「木のヘラを持ち上げながら言った」
さて、サクラの立場が落ち着いたら、次に持ち上がるのは経済的な問題だ。
単純に人がひとり増えたことによる食費(しかもこいつは人の倍も食うんだ)、光熱費、水道代、女の子特有のあれやこれやも揃えなきゃいけないしで、俺のわずかな貯蓄はマッハで尽きた。
後日入るはずのサクラの親の保険金を頼ればいいじゃん?
それを計算に入れれば、多少の借り入れぐらいは問題ないじゃん?
「はあー……それが出来りゃあ、苦労はしてないんだよなあー……」
「なんすか、ため息なんかついたりして」
夜のコンビニバイトに勤しんでいる時のことだった。
金髪ロン毛の後輩山田が、心配げな顔をして聞いてきた。
「金の話以外なら相談に乗りますよー?」
「や、まあ……金の話なんで、やめとくよ」
「お? お? ええー? ハルさんがそんなこと言うの、マジで珍しいじゃないっすかー」
めんどくさいので遠ざけようとしたが、むしろ山田は寄って来た。
「そういや最近、店長からスーツ借りたとか言ってたし。マジで何かあったんすか? ねえ、聞かせてくださいよーっ」
いつまでもウザいので、ものすごくかいつまんで説明してやると……。
「はあー? ええー? つまりはJKと同棲してるってことっすかー? やったじゃないっすかー」
「同棲って……まあそうだけど……でも、そういったチャラけた意味の同棲ではなくて、互助的なあれというか……」
「じゃあなんすかー。同棲して、自分が養ってやる的なカッコいい発言したくせに、早くも金で困ってるんすかーっ? ダッセーっ!」
「……殺すぞ?」
「痛ってええええええええー! すすすすすすんませんっしたああああーっ!」
がっちりアイアンクローをキメると、山田は慌てて謝ってきた。
「痛ててて……ハルさんってホント、冗談が通じねえんだから……」
「おまえのは冗談じゃねえよ。ただの煽りだ」
とは言いつつ、金に困ってるのは事実だ。
どうしようかなと悩んでいると……。
「ともあれ、そういうことならこれ持ってくしかないっすねー」
山田はにこやかに笑いながら廃棄弁当を差し出してきた。
フライ系のガッツリ弁当を中心に、三つも重ねて。
「ほらこれ、持ってってくださいよ。やっぱねー、空腹じゃ働く頭も働かないっすから。おっと、アイスも付けちゃいましょうか。彼女さんも喜びますよーっ?」
「や、だから彼女じゃないと……。つうかおまえ、これ規則違反だろ」
「いいんっすよー。ハルさん以外みんなやってることですし、今回は特にね、彼女さんの健康のためっすからー」
「ううむ……」
なんやかやで言いくるめられた俺は、信条とは裏腹に廃棄弁当とアイスを持って帰ることになった。
がっつり弁当とアイスの組み合わせに、サクラは喜ぶかと思いきや……。
「なんでこんなことするんすかーっ!」
ちゃぶ台の上に載せられた袋の中身を見たサクラは、いきなり怒り出した。
「え? え? なんで怒ってんの?」
「決まってるじゃないっすか! これですよ! こ・れ!」
袋をビシビシと指差しながらサクラ。
「師匠はこういうもの持ち帰らない主義だったじゃないっすか! 『人の施しは受けねえ、ましてやダメだってもんをこっそり持ち帰るとか絶対しねえ』って言ってたじゃないっすか! そういう頑固一徹なところが自分は好……好……素敵なことを考えてるなーっと思って尊敬してたのにっ!」
顔を真っ赤にして怒るサクラだが……。
「おう……そうか。しかしおまえ……ならなぜ今おまえは……」
バクバクと弁当にがっついているのか。
「そりゃあお弁当ちゃんには罪はないからっすよー! 弁当ちゃん無罪! アイスちゃん無罪! このまま捨てるのは可哀想だから自分の栄養にしてあげようとしてんす! 言うならば慈善じぎょーってやつっす!」
「お、おう、そうか……」
「ああー美味いっす! カロリーってのは栄養なんだってのがものすごい勢いでわかるっす! 美っ味えええええーっ!」
「まあ、おまえがそれでいいんなら……」
ふたつ目の弁当に取り掛かるサクラの横で、俺も弁当を手に取った。
……んーしかし、廃棄弁当がダメとなると、やはり他に資金を調達する手段が必要だな。
単純にシフトを増やす? それとも他に何か……。
「そうだ! 閃いた!」
弁当ふたつをぺろりと平らげ幸せそうにアイスを頬張っているサクラが、木のヘラを持ち上げながら言った。
「お金稼ぎましょう! 速攻で資金調達する手段、それでいて師匠の主義にも反しない手段、自分知ってるっす!」
「はあ? なんだよそれ」
「ええー、そんなの決まってるじゃないっすか! 師匠の得意なア・レ!」
サクラは得意満面。
「路上ライブっす!」