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第3話 トイレポイント


 トイレの神様は床に着くくらい、とても長い髪をなさっているから、綺麗な床のトイレにしか現れないんじゃよ、と祖母が言っていた。


 なるほど、今俺の目の前にいる女性はその通りの容姿だ。


『このトイレは地球のものと違って、魔力を通さないと水が流れないようになっているんです』


 俺の戸惑いなど微塵も気にせず、トイレの神様はこの珍しい形状のトイレについて解説しだす。


「ん ? 今何て言いました ? 地球のものとは違うって、どういうことですか ? 」


『言葉の通りですよ。ここは地球のトイレではありません。異世界のトイレです。あなたは転移したのです』


「…… !? 」


 確かに女子トイレは俺にとっては異世界への扉だった。


 だが、実際に異世界につながっているなんて……。


「そ、そんな !? どうすれば地球に戻れるんですか !? 」


『落ち着いて、(あきら)さん。電車内で漏らしそうになって慌てて途中下車した駅のトイレが満室で、結局漏らしてしまったあの時のように……』


「それってどうせ取り返しがつかないから開き直れってことじゃないですか !? それに『あの時のように』ってまるで俺がかつて漏らしたかのように言わないでくださいよ ! 」


 慌てる俺を尻目に、トイレの神様は話し出す。


『とりあえずその話は汚物入れにでも置いておいて……』


「そんなところに置かないでください !? 」


 とにかくトイレにからめてくる神様を俺は少しだけ睨む。


 俺にとっては便に血が混じっているくらい放って置けない話だ。


『ともかく今すぐ地球に帰るのはダメです。危機が迫ってますから……』


「危機 ? 今の俺の状況の方がよっぽど危機的なんですが」


 俺はまだ気絶したままの女を見やる。


 この女が目を覚ましたら俺は性犯罪者と誤認されてしまう。


『何を言っているんですか ? 地球が滅ぶのですよ ? 』


 トイレの神様は少しだけ語気を強めた。


「え ? 」


『詳しく話す時間がありません。ともかく私達地球の八百万(やおよろず)の神々はその危機に対抗する力を人間に獲得させるために様々な手段をとることにしました。(あきら)さんをトイレの扉から異世界に転移させたのも、その一環(いっかん)なのです』


「な、なんか壮大な話すぎてピンときませんね……。なんで俺が選ばれたんですか ? 」


『神は神に対する奉仕を行った者に見返りを与えます。逆に言えば奉仕を行わない者には何も授けることができない決まりなのです。あなたは世界で一番、私に対する奉仕、すなわちトイレ掃除を行っているからです』


「ちょ、ちょっと待ってください !! そんなわけないでしょう !? いくら俺が毎日トイレを掃除しているとはいえ、プロの清掃業者のこなす数にはかなわないはずです ! 」


「その毎日、というのが重要なのです」


「……継続ということですか ? 」


「いえ、ポイント 5 万倍DAY に掃除していたのが、たまたまあなただけだったのです」


「ポイント制なの !? というかなんだよその倍率は !? どんなに差をつけても最終問題で順位がひっくり返るクイズ番組かよ !? 」


『ともかくあなたの保有する 53640 のトイレポイント、通称 T ポイントと引き換えに力を授けます』


「大丈夫 !? その名称 !? 」


「もちろんです。まずはこの異世界の女を便属(べんぞく)させるのです」


 隷属(れいぞく)に似て非なるヤバそうな用語を聞いて、俺はまだ痙攣し続けている床の女に再び視線を送った。




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