前はアーロ、ルキファナス・オンラインβテストからノアのことは知っていている。
βテストの知識を活かして有名になろうと考えていたところにノアとぽむが出てきて注目を掻っ攫われたのを恨んでいた。
まぁ、ただの嫉妬と言える。
撮影会を邪魔しようと画策していたら、ある筋からチャコルルファミリーがひつじを探しているのを知り、アーロの元へやってきたのだ。
話した内容はノアの性格やぽむのある程度の能力、そして撮影会というイベントがあることを話した。
アーロが帰った後、ボランチオはチャコルルファミリーのロザリーアに連絡を取った。
キリロフスの妹なのだが、実はひつじを探しているのはチャコルルファミリーというよりはロザリーアが個人的に探しているだけなのだ。
「お嬢、どうやらひつじの撮影会などというものが行われるらしいですぜ」
「噂は本当だったのね。すぐに組員を準備していつでも動ける用意をしておいて」
「分かりました。いつでも戦争ができるように準備しておきます」
§
「さぁ、準備はいいな」
「メェ!!」
気合を入れてぽむが返事をする。
2人がいるのは前回死にかけた森の前。
レベルを上げて準備も整え、リベンジに来ていた。
ノアはテイマーからテイムコンダクターに、ぽむは魔法使いから黒炎の魔法使いへと一次職から二次職に転職している。
テイムコンダクターは従魔に戦闘を任せて、テイマー本人はサポートに徹する職業でテイマーの中で最もメジャーな転職先となっている。
さらに転職したことで従魔枠が一つ増えたが現在検討中である。
ぽむとの相性を考慮して慎重に選ばなければいけない。
後衛が2人の状況で欲しいのはやはり前衛だろう。
黒炎の魔法使いはその名の通り、黒色の炎を使う魔法使い。
赫涅の魔導書のおかげで使えるようになった魔法でこれまでの魔法とは威力も範囲も桁が違う。
何よりもぽむがこの魔法を気に入りすぎてるせいでモンスター狩りが捗りすぎていた。
森に入ると、すぐにアーミーアントの偵察部隊がやってきた。
数は前回と同じ三体で木の上を素早く移動している。
ノアもぽむもやられた記憶が蘇るが、これはリベンジなのだと自分に言い聞かせてアーミーアントを睨みつける。
初っ端から全力で潰しにかかる。
「従魔強化INT、従魔強化INT」
従魔との絆というスキルで全体のステータスに補正がかかっているところに、バフの二重掛け、さらに新たなスキルの従魔指揮の心得で従魔に与えるバフの効果も上がっている。
前回とはステータスが雲泥の差だ。
「メェメェメェメェ、メェェェ(黒き炎は灰すら残さぬ、一切合切灰燼と帰せ、深淵業火」
ぽむの使える最強魔法、深淵業火が唱えられると黒炎の渦がアーミーアント三体に襲いかかる。
アーミーアントも避けようとはするが範囲が広すぎて避けきれない。
二体はその場で消炭と化して、一体は避けられたようだがそれでも体の一部が炭化している。
黒炎の恐ろしいのはその火力。
普通のファイヤボールでは水をたっぷりと含んだこの森の樹を燃やすことはできなかった。
せいぜいが表面を焦がす程度ですぐに鎮火していた。
しかし、深淵業火はしっかりと樹を燃やして火はなかなか消えない。
もう一体のアーミーアントは仲間の二体がやられたのを確認してすぐにその場を去ろうとするが、ダメージによって思うように動けていなかった。
「メェメェメェ、メェェ(黒き炎は灰すら残さぬ、黒炎」
黒炎は深淵業火の一つ下の魔法。
発動が深淵業火に比べれば早いし、威力もアーミーアント一体を葬るのには十分すぎる。
ぽむの右手から放たれた黒炎によって背中を見せていたアーミーアントを燃やし尽くした。
ぽむはリベンジを果たしたことに満足して右手を上げてガッツポーズをする。
ノアも無傷で勝利を得たことに満足をしていた。
アーミーアントの群れは大体が30体前後で構成されている。
森を奥へと進んでいけば群れの巣があるのだが、ノアはそこまではやるつもりがなかった。
前回の反省を活かして無理をしないことにしている。
いくらレベルアップしたからといって30体の群れを相手にするのは得策ではない。
それにほとんどの人は巣を無視して次の街へと進む。
街へ進むだけなら巣を通らなくてもいいのだ。
といっても、ノアは次の街にはまだ行くつもりもないので一旦帝都に戻ることにした。
リベンジを見事に果たした2人は祝勝会と称してぽむのお気に入りのわたがしを手に持って街を散策していた。
しかしこの後、帝都を混乱に陥れる大事件を起こしてしまうことなど2人は知る由もなかった。