勇者は帰ってきた! ~異世界召喚された勇者が、艱難辛苦を乗り越えて魔王を倒し、人々に惜しまれながら、ようやく日本に戻ってきた! ……あれ、ここ日本ですか? 日本デスカ、ソウデスカ~
構想1年。執筆日数3時間。
勇者召喚されて、いろいろあって魔王を倒して戻ってきた勇者のお話。
魔王倒して、平和になった世界で尊敬と敬意を集めながら、女の子にモテモテでウハウハ言わせてたのに、なんで戻ってくるかな。そのまま居ればいいのに。
あ、本編は~じ~ま~る~よ~
「俺は帰ってきた!」
苦節10年。いきなり勇者召喚され、魔王を倒してくれと、平和でのほほんと暮らしていた日本人に対する無茶ぶりに堪えた10年。
長かった。
魔王を2年で倒し、遊んで暮らした8年間の酒池肉林の日々。
「けっ! こっちは命がけで戦ったってのに……皇太子の婚約者に手を出したのがまずかったか。だけどよ、なんか『私、ヒロインなの』っていう女の子から、『ここはゲームを元にした世界なんだけど、あの子、悪役令嬢で放っておくと、この国が破滅するんだ~』。『だから、勇者様、この国の為に殺ッちゃって~』て言われたら、しゃーないだろ!」
俺は、そばであくびしている黒いネコに語り掛ける。
「まあ、ヤッた後のおぼこい感じや、健気で清楚な感じからすると、悪役令嬢っていうより、”街で噂された”通りの聖女さまだよな~な、ネコ」
(まあ、自称ヒロインも先払いの報酬でもらったけど。自称ヒロインのテクニック系よりも、悪役令嬢が好みだな。やっぱり俺が開発していく!っていう感じが良かった)
ネコは、俺が同意を求めても、気にした様子も無く毛づくろいしている。
「おいお前!」
いきなり、背後から声を掛けられる。
ま、近づく気配は気づいていたが。
振り返ると、POLICEと書かれた制服を着た人間が二人。
「お前、そこで何をしている? なぜ、生体認証の反応が無い?」
「あ、すみません。ネコ好きなんで、つい……」
なんかわからない事を言う警官に、左手で頭をかきながら、あほっぽく笑い頭を下げる。ついでに、右手をネコに伸ばす。
と……
かき消すようにネコが消える。ホログラムが、一瞬乱れて消えるように。
「え?」
「何を環境映像が消えたくらいで驚く? 確認するから、立て」
距離を取って構える警官の言葉に従い、俺は立ち上がる。
そして、戻って来られた日本の街並みを見回す。
懐かしい日本。
そう、チリ一つ落ちていない、白く硬くもなく柔らかくもない街路。出林立する高層ビルは、すべてがガラスのような素材。大通りには、タイヤの無い車が滑るように飛ぶ。空には、ランドセルのようなものを背負った人が自由に飛びかう。人々の衣装は何というのだろう? ファンキー?
……どこだよ?
どこだよ、ここは?
俺は、もう一度頭を抱えて座り込んだ。
「おい、しっかり立て」
一人の警官が、俺の首根っこを掴んで、ひょいと立ち上がらせる。
さっきはネコがいたけど、今度は、警官が相手をしてくれる。
まあ、警官と言っても、身長2メートルくらい。肌が見えているところは、人間ぽいけど、機械化されてる。サイボーグとかかな?
「あの、つかぬことをお伺いしますが……ここは日本でよろしいでしょうか?」
ぶらんぶらんと揺れながら、尋ねてみる。
「日本じゃなかったら、どこだというんだ?」
「ヤク中か? ……虹彩からのデータ当たったが、該当が無い。生体認証もないし、なんだこいつは?」
もう一人の警官が、こめかみに指をあて、何か操作するような仕草の後、同僚に告げる。
「密入国か? 珍しいが、面倒だな……」
「仕方ないだろ。署に連絡する」
舌打ちする同僚をたしなめ、こめかみに指を添える。
「了解。とりあえず、病院へ連れてけってさ。密入国だと、下手なウイルスでも持ってると困る。ついでにオレたちも、こいつの検査結果が出るまで隔離待機だってよ」
「げ、ついてねぇなぁ」
それは俺が言いたい。
俺は、事情が分からないので、素直に従う。パトカーに乗せられ、病院へ連れていかれた。
ちなみに、乗せてもらったエアーカー(仮称)は、振動も音も無く、まさに滑るように走る。ちょっとワクワクした。
病院では、痛くない注射器で血を採られ、いろんな機械につながれたり、CTみたいなので撮られたりした。全部機械仕掛け。
最後に、隔離棟って書かれた扉をくぐった先の1室が割当られた。
あとから先生が来るからと、案内ロボット君(1メートルほどの四角い立方体に車輪がついている)に言われ、病室に通された。
広く清潔な部屋で、トイレはもちろん、シャワーも完備している。シャワーは到着時に、自動洗浄室というのに通されて、綺麗にしてもらったから使わないけど、久しぶりのシャワートイレは楽しんだ。愉しんだ。
(ああ、現代いい。最高!)
まあ、現代じゃないけどな!
部屋でゴロゴロと休んでいると、配膳ロボットがゴハンを運んで来てくれた。
トレイに乗せられたご飯を見ると、四角く区切られた枠に白・オレンジ・緑・黄色のペースト状のモノ……を想像していたんだけど、ゴハンに鯖、お味噌汁、おひたしという日本食。
「おおぉふぅぅ~」
薄味だったけど、涙を流しながら貪り食った。
そうこれだ!
これのために、俺は、日本に戻ってきた!
美味しいよ、日本食。
味噌、醤油、そして、米。
グルタミン酸、イノシン酸の旨味が口いっぱいに広がる。
涙を流し、捨てないでとすがる女たち(一部白い目)を。この国を守ってくださいと泣き叫ぶ民たちを。永久の礎とたたえる貴族たちを。虫を見るような目で見る王家一家(笑顔でハンカチを振る自称ヒロイン(現皇太子妃)を含む)を。
彼らの思いを振り切ってまで、日本に帰りたかったのは、日本食への希求、渇望、根源的欲望。
「もう死んでもいい……」
滂沱と涙がほほを伝う。
「物騒な発言ですね。自殺希望者として、自己肯定教育院に収容になりますよ」
ちょうど部屋の扉が開き、ふくよかな体形のおじさんが白衣姿で入ってくる。白い髪に白いひげ、特徴的な眼鏡……カーネルおじさんっぽいな。
扉も音もなく開くし、床や靴のクッション性能ゆえか、太ったおじさんなのに足音もしない。
……ま、気づいていたけどね。
「お食事中に失礼しますね。医師の石井カール薄木田です」
「あ、お世話になります」
左で後頭部を掻きながら、頭を下げる。
「どうぞ、お食事を続けてください。検査の結果に特に異常はありませんでしたので、食事にも制限はありませんよ」
ほ、ほ、ほ、と笑いそうな笑顔をたたえて、そう言われ、俺は、恐縮しながら、一口だけ残した白ゴハンにお茶をかけ、最後のひとかけの漬物でノドに流し込んだ。
はあ~~幸せ。
「ほ、ほ、ほ。これほど、美味しそうにゴハンを食べる方は最近見たことがありませんよ」
お医者さんは、案内ロボット君がそっと運んできた椅子に座りながら、楽しそうに笑う。
思わず、また頭をかいてしまう。
「日本の飯、久しぶりなんで」
「ほう? というと?」
「信じてもらえないと思いますけど、俺、異世界転生してたんで……」
「ほ? ほ、ほう? それはそれは……詳しく、話していただけますかな?」
俺は、日本で暮らしていたのに、いきなり異世界に召喚されて、魔王と戦ったことなどを話し始めた。
「なるほどなるほど……職業元勇者さんですね。いいですね。魔法も使えるんですか? ほう、どのようなものが?」
調子良く話を聞いてくれるお医者さんに、俺は気分が良くなり、立ち上がる。
「個人戦では光の剣で戦ってましたが、でも、基本魔法ですね。火炎系魔法が得意でしたね。爆炎魔法なんて、周囲10キロを焼き尽くせます」
「ほうほう。魔法主体の勇者。ソロ。中々面白い」
「小さいのも出せますんで、見ます?」
いい気になった俺は、返事も待たず、手のひらに炎を出現させる。
「ほ……ほう!?」
「うぉっと!?」
炎が出現した瞬間、ビーーーというアラームの音が室内に響き、天井のスプリンクラーからノズル上に水が照射される。
『鎮火完了』
天井から声がする。
「勇者さん、魔法はいきなり使わない方がいいですよ」
カール医師は、笑顔のまま、びしょ濡れになった俺に注意する。
「すみません」
頭を掻く俺にうなずき、医師は、こめかみに指を添える。
「……うん、問題ない。室内にも問題ないよ、うん、大丈夫」
どこかに連絡を入れているようだ。
「スプリンクラーは、この時代でも水なんだ?」
「火の様子によってね。火が大きければ、消火剤やガスも使われるが……濡れてしまったね。シャワー室
で乾かしておいでなさい。乾燥ボタンを押せば、30秒だから」
医師の提案に、俺は首を振り、立ち上がると、呪文を唱える。
スーッとわずかに光が立ち上り、体が乾くと共に汚れなどが消え去る。
「ほう……今のは?」
「クリーンっていう呪文です。体の汚れを取ったり、乾燥させたりできます」
「それは他人に対しても使えるのかな?」
「いえ、自分専用です」
「ほう……」
医師が微妙な表情でうなずく。シャワーと乾燥機能が完備している日本では使う機会少なそうですよね。そうですね……。
「それで、他にはどんな魔法が?」
「そうですね……最強なのは。隕石流星群《メテオストライク》ですかね」
「ほほう?」
「これは、衛星軌道上から無数の小惑星を落とすという術で、小惑星を呼び寄せるので発動までに時間はかかりますが。威力は絶大です。ついでに、その後氷河期まで起こせます!」
自慢の一品だ。
「ほう。……うむ、街の防御で対応可能か」
医師の小さな呟きが耳に留まる。
「え、街の防御?」
「おや、声に出ていたか。失礼失礼。いや、現代では、小惑星の落下にも対処できるレーザー兵器が各所に配備されていて。まあ、戦争なんて、もう百年以上起こっていないんだが……」
(ち、地球よ……俺のいない間に何があった?)
「ミサイルが発展してね。2020年台かな?
超々音速、マッハ20で飛ぶミサイルが当たり前になってね。それを撃墜するためにはレーザーでないといけない。
では、レーザーに対抗するには、大質量だ。
じゃあ、オレ衛星加速させて落とす!
なんだと、じゃあ、オレは小惑星落とすもんね!
となって、現在では、小惑星にも対応できるようになったんですよ」
「人類……アホなのか……賢いのか……」
開いた口がふさがらない。
「他には、なにかあるかね?」
「……身体能力強化系とか得意ですね」
気を取り直して、説明する。
「今なら、オリンピックにでも出られそうです。短距離、100メートルとか、出てみたいな」
「0.1秒を争う世界だよ?」
まあ、それは前から変わらないよね。
「見てみるかい?」
医師がそういうと、目の前に、一辺1メートルくらいのホログラム映像が浮かぶ。競技場の映像で、短距離トラックに近づいていく様子。その際に、五輪のマークも映し出される。
「おお、オリンピック! 久しぶりだ!」
感動していると、選手たちが準備している様子が流れる。ウェアは、見ていた時代とはだいぶ異なるが、緊張感を高めている様子などは同じだ。そのうちに、『On Your Mark』の指示が聞こえる。
号砲と共に、スタート&ゴール。
号砲の余韻が響く中で、選手たちはゴールを駆け抜けている。
「……うん? スタート切った瞬間にゴールしたような気が?」
「うむ。だから、0.1秒を争うと。世界記録は、0.0999秒だっかな?」
「……」
「サイボーグ化が進んでね。最近は、人間サイズの外殻・規格と予算が決められて、その中でスピードを争う世界になっているね。昔のF1みたいな感じだね」
(俺の戦闘能力も通じないかもしれない……)
ガクンと気が重くなる。
最初、警官に声をかけられたとき、抵抗しなくて良かったと、心の底から思う。
「大丈夫かね?」
「あ、最悪、仕事なかったら、軍隊にでも入ればいいかって思ってたんで……この世界だと、無理そうで」
最後の選択のセーフティネットだけど、背に腹は代えられない。けど、俺では無理かもと心配になる。
「軍隊かい? 軍隊は基本機械化されているからね。普通の人は士官学校に入らないとね。行けないよ」
おお、セーフティネットかと思ってたら、エリートが行くところに。
「でも、警察なら、サイボーグ化されていない人も募集しているよ」
「おっけ! それで行きましょう! 剣技も体術も、格闘術も極めてますよ!」
使い道のある技術があった!
「ダメだよ!」
なのに、温和だった医師に叱られてしまう。
「そんなものを習っていると知れたら、暴力禁止法違反で逮捕されるよ!」
「え?」
「あと、炎の呪文は危険物所持法か爆発物取締規則違反。光の剣など出したら、銃刀法違反だから、注意するようにね」
「えーと、ヒーリングとか使えるんですが?」
「医師法違反になるね」
「ポーション作れるんですが……」
「薬事法違反」
「不老長寿なんで、その実験体とか……」
「すでに開発されているね」
「……」
「……」
世知辛い。
身を捨ててこその浮かぶ瀬もない。
現実世界は冷たく、世知辛い。
シクシク。
「あと、勇者さんは、仕事の心配をされているようですが?」
「はい。俺、魔法と勇者の能力以外、手に職無いんで、どうしようかと」
「ああ、心配しなくても大丈夫ですよ。現在は、ベーシックインカムが普及して、一定以上の生活は送れます。働く人は1割以下。みなさん、趣味でやっているようなものです」
「え!?」
働かなくていい世界!
おお、向こうの世界の後半8年と同じアーリーリタイア生活。
食っちゃ寝。女の子とイチャイチャしては寝。飲んで騒いで愚痴って寝。(夜眠れない)
ビバ! リタイア生活!
「でも、国民の登録がされていないんですよね?」
「あ……」
国外追放が頭をよぎる。
「いや、大丈夫ですよ。申請して、登録してもらいましょう。世界的に、人口は減少傾向なのでね。おそらく、国も大歓迎ですよ」
俺の顔色が変わったのを見た医師が、勘違いを訂正してくれる。
ありがとう。ベーシックインカム。
ありがとう。発展した社会福祉。
「では、事務局の者と代わりますね。役所への手続きも代行してくれますから」
言うと、医師は、こめかみに指をあてる。
「……うん、田中くん? ああ、事情だいたいわかる? そう、お願いするね。
あと、私、このあと用事あるから、この躯体使ってもらえるかな?
終わったら格納庫に入れといてもらえる? そうそう、クラン戦が行われるんだ。私のギルトが主体なんで準備したいんだ……うん、じゃあ、お願いしますね」
なんだろう。いろいろツッコみたい。
「では、担当者に切り替えますので」
「切り替え?」
「ええ、私は予定がありますので、この身体に担当者が入ります。勇者さんは、このままここに居てください」
「身体? 入る?」
「……ああ、説明してませんでしたね。この躯体……身体は疑似的な、アンドロイドで、私自身は自宅から操作しているんですよ」
……姿かたちが人間と見分けがつかない。
「多くの人が外に出ない時代です。大多数は、仮想現実世界に接続して、昔の日本や、ファンタジー世界で過ごす時代になっています。あなたの元いた世界と同じでは無いですが、似たような世界もあると思いますよ」
「……おおぅふ」
どう答えていいかわからず、ついため息が漏れる。
「まあ、そのせいで、人口が減っているのは問題ですが……」
「えっと、あの……女の子との出会いは?」
「……? 仮想現実でいくらでも出会えますが?」
「いや、あの、現実世界で……スキンシップとか? エッチ系とか?」
「ああ、直接間接に関わらず接触は訴えられますよ。ましてや粘膜接触等は前時代的な発想ですね。捕まりますよ……」
「……き、キャバとか、風俗系のお店は?」
「ありますよ」
え!? 捕まるんじゃないの?
あ、裏?
裏の奴?
「(ワクテカ)」
「仮想現実世界にいくらでも」
「ノーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
俺は、ベッドに転がり、身悶える。
なぜ、戻ってきた俺!
女の子とイチャイチャできない世界になど、なぜ、戻ってきた俺!
神は死んだ……
「勇者さん、勇者さん、大丈夫ですか?
……ふむ、大丈夫では無さそうだ。が、申し訳ござませんが、時間が無いので、代わらせてもらいますね」
何も聞こえない。
何も見えない。
ああ、女の子ともう出会えない。
……煩悩を抑えて、身綺麗に生きるしかないのか。
「あ、勇者さんですね。事務局のアリサです。よろしくお願いしますね」
医師の身体の中が入れ替わったのだろう。
その口から、ソプラノの、ハキハキした女の子らしいしゃべり方の声が聞こえてくる。
「その顔で、その体で、かわいい声を出すな~~~」
「え、え、なに!?」
ひどい八つ当たりだった。
「元の世界に戻して~~~」
その後、元勇者の悲痛な叫びは、鎮痛剤を打たれるまで響いたという。
【完】
短編です。
これを元に、ウケたら長編に書き直すという予定はありません。
出オチですし、主人公に興味が湧きません。
逆に、文中に出てきた自称ヒロインの方が気になる。どうやって策をめぐらして、何をしでかしたのか。うーん、難しそうだ。誰か書いて。
元々、小説書こうかと思ってた時に思い浮かんだのが、異世界転生して勇者になって、日本に戻ってきたと思ったら、宇宙世紀で宇宙船の中で、勇者の力は役に立たないという設定でした。『発展した科学技術は魔法と変わらない』という世界で、俺どうしたらいいの?と困るという。
出オチだな?
ということで、短編にしてみました。ふう、今まで一番早く書けたぜ。
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ランペイジ 国会議員無双 ~議員なら国会で無双しろよと言われそうだけど、前々世で大魔法使いだったので、異世界の軍を相手に戦います~