2.下を見て満足する奴に興味はない。
今日はここまで!
応援よろしくお願いいたします。
「あの、貴方は……?」
「気にするな。別にお前を助けようとしたわけじゃない。俺はただ、強い奴と本気の戦いがしたいだけだからな」
「本気の戦い……?」
俺の言葉にリンは、キョトンとした顔をする。
どうやらこちらの意図が汲み取れないようだった。だが、別に伝わっていなくても構わない。俺はあくまで、俺の目的としてダンという冒険者と戦いたいと思った。
理由はそれだけで十分。だから――。
「リン。お前は、そこで見ていればいい」
「え、あの!?」
俺は上着を脱ぎ捨てて、ダンの待つ場所へと向かった。
「……ほう。魔法剣、か」
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「いや。この王都に、お前のような魔法剣士がいるとは聞いたことがなかったからな。どうやら、久々に楽しめそうだ……!」
ダンはこちらが取り出した得物を見て、そう言った。
俺の手にあるのは、刀身のない剣。つまり柄の部分だけで、上部にあるはずのものがなかった。だが魔法剣とは、それでいい。
ダンが拳を構えるのを見て、俺はゆっくりと指先へ魔力を集中させた。
そして、生み出すのだ。
どのような剣にも負けない、魔力によって作られた剣を――!
「さぁ、遊ぼうか……!」
周囲が一瞬だけ、眩い光に包まれた。
その直後に俺の手にあったのは、炎によって形作られた剣。
「あぁ、面白れェ……!!」
ダンもまたそれを見て、目を見開いて笑う。
そして、互いに合図もなく一直線にぶつかり合うのだった。
◆
――あり得ない光景が広がっている。
金網を取り囲む人々は、みな一様に息を呑んでいた。
このような戦いは見たことがない。少なくともこの王都において、ダンという拳闘士に並び立つ冒険者は片手で数えるほどだった。
そのはずなのに、誰も知らない少年が本気のダンとやり合っている。
この事実、息を呑まずに見届けることができるだろうか。
「す、ごい……!」
中でも、とりわけ目を見張って戦いを見ていた人物がいた。
「こんなの、見たことない……!」
リンはそう言うと、自分の手にある細身の剣を見る。
そしてまた、名も知らぬ少年とダンの戦いに見惚れるのだった。
目にも止まらぬ速度で繰り広げられる、命のやり取り。
間違いなく『彼女』は、それの虜となっていた。
◆
炎の刀身を振るえば、ダンはその身の丈に似つかわしくない速度で回避する。そしてこちらの隙を見逃さず、素早く拳を叩きこんできた。
俺は重量感のあるそれを空いた手で払い流す。
間違いなくこいつの一撃、喰らえばそこで勝負が決する。
「……へ! 久々に、面白れぇ戦いだァ!」
互いに、一撃が入れば終わると分かっていた。
だからこそ息が詰まる。しかし、それがまた心地よかった。
「なぁ、ダン。お前に一つ訊きたいことがある」
「あん? なんだってんだ」
でも、だからこそ言いたいことがある。
それはそう、リンに対して行っていたことだった。
「どうしてお前は、そんな力を持ちながら下らない勝負をしていた?」
これほどの実力を有しながら。
この男はおそらく、リンの妹を人質に取って遊んでいたのだ。そのことを追及すると、彼はほんの少し距離を取ってからニヤリと口角を歪める。
そして、こう言った。
「あぁ、そりゃ――」
邪悪としか形容し得ない、そんな笑みで。
「俺様には、それが愉悦だからさ」――と。
弱者をいたぶることが快感だ、と。
ダンはおくびもなく、そう断言してみせたのだった。
俺はそれを聞いて一つ息をつく。そして、心底残念に思った。
「そうか。それじゃ、お前はここまでだな」
「な、にィ……!?」
俺は魔力を再度高めて、こう告げる。
「悪いが、下を見ている奴に興味はない。だから――」
今までよりも速く。
そして、今までよりも鋭く。
俺はダンの懐に飛び込み、その巨躯に炎剣を振るった。
「――ダン。もう一度、見上げる感覚を思い出すんだな」
「がはっ……!?」
なにが起きたのか、分からないといった表情を浮かべ。
最強の拳闘士を名乗った男は、その場に倒れた。
周囲が静寂に包まれる。
俺は倒れた大男を見下ろして、退屈さをため息にして吐き出すのだった。