5.アミナの心の氷、消え去る時。
ちょい、オサレ意識してみた。
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「――覇気がない!」
「きゃ!?」
アミナの頬をリーガー家当主の父が、強く叩いた。
幼い彼女はその場に尻餅をついてしまう。赤くなった患部を押さえながら、少女が見上げるとそこには鬼のような顔をした父がいた。
抜群の才覚を有しながらも、アミナは心根が優しい。
それ故に争いを得意としていなかった。
「どうして本気で打ち込まない。なぜ、戦おうとしない?」
「そ、そんなことない……です!」
だが、家のために。
父親の期待に応えたいという気持ちは、誰よりも強かった。
「嘘だな。貴様はいつも逃げている。私の期待に応えようとしない」
「………………そんなっ!」
それなのに。
彼女の父はとかく厳しかった。
しかし、アミナもまた言い返すことができない。図星である部分も、あったからだ。もしかしたら彼女は父に限らず、誰かに自分のことを認めてもらいたかった。
たった、それだけなのかもしれない。
だが幼い少女に、その分別はつかない。
だから必死になって家に、父に認められることにすがった。
「もういい、貴様には期待しない」
「お父様!?」
それなのに、ただそれだけなのに。
アミナの味方をする者は、誰一人としていなかった。
彼女の幼くも、心優しい思いを理解してくれる人など現れなかったのだ。
◆
――氷の剣の美しさに、誰もが呼吸を忘れる。
アミナも同じだ。
観衆と一緒になって、剣をだらりと下げて見惚れていた。
「別に、逃げても良いんだよ。――アミナ」
「え……?」
その時だ。
少年が不意打ちのように、そう言ったのは。
今までの言葉が嘘のように、優しさに満ちたそれだった。警戒心を抱いたアミナは、とっさに剣を構える。するとリッドは、こう続けた。
「怒るのも、別にいい。すべてお前の感情であり、お前だけの感情だ。誰かを傷つけたくない、だけど認めてもらいたい、その矛盾もまたアミナの心だ」
「リッドくん、キミはいったい――」
「安心しろ。俺は、お前の力を『認める』」
「……え?」
唐突な、しかし聞きたかった言葉。
アミナは息を呑んで、リッドという少年を見た。
彼は小さく、意地悪な少年の顔をしながらもこう言うのだ。
「お前は貴族の家を出て、正解だったんだよ。変なしがらみだとか、家督の争いだとか、そういった面倒くさい風習に縛られるべきじゃなかったんだ」
「………………」
とても温かく、それでいて氷剣のように美しい言葉を。
それを聞き届けてアミナは、自分の中で何かが解けていくのが分かった。自分が今まで何に縛られ、何に囚われていたのかを。
この少年はきっと、それを理解してくれていた。
だから――。
「あぁ、アタシは――」
アミナはそこで一度、ゆっくりと息継ぎして。
剣を構えて、こう答えるのだった。
「いま、純粋にキミに勝ちたいよ」――と。
すべての束縛から解放され、前を向いて。
勝利という一つの目標に、初めて心から手を伸ばしたく思った。
「それでいい。行くぜ――アミナッ!」
「あぁ、リッドくん……!」
二人は、その掛け声を合図として駆け出す。
観衆も目で追えない、そんな速度で。
二つの剣がぶつかり合って――。
「俺の、勝ちだな」
氷の剣は砕け散る。
されど、遥か彼方に弾け飛んだのはアミナの剣だった。
少年は剣を再生成することなく、柄から手を離す。そして――。
「うん、そうだね。アタシの負け、かな」
尻餅をついたアミナに、その手を差し伸べた。
彼女は微笑み、彼の手を取る。
歓声に包まれた。
誰もが二人の戦いを認め、祝福する。
そのぬくもりは、アミナの中の氷を解かすようでもあった。




