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2.下を見て満足する奴に興味はない。

今日はここまで!

応援よろしくお願いいたします。







「あの、貴方は……?」

「気にするな。別にお前を助けようとしたわけじゃない。俺はただ、強い奴と本気の戦いがしたいだけだからな」

「本気の戦い……?」



 俺の言葉にリンは、キョトンとした顔をする。

 どうやらこちらの意図が汲み取れないようだった。だが、別に伝わっていなくても構わない。俺はあくまで、俺の目的としてダンという冒険者と戦いたいと思った。

 理由はそれだけで十分。だから――。



「リン。お前は、そこで見ていればいい」

「え、あの!?」



 俺は上着を脱ぎ捨てて、ダンの待つ場所へと向かった。



「……ほう。魔法剣、か」

「そうだけど、それがどうかしたか?」

「いや。この王都に、お前のような魔法剣士がいるとは聞いたことがなかったからな。どうやら、久々に楽しめそうだ……!」



 ダンはこちらが取り出した得物を見て、そう言った。

 俺の手にあるのは、刀身のない剣。つまり柄の部分だけで、上部にあるはずのものがなかった。だが魔法剣とは、それでいい。

 ダンが拳を構えるのを見て、俺はゆっくりと指先へ魔力を集中させた。



 そして、生み出すのだ。

 どのような剣にも負けない、魔力によって作られた剣を――!



「さぁ、遊ぼうか……!」



 周囲が一瞬だけ、眩い光に包まれた。

 その直後に俺の手にあったのは、炎によって形作られた剣。



「あぁ、面白れェ……!!」



 ダンもまたそれを見て、目を見開いて笑う。

 そして、互いに合図もなく一直線にぶつかり合うのだった。









 ――あり得ない光景が広がっている。


 金網を取り囲む人々は、みな一様に息を呑んでいた。

 このような戦いは見たことがない。少なくともこの王都において、ダンという拳闘士に並び立つ冒険者は片手で数えるほどだった。

 そのはずなのに、誰も知らない少年が本気のダンとやり合っている。

 この事実、息を呑まずに見届けることができるだろうか。



「す、ごい……!」



 中でも、とりわけ目を見張って戦いを見ていた人物がいた。



「こんなの、見たことない……!」



 リンはそう言うと、自分の手にある細身の剣を見る。

 そしてまた、名も知らぬ少年とダンの戦いに見惚れるのだった。



 目にも止まらぬ速度で繰り広げられる、命のやり取り。

 間違いなく『彼女』は、それの虜となっていた。







 炎の刀身を振るえば、ダンはその身の丈に似つかわしくない速度で回避する。そしてこちらの隙を見逃さず、素早く拳を叩きこんできた。

 俺は重量感のあるそれを空いた手で払い流す。

 間違いなくこいつの一撃、喰らえばそこで勝負が決する。



「……へ! 久々に、面白れぇ戦いだァ!」



 互いに、一撃が入れば終わると分かっていた。

 だからこそ息が詰まる。しかし、それがまた心地よかった。



「なぁ、ダン。お前に一つ訊きたいことがある」

「あん? なんだってんだ」



 でも、だからこそ言いたいことがある。

 それはそう、リンに対して行っていたことだった。



「どうしてお前は、そんな力を持ちながら下らない勝負をしていた?」



 これほどの実力を有しながら。

 この男はおそらく、リンの妹を人質に取って遊んでいたのだ。そのことを追及すると、彼はほんの少し距離を取ってからニヤリと口角を歪める。

 そして、こう言った。



「あぁ、そりゃ――」



 邪悪としか形容し得ない、そんな笑みで。



「俺様には、それが愉悦だからさ」――と。



 弱者をいたぶることが快感だ、と。

 ダンはおくびもなく、そう断言してみせたのだった。

 俺はそれを聞いて一つ息をつく。そして、心底残念に思った。



「そうか。それじゃ、お前はここまでだな」

「な、にィ……!?」



 俺は魔力を再度高めて、こう告げる。




「悪いが、下を見ている奴に興味はない。だから――」




 今までよりも速く。

 そして、今までよりも鋭く。

 俺はダンの懐に飛び込み、その巨躯に炎剣を振るった。





「――ダン。もう一度、見上げる感覚を思い出すんだな」

「がはっ……!?」





 なにが起きたのか、分からないといった表情を浮かべ。

 最強の拳闘士を名乗った男は、その場に倒れた。




 周囲が静寂に包まれる。

 俺は倒れた大男を見下ろして、退屈さをため息にして吐き出すのだった。



 


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