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5.アミナの心の氷、消え去る時。

ちょい、オサレ意識してみた。

応援よろしくお願いいたします!








「――覇気がない!」

「きゃ!?」



 アミナの頬をリーガー家当主の父が、強く叩いた。

 幼い彼女はその場に尻餅をついてしまう。赤くなった患部を押さえながら、少女が見上げるとそこには鬼のような顔をした父がいた。

 抜群の才覚を有しながらも、アミナは心根が優しい。

 それ故に争いを得意としていなかった。



「どうして本気で打ち込まない。なぜ、戦おうとしない?」

「そ、そんなことない……です!」



 だが、家のために。

 父親の期待に応えたいという気持ちは、誰よりも強かった。



「嘘だな。貴様はいつも逃げている。私の期待に応えようとしない」

「………………そんなっ!」



 それなのに。

 彼女の父はとかく厳しかった。

 しかし、アミナもまた言い返すことができない。図星である部分も、あったからだ。もしかしたら彼女は父に限らず、誰かに自分のことを認めてもらいたかった。

 たった、それだけなのかもしれない。


 だが幼い少女に、その分別はつかない。

 だから必死になって家に、父に認められることにすがった。



「もういい、貴様には期待しない」

「お父様!?」



 それなのに、ただそれだけなのに。

 アミナの味方をする者は、誰一人としていなかった。

 彼女の幼くも、心優しい思いを理解してくれる人など現れなかったのだ。









 ――氷の剣の美しさに、誰もが呼吸を忘れる。


 アミナも同じだ。

 観衆と一緒になって、剣をだらりと下げて見惚れていた。



「別に、逃げても良いんだよ。――アミナ」

「え……?」



 その時だ。

 少年が不意打ちのように、そう言ったのは。

 今までの言葉が嘘のように、優しさに満ちたそれだった。警戒心を抱いたアミナは、とっさに剣を構える。するとリッドは、こう続けた。



「怒るのも、別にいい。すべてお前の感情であり、お前だけの感情だ。誰かを傷つけたくない、だけど認めてもらいたい、その矛盾もまたアミナの心だ」

「リッドくん、キミはいったい――」

「安心しろ。俺は、お前の力を『認める』」

「……え?」



 唐突な、しかし聞きたかった言葉。

 アミナは息を呑んで、リッドという少年を見た。

 彼は小さく、意地悪な少年の顔をしながらもこう言うのだ。



「お前は貴族の家を出て、正解だったんだよ。変なしがらみだとか、家督の争いだとか、そういった面倒くさい風習に縛られるべきじゃなかったんだ」

「………………」



 とても温かく、それでいて氷剣のように美しい言葉を。

 それを聞き届けてアミナは、自分の中で何かが解けていくのが分かった。自分が今まで何に縛られ、何に囚われていたのかを。

 この少年はきっと、それを理解してくれていた。


 だから――。




「あぁ、アタシは――」




 アミナはそこで一度、ゆっくりと息継ぎして。

 剣を構えて、こう答えるのだった。




「いま、純粋にキミに勝ちたいよ」――と。




 すべての束縛から解放され、前を向いて。

 勝利という一つの目標に、初めて心から手を伸ばしたく思った。



「それでいい。行くぜ――アミナッ!」

「あぁ、リッドくん……!」




 二人は、その掛け声を合図として駆け出す。

 観衆も目で追えない、そんな速度で。


 二つの剣がぶつかり合って――。




「俺の、勝ちだな」




 氷の剣は砕け散る。

 されど、遥か彼方に弾け飛んだのはアミナの剣だった。

 少年は剣を再生成することなく、柄から手を離す。そして――。



「うん、そうだね。アタシの負け、かな」



 尻餅をついたアミナに、その手を差し伸べた。

 彼女は微笑み、彼の手を取る。




 歓声に包まれた。

 誰もが二人の戦いを認め、祝福する。



 そのぬくもりは、アミナの中の氷を解かすようでもあった。




 


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