家族編
拓実の死を聞いた直人は、拓実が自殺した理由がわからなかった。愛する人を失った悲しみに嘆く直人。
せめて、拓実の生きた証を残したいと思い、ぐちゃぐちゃになった拓実の死体から残った細胞を移植し、二人の息子を本当の意味で完成させる。
愛すべき拓実はできる限り人の形を残しながら、保存液に漬け込んだ。家族は一緒にいたいと、そう思うだろうから。
二人の息子は自我を持ち成長を始める。
直人は家族のために家を購入した。傷ついたときにはすぐに治せるようにと研究施設も家に移した。生まれたばかりの息子は痛覚に敏感だったり、感情をうまく表現できなかったり、子育ても大変だと思いながら愛すべき息子を大切に育てた。
もともと教育過程の知識は植え付けていたことから、数日で成長する。子供の成長は早いと聞いたことのある直人は特に疑問を持つこともなかった。
息子を愛し、たまに外に出すことはあっても地域住民と深い交流はさせなかった。直人のコミュニケーションスキルに難があるとか、そんな単純な理由も起因して。
そんな中でも拓実の遺伝か、社交性はとても高くすぐに地元に溶け込めるようになった。直人は家族の時間をそれはそれは大切にした。
だがそれも長くは続かなかった。戸籍のない子供、時を経てわかる実験の失敗。
何年たっても変わらない体はそこだけ時間が止まっているようで。息子を構成する細胞は腐ることはなくても新しい細胞も生み出さなかった。
さらに昔のコンプレックスを刺激する声は、はじめのうちは遺伝だと笑うことができたが、十年以上変わらないよく通るハスキーな声は、確実に直人の精神を蝕んでいった。
俺は家族がほしかったのに。これはなんだ、俺は新しい生き物を生み出してしまった。これは俺らの子供でも、家族でもない。
直人の極端に真面目な性格が災いして、息子を殺すことができなかった。命を生み出す行為を甘く見て、失敗だからと冷酷になりきれなかった。
命の入っていた死体から取り出す行為ができても、今を生きている命を抹消することができる覚悟はもっていない。
気の狂った直人は記憶を失った。15年分の記憶をすべて。
自分で作った子供のこと、家族のために作った家のこと、子供を生きながらえさせるために作った遊び場(研究室)のこと、肉片になっても大切な家族だと保管していた親友の姿さえ。
「どうして僕はこんなところにいるんだ」
仕事に戻ろう。直人は自分で作ったものを置き去りにして、第二の人生を歩み始めた。
時々思い出す。大好きだった拓実のことを。
君は自分の家族を作って幸せに暮らしているのだろうか。
解説回(父になる男の話)は、これにて終了です。
以降、息子の話を執筆してきたいと思いますが、筆がのったのがここまでなので、まだ続きは生まれていません。
予定は未定ですが、早めに掲載できるように頑張ります。短編の時間軸までまだ期間がありますね……。
今度とも、この作品をよろしくお願いします。