表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春風の吹く場所  作者: さまた。
~と或る春の日~
3/3

新入り

春の日。いつもと同じように、僕は村の見回りをしていました。

僕の名はメラージ。この村で警察官をしています。僕の仕事は、村の見回りをし事件がないかを確認することと、建物や道の状態を見て副村長に報告することです。地味ですが、とても重要な仕事です。

しかし、ここは村と言うには少し大きく、一人で、毎日全てを見て回るのはかなりの労働です。朝は五時頃に家を出て、帰宅する時間は早くても十時を過ぎてしまいます。とてつもなく、黒い仕事ですが、それでも四年間続けられているのは自分でも凄いと思います。

「…な。俺の……ない…。ハル」

ふと、誰かの喋り声が聞こえました。男の人の声です。その方向へと目を向けると、数十メートル程先に、一人の背の低い男の人がいるのが見えました。横には彼よりも一回り大きいモンスターがいます。ドラゴンです。

彼は何かを話しているようでしたが、この距離ではよく聞き取れません。どうやら、何かを書き留めているみたいです。

僕は、声をかけようと近付いてみます。迷子でも不審者でも、どちらの解決も僕の仕事ですから。

「…!誰だ」

男がこちらに気付いて振り向きました。赤い瞳が鋭く光って、僕を捉えます。

その視線に足が止まり、僕は動けなくなってしまいました。

「ここの者か…?…警備者か。嚮導を依頼したいのが」

「あ……え、ええと…?」

声を絞り出して、言葉を発します。思わず冷や汗が流れました。彼の言葉を理解しようと、必死に脳を回転させますが、なかなか答えが出ません。僕は後から、これが彼の文章構成のせいだと知りました。

「不審の輩と思いか?案ずるな。有触れた旅人だ」

彼は僕から目を離します。そのお陰で、身体の中で張っていた紐が、緩んだようです。僕は深く息を吸いました。

「いえ…思っていません。あの、それで依頼というのは…?」

「旅籠屋へ嚮導して欲しく願う」

旅籠屋とは、宿のことです。彼は今夜休養をとる場所を探していたようでした。

「…わかりました。付いてきて下さい」

心を落ち着けて、ゆっくりと彼に近付きます。すると彼は突然、手に持っていた紙とペンを空中に放り投げました。僕が驚いて固まると、それらは泡のように消えていきました。彼は魔法使いだったのです。

「案内しますね。僕は、メラージといいます」

「そうか」

彼は名乗りませんでした。そうして宿に着くまで、僕達は一言も言葉を発しませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ