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37.気になる人と遊園地デートなのだけど④

お化け屋敷を出た後、俺と水瀬はジェットコースターなどを乗って回っていた。

どうにも水瀬はこういう激しいアトラクションが好きらしい。

俺もこういうのは嫌いではないし、水瀬の隣で乗れることもあって、普通に楽しむことができていた。

この企画を提案してくれた三井さんには素直に感謝したいところだ。

それにしても後ろから観察する宣言をしていた三井さんと正志の姿がまったく見えないが、結局彼らは何をしているのだろうか。いや、俺的には、いない方がありがたくて助かるのだが。


陽が傾き始め、夕暮れ時になっていた。

あんまり帰りが遅くなるのはよろしくないだろう。そろそろ引き上げるべきかもしれない。


「水瀬、いつ帰ろうか?」

「あ、もう夕方だもんね。そろそろ帰った方が良いかもね」


ふむ。まぁ、そうだよな。夜の遊園地はロマンティックなシチュエーションかもしれないが、親御さんが心配しないうちに帰るべきだろう。このまま帰るのは正直残念なのだが、仕方ない。願わくば、もう少しこの時間が続いて欲しかった。


「高瀬くん、最後にどこか行ってみる?」


水瀬の問いかけに俺は少し悩む。

お化け屋敷とかジェットコースター系とか落ち着かないアトラクションばかりだったが、最後くらいは遊園地デートの定番を味わいたい。水瀬がそういうのを嫌がらなければ良いのだが……。


「ええと、そうだな……。……よし、じゃあ、観覧車……行かないか?」


俺は意を決して最後のアトラクションの提案をした。三井さんと告白練習(という名のコント)でも使われたが、完全に二人っきりになれる観覧車は魅力的だった。今は夕暮れ時だが、それもそれも良い景色が望めるだろう。


「うん、いいよ」


俺が勇気を振り絞って出した提案に、水瀬はすんなり了承した。

水瀬は俺とゴンドラ内で二人っきりでも問題ないのだろうか?


『ポッ』

=================

水瀬 詩織

現在の心境:観覧車か……。高瀬くんとだったら、そういうのも悪くないかも。

=================


あ、良かった……!

もしかしたらまたSなことをしたいという水瀬の欲望が絡んでいるのかもしれないが、とりあえず嫌がっていないようで安心した。


『リンッ』

=================

水瀬 詩織

結樹への評価:一緒にいると楽しい人

- 好感度 14→18 (パラメータが更新されました)

- 信頼度 23→29 (パラメータが更新されました)

=================


評価も上がっていた。観覧車を選んだこともあるかもしれないが、今日1日一緒に過ごしていて上がった部分も多い気がする。

ステータスで実際に数値が上がっているのが分かるとよりドキドキする。好感度ってどこまで上がれば恋愛的に『好き』という感情なのだろう。

ひょっとして、俺って水瀬にとっての『気になる人』レベルになっていたりするのだろうか? いや、待て、落ち着け。『こいつ、俺のこと好きなんじゃね?』っていうのは思春期男子のよくある幻想だ。このステータス能力で確証が得られるまで、ちゃんと見定めなければ……!


心中では動悸が止まらないまま、俺は水瀬と観覧車の元までやってきた。どうやらこの時間はほとんど他の客がいないようで、すぐに乗れそうだ。


「では次の方ー。はい、そこの線で一旦止まってください」


係員の誘導に従って、水瀬と並んで、観覧車に乗るための白線の前に立つ。係員の人が観覧車のゴンドラの扉を開ける。


「はい、どうぞー」


水瀬が先に乗り込んで、入って右側の席に座る。俺は……いや、流石に隣に座るのはないよな……俺は、一呼吸置いて、水瀬と向かい合う側に座った。


「……」

「……」


あれ、なんかお互いに黙ってしまった。

俺と水瀬を乗せたゴンドラは、既に全体の四分の一を過ぎ、どんどん高度を上げる。

てっきり、水瀬が何かしら景色について喋って会話が進むかと思ったが、水瀬がなぜか黙ってしまったので、なにやら変な空気になってしまっている。


『シュッ』

=================

水瀬 詩織

現在の心境:どうしよう……。なんだかドキドキしてきちゃった……。

=================


え、ちょ、水瀬さん!?

ももも、もしかして本当にロマンティックなシチュエーションになってしまっている!?


夕陽の光がゴンドラの中に差し込み、室内も水瀬の顔も赤く染まっている。

ただ、夕陽がなくとも水瀬の顔が赤いことは、正面で水瀬を見つめる俺には分かる。


ゴンドラが観覧車の頂上に辿り着こうとしている。

俺は、カラカラと乾いてくる喉を唾液をゴクッと飲み込むことで潤し、席から腰を上げながら水瀬に声をかけようとした。


「なぁ、みな……」


その瞬間、ゴンドラがゆっくりと減速するのを感じた。そして、まもなくカクンと揺れ、ゴンドラが停止した。

「……はい?」


観覧車が止まった? 何かの事故だろうか?

普段は落ち着いている水瀬も困惑した表情を俺を向ける。

そして、間も無くゴンドラ内部に設置されているスピーカーから放送が入った。


『えー、体の不自由なお客様をゴンドラ内にご案内するため、観覧車を一時停止しております。お客様がお乗りになり次第、再開いたしますので、しばらくお待ちください。』


なるほど、そういう事情か。とりあえず事故ではなさそうで良かった。

「良かったな、水瀬。とりあえず事故ではなさそう……はい?」


観覧車が止まった時、俺は腰を席から浮かせていた状態だったので、衝撃で軽くバランスを崩してしまい、膝をつく形で水瀬を見上げていた。そして、その水瀬は俺を上気した顔で見下ろしていた。この人、完全にスイッチ入っちゃってますよね?


「高瀬くん」

「はい」

「観覧車に乗った時から我慢していたけど、やっぱりダメみたい……」

「……なにが……でしょうか……?」

「観覧車っていう景色が綺麗で開放的な状況で……高瀬くんを踏んでみたくてたまらないの!!」

「やっぱりそういうことですよね! なんか分かってましたとも!」


あぁ、もう、心を読んだ時に水瀬がドキドキしていたのってそういうことですよね、はい!


水瀬は右足のスニーカーを脱いで脚を組み、しゃがんだ体勢の俺の眉間のあたりに足先を投げ出す。水瀬の履いている(くるぶし)までの丈の白い靴下が視界を現れる。水瀬はロングスカートなので膝より上はスカートで隠れて見えないが、水瀬の細いふくらはぎが近くで捲れ上がって見えて、妙にドキドキする。俺、変な性癖は無いはずなんだけどなぁ……。


「頭、下げて。私がこのまま踏める高さまで」

「それ、ほぼ土下座するような頭の位置になるんですけど!?」


俺は膝立ちだったので、俺の頭は脚を組んで座る水瀬の足よりは高い位置にある。

わざわざ頭の位置を下げると土下座のような体勢になってしまうのだが、なぜに俺は観覧車の頂上で土下座しなければならないのだろう。アブノーマルすぎるよ!


「それとも、私の足を舐める? そっちが良ければ、靴下を脱がせてそのまま舐めなさい」

「水瀬さん!? ちょっと変態のレベル上がってません!?」


『シュッ』

=================

水瀬 詩織

現在の心境:ふわぁ、『足をお舐め』って一回言ってみたかったんだよねっ! きゃー、ドキドキするー!!

=================


もう、水瀬も完全に変態の仲間入りだよ! 観覧車の中で要求することじゃないから!


しかし、俺はどうすれば良いのだろう。踏まれるのも舐めるのも遠慮したいのだが、俺は水瀬の右足を見つめたまま動けずにいた。


「どうする? 高瀬くん?」


水瀬は俺を見下ろしたまま、夕陽と興奮で赤くなった顔で笑顔を浮かべながら俺に問いかける。

一瞬、水瀬とはこういう関係でも良いか……という考えが頭をよぎる。いや、父親みたいに俺がMになったとかじゃなくて、こんなウキウキしている水瀬の顔を見ていたらそれでも良いかと思えてしまっただけなんだけれど。


ガクン


ゴンドラが一瞬だけ揺れ動いて、また停止した。観覧車が再び回り始めるための予備動作かもしれない。しかし、その動きが俺に悲劇をもたらした。


「うあああああ!? 目がぁ!?」

「高瀬くん!? 大丈夫!?」


水瀬の足の指先が、俺の左目に刺さった。

悶絶する俺に水瀬が慌てて近づき、隣にしゃがむ。

無事な右目で水瀬をちらりと見ると、心底心配そうな水瀬の姿が見えた。どうやらSスイッチはオフになったようだ。


「ごめんね、高瀬くん……。そういうこと……怪我させるようなことをするつもりではなかったの……」

「いや、うん、それは分かるから大丈夫……」


俺は水瀬を心配させまいと、ふらふらと立ち上がる。


「本当に大丈夫……?」

「大丈夫だ……。心配するな、これくらい何ともないさ」

「でも、結構思いっきり刺さったよね……?」


うん、確かに左目がゴリっとやられたが、少し涙が出ているくらいで大丈夫だ。正直、原田に攻撃された時の方が何倍も痛かったし。それに多少の攻撃を受けても、父親譲りの頑丈さか何か分からないが、とりあえず身体は無事だしな。


「平気だ。水瀬は何も気にすることないさ。むしろ水瀬は足とかどこか痛めなかったか?」

「私は全然問題ない。……ありがとうね」


水瀬も俺に寄り添うようにゆっくりと立ち上がる。


ガクン


ゴンドラが再び揺れ、観覧車が回り始めた。次いで、『大変お待たせいたしました。運行を再開いたしました』とアナウンスされる。しかし、そのアナウンスは俺の耳にはちゃんと入ってこない。なぜなら今の揺れのせいで、俺と水瀬はまたしてもバランスを崩し、俺が水瀬を座席に押し倒す形になってしまったのだ。


いや、これヤバイでしょ。俺の右手は壁ドンするかのように水瀬の顔と肩の間に入り、左手は座席に広がる水瀬のロングスカートの上を突き、俺の顔と水瀬の顔はこれでもかというくらい至近距離に近づいていた。


「……あ…………」

「…………う……」


俺と水瀬は言葉にならない声を漏らして、何秒か…いや、もしかしたら何十秒か固まっていた。ゴンドラが風でギシッと揺れる。それを合図に俺はハッと我に帰り、水瀬から飛び起きた。


「あ、その、水瀬、すまん!」

「ううん、大丈夫、気にしないで!」


水瀬が両手を胸の前でパタパタ動かして、大丈夫であることをアピールする。俺は呼吸を整えながら、水瀬の心境を確認する。


『シュッ』

=================

水瀬 詩織

現在の心境:あぁ……。さっきまでとは違うドキドキになっちゃったよ……。

=================


違うドキドキって何!? とりあえず嫌われてないよね!? 大丈夫だよね!?


気がつけばゴンドラは残り四分の一を切っており、徐々に地面が近づいてくる。

俺と水瀬は顔を合わせられないまま、再び向かい合うように座った。

しばらくして、水瀬が呟くようにして話し始めた。


「もう、高瀬くんを踏もうとしていたのに、逆に高瀬くんに押し倒されちゃった」

「いや、その、あれは事故で……」

「分かっているよ。高瀬くんは女の子を襲うような人じゃないもんね」

「お、おう。そうとも」


水瀬は腰を上げて中腰で俺を見下ろすようにしながら話を続ける。


「……今度は私が高瀬くんを押し倒してあげよっか?」

「……え!?」

「冗談だよ♪」


水瀬は悪戯っぽく笑う。それとほぼ同時にゴンドラが下に着き、係員がゴンドラの扉を開ける。

水瀬は笑みを携えたまま先にゴンドラから降りた。


俺は水瀬の後を追いかけてゴンドラを降りる。

観覧車の乗り場から少し離れたところで待っていた水瀬は、俺を振り返りながら少し早口気味にこう言った。


「今日は1日ありがとね。最初は二人だけになっちゃってどうしようかと思ったけど、高瀬くんと居られて楽しかったよ。また一緒に出掛けようね」


そう言い切ると、まだ少し赤い顔を隠すように水瀬は踵を返して遊園地の出入り口の方向へ歩き出した。


『リンッ』

=================

水瀬 詩織

結樹への評価:一緒にいると楽しい人

- 好感度 18→25 (パラメータが更新されました)

- 信頼度 29→32 (パラメータが更新されました)

=================


さっきも思ったが、好感度ってどこまで上がれば恋愛的に『好き』という感情なのかははっきりしない。でも、俺は水瀬にとっての『気になる人』レベルにはなっているのではないかと数値を見て思えてきた。


ただ、それよりも水瀬が『また一緒に出掛けようね』とまで言ってくれたのが嬉しくてたまらない。前から分かっていたけど、俺にとっての水瀬はただの気になる人じゃなくて、好きな人なんだよな。

本のことを嬉しそうに語ったり、大人しそうに見えてお化け屋敷とかが好きだったり、Sっ気があるのに俺に何かあると心配してくれたり。そういうのひっくるめて、やっぱり好きなんだな。


まだ告白とかは勇気が出ないけど、今回のデートで俺は水瀬により惹かれたようだ。俺は、先を歩く水瀬の背中を追って、歩み始めた。


次に、正志&三井組の様子を触れて、遊園地編は終わりです。

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